転生した。落ちこぼれになった。   作:チキンうまうま

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針の筵

 

 つらいでござる。しんどいでござる。

 

 アレクシア王女の彼氏(仮)になった次の日。珍しく食堂に連行された俺はまさしく針の筵に立たされていた。俺の周りの生徒からは俺と言う昨日までのぼっち庶民Aは映っておらず、とんでもないことをしでかした身の程知らずがいた。

 

「聞いたか?あの庶民、アレクシア王女殿下を脅したらしいぞ?」

「一体どんな手を使ったのかしら…。」

「顔はいいけど、それ以外が…」

「なんか地味じゃない?」

 

 何が悲しくてこんなことを言われなくちゃあなんないんだ。俺は自分の目が荒んでいくのを感じていた。きっと側からまた俺は奴隷時代と同じくらい生気を失った目をしていることだろう。

 

「いやあ大変だねえ。」

「……誰のせいだと思っていやがります?」

 

 そんな俺の向かいには下級貴族御用達セットとやらを貪るシド様を含めた男爵子息三馬鹿組がいた。どんな神経をしているのかはわからないが、彼らにはこの事態をどうも面白がっているふうに感じられる。

 そして俺はその呑気な姿を見るだけで、コメカミがヒクつき、右手に持ったナイフに力がこもってしまう。落ち着け俺。流石に刃傷沙汰はまずい。

 

「にしてもなんでお前だったんだ?お前に王女様と付き合えるスペックはないだろ。俺ですら怪しいレベルだぞ?」

「君が行けたなら自分でも行けたかもしれませんねえ。あーあ。自分が告白すればよかったなあ。」

 

 …他人事だと思いやがって。てか俺は別に大層なイケメンってわけじゃねえけどそれでもお前らよりは多分マシだぞこの野郎。

 

「……代われるならいつでも代わりますよ。いくらなんでも分不相応過ぎますので。」

「そりゃそうだ。何日保つかが見ものだな。」

「3日ってところですかねえ?」

「それは俺の命がってことですか?」

 

 ウケますね、と言って俺は水の入ったコップを傾けた。普段は自作の貧乏サンドイッチを食べている俺だが、今回ばかりはこの三馬鹿に昼食を奢らせていた。と言うかこのくらいは許されないと割に合わない。

 

「…て言うかそもそも王女殿下は何考えてんですかね?」

 

 問題はそこだ。王女様は今回の経緯を多少なり知っている。今回の俺の告白は仕組まれたものであり、そこに俺の願望などは一切関係ない。だと言うのになぜあの方は他の貴族ではなく俺にOKを出したのだろうか。

 …いや、普通に考えれば多分こうだろうなあと予想できる事情はあるのだけど、できるだけそうではないと信じたい。そうだった場合、本当に俺の命が危うくなる。

 

「あの魔力なしは王女様の弱み握って脅したらしいぞ?許せねえよな。」

「マジかよ…殺すか。」

「おい、お前らも使用人たちにスコップ用意させろ。死体をそこの林に埋めるぞ。」

「まかせろ。いくついる?」

「とりあえず30あれば足りるだろう。殺り方はどうする?」

「事故に見せかけるぞ。誰かあいつと実習授業被ってるやついないか?」

 

 いかん。このままだと本当に殺される。

 

「…どうにか穏便に別れられませんかね?」

「君の立場的に無理じゃない?一応告白した側だし、身分的にも王女様が飽きるのを待つのが最善だろうね。」

「にしても贅沢なやつだなあ。上手く行けばいい思いできるだろうに、それを棒に振るってのか?」

「そうですよ。たとえ間違いでも王女と付き合えるんですから、多少の障害で怯んじゃあ勿体無いですよ。」

 

 マジで他人事だと思いやがって。こちとらまじで生きた心地しないんだぞ?

 痛む胃を抑えながら食事を進めていると、突然俺の隣の席に超高級メニューが並べられ始めた。…これ確か10万ゼニー超えるやつでは?俺の月給の6割くらいの、金持ち貴族しか頼めないやつでは?

 音もなく現れたメイドさんたちによって手早く並べられたそれに呆気を取られていると、用意の終わったその席の椅子が音もなく引かれた。

 

「この席、いいかしら?」

 

 渦中の女性、アレクシア王女殿下の登場である。…なんで?平民の俺が下級貴族席にいるのもおかしいのに、なんでこの方までここにいらっしゃるんで?

 

「え、あ、はい。どうぞ…?」

 

 事情を飲み込めないなりに頷いて例の3人のいた方を向くと、そこには誰もいなかった。先程まで食事をしていたはずのジャガ様とヒョロ様はシド様に首根っこを掴まれてズルズル引きずられている。食べかけの食事の残された皿だけが、彼らのいた証明であった。

 

「あなたの友達は随分賑やかね。」

「友達ではありません。決して、断じてです。」

 

 アレと友達になってたまるか。

 

「そう。」

 

 興味なさそうにそう言って彼女は豪華な昼食に手をつけた。音もなくナイフとフォークを扱うその所作は見事としか言う他ない。彼女が食事をとる間、話すことのない俺はただ黙って自分の食べ終えた皿に目を向けていた。

 

「…何も言わないのね。」

「話すこともありませんので。」

「そう。…なら一つ聞いてもいいかしら?」

「仰せのままに。」

 

 相も変わらず優雅な所作で食事をとる彼女は、当然ながら俺と目を合わせようともしない。

 

「あなたはどうしてこの学園に来たの?」

「…と、仰いますと?」

「コネなし、血縁なし、財力なし、ついでに魔力なし。」

 

 淡々と俺の事情を挙げていく王女殿下。その言葉を聞いてピクリと俺の片眉が上がった。

 

「多少の結果を残したせいで、姉さんの作った制度を利用してこの学校に入学したみたいだけど…そのせいでこんなことになってる。」

「…………。」

 

 そこで初めて殿下は俺の方へ視線を向けた。異質なものを見るかのような目だった。

 

「この学園にとって明らかに異物の貴方はこうなるとは思わなかったの?それとも、分かっててきたの?」

 

 もう嘲笑も陰口も、周りの声は俺には聞こえてこなかった。

 

「……さて」

 

 少し考えてから俺は口を開いた。

 

「異物なのは分かっていますよ。ついでに言いますと、私が『魔剣士』には向いていないことも。さらにいえば仮に私がこの学園に来れば困難が待ち受けていることも、です。」

「……続けなさい。」

「それでもですよ。それでもこれは私にとって唯一の好機(チャンス)なのです。知恵を学び、技術を身につけ、強さを育むための。今回が、何も持たない私に与えられた人生最後の機会なのかもしれないのです。」

 

 事実、孤児院のある村に住む人たちは、そのほとんどが村から出ずに生涯を終える。そのことを誰も異常に思わない。だってそれが普通だから。彼らにとって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「だからこの学園に私は来ました。次は負けないために、次こそあいつを止めるための強さを手に入れるためにです。…それだけですよ。」

「そうなの。」

 

 俺の答えを聞いても王女殿下は興味がなさそうだった。そのまま黙ってナプキンで口を拭って、口を開いた。

 

「でも今のでわかったことがあるわ。」

「なんです?」

「私多分、あなたのこと嫌いよ。」

「……そうですか。」

 

 吐き捨てるかのようにそう返して、俺は口を閉ざした。彼女もまた、それから食事を食べ終えるまで一言も話すことはなかった。

 嫌な雰囲気を孕んだ沈黙だけが、昼休みの食堂の一角に渦巻き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミドガル魔剣士学園の午後は実習授業である。そしてその内容は様々であり、個々人の望む数多の武器や流派から自分の希望の授業を選択することができる。

 

「はずなんですけどねえ。」

 

 今まで受けていた武道場とは一線を画する豪華な体育館で俺は呆気に取られていた。そこは圧倒的に広く、必要なものから必要ないものまであらゆる設備が揃っていて、更に扉はメイドさんが開けてくれる。メイドさんとか10年ぶりに見たぞ、俺。

 

「いつまでぶつぶつ言ってるの?早く身体をほぐすわよ。」

「…お言葉ですが、さすがにこの状況にすぐに順応するのは無理かと。」

 

 あまりにもアウェーな状況に、顔が引き攣るのを感じる。何せここは今まで俺が受けていた『実戦両手剣術』の授業ではなく、『王都ブシン流』の第一部の授業。

 周りは明らかに超上流貴族の、しかも剣の達人とも言える娘息子ばかりであり、そこにいきなり庶民のブシン流初心者がノコノコ入っていけるわけがないのである。王族命令で急に授業を変更させられた俺にとって完全にアウェーな空間である。せめてクレア様がいたら話は違ったのだが…生憎といないようだ。

 

「カイーナ君、そう緊張することはないよ。」

 

 そんな俺の方をポンと優しく叩いて、授業担当のゼノン教官が言った。この方は28歳の金髪イケメン、且つこの国の剣術指南まで勤め上げるエリートである。…いやほんと、王女様に釣り合うのはこんな人だよなあ。

 

「私としては君のような地方の生徒に『王都ブシン流』を普及できる機会ができて嬉しいんだ。できればこの授業を通じて『王都ブシン流』を好きになってくれると嬉しい。」

「ゼノン教官……!」

 

 【速報】ゼノン教官は聖人だった。なんて優しいんだこの人…。俺が今までこの学園であった人の中で一番人の温かみを感じる。こんな人が国の中枢にいるなんて、この国は安泰だなガハハ。

 

「ただ…君に少し聞きたいことがあるんだ。」

 

 内心で余裕ぶっこいていると、少し目を細めたゼノン教官が言ってくる。いや怖い。怖いっす。イケメンの真顔は怖いって本当なんだな。

 

「授業の後、アレクシア王女と私の元に来てくれないかな?」

 

 あ、ダメだこれ。間違いなくこの人も俺の敵だわ。

 そう確信しながらも、俺はただ壊れたおもちゃのように頭を縦に振ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クレア・カゲノー様は俺にとって学園内で唯一頼れるお方である。

 

 我が衛兵団の直属のトップ、カゲノー男爵の第一子にして次期カゲノー家の当主候補筆頭。地方貴族であるにも関わらず、俺のような特例ではなく実力で特待生を勝ち取った才能ある若者。

 俺はそのクレア様に呼び出されて、放課後ある教室に向かっていた。その間にもあたりからは陰口が聞こえてくる。

 

「………はぁ…。」

 

 陰口に耐えながらも指定された教室に着いた俺は、ため息を一つついてからドアをノックした。中から入りなさい、なんて返したクレア様の声を聞いてからドアを開ける。

 

「失礼します、マスール・デ・カイーナ参上しま…」

 

 そこにいたのは、学園の制服に身を包んだクレア様とクレア様に首を絞められるシド様だった。…え?首締め?

 

「いらっしゃいマスール。今回は本当にごめんなさいね、この(バカ)が。」

「いやいやいやいや!?それよりも言いたいことがあるのですが!?」

 

 今現在信じられない暴力を受けているあなたの弟についてとか。悲鳴を上げる俺を不思議そうな目で見たクレア様は、綺麗な顔で小首を傾げた後に合点が言ったかのように頷いた。

 

「……?ああ、シドについて?気にしないでちょうだい。ただの折檻だから。」

「ドメスティックバイオレンス!!??」

 

 放課後の校舎に、俺の悲鳴が響き渡った。

 

 





マスール君の身長変化
 10歳(始まり) 133センチ
 13歳      156センチ
 14歳      167センチ
 15歳(今)   176センチ
中学男子によくあるタケノコみたいな成長したタイプ。まだ伸びてる。
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