プロトマーリンに褒められたい男……スパイダーマッ!! 作:妖精狩りの男……スパイダーマッ!!
銃で貫かれた時のような痛みが走り続ける体を動かして辺りを見渡す。
囲炉裏や畳、障子などが目に入りここが日本家屋であることを認識した。
古そうな日本家屋だが使われている木材の経年劣化を見るにそこそこ新しい。電球が使われているところを見るに現代であることが察せられた。
そして一通り辺りを見渡した後俺の枕元近くで正座をしている少女を見つめる。
『えっちゃん』という彼女はやはり気配が人間のそれではない。俺の首を切ったアイツのことを考えると彼女も英霊だろう。
しかしなんで英霊がこんな現代に現れたのだろうか?アラヤでもガイアでもない別の抑止力があったのか?謎は深まるばかりである。
「えっちゃんと言ったよね。君はどうして俺を助けた」
ここは素直に疑問を聞くことにした。アーサーやモルガンに似ていることやあの人と同じ声がすることは一旦脳の片隅に置いておこう。
「……マスターさんは聖杯戦争を知っていますか?」
「……聖杯…」
まさかこんな現代で聖杯を聞くことになるとは。聖杯戦争の名前もあの青年から聞いたことがあったな。しかし俺は詳細を聞いたことがないせいで何もわからない。聖杯が引き起こした戦争か……聖杯を巡っての戦争のどちらかだろう。
やっぱり聖杯なんて碌なもんじゃない。まともな聖杯なんてキリストが作り出した物だけだろう。きっと今回も面倒なことにしかならないのは目に見えている。
「聖杯は聞いたことがあったが聖杯戦争はよく知らない」
「ではサーヴァントとして解説をしてあげます。
初めに聖杯戦争を簡単に言うと殺し合いです。7人のマスターと呼ばれる人たちがそれぞれ1人につき1人の英霊を召喚して最後の一組になるまで争う戦いのことを聖杯戦争と呼びます」
「……そのマスターと英霊はなぜ戦う?」
「勝者となった一組にはどんな願いも叶えてくれる聖杯を手にすることができるからです」
「…その叶えられる願いは一つだけか?」
「そうです。キャスタークラスのサーヴァントなら聖杯の願いを当分することもできそうですが私は…セイバーなので」
「だとするとマスターかサーヴァントどちらかの願いしか叶わないことになる。だとしたらマスター側に参加するメリットが無い。
サーヴァントが英霊だとするならマスターは戦いに勝ったとしてもサーヴァントに殺されて終わりだ」
「そこで令呪があります。きっとマスターさんの腕にもあると思うので見てください」
そう言ったので血まみれになったスパイダースーツを脱いで右手を確認するが何も無い。左手を確認すると左右非対称の赤い紋章が描かれていた。
「これか?」
「そうです。その令呪は3回まで使えてサーヴァントへの強制的な命令権になります」
「なるほど……つまり自害などを命じろって話か。そしてサーヴァントは戦いが終了する前に3回使わせる。酷い話だな。
君はこのことを俺に話してよかったのか?願いを叶えられる可能性が減ったのに?」
「私には特に願いたいことはありません」
「そうか」
ここで彼女が嘘をついている可能性はあった。しかし彼女を信用したいのだ。いいや彼女を疑いたくないと言うのが正しいかもしれない。
「それでクラスというのは?」
「
この7つのクラスに死んだ英雄たちが英霊として当てはめられています。ちなみに私はセイバーです」
あの時の俺の首を切ったのはライダー。速度や殺し方を考えるに牛若丸か。だとするとさっきから力が出ないのにも納得がいく。
理由は牛若丸が持っている刀……膝丸のせいだろう。
膝丸は源頼光が待っている時に土蜘蛛退治に使われた剣だ。その逸話から蜘蛛切という名もあるほど。
俺の中にある蜘蛛の力を切られたのだろう。しかし完全に蜘蛛の力が消え去ったわけではない。力は俺の体からまだ消えてはいない、弱まっているというのが正しい。いずれは回復するだろう。
しかし回復するまでは筋力も動体視力も五感も全て少し強い人間並みだ。
俺に聖杯にかける願いは無い。聖杯戦争を棄権して人助けに戻ろう。蜘蛛の力が使えなくとも助けれる人間はどこかにいるのだから。
そう考えて再度スパイダースーツを着直そうとすると腕が強い力で抑えられる。
「聖杯戦争では沢山の人が巻き込まれて死にますよ」
「………どうして…」
「寝ている間に「助けられなくてごめん。許さないでくれ」なんて呟いている人が死にかけの時にやりそうなことぐらい私にもわかります。
マスターさんが死ぬのは勝手ですがあの基地から助け出した報酬を払ってから死んでください」
「報酬……何を支払えばいい?」
「和菓子を買ってください。できれば餡子を使ったタイプのを」
「………わかった。少し待ってくれ」
俺は血まみれになった服を脱ぎ捨て、魔術で見た目以上の収納が搭載されているスパイダーブレスレットから現代服を取り出して着替える。
そして昔作った偽造身分証と少量の
偽造身分証は
金はどの時代でも一定の価値があり、報酬や食料を買うのに適しているからだ。お腹を空かせた子供は食料がなければ助けることができない。食料は
「そういえば君は誰なんだ?サーヴァントが死後の英雄なのだから歴史に名前が残っているだろう。しかしセーラー服を着た英雄なんて俺は誰1人として見たことも聞いたこともない」
「私は結構複雑な英霊なので気にしないでください。それよりも早く向かいますよマスターさん」
少量の金を換金し終えた後は京都の街を探索する。
ここは2018年の冬の京都。俺が前世で生きていた時代とほとんど一緒だ。
俺が寝ていた場所は空き家で彼女が休む場所として使用したらしい。
彼女は他の者に見えないように霊体化しながら俺についてくる。魔力のパスが繋がっている相手同士では脳内で会話ができるので聖杯戦争について色々と聞きながら街を歩いていた。
聖杯戦争で召喚されたサーヴァントは人間を襲って喰らうことで強化をすることが可能であり、マスターとなる人物も魔力量などによって決まるので必然的に魔術師が多くなる模様。
つまりこの聖杯戦争を無視すれば数百人の命が消えてしまうかもしれない。それは絶対に阻止しないと。
『マスターさん、そこの角を右に曲がってください。そして少し進んだ先にある店です』
『ここか?』
『そうです。それでは実体化するのでお金をください』
俺は彼女に数万円ほど渡して近場で待機した。
本当に彼女は何者なのだろうか?偶然というにはあまりにも不可解な点が多すぎる。ああやって美味しそうな和菓子に目を光らせているのを見るとただの少女にしか見えない。しかし彼女も生前は英雄だったのだろう。それに気配と顔と声があいつらにとても似ている。まるでそれぞれの要素を合わせたようだ。でも明確に違う点も存在する。それは性格だ。
性格は似ても似つかないのに彼女を見ていると過去を思い出してしまう。
「………
和菓子を大量に買った彼女は大きな袋を抱えながらどら焼きをもぐもぐと口に入れている。
「いらないから安心して欲しい。それでこれからどうする?」
「………拠点を得るのが先決では?というか参加する気になったんですね。いいですよサーヴァントとして協力します。その代わりに戦う度に報酬はください」
「……わかった。とりあえず拠点としてビジネスホテルでも取ろうか。冬は観光客も少ないから空いているはずだ」
「わかりました」
そう言いながら彼女は二つ目のどら焼きを頬張る。俺はそんな姿を横目に近場にあるビジネスホテルに向う。
歩いているとさっきまでの光景が忘れていられるように静かで何もなかった。普通の街並み、普通の人混み、普通の日常。そんな勘違いをしているように平和な時間。
何か恐ろしいものを感じた。
スパイダーセンスによるものではない。長年の勘のようなものだろう。
おそらくサーヴァントが近くにいる。霊体化しているだろうが恐ろしく強い気配を感じ取ったのだ。
今は人混みで誰がマスターなのかはわからない。相手も仕掛けてくる様子がない。
聖杯戦争は夜の内に行われるというルールのせいだろう。それでも俺は警戒を続ける。この気配がなくなるまで。
「肩に力が入りすぎです。近くにサーヴァントがいるのは私もわかっていますよ。今は昼間、早いうちにホテルに行って和菓子を食べる予定ですから早く歩いてください」
そんな緊張感のかけらも無い言葉で少し落ち着く。確かに彼女の言う通り肩に力が入りすぎていた。
それにマスターとサーヴァント全員が悪人である証拠は無い。もしも一般人を襲わせるマスターだったとしても善人のサーヴァントはそれを拒むだろうし、魔術師がサーヴァントの場合でも大規模な殺害は行わないだろう。魔術師は神秘の秘匿を優先するので大胆なことは行えないからだ。
大きく深呼吸をして心を落ち着かせて再び歩き始める。
「ありがとう」
「気にしないでください。もしも気になるというのならホテルで緑茶でも入れてください」
俺たちはホテルに入り空いている部屋に泊まれた。この時期は旅行シーズンも過ぎ去っていて部屋には余裕があるらしい。このおかげで3週間ほどなら泊まれそうだ。
「それで同じ部屋で本当によかったの?」
「別の部屋で何かあった時に気づけませんし、マスターさんと同じ部屋なら色々と手っ取り早いですよ。
それにマスターさんが寝ている私に何かしようとしても簡単に返り討ちにできますし」
「俺ってそんなに弱く見えるかな?」
「…………鏡を見てきたらどうですか?酷い顔してますよ」
そう言われたので洗面台の前に立ち、鏡で自分の顔を見る。
とても久しぶりで懐かしい顔だ。そういえば長い間自分の顔を見ていなかった。ずっと隠していたんだ。
やっぱりこの顔じゃあ戦えない。俺は俺である限り英雄のなりぞこないにすらなれない。スパイダーマンにならないと戦うための勇気が出ない。
いつからだろう……俺が俺として戦えなくなってスパイダーマンとして戦い始めたのは。
彼女が酷い顔というのも納得がいくぐらい酷い顔だ。
俺は彼女が怖いのだろう。その気配が消えたら、その顔が見えなくなったら、その声を聞けなくなったら、そう考える度に恐怖心が心を埋め尽くす。
しかし彼女はアーサーでもモルガンでもあの人でもない。そう自分に対して何度も何度も言い聞かせる。
首の焼けた傷跡は彼女が付けたものだろう。この大きな火傷跡を見ながら彼女を固有の存在を認識させる。
「そろそろお茶を淹れてください」
「わかった……緑茶でいいよな?」
「はい、やはり和菓子には緑茶です」
洗面台から離れてホテルのサービスであるパックの緑茶を淹れる。
淹れたお茶を彼女に渡すとき、彼女はセーラー服から体操服にジャージのような姿に変わっていた。
本当にどこにでもいるような学生だ。ああ……俺たちもあの時代ではなく学生として生きられる現代に生まれていたらなぁ。
そんなことを思ってしまった自分を女々しく思いながらベッドで横になる。
横になって30分ぐらい寝れずにいると彼女が話しかけてきた。
「マスターさん。和菓子がなくなりました」
かなりの量あったのだが全て食べてしまったらしい。
「何か時間を潰すものはありませんか?寝るには早いですし……」
「テレビでも見て時間を潰してくれ。お菓子でいいなら机の上にある金で自販機に売ってるやつを買ってきてもいい。
俺は少し疲れた。眠らせてもらう」
「まだ傷も治りきっていませんし妥当な判断です。マスターさんが寝るのであれば私も寝ることにしましょう」
すると彼女ももう一つのベッドに寝転んだ。俺はそれを見てどこか安心感を持ってしまい。数時間ぶりの睡眠を取った。