転生した。落ちこぼれになった。   作:チキンうまうま

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平穏な日

 

 ピチチチチ、と窓の外で小鳥が鳴いた音で俺は目を覚ました。

 

「…うおお。」

 

 背中いっぱいに味わう柔らか…くは無いけどもまともなベッドの感触。その感触に後ろ髪を引かれつつも目を覚ました俺は上体を起こした。目の前にはようやく見慣れてきた、幾つもの2段ベッドが並べられた部屋が広がっている。

 

「みんなまだ寝てるか。」

 

 外では小鳥は鳴いたが、今はまだ早朝と言っても過言では無い時間。体力の回復が異常に早く、かつ今までの習慣で睡眠時間が短い俺でなければ普通はそんな時間に起きる理由はないだろう。

 

「…まあ目も覚めたし。本でも読みますかね。」

 

 幸いにして日は昇っていて、俺が今いる場所─カゲノー男爵家領にある孤児院には勉強のための本が少しばかり揃っている。俺は生家で文字の読み書きくらいは習っていたので、これからはこの世界の知識を蓄えていく予定だ。

 朝食準備までにやることを決めた俺は、周りの寝ている子供たちを起こさないように足音を立てずにベッドから降りて歩き出した。建て付けの悪い扉を開けた時には音がしたが、幸い誰も起きなかったことに少し胸を撫で下ろす。

 

(…に、してもまあこんなことになるなんてなあ。)

 

 ペタペタと足音を立てて孤児院内の図書室へと向かう途中の、周りのあまりの穏やかさには未だ慣れない。今俺が見ている風景は全部夢なんじゃないかと思うくらいだ。

 

(“シャドウ”とか言ったあの少年…一体何者なんだ?)

 

 こうやって1人になると考えてしまうのは、今から2ヶ月ほど前のあの日に俺を奴隷から解放したあの謎の少年、“シャドウ”のこと。盗賊たちを鏖殺するという最悪の手段ではあるが、奴隷から解放したというただ一点においてだけは一応俺は彼に感謝している。…ついてこい、とか言った割には何故か俺は放置されてるわけだが。なんなんだマジで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういえば少しだけあの日のことを語ろう。あの日、俺は彼によって長年縛られてきた鎖を断ち切られて一応自由の身になった。その後色々と盗賊たちの遺品を漁っていたシャドウは金目の物を確保したうえで我が隣人、ベト助に興味を示していた。

 

 ベト助は教会に売られた悪魔憑きで、異臭を放ち死を待つばかりの存在のはずなのだが…一体なにが彼の興味を引いたのだろうか。少なくともベト助はあの時点ではまだ生きていたが、彼─いや彼女かもしれないけど、はもうとっくに死んでいるだろう。何せシャドウは人の命をなんとも思わない狂人だ。いくら俺が愛着を持っていた隣人とはいえ、ただの悪魔憑きなんてすぐに殺すだろう。

 

 話が逸れたが、とにかくシャドウは悪魔憑きたるベト助にも興味を示した後、欠片も予想もできない行動にでた。

 

 いきなり俺を気絶させてきたのである。感知できないからわからないけど多分魔力で。

 

 あれは避けれなかった。そもそも俺は魔力探知とかができないし、仮にできたとしても予備動作なしにあの速度で放たれたら反応もできない。気がついたら俺の視界は真っ暗になっていて、次に目が覚めた時にはこの孤児院に運び込まれていた。おそらく俺を気絶させた後シャドウがこの孤児院に担ぎ込んだんだろう。

 

 その後はまあ想像通り。帰る家も行く宛てもない俺は孤児院に引き取られ、今の生活を送っているというわけだ。普段は自分よりも小さな子供たちの世話をしたり、時間が空いたら畑仕事だったり工事の日雇いの仕事をしたりしている。こう言った孤児院はどこも資金難だから、こう言った仕事で小銭を稼ぐことはとにかく大切なのだ。

 

 あとは…たまに近所に住んでいる昔この街の衛兵をやっていたおっちゃんに剣を教えてもらっている。魔力が一切ないとはいえ、実際のところ俺はフィジカルだけは馬鹿みたいに強いから将来は衛兵とかも視野に入れている。その辺の農家に比べると衛兵は給料いいし、こんな片田舎の衛兵なら魔力がなくてもある程度務まるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、歴史の本は確かこの辺り…。」

 

 図書室に着いた俺はすぐにお目当ての本を探し出し、ペラペラとページを捲り始めた。何せ衛兵になるのなら最低限の教養は必須。というかどんな職業に就くのでも知識があるのとないのとでは全然違う。本当に。奴隷だってマジでそうだった。

 

 俺が今読んでいるのはこの国の歴史についての本。この図書室は蔵書のほとんどが子供向けの童話集とかで、教科書の類は少ない。あったとしてもかなり古くて薄っぺらいが、そもそも本が貴重品である以上ない物ねだりはできない。それ以外にも周辺国家の歴史についての本や地理、あとは算術書とかもある。…算術とかは日本の高校数学の方が上だったりするけど。

 

「…そう言えば王都には学校あるんだっけか。」

 

 学校、で思い出したが聞く話によると王都には貴族御用達の学校があるらしい。この街の平民たちには縁がなさすぎて雲の上のような話だが、うちの領主の子供達は15歳になったらそこに通う予定であるらしい。

 

「学校、か。」

 

 前世では通えることが当たり前だった。成長と共にみんな小学校、中学校、高校と進学していく世界。それがいかに贅沢で、理想的なものであったかを最近身にしみて理解している。

 

(昔は学校なんてだるい、とか部活のために通ってる、って感じだったのにな。)

 

 だと言うのにいざ通えない、となると勉強しなければならないと思い始めるのだから人間は不思議だ。

 

(まあ言っても仕方ないか。奴隷じゃなくなっただけ俺の人生随分幸せさ。)

 

 溢れ出る後悔と思考の渦を首を振って断ち切ると、俺は再び黙々と本を読み始めた。光源が窓しかないため、図書室の窓辺で陽の光を頼りに本を読む。

 

 そんな俺の姿を窓の外、それも孤児院の遥かに遠くから金髪の少女が見ていることに俺は終ぞ気づくことはなかった。

 

 

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