Fate/black flash   作:なんか変な色の翼

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ここら辺を書きたかったのよね。





雪の少女(Ⅰ)

 

 

「.....まだ、現実味がしないな」

 

 

教会の外に出た瞬間、どっと疲れが肩に圧し掛かった。

死にかけたという事実、これから死ぬという宿命、その全てを受け入れろと言われたのだ。

 

理性では理解できていても、まだ本能では理解しきれていないのかもしれないな。

 

 

.....いや、正確には俺が死ぬって決まったわけじゃない。

俺が、俺以外の全員を打ち負かしさえすれば─────

 

 

 

「─────悠仁!よかった、無事だったんだな!」

「.....ええっ、士郎!?」

 

 

ぼんやりしていると、教会の門の方から士郎が息を切らしながら走って来るのが見えた。そして後ろから付いてきたのは.....遠坂とセイバーか。セイバーが士郎が召喚したサーヴァントだからだろうか、遠坂は少し離れたところで様子を窺っている。

 

 

「怪我は大丈夫か?遠坂が"治すというより無理やり直す"とか言ってたから、正直どうなるかと思ったぞ。歩けてるって事は、足も元に戻ったのか?どこか痛むところは?」

「ちょ、待て待て!そんな一気に質問すんな!」

「あ────ああ、すまん。でも元気になって良かったよ」

 

 

後ろのセイバーは.....なんか申し訳なさそうな顔をしている。士郎を守ろうとした結果だし、ただの交通事故みたいなものだから気にしなくていいのに。遠坂に至っては少し泣いてんじゃないか。ああ見えて、案外貰い泣きとかしやすいんだろうか?

 

 

「それと、教会を出ても大丈夫なのか?マスターがどうとか言うのは」

「あー、それはだな.....俺も間接的に参加しようと思ってだな....」

「聖杯戦争に....!?いや、おかしいだろ。お前が命を懸ける理由は無い。今からでも───」

「あら、別にいいじゃない」

 

 

そこまで言ったところで、遠坂に制止される士郎。もにょもにょと口を動かしてはいるが、何やら言い返しにくそうな様子だ。まあ学校での態度と全く別物だし、気圧される気持ちは正直分かる。

 

 

「虎杖君。貴方、令呪を放棄しなかったんでしょ?」

「.....ああ、そうだ」

「どうせ衛宮君みたいな理由なんでしょうけど、それなら覚悟は決めときなさい。令呪を持つ限りマスターの責務からは逃れられない。はぐれのサーヴァントを見つけたら再契約できるんだから、脱落者から見れば都合の良い復活権みたいなモノだしね。私も、貴方には容赦しないから」

 

 

容赦しない....というのは、殺す覚悟が有るぞという事なのだろう。それに伴ってセイバーも、結構強めの眼差しで俺の事を見てくる。あー、成程。そういう感じね。まあ敵同士だというのが分かり切ったんだ、こういう扱いされるよな。

 

 

「念のため聞いておくわね。ここで令呪を使い切る気はない?正常なマスターなら、無力化したマスターを襲おうなんて考えないはず。貴方が令呪を使い切って衛宮君を手助けするって言うのなら、命は助けてあげるけど」

「.........」

 

 

でも、やっぱ優しいな。こうやって逃げ道を与えてくれるし、敵同士だと言いつつも気にかけてくれてる。確かに、令呪を失えば一般人を装えるのだろう。言峰も、俺は傍から見れば人間だと言っていた。でもサーヴァント扱いされてるって事に変わりはないし、それに───

 

 

「.....悪い、遠坂。それはできない」

「そう。一応、そっちの理由は聞いておこうかしら」

「令呪はサーヴァントと契約してなかったら、純粋な魔力の塊になるんだろ?サーヴァントと戦う以上、武器は多い方が安心だろ」

「ああもうっ、なんでサーヴァントと戦うのを前提で話してんの!?そもそも、なんでこんな事だけ全部教えちゃうのよ、アイツ(綺礼)は....!」

 

 

.....なんか急に怒り始めた。言峰に対して怒ってるようで、俺に対しても呆れたような怒りが混じっているような気もする。どうしよう、取り敢えず謝っておくべきだろうか。でも、なんで怒られてるのか分からないのに謝るなんて、遠坂の神経を逆撫でしそうな気もする。

 

 

「ハァ.....もういいわ。行きましょう」

「行くって、何処に?」

「教会で説明を受けたなら、後は各々帰るだけ。町に戻るまでは一緒だからね」

 

 

話は終わりだと言わんばかりに、さっさと歩き出してしまう遠坂。

本当の事を言えぬもどかしさを感じつつ、俺も士郎と共に教会を後にした。

 

 

 


 

 

 

「.......」

 

 

四人で坂を下りていく。別に、仲良しこよしで横一列ってわけじゃない。そもそも俺は教会までの道程を知らないので、三人に先導してもらいながら歩いている。

 

 

「なあ、遠坂」

「虎杖君。話す事、特にないと思うんだけど?」

「.....サーセン」

 

 

その先導役の三人の中でも、ひときわ距離が離れてるのが遠坂だ。まあ、そりゃそうか。士郎は聖杯戦争の参加者になったんだし、遠坂は俺を不完全ながらもマスターになったんだと思い込んでるんだからな。警戒か、あるいは意思表示か。どうにも息苦しくてたまらない。

 

 

「でも.....あの赤い人はどうなったんだ?」

「ああ、アーチャーの事?セイバーにやられたダメージは簡単には消えないだろうけど、ちゃんと致命傷は避けてる。暫く実体化はさせられないだろうけど」

「じゃあ今襲われたら危なくね?家まで寄っとく?」

「アンタは保護者か!アーチャーはウチで回復させてるし、城攻めされても大丈夫なように準備はして来たんだから!」

 

 

今日の遠坂は沸点が低いようだ。学校のマドンナとしての面影が全然無いぞ。

 

 

....まあ、ここまで言うなら平気だろう。魔術師にとっての自分の家ってのは、一種の要塞に近い。士郎にとっての土蔵なんかとはレベルが全然違う。工房、陣地、神殿なんて呼ばれるように、魔術師の格が高ければ高いほどに強度が増すらしい。

聖杯戦争の存在を前々から知ってた遠坂なら、凄いのを作れるのでは無かろうか。

 

 

「アンタは身の振り方でも考えてなさい!第一、誰に味方するの!?」

「えーっと、そりゃ......」

 

 

士郎の方をチラリと見ると、キョトンとしたような顔で視線を返してきた。まあ、普通に考えたらそっちだよな。執行任務は有れど、別に聖杯戦争への干渉を契約とかで禁止されたってわけじゃない。そっちの話を隠しつつ、最後のひと時を過ごすのも悪くは無いだろう。

 

でもまぁ.....遠坂にも恩が有る。ランサーに殺されかけた時、俺を助けてくれたのは確かに彼女なのだ。その恩に報いる事もせずに敵になるって....なんか、それはそれでモヤッとするんだよな。我ながら面倒くさい性分だとは思うけど。

 

 

だけど、士郎と遠坂は敵同士で......

ああクソッ、だからバトルロワイアルってのは大嫌いなんだよ!

 

 

「ほら見なさい、碌に考えてなかったんでしょ」

「いや、考えてはいたんだけどな?」

「はい(ダウト)。まあ衛宮君と組むんだろうけど、死なない程度に頑張りなさい」

 

 

ハァ、と白いため息を吐くと、遠坂はそっぽを向いてしまった。

 

 

そこから、もう会話は無い。

 

命の恩人に、大切な家族、そして俺を斬った家族の味方。

つい先ほど死刑宣告された俺に背を向けたまま、三人は夜の街を歩いて行く。

 

そして彼女らの影を踏むように、俺も靴音を鳴らしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────ここでお別れね。義理は果たしたし、これ以上一緒にいると何かと面倒だから。きっぱり別れて、明日からは敵同士にならないと」

 

 

見知った交差点に辿り着く。桜を送っていった時にも通った、あの長い坂へと繋がる交差点だ。それぞれの家に続く分岐点であり、衛宮士郎と遠坂凛が分かれる場所。ここを過ぎれば、曖昧な位置づけから一転して敵同士だ。

 

 

「虎杖君、貴方ともお別れね」

「おう.....あっ、助けてくれて─────」

「そういうのはいいわよ.....自分の決断には、悔いを残さないでね」

 

 

最後の一言は、誰へ向けるでもなく独白じみた、自分に言い聞かせるようなモノだった。まるで遠坂が俺を助けた事を、間違いではないと思い込もうとしているような。でもそこにあるのは、迷いというより罪悪感に近いモノの感じがする。

 

かける言葉が見つからない。助けて貰った礼を言おうとも、先ほどのように一蹴されるだけだろう。そもそも、助けて貰った自分が彼女を肯定したところで何になる。助けられた人間にとって、助けた側が都合の良い人間だというのは当たり前の事だ。そんな主観まみれの言葉で何ができるというのか。

 

 

だが、何か言わなくては。まだ遠坂が此処にいる内に。間に合う内に。

 

そう思っていた矢先の事だった

 

 

 

「それに、おだてても手加減はしないから。私は─────」

お話は終わり?

 

 

場違いな程に幼い声が、交差点に響き渡る。

まるで玩具でも見つけた少女のような、歌うように弾んだ声。

 

しかし、その奥には。とてつもない程のドス黒い殺意が渦巻いているように思えた。

 

 

 

「こんばんは、お兄ちゃん。二人とも、今日も元気で何よりだね」

 

 

視線が勝手に坂の上へと上がる。ああ、本当に人間の本能が恨めしい。何故、音のする方に勝手に眼球が動こうとするのか。たとえその先に、見るも悍ましい怪物が潜んでいたとしても、条件反射でそっちを見てしまう。

 

 

 

「──────────ッ!!」

 

 

 

そこに有ったのは、一人の少女と異形の姿。

 

少女は悠々と坂の上から此方を見下ろしている。雪のような白い髪に、ルビーを埋め込んだかのように夜でも輝く赤い瞳。こんな状況なのに美しいと思ってしまうくらいに、人間のお手本とばかりに整った顔の造形。本当に同じ人間なのかを疑ってしまうほどだ。

 

 

そして、あの怪物は─────

 

 

 

「.....やば、アイツ桁違いだ」

 

 

ああ、確かに。遠坂の呟きに一切の異論はない。

 

音の無い激震が腹の底をかき回し、吐瀉物を口に押し込んでくる。それを必死に飲み込みながら、恐怖で凍った両足に血液を回して急速解凍。アレはマズイ。アレは良くない。下手をすれば、あの日の大火災よりも強い死の香りがする。

 

 

「あれ?貴方たちのサーヴァントはお休みなんだ。つまんないなぁ、まとめて潰したら楽しそうだなって思ったのに」

 

 

ますますヤバい。あの少女には遠坂のサーヴァントが不在という事も見抜かれている。しかし、俺もマスターだと誤認してるのは吉兆だ。きっと俺は戦力としてカウントされていない。なら、必ず俺にでも突ける隙が出来るはずだ。

 

 

「虎杖君。余計なことは考えないで」

「なんでだよ。一か八か.....」

「アレはバーサーカー。貴方でも攻撃範囲に入ったら、余波だけでひき肉にされるわよ」

 

 

前に出ようとしたところを、服の裾を掴んで止められた。

いや止めるのは勝手だけど、このままじゃ全員死ぬぞ。それなら────

 

 

「初めまして、リン。私はイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンって言えば分かるでしょ?」

「アインツベルン.....!」

「それと────ひき肉になるのは、貴方もだから」

 

 

動揺した遠坂の反応が気に入ったのか、少女は嬉しそうにクルクルと踊る。美しく、可憐で、一歩一歩地面を踏むたびに、ふかふかとしたブーツの足音が夜を木霊する。だが不思議だ。その音がどうしても、俺には死神の足音に聞こえて仕方がない。まるで初めて雪を見た子供のような純真無垢な笑みをこぼす姿は、隣の怪物と気色の悪いアンバランスさを醸し出していた。

 

 

そして、その舞が永遠に続くかと思った頃に。

 

 

「じゃあいくね。やっちゃえ、バーサーカー」

 

 

謳うように、イリヤは背後の巨人に命令した。

 

 

 

 

「────────あっ」

 

 

その巨人の動きは、疾走でも滑走でもなく、"落下"と形容するに相応しいものだった。坂の上から此処まで、目測で三十メートルほどか。それを巨岩が崖から落ちるように、バーサーカーと呼ばれた戦士は瞬く間に駆け下りてきたのである。

 

手には、岩盤でも削り出して作ったかのような荒い大剣。その軌道上に有ったのは俺ではなく、俺を止めるために前に出てしまった遠坂だ。死の斬撃は刻一刻と描かれ、彼女の顔面を刈り取らんと動いている。

 

 

そして、同時に感じたのは後ろから舞い上がる魔力の奔流。この感じには覚えが有る。きっと、セイバーが戦闘態勢に入ったのだろう。だが、前に出過ぎた遠坂に間に合うか。いや、そもそもセイバーは遠坂を助ける気が有るのか?

 

 

 

 

 

 

「人を助けろ」

 

 

 

 

 

ああ、分かってる。

 

 

遠坂は俺の左前方にいる。そして、バーサーカーの一撃は振り下ろし。

つまり....俺が突き飛ばせば、代わりの(・・・・)が斬られるだけで遠坂は助かる。

 

 

畜生。迷うな。責任から逃げるな。弱音を吐くな。

今ここでやらなかったら、一生後悔する。ここで遠坂を失えば、俺は俺で無くなっちまう。

 

 

俺は─────

 

 

 

 

 





自己犠牲を厭わない行動で『部品』に近づき
正しい行動を取り続けると『鉄心』に近づきます

丁度良いルートを模索していきましょう。

迷うな!俺は───

  • .....セイバーに、任せる
  • 左腕を犠牲にして、遠坂を助ける
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