20周年、おめでとうございます。
記念代わりの投稿です。
聖杯戦争。
七人の魔術師が七体の英霊を使役して行う、残酷な殺し合い。
まあ、これは理解できる。人間誰しも聖人だなんて思ってない。
聖杯を奪う戦いではなく。聖杯に選ばれる為の戦い。よって和解は不可能。
まあ、これも理解はできる。納得はしてやらないけど。
サーヴァントが残り一体となれば聖杯戦争は終了する。
理解できる。つまり、マスターの生死はどうでもいいのだ。
虎杖悠仁はサーヴァントとなっている。
.....理解、できる。そう安々と生き返られる訳がないよな。
遠坂凛と衛宮士郎はマスターである。
.......ああ、分かってる。薄々察してた。
この後、俺がどうなっていくのかも。
そりゃ、きっと────────
「────以上で、聖杯戦争の説明は終わりだ。質問は有るかね?」
「.....じゃあ聞くけど、なんで縛られてんの?」
「なに、お前がサーヴァントに乗っ取られんとも限らんからな。今のお前は令呪で律されていないサーヴァントも同然だ。暴れられては手が付けられん」
「じゃあ、この包帯も?」
「それは応急手当。内臓まで直結している傷だ、触るなよ」
ヒエッと息を飲んで、包帯を巻かれた腹を見る。コイツの話に出てきた、ランサーって奴に付けられた傷だったか。他の傷は完治しているのに、ここだけ未だに血が滲み出てる。なんかの呪いが籠った槍だったりするんだろうか。
「気を付けろよ。人間として最低限の機能しか生きていない身体だ」
「じゃ、次。なんで士郎が選ばれたんだよ」
「衛宮士郎の意志は関係ない。聖杯が求めたからだ.....驚いた、何故に自分が戦列に加えられているのか、とは聞かないのだな」
「それは聞いても仕方がないだろ。なっちまったモンは変わらない。行けるところまで行って、正しく死ぬさ。いや、でも.....」
はた迷惑な話である事には変わりはないが、と心の中で付け足す。急に殺し合いに参加させられて、しかも途中退出は不可能ときた。正直、"なんで自分が"とは思っている。それでも、いつまでも拗ねてるわけにはいかないだろ。必死にならなきゃ生き残れないってのは、十年前に学習済みだ。
....だが、自分が必死になれる理由なんて。そんなの有っていいのか。
「ああ、そういえば衛宮士郎が言っていたな。令呪を使い切ればマスターからの責務からは解放されると。実際アレは当たっている。令呪を失ったマスターには、聖杯戦争というシステムにおける価値が一切無くなる。殺す価値もない、というヤツだ」
「.....おおっ、賢い。それで士郎は抜けたんだな」
「いや、聖杯戦争への参加を決意した」
「なんでさ」
本当に意味が分からない。士郎は聖杯なんかに目が眩んで殺し合いに参加するタイプではないはずだ。もっと言えば、喧嘩はするより止める側の人間なのだ。こういう戦争に対して怒りを覚えるなら兎も角、参加しようだなんて.....いや、そうか。
「殺し合いを止めるために参加した....のか」
「その通りだ。加えて、聖杯の悪用を防ぐという目的も含んでいるらしい。途中で投げ出すような真似はしないだろうな」
「うわぁ.....士郎っぽい」
「大丈夫だ。お前がサーヴァント化している事は、私しか知っていない。衛宮士郎がお前を殺すために参加した、などという事はないから安心しろ」
「いや、そうなんだろうけど.....まあ都合がいいか」
遠坂と士郎が俺の状態を知ってないのは幸運だった。もし知っていたら、俺を殺すか殺さないかで葛藤させてしまうんだろうな。嫌な話だ。家族の前で死んだと思ったら、次は家族に自分を手にかけさせるだなんて。そんな事なら、俺は.....
「自死か?」
「......なんで分かるんだよ」
「神に仕える者として、そういう事を考える者には敏感でな。だが虎杖悠仁。お前はそれでいいのか?生きられるのであれば、もう少し長く生きてみたいとは思わんのか?」
「そりゃ、俺だって生きていたいよ。でも.....」
誰かに迷惑をかけてまで、生きていたくはない。そんな都合の良い人間にはなりたく無いし、そもそも俺は誰かを頼って良い人間じゃ無い。
結局セイバーにもランサーにも勝てなかったし、俺は誰かに助けて貰ってばかりだ。こんな弱い人間が、安易に救われて良いはずないんだ。誰かを助けるという唯一の存在意義を失った俺が、そんな事を考えていいのだろうか。
「成程、自分の存在に自信が持てなくなっているのか。若者らしい良い悩みだ」
「ちょっと馬鹿にしてんだろ」
「いや.....本心だとも。そういう人間がいる事に驚いているのも有るが」
武者震いのような、どこか鼻で笑っているかのような笑みを浮かべる言峰。何と言ったらいいか分からないが、俺はコイツが苦手だ。いちいち心の中を見透かしてくるような、傷を抉ってくるような言い方をしてきやがる。
「では、私がお前の生に意味を与えてやろう」
「はぁ?」
「虎杖悠仁、正義の味方に興味は有るかね?」
「覚えているか。聖堂教会は常に、全ての参加者に対して中立を保たなければならん。これはイレギュラーな参加をした、お前とて例外では無い」
「覚えてるけど。なんだ、蘇生の見返りでも取んのかよ」
「いや、それは諸事情で無料サービスだ。だが、これは最終的に中立になりさえすれば良い。つまり正当な対価さえあれば、聖堂教会とマスターは取引ができるというわけだ」
なんという裏ワザ。監督役の仕事についても聞いてはいたが、聖杯戦争における裏仕事が過半数を占めるという。そんな役職の人間と交渉が可能だとすれば、チマチマと偵察をせずとも情報戦で有利が取れる。
.....いや、だからこそ裏ワザなのか。戦う必要の無い監督役からすれば、マスターに対して要求するモノが先ず見当たらない。マスターから交渉を持ちかけられようと、余程の理由がない限りは首を縦に振らないのだろう。
「虎杖悠仁、この聖杯戦争の監督役として、お前に頼みたい事が有る。それを為してくれるのであれば.....そうだな、お前の聖杯戦争への参加を隠蔽しよう。当然、衛宮士郎や遠坂凛からもだ」
「.....用件を先に言えよ。そっから判断する」
「そうか、では単刀直入に言おう。お前には聖杯戦争の円滑な進行のため、教会側の執行任務をこなして貰いたい」
「執行任務.....?」
聖堂教会が働くべき執行任務。というと、悪魔祓いや怪異退治だろうか。俺も士郎の受け売りくらいでしか教会については知らないから何とも言えないのだが、エクソシストとしての職務の一環なのは間違いあるまい。
「監督役というのはな、聖杯戦争を円滑に進める為に、その土地で起きる事件は魔術的、非魔術的問わず解決せねばならんとされている。お前には、その中の一つを解決してもらう」
「待てよ。そんなのに俺を使っていいのか?監督役って言ったって、言峰は派遣された感じだろ。上から怒られないのかよ」
「いや、そうも言ってられなくなっていてな。対象を死徒と仮定した場合に推定される階梯はⅥを超えつつあり、下手をすれば街を放棄しなければならない程の獣が相手だ。お前のようなイレギュラーでも、使えるタイミングで使っておかなくてはな」
「......なあ、マジで大丈夫なのか?」
対人、対軍などといったスケールの飛び交う魔術界隈において、存在自体が町を滅ぼしかねない害悪とされるのは相当だ。ここまで大きな災害が目の前に迫ってるってんのに、聖杯戦争なんてドンパチを始めようとしてたのか。控えめに言って頭おかしいんじゃないのか?
「執行任務にお前を使っている間は、お前はマスターではなく監督役が派遣した協力者として扱われる。故に、お前の存在を私が明かすことも無ければ、聖杯戦争内で多少の無茶をしようと看過できる。それに....何より、衛宮士郎を助ける事にも繋がるのだ」
「いや、そんなら普通に手伝ってやればいいだろ」
「分かっていないな。衛宮士郎が召喚したのはセイバーのサーヴァント、全てのマスターが魔術師としての全財産を投げ打とうと召喚しようとする最優の英霊だ。お前は直接戦闘に参加するより、イレギュラーを潰していく方が割に合っているだろう」
まあ、それは確かに。ランサーとかいうのよりは戦えていたとは思うが、アレでもセイバーは力を温存した戦い方をしていたはずだ。本気で殺しにかかられていたら、俺は刺身みたいにバラバラにされてただろう。
「サーヴァント化して手に入れたのは、サーヴァントの機能の一部であって身体能力や宝具ではない。今のお前は、そう対して強くはなっていないのだ。図に乗るなよ」
「乗ってねーよ。自分が弱い事なんて、十分理解してる」
「ではどうするかね。私からの話を受けるか?それとも弱者らしくヘソを曲げ、荒縄を以ってこの戦いの場から降りるかね」
.....自分の意味を考える。
俺は誰かを守り、救うために存在している。
俺は誰かを励まし、手を取るために存在している。
よって、誰かを傷つける事を選ぶくらいなら死を選ぶ。
────嘘だな。
正義の味方に暴力はつきものだ。
正義は悪を救済できず、場合によっては骨の髄まで焼く責任を背負わされる。
正義の味方ってのはヒーローじゃなくて、もっと人間じみた何かなんだろう。
ちょうど、言峰が俺に用意してくれた「役割」のような、そんな感じの。
.....でも、士郎はそれ以上を目指している。
ああ、そうだ。俺が死んだって、正義の味方はもう一人いる。
だから最後まで胸を張って、アイツの背中を押してやろう。
どうせ一度は死んだ身だ。サーヴァントと何が違うってんだ。
最期は、アイツを傷つけないように、そっと消えていけばいい。
「────言峰。俺は、何をすればいい」
「覚悟は決まったか。では虎杖悠仁、お前に執行任務を授けよう」
やけに口角の上がった顔を見せつつ、俺の拘束を解く言峰。
そして、一枚の書類を俺に押し付け────
「冬木に現れた正体不明の怪異、"真人"の討伐だ」
次回、「material-01」
ルート確定に大事なアンケです。
溜まるまで少々お待ちください。
......寂しいな。最期になるなら、
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士郎に会いたい
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遠坂に会いたい
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桜に会いたい