転生した。落ちこぼれになった。   作:チキンうまうま

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Q 何でマスールは素手じゃなくて剣を使っているの?
A 一応衛兵という立場上武器を使う必要があるからです。素手で警備に立つのは不用心に見えて防犯上よろしくない。
 



地獄への道は下心で舗装されていた

 ミドガル魔剣士学園に入学して早いことでもう2ヶ月がたった。

 流石は貴族御用達のお坊っちゃまお嬢様学園である。内装とか無駄に凝っていて、正直落ち着かない。てかこんなとこに税金使うな、もっと別のとこに金使え。てか税金下げろ。薄給には辛いんだよちくしょう。

 

 さて、そんなこんなで始まった学園生活。なかなかに大変である。何せ学校に通うのなんて15年ぶり。何かにつけ『あー、こんな感じだったなあ』って感じである。そう、たとえば休憩中に連れ立って食事に行く男子学生だったり、流行りのお菓子やコスメの話題に花を咲かせる女子学生だったり、

 

 1人寂しく校舎裏でパンを齧る俺だったり。

 

 違うのだ。いじめとかではないのだ。ミドガル魔剣士学園はいじめのないみんな仲のいい学園なのだ。

 

 何せ考えてみたら当然のことである。周りはほぼ全員貴族、あるいはそれに準ずる家柄の人たち。俺、家を放逐された孤児院育ちの平民。これはアレですよ。馴染めるわけないんですよ。周りの話題とかまっっったく分かりませんもん。

 

 結果今に至るまで俺は同じクラスに友達の1人も作ることができず、見事なまでのボッチ学生生活が始まったというわけだ。ああ、ちくしょう今日もパンの塩気が強いぜ。安売りしてた黒パンに塩漬け肉挟んだだけなんだけど、塩漬け肉の量間違えたかなははは…。随分としょっぱいや…。

 

(別にいいんだ。俺はここに友達を作りに来たんじゃ無い。勉強に、そして強くなるために来たんだ。)

 

 モソモソと粗末な黒パンサンドイッチを水で流し込む。食堂もあるが、そっちは高いしアウェー過ぎて入れる雰囲気じゃ無い。あ、目の前を幸せそうなカップルが通っていった。なんて幸せそうなんだ。まあ羨ましくなんてないけども。

 ……嘘です、ものすごく羨ましい。俺だってキラキラした学生生活送りたかったぜこんちくしょう。

 

 大きくため息をつくと、俺はさらに塩気の強くなったパンを無理やりに飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、その後の午後の実習を終えた時のこと。誰にも話しかけられないまま俺はカバンを持って立ち上がった。これからは下宿先に戻ってバイトがある。貯金が全然無い俺にとって、バイトは生命線なのだ。

 

「ちょっといいかな。」

 

 が、その日はちょっと違った。なんと俺に話しかけてくる奇特な人がいたのである。なんてことだ。驚きと若干の嬉しさを胸に、俺が声の方へ向くとそこには3人の男子生徒がいた。

 1人はうちの領主のご子息、シド様。残りは…たしかイモ様とガリ様。一応俺と同じクラスではあるけども正直ぜんっぜん印象にない。正直『あ、いるなー』とも思わない生徒AとBくらいの人たちである。てか正直シド様も領主の息子っていうフィルター無かったらその辺の生徒Cくらい目立たない。

 

「…なんでしょうか、カゲノー様?」

「様!?シド君、様付けで呼ばれてるんですか!?」

「おいおい、まさかこんなところで貴族アピールか?やめておけよ。」

「違うから。マスール君は僕の領地出身なだけだから。」

 

 …なんか反応が男子高校生みたいだな。ちょっとしたことで内輪ノリが出てやいのやいのはしゃいでいる。バイトあるし帰っていいかな。

 

「あの、私に何かご用でも…?」

「ああ、そうそう。君に頼みたいことがあってね。」

「まあ自分からの頼みなんですけど。」

 

 そう言ってイモ様が一歩前へ出た。なんだろう、嫌な予感しかしない。

 

「…なん、ですか?」

 

 ここから逃げろと野生の勘が警鐘をガンガンに鳴らしてくる。が、生憎と俺は平民。この3人は貴族。そんなことしたら秒で学園から俺の居場所がなくなってしまう。故に俺はここで『撤退』という選択肢を取ることができなかった。

 

「うーん…でも上手くいきますかねえ。」

「上手く行くかどうかは大事じゃない。少しでも情報を集めることが大切なんだ。」

「それもそうですねえ。…というわけでカイーナ君。」

「……はい。」

 

 ああ、もうだめだ。ほら見てみろ。シド様の顔みろよ。色々と押し殺した顔してるじゃないか。そんな俺の内心を知りもしないイモ様はなんか得意げな顔で言ってくる。

 

「ちょっとアレクシア王女に告白してきてもらえませんか?」

「俺に死ねと!?」

 

 立場とか場所とかそんなの全部忘れて俺は大声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アレクシア王女殿下。読んで字の如く、この国の王女様である。ついでに言うと白銀の髪に切長の赤い瞳をした大層な美人。入学から2ヶ月で告白してきた男を100人斬りした高嶺の花。

 そんな方になんで俺が告白なんぞせにゃならんのだ。最悪不敬罪で打首だぞ俺。流石にこの歳でギロチン送りは嫌だ。絶対に。

 

「…と言うかそもそもなんでそんな話に?皆様の誰かでやればいい話なのでは?」

 

 急に湧いて出た面倒な話に、露骨に俺の態度が悪くなる。これアレだ、下手(したて)にでた方が面倒なやつだ。

 

「よくぞ聞いてくれました!まずアレクシア王女がここまで全ての告白をお断りしているのは知っていますか?」

「…まあ、はい。」

 

 テンション高いなこの人。

 

「ええ!そしてその中には家柄がとてつもなく良い人も、格好が良い人も、財力の高い人もいました。ですが全員がバッサリと切って捨てられています。手応えの一つも得られずに、です。」

「そうですか。」

 

 正直興味がなさすぎる。

 

「そこで僕は思いました!」

 

 グッと拳を握りしめ、自信満々にイモ氏は言った。どこから来るんだその自信。

 

「なら真逆の相手なら逆にいい感触になるんじゃないかと!」

「…つまり、貧乏で、イケメンでなく、庶民の私にこそチャンスがあると?」

「可能性はある、と言う話です。」

「ほう。」

 

 あるわけねえだろ。てかよく事実上初対面の相手をここまでこき下ろせるなこいつ。いじめか?

 

「ま、俺たちはお前が成功するなんてカケラも思っちゃいない。お前に対する態度を見て、俺たちがどうやってアプローチするかの方向性を考えるのが目的ってわけだ。」

「…ってわけなんだけど、頼めるかい?」

「普通に嫌ですが?」

 

 3人で頼めばいけると思ったのか?普通に無理だぞ。俺だって命は惜しいんだ。学校卒業してから衛兵団で出世して、地元で美人な嫁さんもらうまで死ねないんだ。

 

「まあ、そう言うなカイーナ。俺たちの仲だろう?」

「ほぼ初対面ですよね?と言うか私今からバイトあるので、それでは…」

「まあ、無理って言っても無駄なんですが。」

 

 なんか馴れ馴れしく肩を組んでくるガリ様の手を外しつつ、さっさとその場を離れようとしたところでその宣告は下った。

 

「もうアレクシア王女に手紙は出してますので。君名義で。」

「これで失礼しm……………は?」

 

 なんて????一瞬で血の気が引いていくのを感じる。あれ、今日ってこんな寒かったっけ。どっちかって言うと夏だよね?今。

 

「ですからもう君名義でのラブレターを出しています。告白自体は明日ですね。」

 

 クレイジー事後承諾だった。なんだこれ。最初から俺は断る権利なんて無いじゃないか。俺は天を仰いだ。無駄に豪華な天井が見える。ああ、そうか…そう言うことか…。

 

「は…はは…‥」

「なんです?」

「歯ぁ食いしばれえええええええええええ!!!!」

「「「うわああああああああ!!!???」」」

 

 さよなら2度目の人生。次はもうちょいマシな人生になることを願うよ。そう願って俺は全力で拳を振りかぶった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その次の日。審判の日は来た。

 

「おそらきれい。」

 

 チチチチ…と飛んでいく鳥が見える。羨ましいなあ。あいつらは明日もお空を飛んでいけるんだろうなあ。ああ、いいなあ。

 

「大丈夫か、あいつ。」

「まあどうにでもなるでしょう。どうせフラれるだけですし。」

「ならやばくなったら僕たちで彼を擁護するって方向で行こうか。」

 

 後ろで男爵子息3人組(クソ野郎共)の声が聞こえる。俺知ってるぞ。こいつら絶対俺がやばくなっても出てくる気ないだろ。そんな優しい奴等じゃねえもん、絶対。

 チラリとそちらを見ると、シド様以外の2人は顔に大きなアザを作っている。シド様にも同じ強さの拳をお見舞いしたはずなんだが、さすがはクレア様の弟と言ったところか。自分だけ魔力でさっさと傷を治したらしい。

 

(どうして俺は定期的に命の危機に晒されるんだろうか。)

 

 しかも自ら首を突っ込んだ前回とは違い、今回は完全に巻き添えである。人生はクソ。

 

(ベト助…俺もすぐそっちへいくよ。天国で会ったらまた一緒にご飯食べような。)

 

 ああ、とうとう懐かしのベト助の幻覚が見える。相変わらず表情が全く読めないが、きっと彼…いや彼女かもしれないけど、は俺を笑顔で出迎えてくれるだろう。

 

「あ、来ましたよ!」

 

 ゴソゴソと後ろの茂みに隠れながらジャガイモ野郎がなんか言ってる。もういいや。昨日の晩に遺書は書いたし、荷物の整理も済んだ。部屋の掃除をしたし、やることは全部やったと言っていい。

 現実から目を逸らしていると、俺の前でコツリと足音が止まった。ゆっくりとそちらの方を向くと、そこには白銀の髪を持つ美少女、アレクシア王女殿下がいた。慌てて膝をつき、臣下の礼を取る。

 

「あなたが私に手紙を出した人?」

「いや、違います。名前は私名義ですが私が出したわけではありません。」

 

 後ろから『段取りと違うじゃないですか!』とか聞こえてくるけど無視。俺は命の方が惜しい。

 

「後ろのあの連中が私の名前を使って勝手に手紙を出しただけなのです。度重なる不敬に対しての処罰は彼らに。」

 

 領主の息子?知るかそんなの。因果応報、俺を策に嵌めようとしたのが悪い。3バカにとってこれは予想もしてない顛末なのかワーワー騒ぎだした。ちょっと黙って欲しい。

 

「ふうん…。」

 

 アレクシア王女は俺の言葉に目を細めると、俺と3バカの方を交互に見やった。

 

「じゃあ貴方はこの熱烈な恋文を出していないのね?」

「勿論にございます。」

 

 何てもの書いてくれとんじゃあのイモ野郎。マッシュポテトにしてやろうか。

 

「そう。でも、貴方の名前でこの手紙が出されたと言う事実は変わらないわよね。」

「それは…その通りですが。」

 

 あー…これ死んだわ。完全俺も一緒になって悪ノリで手紙出したと思われてるわ。

 

「そうね。なら、私から返事を出させてもらうわ。」

「あの、その…」

 

 聞くまでもない。さよなら世界。こんにちは断頭台。いや首斬り職人の方かもしれない。俺ギロチンくらいなら弾き返せる自信あるし。

 

「よろしくお願いします。」

「命だけはお助け…はい?」

「ですから、よろしくお願いします。」

 

 全員の間に沈黙が落ちた。遠くで鳥が囀る声が聞こえる。わー、綺麗な声だなー。何かなあの鳥。ムクドリ?

 

「…………は」

 

 いや待て。今王女殿下なんて言った?

 

「「「「はいいいいいいいいい!!!???」」」」

 

 俺と3バカが揃ってあげた間の抜けた奇声は、よく晴れた空に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シド・カゲノーはご機嫌だった。どのくらいご機嫌かと言うと、西海岸の照りつける太陽くらいご機嫌だった。

 

「いやあ、まさかこんなに上手くいくなんてね。」

 

 ふんふんと鼻歌でも歌いそうなシドは軽い足取りでクローゼットに向かい、制服を脱ぎ捨てた。次は部屋着を取り出して着替えると、ベッドに思い切りダイブした。

 

 マスールの同じ学校の同じクラスに進学したシド。彼の最近の悩みは、マスールが常に1人でいることだった。友達の1人も作らず、授業を受け、一言も喋らずに帰宅する。そんな生活を送っている彼をシドは勝手に不安に思ったのである。

 

 つまり、『このままだと主人公ポジの彼にヒロインが生まれないのでは?』と言う疑惑。と言うかあんな1人ぼっちを極めた学生にそんな女性の影なんてあるわけない。いや、姉のクレアとはちょいちょい話をするらしいが、それはそれとして正統派のヒロインがいる。そう思ったシドの行動は早かった。

 

 まずたまたまを装ってアレクシアが告白されている現場をヒョロとジャガと一緒に通りすがる。そうしたらモブ感全開の2人はミーハー根性丸出しにして、自分ならどうやってアレクシア王女を落とすか、と言った方向にシフトしていく。あとは簡単。適当な理由をつけて彼を告白の場面に引きずり出すだけだ。そのあたりは適当に焚き付けたらジャガが一晩でやってくれた。扱いやすくて大変助かる。

 

「シャドウ?入るわよ。」

 

 ほくそ笑むシドがベッドに寝転んでいると、窓から金色の髪がふわり、と広がってアルファが入ってきた。ドアからは入れないからとはいえ、なかなかにダイナミックな入室である。

 

「やあ、アルファ。何か進展でもあったの?」

「ええ。王都での【教団】のアジトを見つけたわ。それについてあなたの意見を聞こうと思ってたのだけど…随分とご機嫌ね?」

「ああ、うん。まあね。」

 

 ここからだ。きっとここから『魔力を持たない元貴族で現平民の少年が魔剣士学園でエリート王女様と織りなす学園ファンタジーラブコメ』が始まるんだ。シドは今までにないほどウッキウキであった。

 

「マスール君に彼女ができたからね。」

「……………は?」

 

 結構な付き合いになるシドですら今まで聞いたことないくらいに、びっくりするほどアルファの声は低かった。

 

 

 





どうでもいい余談ですがマスールの下宿先は酒場(賄い付き)。学校から帰ったらそこで料理と給仕のバイトをして日銭を稼いでいます。

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