プロトマーリンに褒められたい男……スパイダーマッ!! 作:妖精狩りの男……スパイダーマッ!!
生きれる程度には傷は治った。
なら倒れている暇は無い……誰かを助けに行かないと。
辺りを見渡すと
遅くてもいいのでその辺に落ちていた木の棒を杖代わりにして立ち上がる。乾いた落ち葉をしっかりと踏みしめながら歩き出した。
痛みに耐えながら歩いていると子供の泣き声が脳内に響き渡る。
助けて、苦しい、怖い……そんな声が聞こえた。
俺は傷を無視して走り出す。この声はスパイダーセンスが感じ取った声ということがはっきりと理解できていたからだ。
走って、跳んで、森の中を駆け巡る。
すると隠蔽の結界が貼られている少し大きな小屋を見つける。精霊が作ったものほどでは無いが普通の一般人では確実に気づかないほどだろう。
おそらく魔術師が製作したものであることが予測できた。
鍵のついた木製の扉を強引にこじ開けて中に侵入して子供を探すがどの部屋を見て回ってもいないので床下収納を開けてみると予想通り地下室へと繋がる階段が出てきた。
その階段を駆け降りると真っ白な部屋にあった緑色の培養液の中に髪は白くて目が赤いアルビノの子供が何人も浮かんでいた。
「ホムン……クルス」
ホムンクルスとは人造的に作られた人間であり、モルガンが作っていた彼……モードレッドを思い出した。
モードレッドはホムンクルスでありながら人のように生きていた。あいつは誰よりも正直で、負けず嫌いで、アーサーに息子と認めてもらうために反乱を起こしかけた馬鹿だった。
それでも俺はあいつを嫌いになることはなかった。誰かに認めてもらいたい気持ちはよくわかっていたからだ。
昔のことを思い出しながらホムンクルスをよく観察する。
幸いどの子供も眠っていて俺には気づいていない。この場合どうするのが正解なのだろうか?
ホムンクルスの寿命は短い。モルガンやあの人ほどの魔術の腕前があるのなら延命することは可能かもしれないが俺にそんな力はない。
培養液の前で考えていると、階段を降りてくる足音が聞こえた。足音から察するに1人。しかしその近くに巨大な魔力が動いていることを察知する。
これは人間の気配では無い。もっと別の……正義の味方がなった英霊と似たような気配を感じた。
「……貴方は……誰ですか?」
ホムンクルス達を背にしながら階段を降りてきた女の子の方をじっと見つめる。顔と髪色から相手が日本人であることは理解できるがそれ以外何者かわからない以上警戒を怠ってはいけない。
目視だけでも女の子の魔力量はなかなかに多い。ここの主人である可能性もある。
俺はいつでも戦いに移れるように、心のスイッチを切り替えるために名乗る。
「地獄からの使者………スパイダーマン……」
腰を低く落として構えを取る。
「……ライダー!!出番よ!!」
彼女が声を上げた刹那、俺の首が血を噴き出しながら飛んでいくイメージが脳内に浮かんだ。
咄嗟に体を捻り、避けようとするが完全には避けきれず頸動脈ギリギリまで切り裂かれた。
「……ガッ!……ッ!!」
焼けるように熱い首からは大量の鮮血が流れ、呼吸がままならない。糸で無理やり出血を止めようとしても何故か力が出ない。
こんな経験初めてだ。どんな怪我を負った時でも無理やり力を出すことだけはできていた。しかし今回は力が湧いてこない。
まるで俺の中にある蜘蛛という力自体を切られたように思えるほどに。
膝から崩れ落ちて倒れてしまう。冷たいはずの床は血によって生暖かく感じる。意識が朦朧として五感の機能が失われていく。
何も見えない、何も聞こえない、何も感じない。
それでも俺は生きるために手を伸ばす。
何故その方向へ手を伸ばしたのかはわからない。無意識のうちに俺の体は動いていた。
「俺は……死ぬわけ……い………ない」
地面に手が触れた瞬間、俺は輝きに包まれる。膨大な魔力の光だ。
暖かさも冷たさも感じない。質量すら無いエネルギーの塊。
それが俺にとって救いなのか絶望なのかはわからない。五感を僅かに取り戻し光の中心を凝視する。
「えーと……なんでしたっけ?あなたが私のマスターですか?……クラスはバーサー……セイバー、です。たぶん」
その光の中から現れた少女の気配に、顔に、声に……過去という鎖に縛られている俺を鏡のように映し出した彼女に言葉では説明できない複数の感情がぐちゃぐちゃと混ざり合い、何も考えれなくなり意識は宇宙のように暗い場所に消えていった。
眼鏡にマフラー、セーラー服と誰がどう見ても英雄とは思えない少女が現れた。
ライダーのマスターである彼女は即座に状況を理解して対処に出る。
「ライダー!その男を……殺して!そうすればセイバーも消える」
「お任せを!
ライダーはその指示に従い容赦無く気を失ったスパイダーマンの首を切ろうと空中で三回転しながら接近して刀を振り下ろした。
その動きは人ではなく天狗を連想させるように華麗で自由な剣だった。
「させませんよ」
セイバーと名乗った少女は不気味に光る赤色が強い紫色の剣を使ってスパイダーマンをライダーの刀から守る。
その速度はどちらも人間を超えていた。まさに英雄同士の戦い。
この戦いを目で追える人間は滅多にいないと断言できる速さであった。
「ライト…………セイバー?」
少女が持っていた剣は物理的外観は全長30センチメートルほどの金属製の柄のみで構成されており、起動すると鍔から長さ1メートルほどの尖形状の光刃が形成される。このプラズマの光刃は何らかの物体に接触したときにのみ膨大な熱エネルギーを放出し、その物体を溶断する。
そんな何処かの超有名SF映画を思い出すようなツインブレードタイプの光剣であった。
「……少し痛いですが我慢してください。バー……セイバーに回復系の
少女は倒れたスパイダーマンの首元に手のひらを近づけてオルトリアクターから作られた魔力を使い、剣と同じSF映画で出てきたような赤色の電気を放出した。
その電気はスパイダーマンの首に作られた大きな傷を焼いて血が流れるのを止めた。
これは焼灼止血法という止血方法の一つであり、意識を手放してしまうほどの痛みが伴うのだが気絶しているスパイダーマンが痛みを感じることはなく、止血してしまう。
「思っていたよりも魔力を使ってしまいました……これは後で高級和菓子を請求しないとですね。
幸いここは京都のようですし和菓子は沢山あります。助けるので奢ってくださいマスターさん」
少女は倒れ伏しているスパイダーマンを軽々脇で抱えると天井を剣で壊して消えていく。
「追跡しますか?主殿」
「……いいえ、追跡はやめましょう。その前にこの魔術工房を破壊する方が先決よ」
「承知いたしました」
謎の男と謎の英霊を追いかけるのは危険が多すぎると判断したライダーのマスターは冷静に物事を判断した。
真っ赤に染まった焼け野原
銃という脅威から守ったはずの子供はやがて銃を持ち、子供を傷つけた。そんなことが繰り返されている。
全てを救おうとしたガラスの心を持った正義の味方は
悪を倒そうとして姉を撃ち、鉄の心を持った悪の敵は
約束を破られた少女は悲しみから竜へと姿を変えて思い人を鐘の中で焼き殺した。
誰よりも慈愛に満ち溢れた聖女は魔女として火刑で焚殺された。
それに感化された軍師は多くの少年を性愛、殺害しようとした。
その王妃を処刑した男は心の中で泣いていた。
この世界は残酷で醜い。闇に包まれた
手を伸ばしても届かない。どれだけ走っても追いつかない。誰かを見ようとしても闇に隠される。
彼女は人間世界は醜いものと読み解きながらも、「すべてがキレイな必要はないさ。どんなに汚いものでも、ただ一点、輝ける星があればいい」
そう言っていた。それは何も間違いでは無いと思う。
この世は本当に汚い。
子供は利用され、女は奪われて、男は殺し合い、老人は処刑される。
黒人は差別されて白人に殺された。
カカオを作っている子供達はチョコレートを見たことすらない。
国の上層部が引き起こした戦争は国民が犠牲となった。
平和を平和だと認識しない人間達は大量生産大量消費大量廃棄というあらゆる物に対する冒涜を行った。
貴族と平民による身分差は明日の生存率に何倍もの差ができていた。
どれだけ良いことをしても国民に理解されなかった王は革命家に殺された。
歴史が改竄されて言っていない、やっていないことを1人の人物のせいにした。
本当…汚い世界だ。
それでも誰かを助けようと必死に足掻いた。地面を這いずり泥水を啜っても誰かを助けたいと手を伸ばした。
誰も握ってくれない。握り返してはくれない。
冷たくなった俺の手よりも相手の体の方が冷たくなっているのだから当然だ。
救いたい者を救える
俺は誰かを救うことはできずに夜の闇に飲み込まれないように一心不乱に藻掻くことしかできない6等星。
誰をも魅了して狂わせる
俺は太陽の光を誰かに与えることはできない。地球の周りにずっと居続けることもできない。彷徨ってはすぐに燃え尽きてしまうスペースデブリ。
英雄を導く
様々な時代や並行世界で数々の英雄と言える人物に会った。彼ら彼女らの死に様を見届けても導いたことなど一度も無い。伝承に残っていたとしても脇役だ。
誰もが生まれつき英雄としてあったわけでも無い。その功績や努力から英雄となったのだ。
そんな彼ら彼女らは俺なんかには届くことのない領域にいた。
俺はいつでも経っても英雄になれない。振り返るたびに積み重なっている魂の抜けた肉塊は俺を押すように増えていく。
一歩前へと歩くたびに彼らとの距離を距離を知り、一歩下がるたびに心の中で
俺の目の前で
太陽は砕かれ、湖は干からび、悲しみは消失した。
鉄は壊れ、白光は掻き消され、盾は朽ちた。
赤い雷は見えなくなった。
他の奴らも見えないところで肉体の終わりを迎えた。
王は希望を魔女は呪いを残して俺だけを置いて行ってしまった。
誰が生きているのかわからない。並行世界を考えれば銀は生きているかもしれない。そんな小さな期待しかできない。
それでも一つだけいい思い出があった。それは『大切な花』を守れたということだけだ。
もしも夢で彼女に会えたらどんな言葉を口に出すのだろう。
貶されてもいい。侮辱されてもいい。批判されてもいい。
どんな言葉であれ彼女の声を聞きたい。
そう願っていたはずだった。
「目覚めましたか?私が誰だかわからないと言った顔ですね。
……私はSSRサーヴァントのセイバーです。えっちゃんと呼んでください。……友達に付けてもらった大切なあだ名ですので」
本当に酷い話だ。
安心する気配がした。いつも俺の隣にいた気配だ。
見慣れた顔があった。いつも俺が見ていた顔だ。
聞きたい声が聞こえた。いつも俺は聞きたいと願っていた声なのに……
本当に……世界は残酷だ……