Fate/black flash   作:なんか変な色の翼

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ゴリラは俊足。はっきりわかんだね




【分岐】雪の少女(Ⅱ)

 

 

「え?」

「.....下がってろ、遠坂」

 

 

遠坂の間の抜けた声が、静かな住宅街に響く。

 

ああ、不思議だ。あんな化物が目の前にいるってのに、やけに頭がクリアだ。セイバーの時とは違う、嫌な興奮の仕方をしてる。いや、興奮とは違うな。コイツは死にゆく前の覚悟に近いモノかもしれない。

 

 

「腕。その、腕」

「いいから。死ぬって言ったのは遠坂だろ」

 

 

だが好都合だ。さっきまでの状態に比べたら、全然良い。むしろベストポジションだ。肉体的なハンデと精神的なデバフ、どっちを取るかで行ったら前者に決まってんだろ。

 

だから考える必要はない。左腕を見てはいけない。

感覚だけで分かる。こんなの、碌な事になっていない。

 

 

遠坂を突き飛ばし、伸びきった腕にバーサーカーの一撃を受けたのだ。とっさに腕を回して威力を落とそうとしたが、時すでに遅し。むしろ二重三重にスクリューのように左腕が回転し、不格好な飴細工のようになっている。

 

だが、千切れなかっただけで満足だ。骨が砕けて筋肉が混線しただけだろ。そんなので遠坂が助かったんなら、十分すぎる代償だ。

 

 

「バーサーカー、コイツは────」

■■■■

 

 

言峰の話を思い出す。

 

狂戦士(バーサーカー)。理性を代償として能力値に強化を得たクラス。本来は弱いサーヴァントを強化するために用意されたクソ席も良い所だという。消費魔力も他のクラスの倍以上、今までのバーサーカーのマスターは皆、魔力の枯渇で死んでいったと言う。

 

.....看板に偽りだらけじゃないか。

どこが弱いサーヴァントだ、こりゃ。

 

 

「下がって!」

■■、■■■!!!

 

 

振り上げられた第二撃を、万全の体勢のセイバーが打ち払う。バーサーカーの一撃が稲妻のような光だとすれば、セイバーのは艶やかな月光だ。一句詠めそうな剣戟とは裏腹に、その情景は華やかさとは無縁も良い所で、刃が交差するたびに無骨な金属音が空気を揺らす。

 

 

「ッ────!」

~~~~~~~~~~

 

 

しかし、どちらが劣勢なのかは素人目にも明らかだ。バーサーカーとセイバーでは筋力量に違いが有りすぎる。バーサーカーの大剣を受ける事はできようと、セイバーは受けた剣ごと押し戻されているのだ。これでは互いに二の太刀は放てない。であれば、より強い一撃を放てるバーサーカーに軍配は上がる。

 

まるで猟犬の如く、セイバーを追撃していくバーサーカー。ヤツの最大の長所は筋力値だけではない。この巨獣は、さも当然のようにセイバーを優に上回る敏捷性まで兼ね備えているのだ。知性を殺せどセイバーが反撃できないのも頷ける。ここまで圧倒的なフィジカルの優位が有れば、もはや技術など不要なのだ。

 

 

「つ、う────」

 

 

セイバーの胸から、赤黒い血が滲むのが見えた。

 

ああ畜生、本当に最悪の巡り合わせだ。セイバーは、士郎を殺しに来ていたランサーとも戦ってたはずだ。サーヴァントの活動現界なんて分からないが、バーサーカーよりは疲弊しているはず。それを更に、こんな形で足を引っ張る羽目になるなんて。

 

 

「退いて、虎杖君!"Vier Stil Erschiesung────

「させないよ?」

 

 

遠坂がバーサーカーへと詠唱を開始した一瞬の隙を突き、イリヤの指先から三本の白線が飛来する。だが目視できない速度ではない。空いている右腕に魔力を込めて払い切ると、かち合う度に火花が散った。ランサーの放った魔力の弾にも負けず劣らずの威力だ。

 

 

「へえ、良い反応。十年も調整されてないのに」

「訳が分かんねぇっつーの.....遠坂、撃て!」

「急かすな────EileSalve!!!"(一斉射撃)

 

 

何の魔術かは全く分からないが、幾条もの光弾と光線がバーサーカーへと降り注ぐ。一発一発が重火器並みの破壊力を持つ魔力量の掃射。並大抵の魔術師であれば、これだけで物言わぬ肉塊と化すだろう。

 

だが、英霊の前ではそれすら無意味。バーサーカーの身体には出血どころか、掠り傷すら付いていない。セイバーのように魔術を無効化しているのではなく、肉体が強靭すぎるだけなのだろう。ああ、それだけ(・・)だ。あんまりにも乱暴で理不尽な事実に頭がイカれそうになる。

 

 

どうする。アレにセイバーは勝てない。このままではセイバーは殺され、次は俺たちが殺される。セイバーですら負けるサーヴァントだ、俺でも一分保つか分からない。そもそも時間稼ぎを出来る相手でもないし、二人を逃がすには遅すぎる。ここで玉砕覚悟で殺しきるしかないのだ。

 

 

────これしか、ないのか。

 

 

 

「.....悠仁、何を」

「悪い。ちょっと行ってくる」

 

 

全身の血流が硬直し、逆流するような感覚がする。

 

自分の肉体を、内側から操り人形のように縛り付けられたような違和感。

 

心臓から針金を通され、支配されているのだと認識させられる不快感。

 

だが、それすらも今は心地良い。

 

 

その程度で、今の状況がチャラになるってんなら───!!

 

 

「─────大丈夫だ、いけるッ!!!」

 

 

 

大地を踏み、巨獣へと跳躍する。舗装された道路は容易く踏み割れ、俺の肉体は弾丸のように前方へと射出された。凄い、これがサーヴァント化の影響か。まだ本調子じゃないってのに、遠坂の魔術で強化した時以上のパフォーマンス。単純な速度なら、今までの虎杖悠仁が出せる全力の三倍は出てるだろう。

 

だが、結局は巨人に届きはしない。そう直感が言っている。きっと今からやる事は無駄に終わるし、向こうからすればセコい児戯なのだろう。成功率なんて、1を割って0に小数点とコンマを幾つ付ければいいのかも分からない。

 

 

「.....イカれてる」

 

 

真っ白になった脳に、悲痛な声が届く。

 

それでも、やらなくてはならない。

 

だって俺は、正義の味方(セイギノミカタ)なんだから。

 

 

それ以上の理由は無いし、止まる理由は猶更無い。

 

 

 

 

 

 


 

 

行け。恐れるな。間合いを詰めろ。中途半端な走り方じゃ薙ぎ払われて終わりだ。武器を持ってない俺にとって、セイバーの"終わり"とは訳が違う。俺に再挑戦の権利は無い。今有る全てを捻りだして、アイツにぶちかませ。

 

 

一歩。風に乗り、トップスピードまで加速する。

 

二歩。魔力を込めた蹴りで、更に肉体の限界を超えて直進する。

 

三歩。右足を潰すつもりで跳躍し、自殺覚悟で巨獣へと飛び掛かる!

 

 

 

「止、ま、れぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

!!!!!!!!!!

 

 

 

魔力を惜しみなく使い、セイバーに夢中となっていたバーサーカーの肘先に飛び蹴りを入れる。ああクソッ、マジで固い。何千年とそびえ立ってきた岩山を蹴りつけたような感触だ。それでも物理作用からは逃れられないのか、僅かに剣の切っ先が揺れる。

 

だが、次の瞬間に待っていたのはセイバーを打ち付けていた荒れ狂う暴力の嵐。急いで魔力で眼力を補正し、跳躍で残った慣性をフル活用して射程範囲から逃れる。まるで隕石でも降り注いだのかという振り下ろしが、足首を掠りかけたのを感じた。

 

 

「調子に乗って....バーサーカー、そこのマスターから狙って。そんなヤツは腹から顎まで裂いて血を抜いて、カラカラの干物にして殺しなさい!」

 

 

純度100%の殺意の込められた視線が俺に投げられる。間合い、速度、筋力。その全てが虎杖悠仁を上回った怪物が、ただ殺戮を求めて疾走してくる。防御はマズい、いなしたら腕ごと持っていかれる。

 

 

■■■■■■!!!!!

「クッッ、ソ!どんな肉体(からだ)してやがる───!!」

 

 

腹を割らんとする横薙ぎを、膝を崩して腹這いとなって回避する。台風でも過ぎ去ったかのような暴風が背中越しに感じられた。間違って跳躍を選んでいたら、今頃あそこに血飛沫が乗っていただろう。

 

そのまま四方八方に凶器を回転させ、俺へと向かってくるバーサーカー。それを兎のように醜態を晒しながら、逃げ回るように回避していく。今はいい、誉なんて捨てろ。後ろに下がれているだけでも十分だ。

 

あの巨獣を例えるならブラックホール。光ですら逃げ切ることは不可能。少しでも手を伸ばせば、理不尽な超重力で腕がひしゃげる。そんなモノに生身の人間はマトモに立ち向かえない。だが一つ猶予が有るとするのなら、バーサーカーは本能でしか動けないという事。戦いの直感という観点なら、今まで戦った敵の中で一番マシなはずだ。

 

そうだ。アレは論外な力を持った、常識内の怪物。

それなら、命を賭してぶつかれば、或いは─────!

 

 

~~!!~~!!~~!!

「うおっ!?」

 

 

剣を構える姿勢を見せてからの、唐突な蹴り。間合いの調整が鈍って見当違いな方向へと飛んだ俺の腹に、大木のような黒い足が深々と突き刺さる。その勢いを制御できるはずもなく、俺の身体は住宅街へと吹き飛ばされ、数軒の壁を突き破って漸く止まった。

 

 

「......痛ッ。肋骨逝ってるじゃん」

!!!!!!!!!

「ああそう!関係ないよなぁ、お前には!」

 

 

コイツ、住宅を薙ぎ倒しながら最短で直進してきやがった。左腕による振り下ろしをバク宙で回避し、右腕の大剣による追撃が届かない場所まで逃げる。だが空振りする度に暴風が建物を破壊していき、地面に剣が振れる度に大地が割れる。正しく、災害の擬人化みたいなヤツだ。

 

だが、今はこれでいい。引き付けろ。相手を騙せ。

俺を遊び甲斐の有る草食動物か何かだと勘違いさせて─────

 

 

 

「─────何を?」

■●■!!!!!

 

 

 

宙に浮かぶ俺へと向けて、バーサーカーの腕が「空」を殴る。次の瞬間、空気の砲弾が俺の全身を殴打した。鉄砲水という言葉が有るように、水や空気とて勢いが有れば人を殺せる。それを起こす主が自然ではなく、それをも凌駕する巨人(タイタン)にすげ変わったのだ。まるでダムの放水でも一身に浴びたような衝撃が叩きつけられ、亜音速にも届かんとする速度で背後へとぶっ飛んだ。

 

 

そして、何より驚きなのがコイツだ。

キッショ。なんでそれに追いついて来るんだよ、お前は。

 

 

 

■■■■■■■■■■■■!!!!!

 

 

 

勝利の雄叫びか、トドメの一撃か、

 

それとも俺の断末魔だったのか。

 

理解できぬ言語を聴覚が捉えると共に、

 

視覚は目の前に迫る拳を映し出して────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「もう、この役立たず.....でもいいわ、こっちはギリギリ生きてる」

 

 

 

────あ、れ。ここ、どこだ

 

 

 

「何の魔術も使えないみたいだけど、マスターに選ばれる理由は有ったみたいね。まあ当然よね。そのくらいじゃないと、私も二ホンに来た意味が無いもの」

 

 

 

────だ、れの、声だ

 

 

からだ、が、いたい。せ、ぼね。せぼねが、おれ、た、のか。

 

 

うごかん。ち、っとも、うごか、ない。

 

 

 

「ふふ、大丈夫よ。簡単には死なせてあげないから。貴方にはもっと傷ついてもらって、今までの時間がどれだけ恵まれていたのか教えてあげるんだから」

 

 

 

ましょうめん、からなぐられて、せぼね、せぼねがおれた、のか。

 

 

いや、ちがう。からだ、からだうごかせ。

 

 

しろう。しろう、と、とおさかを、まもらないと。

 

 

うごけ。うごけうごけ、うごけ。それすらできなきゃ、オレ、は────

 

 

 

「あ、ァ──────?」

「.....なにこれ。知らない知らない、知らない!」

 

 

視界が復旧すると、そこには銀色の少女の姿が有った。

俺の頭をそっと抱え、なにやら魔力を流し込んでいる。

 

 

 

────よし、殺すか

 

 

 

すとんと、木から離れたリンゴが落ちるように、そう思う。

肉が跳ねまくった右腕はぎこちなく動き、少女の首を掴んだ。柔らかな頸動脈が心地よい。

 

 

「え.....うゥ.....!やめっ....!」

 

 

もう動けないものと思っていたのか、あっさりと右手の中に首は収まった。

良し。バーサーカーって奴が戻ってくる前に、このまま絞め殺してしまえばいい。

 

 

ギリギリと万力のように力を加えていく。

少女の首の骨が軋み、苦悶の声が強くなり、やがて少しずつ弱まっていく。

 

.....彼女の目から流れた熱い液体が。俺の手に落ちる。

 

 

 

「やめ、て.....!」

 

 

 

聞こえない。聞こえない聞こえない聞こえない。

何も俺は聞いてなどいない。何も俺は感じてなどいない。

 

もし聞こえていたとしても関係ない。俺が同じことを言っても、コイツは俺を殺すだろう。だから、俺もコイツを殺すべきだ。バーサーカーなんて化物がいる限り、俺たちは聖杯戦争に勝てやしない。ここでマスターを殺しておくのがベストな判断だ。

 

 

ああ、自分を庇う言葉が止まらない。

殺人を正当化する囁きばかりが頭の中で流れ続ける。

 

 

でも必要なんだ、セイギのミカタには。

より多くを守るためには、少数の害悪を掃ける必要が有るのは常識だろ。

 

 

決めろ。心に従うのか、信念に従うのか。

 

たとえ、十年の時を矛盾に変えてしまう行動だったとしても。

たとえ、これから一生後悔するような悪行だったとしても。

 

 

 

俺は────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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次回、「存在しない記憶」

【分岐なし・ルート変動】俺は、イリヤを────

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