転生した。落ちこぼれになった。   作:チキンうまうま

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アレクシア王女殿下救出戦(上)

 

 真夜中の、もうすでに人々が寝静まった時間。鳥の声すらも聞こえない廃墟の上で、真っ白な制服を着たマスールはある廃墟の屋上で、壁に背をつけて座っていた。彼の隣には、紙袋を抱えたアルファが座っている。

 

「どう?美味しい?」

「美味しいでふ。」

 

 【教団】のアジトへと突入直前だと言うのに、2人は一緒になって肉厚のサンドを食べていた。数日間碌なものを食べていなかったマスールは、アルファの差し出す『まぐろなるど』のサンドに舌鼓を打っていた。

 

「そ、よかったわ。」

「いやほんとありがとう…こんな美味いの久しぶりに食べたわ俺…。」

 

 もぐもぐごっきゅんとサンドを飲み込むと、本心からの感謝を込めてマスールは頭を下げた。よく見ると、だが彼の目は心なしか目が潤んでいる。いったいどれほど腹が減っていたのか。

 

「別に気にしないでいいわ。それより、これからの作戦は大丈夫そう?」

「腹も膨れたし問題ない。にしても…シャドウはまだ来ないのか?」

「彼はまだよ。どうしたの?」

「んー…ちょっと聞きたいことがあってな。」

 

 食事を終えたマスールはそう言って立ち上がると隣に立てかけてあった両手剣を手に取った。そのまま刃の部分に巻いてあった革カバーを外すと、手元でくるくると回転させる。

 

「…【教団】と私たちの目的についてなら、聞かないほうがいいわよ。貴方はまだ()()()。」

「いやいや、それじゃないって。まあその心配はありがたいけども…そうじゃなくて、また別な話だ。」

「別の話?」

「ああ。まあ、シャドウに聞くのは余裕があったらだな。これから突入だし─!」

 

 その時だった。魔力探知ができないマスールが感じ取るほどの、圧倒的な魔力。それが一切の音を立てずに2人のすぐそばに立っていた。

 

「…久しいな。」

「それはこっちの台詞だ、シャドウ。」

 

 黒いフードに隠れたシャドウの表情はわからない。だが、それに対峙するマスールにはどうも彼が()()()()()()ように見えた。

 

「聞いたぞ。【教団】の悪辣な蜘蛛の罠にかかったらしいな。」

「…まあ、そうだな。」

「そして己に課された汚名を晴らすべく、我らが力を頼ると。そう言うことだな。」

「…そうだ。それで合ってる。」

 

 苦々しくシャドウを肯定するマスールは、今度は確信した。─()()()()()。それは表情とかじゃない、内心でこいつは何らかの愉悦に浸っている!マスールはそれを確信していた。

 

「そうか。ならば今宵、お前は我らが軍門の一兵卒。その異端の力、見定めさせてもらうぞ。」

「分かってる…っておい!話は終わってねえぞ!」

 

 言いたいことは言った、と言わんばかりに踵を返して歩いていくシャドウに、マスールが食いついた。

 

「何だ?」

「いや、今回俺はこんなこと言える立場じゃねえのは知ってんだけどな…できるだけ【教団】の連中を殺さないでほしい。それをお前の部下に言ってくれねえか?」

「何故?」

 

 シャドウが歩くたびに、【シャドウガーデン】の構成員たちが彼に敬礼をする。その真ん中を、一切の恐れを持たないシャドウは悠々と歩いて行った。

 

「…実利的な理由でいいなら、奴らの情報が欲しい。【シャドウガーデン】(お前たち)と違って俺たち衛兵とか騎士とかは奴らの情報が少ない。それをできるだけ手に入れておきたい。」

「ふむ。他には?」

「俺の感情的な理由だけだ。俺はお前にも、お前の部下にもできるだけ人を殺して欲しくない。」

「そうか。…ベータ。」

「はい!」

 

 “アルファ”に続いて“ベータ”か。多分実力的にもアルファの下だし、幹部の2番目か?現れた銀髪のエルフを見たマスールは意外にも冷静に周りを見ていた。

 

「全員に伝えろ。傷つけてもいい。だが殺すな、とな。」

「は、はい!ですが、いいのですか?反対意見も出そうですが…」

「構わん。」

「…わかりました。全員に伝えます。」

 

 そうとだけ言い残してベータはその姿を消した。それだけで彼女もまた相当な実力であることが察せられる。

 

「お前の望みのようにしてやったぞ。」

「…おう、ありがとうよ。てか、いいのか?」

「構わん、と言った。…ああ、だが一つ言い忘れていたな。完全に死者を出さんのは無理だ。」

「それは分かってる。こっからは戦場。できるだけ減らしたいが…どうあがいても死者は出る。」

 

 マスールとてその程度わかっている。何を今更、とばかりに返すと珍しくシャドウが首を横に振った。

 

「そうではない。今、この場所には…()()()がいるからな。我がいくら言い聞かせようとも…制御のできぬあいつが狩りの中で標的を殺さないように加減するなど不可能だ。」

「…やっぱお前らやばい奴だろ。」

 

 制御できないって何?とドン引くマスールを尻目にシャドウはほんの少しだけ魔力を解放した。欠片も本気を出していないであろうそれだけでシャドウの周りに赤い魔力が可視化できるほどに具現化し、周囲を震わせる。

 

「【シャドウガーデン】よ。陰に潜む者たちよ。陰を狩る者たちよ。」

 

 シャドウの言葉に合わせて周囲の建物の屋上や階下の部屋で一斉に気配が蠢いた。その数はざっと察するだけでも100を超える。そしてその全員が相当な手練れ。その事実にマスールは冷や汗を流した。

 

(おいおい、下手したらこれ王都の騎士団でも勝てるか怪しくないか…!?)

「今こそ我々が【教団】に裁きの鉄槌を下す時。」

 

 そんなマスールの様子を知るはずもないシャドウはそう言って剣を抜いた。

 

「さあ、始めるとしよう。」

 

 シャドウがそう言って眼下の建物に剣を振り下ろした。それと同時に離れた場所の建物が煙を上げて崩れていき、一斉に【シャドウガーデン】の構成員たちが飛び出していく。それを見て、シャドウもまた一瞬で姿を消した。

 

「…いやノリがわからん!!」

 

 ただ1人、ノリについていけずに若干出遅れたマスールもまたそう叫んで廃墟から飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに?随分慌ただしいわね。」

 

 地下で監禁されていたアレクシアは突然聞こえていた喧騒に閉じていた目を開けた。彼女と同じ部屋に監禁されていた化け物もまた騒ぎを感じ取ったのか目を開けている。

 

「どうせなら派手に壁でもぶち破ってくれないかしら。」

 

 薄暗い地下に監禁されていた上に毎日毎日血を抜かれ、相当ストレスの溜まっていた彼女は吐き捨てた。無駄とわかっていながら拘束を鳴らし、鬱憤を晴らす。

 それからしばらくして、部屋の扉が開いた。そこからアレクシアを監禁し、毎日のように血を抜いてくる白衣の男が転がり込んでくる。

 

「ちくしょう!もう少しだったのに!なんなんだあいつ!」

「あらご機嫌よう。」

 

 アレクシアが皮肉たっぷりに言うも、男が聞き入れる様子はない。と、その時部屋が今までよりも大きく揺れた。

 

「奴らが!奴らがきた!おしまいだ!殺される!」

「奴ら?騎士団のこと?安心なさい、私の拘束を解いたら貴方は殺さないように頼んでみるわ。」

「馬鹿をいえ!奴らが見逃すものか!!」

 

 また部屋が揺れた。相当暴れてるわねー、とどこか他人事のように思いながらすることのないアレクシアは男の様子を眺め続ける。

 

「騎士団は無駄な殺生はしないわよ。抵抗しなければ殺されはしないわ。」

 

 そんなわけないけど。アレクシアは心の中でだけそう付け加えた。

 

「騎士団!?あれが騎士団であるものか!あれは皆殺しだ!あれは皆殺しなんだ!」

「はあ?騎士団じゃない?」

 

 騎士団じゃないならいったいなんなのか。そう思ったが、まあこいつ狂ってるし当てにはならないな、とすぐに考え直した。と、同時にまた部屋が揺れた。どれだけ暴れるつもりなのか。

 

「ま、もう貴方も終わりよ。さっさと諦めなさい?」

「嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!アレさえ完成すれば僕は!僕は!!」

 

 焦燥から血走った目を向けた男はそう言って化け物のほうに走り寄った。そのまま取り出した装置を化け物の腕に押し付ける。

 

「これ、これなら。これなら出来損ないのお前でも僕の役に立つ。」

「やめなさいそれ。ものすごい嫌な予感がするの。」

 

 具体的には自分が巻き込まれる予感が。

 

「さあ見せてみろ!ディアボロスの片鱗を!」

「……ああ、そう。楽しみねえ。」

 

 ああ、終わった。揺れ始める部屋の中で自分に降りかかるであろう不幸を予測して、ため息と同時にアレクシアはため息を吐いた。目を閉じると、今までの人生が早回しで思い返されていく。

 

(いや走馬灯みてるじゃない、私。)

 

 まだ幼かった頃の、姉と仲が良かった頃。それから少しずつ大きくなって、姉と比較されて疎遠になって、学園に入って、恋人(仮)ができて…

 

(ああ、そう言えばあいついたわね。)

 

 下手すればあいつも死刑になってるのかしら、と脳裏に浮かんだ赤髪の男を思いながらアレクシアは苦々しく笑った。それは全く自分の思い通りにならない、自分と正反対の人生を歩んでいる男。

 最初はただの隠れ蓑として選んだだけだったのに、こんなことに巻き込んだことだけは本当に申し訳なく思っている。

 

「あーあ。ここで終わりだなんてね。」

 

 ボソッと呟いた直後。一際大きく部屋が揺れた。揺れて、()()()()()

 

「……は?」

「き………来やがったあああ!」

 

 もうもうと土煙が上がる中、アレクシアが目を丸くし、男が絶叫する。腰を抜かしてしまったのか、持っていた道具を放り投げ、不恰好にもずりずりと這いずりながら逃げようとしていた。

 

「やっと崩れた。」

 

 その土煙の中から、剣を担いだ1人の男が現れる。特徴的なのは学園の制服に、赤い髪。奇しくも、それはアレクシアのよく知っている男だった。

 

「マスール…」

「アレクシア殿下、ご無事ですか?すぐ助けますから。」

 

 壁をぶち抜いて現れたマスールはそう言って男の方へと歩き出した。マスールが一歩進むたび、男が必死に後ずさるも、とうとう壁に背をつけた彼はもう逃げ場を失ってしまった。

 

「よお、お前が犯人だな?」

「いや、あ、あ、たす、たすけ、」

「ん?ああ、安心しろ、俺はお前を殺さねえよ。」

「ああ、ああ!あああ!やった!やった!!」

「は?正気?」

 

 犯人確定の男に話しかけるマスールに、アレクシアが横から口を出した。が、マスールは無視する。

 

「本当だな!?本当に僕を殺さないんだな!?」

「ああ、俺は殺さねえよ。約束しよう。だから…」

 

 一発イッとけ?

 

 その言葉の直後、男が壁に叩きつけられた。叩きつけられた場所からは馬鹿みたいな轟音と土煙、それから蜘蛛の巣状のひび割れが生まれる。あまりにも容赦のない一撃に、アレクシアも言葉が出なかった。

 

「アレクシア殿下、今拘束外しますから!」

「え、あ、うん。あの…いいの?」

「何がです?」

 

 バキ、と一瞬で拘束を壊したマスールが首を傾げた。ようやく解放されたアレクシアに水を差し出す彼に、ボロ雑巾のように横たわる男を指差してアレクシアは尋ねた。

 

「いや、あれ…死んでない?」

「加減はしましたよ?肋骨くらいは折れてるかもしれませんけど…まあ安いもんでは?」

「あ、そう…。てか、殺さないってなによ!?」

「いや、今ここで殺したって意味ないでしょ。騎士団にも情報の裏どりとかありますし。」

「正論なのムカつくわね!」

 

 解放された脚でアレクシアはマスールを一発蹴った。蹴られたマスールは大して痛くもないだろうに、律儀にイテ、なんて言っている。

 

「あとこいつに対する復讐って意味なら…多分今死ぬより、生かされて拷問かけられるほうが苦しいと思いますよ?」

「…あんた、そんなこと言うのね。」

「まあ俺別に聖人じゃないですしね。あ、ついでにこいつも連れていきましょうか。」

 

 そう言いながらさらにマスールは怪物を拘束していた鎖を破壊した。てかなんでこいつは魔力無しの素手で鎖を破壊してるんだろう、とアレクシアは心底疑問に思ったが、疲れていたのでそれを口に出すのはやめておいた。

 

「はい、じゃあこいつも拘束したし外出ましょうか。多分外にはそろそろ騎士団も来てると思いますよ。」

「はいはい。案内頼むわよ。」

 

 マスールの先導に従って3人と1体は壁の穴から部屋を出た。その穴は隣の部屋に、さらにその隣にと続いている。一向はそのまま、ぶち抜いた部屋を抜けて歩いていった。

 

「なんでこんな派手なことしたのよ。普通に廊下から来ればいいじゃない。」

「いや、どの部屋にいるとか分からなかったので。とりあえず壁ぶち抜きながらしらみ潰しに探してました。」

 

 脳筋すぎる、とアレクシアが呆れる中、不意にマスールが歩みを止めた。それに続いてアレクシアも歩みを止めると、廊下の先から声がかかる。

 

「脱獄した、とは聞いていたが…2人してどこへ行こうと言うのかな?」

 

 それはマスールも、アレクシアも聞いたことのある声だった。その声を聞いてアレクシアの目が大きく見開かれる。

 

「なんで、なんで貴方がここにいるのよ…。」

「…本当に貴方が犯人だったんですね。」

 

「ゼノン教官。」

 

 ミドガル魔剣士学園の教官にして王国の剣術顧問。アレクシアの婚約者候補であるゼノンが、そこにいた。アレクシアは前々からゼノンのことを怪しいとは思っていたが、それでも彼女は多少の衝撃を受けた様子だった。

 

「ふむ。君が脱獄したとは聞いていたが…まさかここに来るとはね。」

「どっかの誰かに死刑囚にされかけましてね。その嫌疑を晴らす為ですよ。」

「ふむ。それは大変だ。」

 

 穏やかに話しながら剣を抜いたマスールとゼノンが前に出る。

 

「1つ聞きます。大人しくお縄につく気は?」

「あると思うかい?」

「まさか。」

 

 両者はほんの少しだけ静かに笑った。

 

 一拍の呼吸の後、剣と剣がぶつかり合う音があたりに響き渡った。

 

 





マスールの好物は辛めの肉と酒。
辛めの肉は美味しいから。酒は酔わないけど、周りが割と楽しそうにしてるので好き。
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