士郎視点から地獄をお伝えします。
凛パートは長すぎたので次回に分けます。
それと、高評価ありがとうございます。
ランキングに載れて幸せです。
その日の事は、何と形容したら良いだろうか。
一成の手伝いをして
その帰りに、慎二から弓道場の掃除を頼まれて
それを悠仁に聞かれて、手伝って貰って。
ここまでなら、日常そのものだったのに。
────ごめん、悠仁。
お前の言う通りにしておけば良かったのに。
あの後、俺はお前の後を追っかけた。必死に走って校舎を駆け上がる途中、派手な爆発音と共に、お前が丸焼きになって運動場に投げ出されるのを見た時は絶望したよ。
でも、お前はギリギリ生きてた。必死にもがきながら、あのランサーを相手に立ち上がった。そして、遠坂達が来るまで耐え抜いたんだ。そういや、俺は組手でお前に勝てた事は無かったっけ。俺は悔しがってんのに、お前は俺のココが凄い、なんて笑って褒めてたな。
ああ、馬鹿をしたのは俺の方だ。その後、普通に見つかってランサーに殺されかけて。なんとか死に損なったと思ったら、また殺されかけて。それで、セイバーに助けて貰って。
こんなんじゃダメだよな。正義の味方を目指してるのに、誰かに助けて貰ってばかりだ。それで、塀の向こうに敵がいるって言うから、そのまま行かせた。
本当に申し訳ないって思ってるよ。お前とランサーとの戦いを見て、サーヴァントが人間じゃ相手にもならない存在だって知って、思考を放棄したんだ。サーヴァントにはサーヴァント同士の戦いがあって、俺が行ったら邪魔になるって思ったんだよ。それが最悪の判断ミスだった。
なんで、こんな────
「────止めろ。止めてくれ、セイバー!!!」
精一杯、喉を潰す覚悟で叫んだ。
全身血塗れで、もう輪郭も分からないくらいボロボロの悠仁に振りかざされた断頭の剣は、いとも簡単に止まった。唯一の救いは、セイバーの剣の刀身が見えないという事くらいだろう。彼女の見えない剣の切っ先からは、悠仁を斬って付着したであろう血液は一滴も見えなかった。
「止めろ。頼むから、止めてくれ。どうしてこんな────」
「何故止めるのですか。彼女はアーチャーのマスターで、もう片方は令呪を持った協力者です。アーチャーは先ほど撃退しました。戦線に復帰される前に、彼女だけでも仕留めて置かなければ」
ダメだ。セイバーは止める気なんてない。
俺が言ったから止まってるだけで、今すぐにでも悠仁の首を落とす気だ。
「だから待てって....!人の事をマスターとか言ってるけど、俺はまるで理解してないんだ。少しは説明してくれないと意味分からないし....それに、悠仁が協力者って何だよ!?家族を小間切れにされて黙ってられるほど、俺は薄情者じゃないぞ!」
「家族.....この男が?」
「そうだ、血は繋がってないけど十年間.....ああクソッ、順番が違うって言ってるんだ。俺はまだ、お前が何なのか分からない。けど話してくれるなら聞くから、そんな事はやめてくれ」
セイバーは黙っている。
今にも死にそうな悠仁に剣を突き付けながら、納得いかなげに俺を見据えている。
ダメだ。この出血量じゃ、長くは持たない。
なんとかセイバーを説得して、悠仁を病院か何処かに────
「そんな事とは何ですか。敵を打ち倒す事が悪だというのなら、貴方は家族が敵になった時は諦めて殺されるのですか?私はそのような言葉には従えません。それでも止めろと言うのであれば、令呪を以って私を律しなさい」
「ああもう、分からず屋!それにさっき、外のサーヴァントを倒しに行くって言ってただろ!?悠仁はサーヴァントじゃない、それでお終いじゃないか!それと、間違えて斬った事は悠仁に謝っとけよ!」
半分自棄になりかけながらも、悠仁の元に駆け寄る。流石に俺ごとぶった切るのは出来ないと考えたのだろう。少し不服そうな顔をしながらも、セイバーは剣を下ろしてくれた。
それにしても酷いケガだ。ランサーと殺しあったのも大きいだろうが、その上から袈裟斬りにされて、ごっそりと肩の肉を切断されている。この間に受けた生物の授業で、肩には心臓に直結している血管が通っていると聞いた覚えがある。そのせいか、ドクドクと流れる血が止まる気配はない。尋常じゃない量の血液が溢れ出し、道路の上に赤い水たまりが作られつつある。
どうする。俺に治癒の魔術なんて使えない。このままだと確実に死ぬ。
悠仁は真面目に生きて、優しくて、いつだって誰かの為に在ろうとした善人だ。
こんな所で死んでいい人間じゃない。
もっと幸せを享受して、真っ当な人生を歩むべき人間で───
「────衛宮君、そろそろいいかしら?」
「お前は誰.....って遠坂!?」
悠仁に気を取られてて気づかなかった。そうか、塀の向こう側にいたのは遠坂だったのか....そりゃそうだ。あの時、悠仁を助けてたのも遠坂だったもんな。こっちまで送ってきてくれた途中に、セイバーが敵と間違って斬りつけてしまったのだろうか。本当に不運な事故だ。
「.....遠坂、お前も魔術師なのか?」
「お互い似たようなモンだから気にしなくていいでしょ。今のは事故だってのは分かったから、早くタオルとか押さえるモノ持ってきて。このままじゃ、本当に虎杖君死んじゃうけど」
「.....ああ、分かった!他に要るモノは!?」
「できれば担架が有ればいいんだけど、それは無いだろうから私が背負うわ。それと、ちょっと歩くからマトモな靴を履いておきなさい。泣き言言っても置いてくからね」
「了解───!」
洗面所から持ち出した有りったけのタオルと包帯で上から圧迫し、無理やり出血を止めていく。当然、それだけでは足りない。怪我は裂傷だけではない。見るからに大事な骨が数本は折れてるし、肋骨が肺に突き刺さってるのか呼吸は小刻みで苦しそうだ。火傷した足は嫌な色に変色し、出血性のショックなのか手足が痙攣している。
ダメだ、この傷は俺の手には負えない。
遠坂も出血を止めようとしているが、それも焼け石に水というもの。
....それに、大体察した。この怪我は、一般的な治療で治すには手遅れすぎる。
「大体は止めるか、上から押さえ付けたわね。衛宮君、運ぶわよ」
「遠坂、運ぶったって治す手立ては有るのか?こんな状態で、まだ.....」
「有るには有る。けど、そんなに期待はしないで」
「────分かった。覚悟はしとく」
.....無論、納得はしていない。でも、こんな真剣な表情で言われたら何も言い返せないじゃないか。きっと遠坂も、悠仁を助けようと必死なのだろう。それなら、これ以上の問答は不要だ。俺に出来ることは無いのだから、黙って遠坂に従うしかない。
.....ああ、畜生。
目の前で死にかけてる家族も助けられないで、何が正義の味方だ。
頼むから死んでくれるなよ、悠仁。
「ああ.....無理だとは言わん。治す方法は一つだけ有る」
「だが、治すと形容するには余りにも残酷な行為となるだろうがな」
「お前が選べ、凛。このまま眠らせるか、地獄に呼び戻すか」
次回はルート確定分岐パートです。
麻婆を構えながらご照覧ください。
次回、「boy ends by girl」