プロトマーリンに褒められたい男……スパイダーマッ!! 作:妖精狩りの男……スパイダーマッ!!
やっと次の話でスパイダーマンできそうなので初投稿です。
アーサーが16歳になった誕生日の夜
俺とアーサーは二人きりで満天の星空を眺めていた。
いつも遊んでいる森を抜けた先にある大きな木以外何もない丘で横並びで寝ころんでいた。
そこでアーサーと俺は会話を楽しんでいるとアーサーが訳の分からないことを言い出した。
「は?
アーサーは深刻な面持ちで様々な話をする。
「秘密にするように言われてたんだけど、君にだけは言っておきたかった……僕は約6年前の夜に夢の中でウーサー王の実子だとマーリンに言われたよ。そしてマーリンは「選定の剣を抜けるのは君だけだよ」とも言ったんだ。僕にしか抜けないのなら僕が抜かないとブリテンに王は現れない……そうなったらブリテンの民は王の不在に不安を抱くだろうからね。
僕は…………私は王になるよ、ピーター」
そうはっきりと言い張るアーサーの姿はいつも通り自分を貫き通す様に見えるのだが何故か偽りの表情が見えて、喉に魚の骨が刺さったときのように僅かな違和感を、嫌悪感を感じた。
その僅かな違和感でも見逃さなかった俺はアーサーを問い詰める。
「…アーサー……お前の本音を話してないよな。お前はブリテンの民のことを考えていたがお前自身の心の声を聞いてないぞ。お前はマーリンに言われたからって簡単に従うのか?」
アーサーは顔を俯かせ何も言わない。その静寂がアーサーの心を語っているようだった。
きっとアーサーは自分自身でも王になることへの不安や恐怖があったからこそ俺に真実を伝えたのだろう。
だからこそ俺は思っていることを正直に言葉にする。
「確かにアーサーは王様になれるほどの素質やカリスマはあるだろうな、それにウーサーに従っている魔術師マーリンがアーサーを王様にしたいのなら教育もしないはずがない」
「だからこそ私が……」
俺は強引にアーサーの胸ぐらを掴み、引き寄る。
身長差から俺が少し下になるように至近距離でお互いの目を見つめ合う。
俺の黒い瞳には弱々しく映るアーサーの姿が、アーサーの青い目にはイラついている俺の顔が映る。
「お前は王になりたいのか?なりたくないのか?その2択の質問をしてるんだ……誤魔化さずに答えろよ……」
「私が王にならないとブリテンの民達が…」
そこで俺はいい加減我慢できなくなりアーサーの顔面を本気で殴り飛ばした。
アーサーは数メートル後ろにぶっ飛び、仰向けで倒れ、俺の腕は鉄よりも硬いアーサーを全力で殴ったのでヒリヒリと痛み出す。
「いつものお前なら簡単に避けれたよな、どこかで悩んでいるからこそ俺の遅い拳ですら避けることができないんだろうが。本当に王様になりたいのか?ブリテンの民を守りたいという心は本物だということはわかる。だってお前は騎士になりたい理由も誰かを守りたいからだろ。王というのは時に誰かを切り捨てることも必要なのに優柔不断なお前になれるのか?王になれば民の不安を無くせると言っていたがこの世はそんなに簡単じゃねぇぞ」
力を考えずに拳を握ったせいか生暖かい血が滲み出る。ギリギリと奥歯が軋む。
心臓の鼓動する音がどんどん早くなり風すらも吹かない静寂でありながらとてもうるさい。
俺はもう吹っ切れた。俺が処刑されようが奴隷になろうがどうでもいい。今ここでコイツを殴ってやらないとコイツはどこかで壊れるだろうと思えた。だから俺はアーサーの親友としてコイツを殴り飛ばして本音を聞き出すことにした。
倒れたアーサーが立ち上がる。
その眼は俺を睨み、涙をこえている。あの涙は痛みによって流れたものではない、なにかを押し殺したときに出る悔しさや悲しみの涙に見えた。
「わかっているさ……僕もわかっているさ!!僕も本当は君と騎士になって国を守り共に歩んで行きたかったよ!!
でも……僕はこの国を……民を守るために自分の夢を捨ててでも王になるんだ!そんな簡単なことじゃないことも全て承知の上だ!!」
アーサーの強い意志を感じた。だけどその強さは光のように何よりも強いが、一瞬で消えてしまいそうな弱いと思えた。
「なら俺はお前の俺と一緒に騎士になるという夢を優先させるためにここで止めるぞ、だから今から始めるのは思い通りにならないことを解決するための子供じみた喧嘩だ」
俺はゆっくり土を踏み締め、もう一度拳を握り直し、空気を食べて大量の酸素を肺に送り込む。
アーサーも立ち上がり、同じように足を進める。
俺たちが至近距離……ほぼゼロ距離とも言える距離まで接近するとお互いの顔面にお互いの拳でクロスしながら殴りつける。
その拳に技術など無い。本当に純粋な力だけで殴り合う子供同士の喧嘩だ。
俺は何度も何度も何度も何度も殴られ、鼻から血を流し身体中があざだらけになる。アーサーの一撃は前世でトラックに轢かれた時の衝撃よりも重いがそんな程度でやられるようならアーサーの親友なんてできない。
アーサーにもいくつものあざができているが化け物フィジカルのアーサーがこの程度では大したダメージにはなっていないことは俺が一番わかっていることだ。
少し距離を取り、口の中に溜まった血をその辺に吐き捨てた後、アーサーと会話する。
「やっぱりお前は強いな……だけど「諦めるような君じゃないことはわかっているよ」……わかっていてくれて嬉しいぜ」
俺はアーサーに飛びつき一緒に丘を転がっていく。回転が終わる頃に俺がマウントポジションを取るような体勢になり、アーサーの顔面を何度も何度も殴りつける。腕を振り上げることですら辛いが1発1発に怒りを込めて本気で殴りつける。
するとアーサーに襟首を掴まれ頭突きを食らわされる。
今度は逆転してアーサーがマウントポジションの体制になり何度も殴られ、1発だけでも気絶しそうになるほどの衝撃が何度も俺を襲う。
意識を保つの精一杯で殴り返す事も出来ない俺の頬に生温かい血液とは違った透明な液体が落とされる。
「なあ、アーサー……何でそんな顔してんだよ」
アーサーから怒りの拳と悲しみの涙が俺に降り注ぎ、アーサーの顔は苦しそうに歪む。
その時に前世で読んだ小説に書いていた「人は大切な人から殴られるよりも大切な人を殴るほうが苦しい」という言葉を思い出した。
「………」
アーサーは答えない。しかしアーサーの瞳が全てを物語っていた。
アーサーは怖いんだ。己が己で無くなることが、俺とこうして喧嘩できなくなることが……それでもコイツは止まらないし止められない。コイツは目の前に自分では勝てないような化け物がいようと襲われている人がいればすぐに足を踏み出せる人間だ。自分が大好きで、見知らぬ人はすぐに助けることなんてできない俺とは違う。コイツの覚悟をそんな俺が止めることはできないと悟ってしまう。
だがそんな自分自身の実力不足や心の弱さを理由に親友を諦めるぐらいなら死んだほうがマシと思えたので全身の痛みを我慢して、アーサーと同じように頭突きを食らわせ、一度距離を離す。
俺は捨て身の一撃を与えるためにアーサーに向かって足が壊れそうになるほどの一歩を踏み出し、急接近する。
呼吸がうまくできず脳に酸素が充分に送れない、筋肉が悲鳴をあげて血管がぶちぶちと穴が開くのさえも無視をして全身に力を込める。
地面に俺の足跡はくっきりと残り、あたりに血が飛び散った。
俺は肺に残った酸素を全て使い切り、空気を震わせ、大声で叫ぶ。
「歯を食いしばれよ!!」
脳内からでたアドレナリンにより全ての痛みを無視しながら手がぶっ壊れる勢いでアーサーの顔面を再度殴り飛ばした。
無茶をしすぎたのか足に力を入れることができずに倒れてしまう。大きく息を吸い込み血液中に酸素を送り、全身に届けられる。
アーサーは俺の攻撃を食らっても立ち上がる。
ゆっくり、フラフラと遅いが徐々にこちらに向かって接近してくる。
「はは、また俺の負けか……」
俺は負けを認め、目を瞑っているとドサッという何かが倒れた音と共に嗅ぎなれたにおいがしたので目を開けて首を動かし見てみるとアーサーが隣で倒れていた。
「負けじゃ無くて引き分けだね……僕ももう動けないよ」
アーサーはさっきまでの様子が消えてとてもいい笑顔を浮かべていた。
「…っ!……お前なんで……」
「ねぇピーター、2人とも勝ったことにするかい、それとも2人とも負けたことにするかい?2人とも負けたとするなら明日の朝にまたやろう。……2人とも勝ったとすればお互いの要望を叶えるのはどうかな?」
「は?どういうことだ?」
「つまり僕は王様になる。君は王となった僕に付いて来てほしい。もし僕がダメになりそうなら君が止めてくれ、ピーター」
「…………アーサーお前!最初からこれを狙ってたのか!!」
「まさか、最初からじゃないよ。最初は本当に僕は迷っていたところに君が手を差し伸べる?いや、殴って脱出口まで運んでくれたよ。その後僕が君に馬乗りになって君に頭突きされた時に思いついたさ」
「………」
こ、こいつ!!
「それでピーター、僕に付いてきてくれるかい?」
アーサーは手を差し伸べることもせずお互いの目線を合わせる。
「……はぁ、わかったよ。お前が王様になろうが騎士になろうが付いていってやるよ。ただしお前が道を間違えた時は本気で殴るからな」
「うん!ありがとう!」
そう言ったアーサーと俺の目から流れた涙には悲しみも怒りも痛みも無い。親友との絆が深まったこと素直に喜び、嬉しくて泣いてしまう。
朝日が昇り始め、太陽光が俺たちを照らす。
俺たちはボロボロの状態で共に仰向けになりながら一晩中過去、現在、未来についての会話をした。
あんなことやこんなことがあった、実はマーリンから剣や魔法の手解きを受けていた、王になったらどういうことをしたいかなど色々な話を昼ごろになるまでした。
数週間後
俺はアーサーが選定の剣を抜きに行く旅に同行した。こうやってアーサーと殴り合ってふざけてるのもこれで最後かと思い感傷に浸りながらの移動中、アーサーの兄のケイさんと会話をする。
「アーサーが将来王様になることは知ってたのか?」
何も喋らずに歩くのは暇だったので俺は素直な疑問を聞くことにした。
「そうだ、俺は親父からアーサーを本物の兄弟のように扱えと言われて預けられたからな、もちろんマーリンのことも知っていた。それでもあのクソガキに王様の素質があるとは見えないがな」
ケイさんはいつものケイさんのように見えたがやはり少し苛立っているようだ。まあ、義理とはいえ本物の家族のように接していたアーサーが王になったら昔みたいに3人で遊べないもんな……
その後ケイさんからアーサーに色々な忠告をしていたがアーサーはそれに怖気付き辞めるようなやつじゃないことはケイさんもわかっているのですぐに解放される。
そして次の日の朝
ケイさんは付近の町で待つことになり俺とアーサーの二人で選定の剣が刺さっている丘に足を踏み入れる。そこは霧が立ち込め、一本の黄金の剣が突き刺さっていること以外には岩しかない殺風景な場所だった。
そしてそこにいたのは岩に座った白いローブ姿の男性か女性かわからない人物がいた。おそらくあれがマーリンだろう。
アーサーは落ち着いた様子で台座へと登り、選定の剣の柄をゆっくりと握る。
俺は剣が突き刺さっている台座から少し離れたところで立って見ているとマーリンとアーサーが会話を始める。
「その剣を手に取る前にきちんと考えた方がいいよ」
マーリンから思いもよらないほどの若々しい声が発せられる。ただ若いだけの声ではなく、妖艶であり可憐とも言える美しい声だ。
「驚いたよ、夢の外で会うのは初めてだよね。マーリン」
どうやらアーサーも現実世界で会うのは初めてらしい。
「その剣を手にしたら君は人間では無くなるけど本当にいいのかい?もう少し考えなくてもさ。しかもそれだけじゃないよ、それを手にすれば惨たらしいな死を遂げるかもね」
わざとらしくアーサーの恐怖心を煽り忠告を促す。
その言葉にアーサーは微笑みながら手に力を込め、強気に発言をする。
「その程度のことはすでに知っているし覚悟もできているさ。僕が人でなくなろうと僕を親友と言ってくれる1人の馬鹿がいるからね」
そう言いアーサーは軽々とその剣を台座から引き抜いた。
そしてアーサーが剣を抜いた瞬間に突風が巻き起こりマーリンのローブが風によって脱がされる。
真っ白な髪、赤い目、芸術品のように完成された顔。
その素顔が顕になった時、俺は初めて恋を知った。
何かの