ルート確定はしなくとも、通れるルートはドンドン少なくなってます。この調子で行きましょう。
令呪。それは、サーヴァントとの契約の証。三度のみ使える絶対強制権であり、強大な鎖。サーヴァントからすれば、自分の命を三個も握られているようなものだ。あまり良い気分はしないだろう。
しかし、それは時としてサーヴァントの起爆剤ともなる。命令と意思、その二つが重なり合う事で、爆発的な魔力による補助となるのだ。大魔術をも可能とする魔力の塊である令呪となれば、格下でも大英雄に打ち勝つほどの効果を発揮する。
「令呪を........ァァァァァア!!!」
では、ここで問題。
サーヴァントを吸収した自分がやれば、どうなるか。
「.....悠仁!それ、大丈夫なのか!?」
「あ、ア───そうだな、大丈夫じゃない!」
結論。"爆発的な魔力"だけが残る。
右腕の中から、バチバチと音を立てながら魔力が溢れ出る。これで励起させただけだというのだから恐ろしい。完全に解放すれば、何が起きるのかは皆目見当がつかない。
魔術の特訓を怠っていたせいだ。こんな魔力を、一度に操作する方法なんて考えたこともない。今にも内部から四散しそうな右腕を、筋肉で無理やり内側に縛り付けるくらいしか───
「───でも、大丈夫だ!絶対何とかする!!」
───悲観的になるな。少なくとも、外側から押さえつけてやれば魔力で自爆するなんて事はない。嘘八百な強がりで自分自身を騙し、それでも足掻こうとする。
嬉しい誤算だ。この異様な状況を見て、ライダーは様子見に回ってる。その証拠に、こんなに隙を晒してるってのに鎖の一本も飛んで来ない。大魔術の詠唱でもしてんのかと勘違いしてるんだろう。
落ち着け。理屈は魔術と同じ。士郎から教わってた事が通じるのだとするのなら、ここから先はイメージ勝負だ。アリの巣穴にポンプを突っ込んだ現状を、打開するような空想を作り上げてやればいい。
俺に必要なのは一体何だろう。ハンドルか、もしくは撃鉄か、それとも無難に安全装置か。射出機かもしれないし、武器の類なのかもしれない。だが残念だ。そんなのを確実に空想できるほど、今は時間がない。
直勘を信じろ。
今、俺に必要なのは───
「来いよ、ライダー!覚悟は出来てんだろ!」
「──────────」
生身の人間から挑発を受けたのがイラついたのか、部屋の四方から鎖が飛来し、俺を締め殺そうとしてくる。その二本は身体を傾けて躱し、残りの二本は壁に蹴り付けて埋め込み、無理やり動きを止める。
だが躱した二本は床に打ち込まれ、カタパルトのように地面と平行に引っ張られる。これは射出機というより加速器。ライダーがコレを引けば、アイツは弾丸のようにブッ飛んでくる。
ならば、此方も全力で迎撃せねばなるまい。
その為には、コレを完成させる必要がある。
「─────令呪、解放」
光の無い独房にも似た部屋を、紅の雷が照らす。
右腕の感覚は無い。強いて言えば、骨と肉と軟骨が全部混ざり混ざってスクランブルエッグになっているような感じがする。膨大な魔力が腕の中をミキサーの刃の如く駆け巡り、神経を侵し尽くしているのだろう。
バチバチと、魔力が空中放電でも起こしたかのように赤い魔力が散る。その度に皮膚に亀裂が入っては、サーヴァントの自動回復により癒えていく。もはや、人間の肉体では収まりきらない量になっているのだろう。これを放出すれば、確実に俺の右腕は吹き飛んでしまう。
ああ、それで良い。
怪物を倒すには、このくらいで丁度良い。
「........貴方は、危険です」
「ああ、そうかよ!」
超高速で射出されたライダーは、構えていた俺を通り過ぎて一瞬で背後を取る。文字通り、瞬きする間というヤツだ。まるで初めからそこにいたのかと思ってしまうほどの速度で、彼女は俺の後ろで凶器を振り上げていた。
マズったな、と心の中で思う。
きっと、彼女も単純な運動神経であれば俺に分が有るのだろう。しかし、驚くべきはその柔軟さだ。人間では考えの付かないような関節の動かし方をしているのか、縦横無尽では言い尽くせない軌道で最短ルートを取ってくる。
だから、彼女の攻撃は確実に俺の急所に当たる。
そして、俺の攻撃は何の意味も無く終わる。
俺が全力で拳を放てば、それは
魔力は人間の生命力に由来する。彼女の攻撃と同時に俺の攻撃が当たったとして、俺が即死してしまえば本命の魔力の一撃は台無しになる。ただ何の効果も持たない拳を一撃放って、終わり。最悪だ、こんなの笑い話にもなりやしない。
「良い夢を。おやすみなさい」
「グッ────ァァァァアアア!!!!」
動きに対応しきれてない俺の脊髄に、彼女が放った釘が突き立った。瞬間、神経系に損傷が入った事で全身の感覚にノイズが入る。思考が鈍り、想像の解像度が下がる。
ああ、これでいい。一撃目はくれてやる。なんなら、俺の命だってくれてやる。それでお前が倒せるなら釣りが余るほど来る。
自分が必要とされていない存在だってのは重々理解している。元々死に損なった命で、生きてるだけで誰かを苦しめて、誰よりも弱いんだ。こんなヤツが生きていて良いわけがない。恥を知れ。こんな命の長所なんて、今まで一つしか見つけたことが無い。
「それ、でも!!!」
「......え?」
「俺が、俺を信じた人を、否定しないように!」
それは、命の全てを簡単に天秤へと乗せられる事。
コレが、俺が為せる唯一の役割。どんなに分の悪い賭けでも、命を対価にすれば1%くらいは勝機を見い出せる。
そして今の仕事は、ここでくたばってでも士郎を助け出す事だ。勿論、俺がここで死んだからって聖杯戦争は終わらない。こんな命のやり取りは何回でも続くし、もしかしたら無関係な人も巻き込んでしまうのかもしれない。
それでも、せめて。
士郎が、遠坂が、藤ねえが、桜が。
俺がいなくなった後に、笑って生きていけるように。
「お前は、ここで、殺す!!!!!」
イメージしたのは、閃光。
俺の100%の打撃に、100%の魔力を乗せられる火花。決して何人をも逃さず、英霊であろうと逃れる事の敵わない光。全てを飲み込み、何もかもを照らして破壊し尽くす、黒い稲妻。
ああ、分かってる。こんなモノは空想の中の空想。夢のまた夢。俺には不相応な幻想だ、こんなのを現実にするなんて、馬鹿げてる。過程も結論も分からない、机上にすら乗せられない空論だ。
だけど、やらなければ。
それでも、為さなければ。
例えその先に待つモノが、地獄の果てだとしても。
俺は、それを張り通すと決めたのだから。
「証明しろ!俺は────正義の味方だ!!」
眩しい闇。黒い閃光が散る音。砕けていく右手。
死んだ神経から伝わる崩壊の感覚と共に、
俺の意識も、深い常闇へと落ちていった。
虎杖は呪物(特に令呪)を食ったり使用したりすると、その度に肉体が高圧の魔力に適応して成長していきます。しかし、使い過ぎると消化が追いつかずに事故ります。気をつけましょう。
次回、「ライオンの怒号」