黒閃後
ゾ「ワシの屋敷が半壊しておる!?」
桜「じゃあ避難しますね」
ゾ「待て桜、調整を.....蟲蔵まで消し飛んでおる!」
ラ「不幸な事故でした」
「────大丈夫だ、泊ってけ。皆は俺が説得する」
『え.....本当に、良いんですか?』
「勿論だ。それに、きっと士郎も喜ぶよ」
.....歯痒い。桜の願いを叶えることはできても、全てを話してしまう事はできない。実の兄がマスターであることも、俺たちが殺し合いの参加者であることも、俺が死ぬことが運命づけられていることも。
全て吐露できれば、どんなに楽になるだろうか。
「でも、早く来いよな。外は寒いし、何より物騒だ」
『そ、そうですね!急いで向かいます!』
ツー、ツー、という虚しいコール音と共に電話は切れた。
.....ダメだ。それはいけない。自分の苦しみを無関係な人に分かってもらおうだなんて、そんな自分勝手な事を考えてはいけない。それは、その人にとって大きな呪いになる。
これは、虎杖悠仁が墓場まで持っていかなければならない物だ。その責任は、誰にも渡してはいけない物だし、望まれても譲ってやれない物なんだ。
「.....そうだ。部屋、準備してやらなきゃな」
ペシぺシと両の頬を打って気合を入れ直す。
これから遠坂や士郎、セイバーにアーチャー。四人を説得しなければならないのだ。先ずは説得しやすそうな士郎から回り、そっから残りを説き伏せよう。一番の鬼門は遠坂だが.....うむ、オールナイトの土下座も視野に入れるとしよう。
彼女が此処にいれるよう、居場所を作ってやらなくては。
桜が来たのは、それから十分も経たない頃であった。
きっと言いつけ通り、真っすぐ急いで来たのだろう。
「お、お邪魔しま.....虎杖先輩、どうしたんですか?」
「気にすんな。ちょっと色々あってな」
士郎を説得するのは簡単だった。そもそも自分が間桐邸に行かなければ、そんな事も無かったのだろうと反省しているようだ。むしろ、俺からも説明させてくれと大魔王遠坂の攻略に立ち会ってくれたくらいである。セイバーも、マスターの判断ならと渋々に承諾。アーチャーはまたしても反応が無かったが、沈黙は肯定と受け取らせてもらった次第だ。
そして、遠坂の説得も案外簡単だった。勢いで押し切ろうとし、その勢いのままキン肉スペシャルをかけられただけである。アレは技術だけではなく、中々の筋力も無ければ出来ない芸当だ。アイツ、絶対寝る前に腕立てと腹筋を欠かしてないだろ。
しかし、やるだけやった後にはため息交じりに了承してくれた。朝方はバチバチやっていたようだが、桜に対してはどこか甘いところが有るようだ。おかげで、俺の関節数本を代償として何事も無く終わってくれそうである。
「あ────桜、来たんだな!」
「先輩.....はい、今日から宜しくお願いしますね」
「出迎えてやれなくてすまん、部屋の準備に行ってたんだ」
居間に戻ると、昔の藤ねえの荷物を運びこんでいた士郎が目に入った。まだ藤ねえが学生時代だったころに入り浸っていた洋室を桜の部屋にすると決めてから、急いで中の物を運び出していたのだ。中には寝間着や下着などの日用品なども有ったので、それはタンスの中にしまったままにしている。
無論、これは桜に必要だと考えたからだ。いくら藤ねえのだろうと直視できず運び出せなかった、などという理由では断じてない。うん、誰がどう言おうと断じてない。
「それで、昔の藤ねえの制服とかが見つかったんだ。デザインは変わってないし、学生時代の藤ねえと身長も同じくらいだから合うと思うんだけど。やっぱお古はダメか?」
「あ、ありがとうございます。色々と買いに行かなきゃいけないと思ってたので、助かります。明日は学校をお休みしようと思ってたくらいですし」
たはは、と頭を抱える素振りを見せる桜。うむ、本当に申し訳ない。聖杯戦争が全部終わったら、士郎に謝っておくように伝えておくように一言口添えしておこう。
「取り敢えず、早く風呂入って荷物を部屋に運んで来い。もう十時も回ってるしな」
「あっ────はい!では、失礼します!」
「部屋は藤ねえの部屋って言えば分かるよな....って、行っちまった」
とてとて、と急ぎ足で廊下を渡っていく桜。あまりこういう事を口には出せないのだが、桜は本当に綺麗になったと思う。いや、綺麗というのは昔からなのだが、最近は特に綺麗になっているというか。遠坂とは別ベクトルで目を焼きに来てるとしか思えない。
いかんいかん、こんなんでは明日からどんな顔をして食卓に着けばいいって言うんだ。あんなんとはいえ、同級生の妹だぞ!?ハリーポッターじゃ有るまいし、現実で同じような事をしたら大惨事も良い所だ。
「つーか、風呂行かせて大丈夫なのか?」
「なんだよ士郎。確かに俺は入ってないけど.....浴槽使わなきゃセーフか?」
「その話し合いは後として、遠坂が入ってるじゃないか。いいのか?」
え?遠坂?え、なんで?
「いや、知らなかったのか?」
「風呂の近くにいなかったし.....え、アイツまだだったの?」
「お前にキン肉スペシャルかけて汗かいたから入るって言ってたぞ」
士郎が言い切る前に、急いで廊下を駆ける。ここから風呂までは遠い、荷物を置いてから行っているなら必ずや間に合うはずだ。漫画ならお約束の男と女のハプニングってのもアレだが、女同士だからと言って許容できる筈もない。住人同士のトラブルは未然に防ぐのが、家主の役目であり────
「.....遅かったか」
風呂に繋がる洗面所の前に、桜の荷物が纏められているのが見えた。どうやら部屋に荷物を置くより前に、俺の言った通りに洗面所に入ってしまったらしい。ここまで来て引き留めるわけにもいくまい。さっさと退散するとしよう。
いや、荷物だけでも部屋に持って行ってやるべきか?
「.....ですから、大丈夫です。出直しますから」
「水臭い事言わないの。いいじゃない、誰も見てないんだから」
「エ?」
風呂場から漏れる声に、ぎくりと身体が固まる。
え、まさかお二人とも、そういうご関係で.....?
「別に、女同士なんだから。そんな事気にしないわよ」
「そ、そ、そうは言っても.....」
「..........OH」
そっと耳を塞ぎ、何も聞かなかったことにして居間へと戻る。そうかそうか、つまり君たちはそういう仲だったんだな。中学の時に習ったエーミール構文を思い出しながら、抜き足差し足で暗い廊下を渡っていく。
「────でも、良かった。桜、遠坂が苦手ってわけじゃないんだ」
あまり話したことが無いとは言っていたが、きっと言葉の通りの意味だったのだろう。そうだ、今までコミュニケーションの機会に恵まれていなかったのなら、これから仲良くなっていけばいい。
どれだけ二人の間に溝が有ろうとも、越えられない事は無いのだから。
最後に俺が風呂に入り終わって、時刻は夜の十二時半。
桜が就寝した事を遠坂に確認して貰った後に、俺たちは作戦会議をすべく居間に再集結した。アーチャーは本調子ではないという事で参加を辞退。朝にひっくり返されたばかりのテーブルを囲みつつ、俺たちは顔を見合わせる。
「─────巡回をすべきだと思うの」
「おう」
「うん」
最初に発言したのは遠坂だった。真っすぐに手を挙げ、異論あるかとばかりに言い切る姿は正に独裁者という感じ。しかも居間のテーブルは横に長く、その長い所で二人か三人ずつ座れるようになっているというのに、遠坂は誕生日席にちゃっかり座っていらっしゃる。
「今の私たちの戦力に関しては不服は無いわ。だから、残る懸念点は情報戦。どれだけサーヴァントが強くても、初見の宝具に対応できるかってのは別問題だからね」
「あー、それは俺が解決するんじゃ無かったか?宝具を使われる前に殺すって話は....」
「別に死にたいなら止めないけど、確実な手を選んだ方がいいでしょ?」
ぬぬ、と口をモゴモゴとさせる。
確かにそう言われると、こちらは何も言い返せないのだが。
「.....遠坂、俺からもいいか」
「なによ、士郎。反対意見でも有るの?」
「そうじゃない。巡回には賛成だが、その言い方だと探りを入れるって感じだよな?それでも、もし町の人たちに危害を加えるような奴がいれば────」
.....士郎の言いたいことは分かる。
言峰から聞いた話に有った。サーヴァントは人間霊で有るが故に、人間霊を食う事で力を蓄える。つまり人を食えば食うほどに強くなるという性質を持っているのだ。しかし、勝利を手にするためにソレを実行に移すような奴がいるとして、正義の味方を目指す士郎が看過するはずもないよな。
「ええ。私も遠坂の人間として、一般人に危害を加える魔術師は放置できない。そういう手合いがいるのなら、一刻も早く対処しなきゃね」
「.....そうか、ありがとう」
対処、というのは脱落させることだろう。その条件は二種で、マスターを殺すかサーヴァントを殺すかだ。後者の方が理想だが、前者の方が圧倒的に難易度は低い。遠坂は可能なら前者を容赦なく選べるのだろうが、士郎は.....いや、分からない事を考えても仕方ないか。
「それじゃ、行きましょうか。効率も考えて二手に分かれるわよ」
「二手に....それじゃ同盟の意味が無くないか?」
「あのね、同盟だとバレた方が良くないの。触発された奴らに結託した方が面倒でしょ?」
うむ、ぐうの音も出ない。確かに残りの陣営が結託しても勝ち目は有ると思っていたが、それは最悪のケースの話だ。各個撃破が最善手だというのなら、それを最初からこなしていけば余計な苦労をせずに済むだろう。
「.....分かった。それで、どう分かれるんだよ」
「決まってるじゃない。それは勿論────────」
「.....成程ね。二人とも正統な後継者じゃなくて、ただの教え子って感じだったの。魔術刻印を二人とも持ってなかったから、なにか不自然だと思ったのよ」
「そりゃな。そもそも、血縁じゃないと引継ぎは難しいとも言ってたような記憶が有るし。俺と士郎は養子だったから、そこら辺も関係あるのではと考察してる」
「あ、それ嘘ね。移植自体は簡単だもの」
「マジで!?」
夜の道を、遠坂に連れられて歩いていく。
結局、士郎とセイバーの主従組と、俺と遠坂のマスター組で調査をする事になった。勿論ながら発案者は遠坂なのだが、口出しすると百倍にして返されそうなので反論はやめておく事にした。セイバーは強いし、別に士郎が危険に晒されるわけでもないからな。
「大マジよ。そんな嘘をついてまで移植を避けられるなんて、どんだけ才能無かったわけ?普通の魔術師なら刻印の継承に躍起になって、魔術回路の強制移植とか培養とか考えそうなものなんだけど」
「切嗣はそこまで外道じゃねぇよ.....そもそも、俺は独学だからな。そういう話を聞くんなら、士郎から聞いた方が早いと思うぞ」
「念のためよ。それにしても魔術師の名簿にも衛宮切嗣なんてのはいなかったし、相当アウトローな人だったのね。魔導の研究をしていてなかったとしても、よく御三家の足元で.....はぁ、新任の私が言っても仕方ないか」
歩き始めてから数分もしない頃だったか。俺と士郎に魔術の心得が有る理由を遠坂が尋ねてきたのが切っ掛けとなり、そこから少々物騒なお喋りへと発展していった。
話を纏めて推理していくに、切嗣は冬木の外からやってきた外来の魔術師だったようだ。それに対して遠坂は、この土地を魔術面で管理する由緒正しい家柄の人間。どのくらい由緒正しいかというと、あの魔術協会がバックについているというレベルである。
「でも、どこに魔術師が住もうと自由じゃないか。問題を起こしたわけじゃないんだし」
「あのね、ここは日本の中でも有数の霊脈の通った場所なの。その人は全然使ってなかったから私も気づけなかったけど、そんな不法滞在者が勝手に来ては使いまわってたら干からびちゃうじゃない。だから、ちゃんと管理する必要があるわけ」
「でも管理って、どうやって?」
「そりゃコレよ」
右手の人差し指と親指を丸めて、マネーのハンドサインを作る遠坂。なるほど、どこの業界であろうと、地獄の沙汰も金次第という言葉は存在しているようである。魔術なのに全然ファンタジーじゃない。夢の国のネズミも血涙を流すであろう。
「それにしても、変わり者ね。貴方のお父さんは」
「ああ、それに関しては同意。ずっと旅してたし」
「そういうんじゃなくて.....魔術師じゃなくて、一人の親だったんだなって」
「んん?」
その言葉を口にした時だけ、遠坂は俺から目を逸らしていた。
不思議だ。あんだけボロカス言われてたのに、揶揄う気にも問い返す気にもなれない。
聖杯戦争を通して少し分かった。魔術師ってのは、きっと普通の人間から心が離れてしまっている。人の理から離れた事を知り、それを探求するために多くの時間を捧げる人生。そんなのを続けていれば、自ずと心も環境に適応してしまうのだ。
魔術師の娘として生まれた遠坂は、どれだけ自分を犠牲にしてきたのだろう。
「────虎杖君、どうかした?」
「.....あっ、悪い悪い」
物思いにふけりすぎた。遠坂に連れられながら、坂道を上がっていく。
今日の巡回は、士郎とセイバーが新都。俺と遠坂が深山町という分配になった。セイバーは深山町にサーヴァントの気配はないとは言っていたが、足元を疎かにはできないので、念には念を入れて調査を行うという事に。そしてサーヴァントを倒した実績が有るとはいえ、安全性を考えてマスター組が深山町を担当する事となった。
「ここは.....遠坂の家?」
「そう。空き巣を狙って誰かが入ってるかもと思ったんだけど。そういうわけでも無かったみたいね」
「おー、成程。頭良いな!」
「予想外れたのに褒めるのはやめて、逆にムカつく」
アテが外れた事に頭を抱えつつも、新たなルートを模索しようと考えこむ遠坂。
しかし、ここまで遠坂に頼り切りというのも良くない。
俺からも、何か案を出さなければ面目が丸潰れだ。
うーん.....そうだな、あそことか怪しくないか?
「なあ、遠坂。提案なんだけど」
「あら、どうしたの?」
「行き先なんだけどさ。俺は────────」
アンケにご協力ください。
それと、日間19位ありがとうございます。
1位になりたいので、高評価もよろしくお願いします(強欲)
俺は────
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柳洞寺が怪しいと思う
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間桐邸が怪しいと思う
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新都が怪しい、士郎と合流しよう