プロトマーリンに褒められたい男……スパイダーマッ!! 作:妖精狩りの男……スパイダーマッ!!
いろいろあってマーリンが作り出した簡易的な魔術工房で肉体の検査が終わった。
前世で中学生の頃にした体力テストのように簡単な測定から少し実践的な計測行った結果、いくつかの能力が判明した。
・人間を遥かに超える筋力
・壁や天井を自由に移動できる指
この2つはもともとある程度わかっていたものだ。
筋肉の見た目全く変わらないのに何十倍の力が出せるのはいいことなのだが少しキモイ。でも筋力だけならアーサーを凌駕するらしい。この事実がすごく嬉しい。
そして最後にわかったものが肝心だ。
・擬似的な未来予知も可能とするほどの第六感
これはおそらくスパイダーセンスというものだろう。名前だけは知っていたが実際にその身に宿すと本当にすごい。
全方位360どこから攻撃が来るのかを一瞬で察知することができて俺の戦闘能力は飛躍的に向上した。でもまだ扱いきれずどんな攻撃かを判断せずに避けてしまう。昔のアーサーの気分がやっとわかった。
しかもマーリンの近くにいるとずっと危機を知らせる感覚が襲ってくるのは苦労する。しかし好きな人の近くにできるだけいたいという男子高校生のような俺に、その程度のことはマーリンを諦める原因にはならない。
そして俺はマーリンにとあるものを作ってもらった。
もちろん赤と青のいつものスパイダーマンのスーツと糸を放出するための腕輪だ。
スパイダーマンのスーツの方は魔術礼装という、よくわからないが魔術で強化されたスーツらしい。
身体能力の向上などは最低限になっていて肉体の保護や平衡感覚の強化、自動回復などの継続戦闘能力や選択肢の幅を増やすための機能を搭載してもらった。しかも防熱防寒洗濯要らず自動洗浄機能付きの優れものだ。
そしてこの腕輪…もちろん東映版のスパイダーマッ!!を参考にして作ってもらった『スパイダーブレスレット』だ。
このブレスレットは魔術で再現された蜘蛛の糸を飛せる東映版のアレだ。もちろんレオパルドンのような最強なロボットは……使えない。というか抑止力とかいう世界の管理システムに引っかかりそうなもの作れても作らないらしい。
まあ、このスーツやブレスレットを貰うよりもマーリンと数日間でも2人きりでお話しできたことが何より嬉しい。正直言ってスーツを作って貰った理由の5…いや6割は長く居座るための言い訳に近しいし……
あとはマーリンに魔術や世界について授業をしてもらって、俺の魔術回路とか言うものを調べてもらったのだが2本しかないらしい。
つまり魔術関係は全く使えないに等しいから諦めた。
それよりも俺は現代ではフランスと言われている場所に渡り、湖の貴婦人に合わないといけない。
マーリンが言うには俺の能力の詳細が全ては解らず、精霊である湖の貴婦人なら詳しいこともわかるかもしれないということでフランスに船で向かっている。
え?アーサーたちのとの旅はどうしたって?
詳細の分からない能力はアーサーたちに迷惑をかけそうなのでアーサーとの旅を一旦諦めた。そのことはマーリンが伝えてくれるらしいのでアーサーたちも心配はしないだろう。
そんなこんなでちょうどフランスが見えてきた。
マーリンの魔術で風向き関係なしに動く船を用意してもらったので思っていたよりも早く着いた。
早く帰るためにさっさと湖の貴婦人を見つけることにした俺は村や町によらずに森へ一直線に向かい森を探索する。ブリテンと似たような植生も見られるが、見たことのない植物や生物を見たときは新しい冒険をしているような気分になって楽しい。
ゆっくり歩きながら森を楽しんでいると目の前に大きな断崖を見つけたのでスパイダーマンのスーツを着て、スパイダーマンの力を使い登る。
指をゆっくりと壁にくっつけて蜘蛛というよりもヤモリのように登り、崖上に到達した。
そこから何時間も歩いていると俺のスパイダーセンスがびんびんに反応しはじめたので一歩後ろに下がる。
突如として上空に現れ、太陽を背にし、剣を握りしめた紫色の髪の少年が俺が先程までいた空間にアーサーに匹敵するほどのスピードで剣を振り下ろした。
少年は俺を正面から目視した瞬間、困惑と驚きの表情を浮かべる。おそらくスパイダーマンのスーツを着ている俺を見て、脳が処理に困っているのだろうと思い、少し脳内で整理できるまで待つと、まるで変態を見るような目で見つめ、俺が質問してほしいことを聞いてきた。
「な、何者ですか?」
その質問にテンションがめちゃくちゃ上がり、姿勢をめちゃくちゃ下げて、前世で何回も見たあの動画のように腕を振りながら全力で叫ぶ。
「地獄からの使者、スパイダーマッ!!」テッテレーーーーーテレレレ
空気を伝って俺の声が響き渡り、森の中にいた小鳥や小動物が驚き逃げていく。動物たちが消えた後は俺と少年の間に静寂が流れた。
その静寂を少し気まずく思ったのか少年は俺に剣先を向けて様々なことを聞いてくる。
「えっと……スパイダーマン!!あなたの目的は何ですか!?」
「ちょっと湖の貴婦人に用があるんだ。居場所を知っているなら教えてくれないかい?」
「ニミュエに何の用ですか?」
「へー、湖の貴婦人の名前はニミュエって言うのか……湖の乙女は知っていたけど名前らしい名前もあるんだな。あと要件は教えられないな。とにかく俺はそのニミュエの力が必要なんだ」
マーリンに極力、スパイダーマンの力については話さない方がいいと忠告されたからな、湖の貴婦人ならまだしも見ず知らずの少年に話すようなことじゃない。
そう考えていると全身の毛穴が開くほどの殺気を背後から感じ、咄嗟に前方へ飛び込むと周りからミシミシと木が折れていく音が耳に入り、大木が倒れ地面を揺らす。
「あ、あぶねええええええ!!」
後ろを振り向くと先ほどの少年の見た目をした化け物がものすごい殺気を籠めた視線を俺に向ける。その目はさっきまでの優しい目つきではなく獣を相手にしたときの狩人のように殺すべき対象に慈悲など持たず、冷徹に見えた。
「やはりあなたはニミュエを狙う輩、ニミュエが言った邪悪な気配とはあなたのことだったんですね。先ほどの一撃で死んでいれば楽に死ねたというのに」
「えっ!?君は少し勘違いしてるんじゃないか???」
これ絶対に勘違いされてるよ。まずいなこのままじゃ殺される!!調子に乗ってダーマせずに丁寧な説明すればよかった!!
左腕を勢いよく突き出し左手をぴんと真っ直ぐに伸ばし、スパイダーブレスレットから蜘蛛の糸を蜘蛛の巣のような形になり、高速で発射をして少年の右腕を狙う。
「スパイダーストリングス!」
高速で射出した蜘蛛の糸は少年に到達する前に剣によって軽々と防がれる。その瞬間の隙を狙い、ブレスレットから顔に向けて発射した縄みたいな太さの蜘蛛の糸は擦れ擦れのところでよけられてしまう。
「かかったなアホが!!」
蜘蛛の糸が繋がったままのブレスレットをはめている左腕に力込めて無理やり引っ張る。腕には確実に30000㎏以上はあると思うほどの重みが襲い掛かるが強化された俺には無理ではない。
その大きな蜘蛛の糸は少年の後ろにあった大木に命中し、引っ付いており、少年の後ろからぶつけるためにわざと外した。
土の中から巨大な根が辺りの地面を破壊しながら地上に露出する。木の幹が辺りの木々を粉砕しながら地面を抉り、少年の無防備な背中を襲った。
しかし少年は咄嗟に振り向き、大木は豆腐のようにいとも簡単に上下に真っ二つに破壊される。
ここで斬られるのではなく破壊されているところを見るに先ほど撃ったスパイダーストリングスの糸が剣に張り付き、斬る能力を一時的に失っていることがわかる。
俺は驚きのあまり声が出ない。これをやったのがアーサーだったらそこまで驚かないだろう。しかし俺やアーサーよりも一回り若くて、蜘蛛の力も竜の心臓も持っていないただの少年できるわけがないと思ったからだ。なんなら直撃しそうなら止めようとも思っていた。
しかし破壊された大木の片方は今でも蜘蛛の糸が繋がっているので強引に振り回し、遠心力を活かしたウッドハンマーを少年の頭に振り下ろす。
これすらも剣を盾のように使い、その細い腕で防いできたので埒が開かないと思い、近接戦を仕掛けるために一度の跳躍で近づく。
この少年の弱点はすでに分かっている。
その弱点を突きたいのでスパイダーセンスで何回か攻撃を避けたあと隙を狙い、
「スパイダーストリングス!!」
転んだ少年の手足を蜘蛛の糸で縛り付けた。
この少年はおそらく対人経験が少ない。攻撃に対処するときに俺への意識が向いていない時が何度か見えた。この少年は一つのことに意識を向け過ぎていると言った方が正しいだろう。
だから自分の持っている剣に蜘蛛の糸が張り付いていることを認識するのに時間がかかる。だから俺は少年の剣の刃の部分の糸で切れ味が無くなったところを蹴って、剣を弾き飛ばした。
近くの木にもたれかかり、しりもちをつく。
俺は殺さないように戦うために神経をとがらせていたのと強い殺気を浴びせられていた影響で肉体的ではなく精神的に疲れていた。
「それで湖の貴婦人の居場所に案内してくれる?」
「ニミュエを害するな!もしも彼女に一つでも傷をつけたら許さないぞ!!」
「うん、まずは俺の話を聞いてくれるかな……いやさ、確かに初対面でふざけた俺も悪いけどさ、君も人の話を聞いてよ。とりあえず話せない部分を隠して話すよ。
俺が湖の貴婦人に会いたい理由は身体の異常を調べてほしいからなんだよね。だから別に湖の貴婦人を襲う気もないよ。というかそんなことをしたらアーサーの親友を名乗れない、そして何よりもマーリンに嫌われたくないしな……」
「……つまり私の勘違いであなたを……」
少年の顔はどんどん真っ青になっていく。
「うん、襲われたね。しかも避けれなかったらすごく痛そうなレベルの攻撃でな。俺じゃなかったら即死するから気をつけ「申し訳ございません!!!」……こっちこそごめんね」
すると少年は手足が縛られた状態なのに強引に頭を下げてきた。
……罪悪感が深く胸に突き刺さる。少年が勘違いしてしまったのも俺が調子に乗った俺がダーマしたせいなのに少年が謝っている事実に心が痛む。
とりあえず少年を縛る蜘蛛の糸を解きながら会話をする。
「そういえば俺を変人と思うことはまだしも、どうして敵だと思ったんだ?」
「それはスパイダーマンさんが湖を隠すための隠蔽の結界を通過してきたのとニミュエが邪悪な気配がすると言っていたので」
結界?そんなものあったかな?歪んだ空間も無かったし、迷い続けることも無かったんだよな。あと邪悪な気配ってなんだよ、スパイダーマンのせいか?
「それで案内はしてくれるの?」
「はい、迷惑をお掛け致しましたのでその程度のことなら。それにスパイダーマンさんが私を無傷で捕らえて対話を選んだお方ですから、悪い方でないことは分かっていますので」
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺の本名はピーター、またの名をスパイダーマン」
「私の名前はランスロットです。よろしくお願いしますピーターさん」
……ランスロットってどこかで聞いたな……どこだっけ?まいいか。
その後約10分ほど歩き、太陽の光が反射して美しく見える湖の中心に人のような形でありながら自然の一部と見間違えてしまった一人の女性が立っていた。
マーリンが言っていた通り、とても美しい容姿をしていたのだが
俺はマーリンのほうが3000倍美しいなと思ってしまった。