Fate/black flash   作:なんか変な色の翼

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あーあ、踏んじまったか。




【分岐】違和感(Ⅰ)

 

 

「────柳洞寺が、怪しいと思う」

「ふーん?」

 

 

考えに考えた俺のアイデアを、まるで鼻で笑うかのように受け止める遠坂。なんというか、貴様程度の軟弱者が口を開くのかい、っていう姑じみた貫禄と図々しさと傲慢さのミックスジュースみたいな感じだ。慎二とかがやられたら一発でキレると思う。

 

 

「で、その根拠は?」

「お前、俺だって兵法は知ってるんだぞ。陣地は高所に敷くのが基本だろ?それに、残ってる正体不明のサーヴァントはキャスターとアサシン。キャスターは勿論、山の中ならアサシンにとって奇襲に打って付けの場所だろ。拠点にするなら、あそこが第一候補だと思う」

「アンタ、本当に馬鹿ね.....」

 

 

今度はやれやれ、とばかりに両手を広げてため息まで吐く。なんだよ。結構脳みそを使って出した案だってのに、そこまで愚策だってのか。

 

 

「あのね、どこの兵法書を参考にしたのか分からないけど、魔術戦じゃ何の役にも立たないから。それに、あんな所に陣取ろうなんて考えるヤツはいないわよ」

「なんでさ。サーヴァントと人間だと何が違うってんだよ」

「全然違う!向こうが拳銃なら、こっちは輪ゴム一本ってくらい違う!」

 

 

馬鹿、お馬鹿!と夜道に響くような声で叱られた。おい、神秘の隠匿を忘れんじゃない。その程度の事は士郎から受け売りで教えて貰ってんだぞ。今のお前が録画されてたら、バックについてる魔術協会からすごく怒られるんじゃないか?

 

 

「ハァ.....それに最近、物騒な話が流れてるのは知ってるでしょ?アレは確実にサーヴァントの仕業。アサシンにしては手段が回りくどすぎるから、キャスターが下手人ね」

「物騒な事件?ああ、強盗とかの事件はよく聞くけど」

「そう、それ。魔術的な方法で生命力を奪われた一般人は、そういう干渉に耐性が無いから発狂や錯乱を起こしやすいの。喉がカラカラになりすぎて理性が失われた人って例えたら分かりやすいかしら」

「じゃあ、事件の起きた場所の近くに根城が有るって事か?」

「それにしては広域すぎる。だから霊脈を使ってるんでしょうけど、そこは私の家で確保してるしね。さっきだって、知らない内に細工をされてないか確認してたのよ?」

 

 

.....どうやら、俺の数十倍は考えが回っていたようだ。

そりゃそうだ、遠坂は土地管理者。魔術戦において、冬木の中では一二を争う名軍師だろう。

 

 

「まあ良いわよ。行きましょうか、柳洞寺」

「.....マジで?」

「他に行くところも無いからね。あそこは深山と新都の間くらいだけど、このくらいは許容範囲だろうし。それに、外れ前提でも確認しとくのも悪くないでしょ」

 

 

あれだけ言っておきながら、ここで手のひらを返しやがるとは。文句の一つでも言ってやりたいが、このままでは一切の収穫が無いのは事実。

セイバーによる探知が間違っているとも思えないし、どこに行くにせよ索敵の範囲を広げるのは悪くはない選択だろう。

 

 

気分屋のお姫様の足は止まらない。

俺も彼女の従者になったように、小走りで足跡を辿っていった。

 

 

 

 


 

 

 

柳洞寺へと続く石段を登っていく。

 

どこか懐かしいと思っていたが、そういえば一成の家へと通じる道だった。一年前に泊まりに来たことは有ったが、それ以来はバイトだの何だのと忙しくて足が遠のいていたんだっけ。もっと遊びに行っておけばよかったな。

 

 

「.....なにこれ、凄い」

「なんだよ急に。何か見つけたのか、遠坂」

「よく見なきゃ感知できないけど、結界が貼られてる。山門以外を取り囲むような感じで、まるで城壁みたいな感じ。いや、ベールって例えた方がいいのかも」

「マジか。それじゃ、この中に誰かいるのかよ」

 

 

たじろいだ遠坂を守るように、一歩前に立つ。結界となると魔術師の英霊であるキャスターの得意技だろうが、もしかすればアサシンを召喚したマスターによる代物という可能性も捨てきれない。遠坂が集中している間に奇襲されないように、俺は警戒役に徹さねば。

 

 

「それは分からない。この結界の薄さ、元からというより摩耗されて自然と溶け込んでるって感じがするもの。もしかしたら、前の参加者が使った結界が放置されてたのかもしれないし」

「再利用されてる可能性は捨てきれないよな?」

「勿論。だけど、ちょっと厄介ね。恐らく、中に入ってる魔術は"強奪"に近いモノ。山門部分に穴を作って完全性を失わせてる代わりに、魔術の効果自体を底上げしてる。霊体が山門以外から侵入しようとしたら、魔力をごっそり持っていかれるわ」

 

 

そりゃ凄い。霊体にのみ通用し、結界としての完全性を失わせる縛りでサーヴァントにすら通用する魔術を作り上げたのか。セイバーの特性も有るだろうが、今までの戦闘でサーヴァントに人間の魔術が無意味同然だってのは嫌というほど思い知ってる。

この結界の作成者はとんでもない凄腕の魔術師か、はたまたサーヴァント本人かのどちらかだろう。

 

 

「遠坂。解呪はできそうか?」

「無理ね。ここまで神がかってる結界は、私じゃ解呪はできない。アーチャーに壁ごと一気に破壊させるか、気は進まないけどセイバーの対魔力で無理やり相殺するかの二択ってところね」

「なるほど。そのままにした方が良いって事か」

「察しがいいじゃない。学校のに続いて、これで二つ目か.....」

 

 

憎たらし気に壁を見つめる遠坂。確かに、出入口を山門に限られるというのは戦略を大きく絞られてしまう。アーチャーのクラススキルは単独行動であり、マスターからの魔力供給を受けずとも長期間の活動が出来る、全サーヴァントの中でも特殊な能力だ。

つまりマスターとの距離関係による供給のロスエネルギーを無視する事ができ、本来であれば俺たちが攻城しつつもアーチャーだけが裏から奇襲をかける、なんて事も出来た筈なのだ。自分のサーヴァントの強みを潰されて、遠坂も良い気分ではあるまい。

 

それに学校に続いて......んん?

 

 

「遠坂。学校の、ってなんだ?」

「あら、言ってなかったかしら?」

「言ってないし、一ミリも聞いてない」

 

 

.....やはり知将ぶっていたが、遠坂は遠坂だった。うっかりでとんでもない伝達ミスを犯していたな、お前。士郎一人に伝えて、それで話終わった気になってただろ。

 

 

「えーと、学校に結界が張られてるのは知ってる?」

「全然」

「アンタでも感知はしないか.....生命活動の圧迫の術式を刻まれた地形魔術の種が、屋上に植え付けられてるの。ここのとは違って発動はしてないんだけど、スイッチを入れられたら全校生徒がドロドロに溶けて惨死すると思う」

「ハァ!?なんだよそれ!!」

 

 

幾ら何でも酷すぎる。

そんなの、魔術を使ったテロみたいなモノじゃないか。

 

 

「私だって腹が立つわよ。それに、サーヴァントによって植え付けられた種.....要は呪刻からは、魔力は抜けてもソレ自体を消すのは無理。だから、そのサーヴァントを消す必要があるの」

「.....なあ、植え付けたのがライダーだって可能性は?」

「それは明日、学校に行かなきゃ分からない話ね。もし消えてなかったとしても、ライダーと戦ったのは向こうの本拠地でしょ?令呪は奪えたとしてもライダーが生きてる可能性は十分にある。何かしら魔力を補給できる代物が残っていれば、新しいマスターを探せる時間は有るでしょうし」

「うわぁ.....」

 

 

それじゃ、ライダーを倒したのは無駄足かもしれないのか。

 

いや、そんな事より学校の結界だ。さっきも聞いた通り、一般人は魔術による干渉に弱い。耐性の無い薬を身体に打ち込んだらショック症状が出てしまうように、魔術回路を持たない人間は魔術の効果を簡単に受けてしまう。

 

逆に言えば、魔術回路さえ持っていれば魔術をかけられても効き目は薄い。その学校の結界というのは、個人ではなく学校にいる人間全員を対象としたテロまがいの代物だ。そこまで対象を広げては、中にいるサーヴァントはおろかマスターにすら効き目が出るかも分からない。

 

だとすると、そいつの狙いは────

 

 

「他に手段は無いのか?アーチャー達でも.....」

「キャスターでもなければ無理。そのキャスターの結界なら猶更ね」

「.........」

 

 

サーヴァントは食事を必要としない。食うとすれば、肉ではなく精神や魂だ。

 

彼らは霊基という空の風船の中に、魔力というガスを入れたような代物だ。故に、魂を取り入れれば取り入れるほどに風船はより強固に、頑丈になっていく。

 

人間が肉を食うと成長するように、サーヴァントは魂を喰うと更にタフになっていく。要は、魔力の貯蔵量が増えていくのである。その効率を極めたのが、学校の結界なのだろう。

 

.....いかんいかん。目の前に集中せねば。

 

 

「それで、どうするんだよ。この結界を誰かに利用されても困るだろ」

「そうね。結界である限り起点が有るはず。壊せなくても、それを見つけたら無力化は出来るかも」

 

 

遠坂が指差したのは、山門から少し離れた塀の上。なるほど、山門に罠が仕掛けられている可能性も考慮して、別の場所から侵入しろってわけか。だが、そこは山門から十メートルくらいしか離れていない。どうせなら、別の側面から侵入すべきではなかろうか。

 

 

「あら、どうしたの?」

「いや、裏から入った方が良いと思う。少し時間はかかるけど、池が有る方の境内から上った方が不意を突けるんじゃないか?攻撃するにしろ調査するにしろ、向こうが予想してない場所から侵入した方が良いだろ」

「.....それもそっか」

 

 

現在時刻は、体幹時間から計測して午前一時。向こうに回って登っていけば、俺たちの足なら三十分も有れば境内の中に入れる筈だ。

 

ふと空を見上げると、冷たい夜風が羊雲を押し流すのが見えた。

朝焼けの光は、まだまだ遠そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

枝をかき分けつつも斜面を登っていく。

裏手の登山道は昔に閉鎖されており、こうして手つかずの状態で放置されているのだ。

 

 

「.....ふう、着いたぞ」

「お疲れ様。ふーん、境内のここら辺に入るのは初めてね」

 

 

前に立って芝刈り機の如く枝葉を避けていたため、服は引っ付き虫だの小枝だの、良く分からんのが沢山取り付いてる。こりゃ帰ったら二、三回はたいて洗濯機に直行だな。

 

 

「それで、遠坂。起点は見つかりそうか?」

「そうね。池の中に.....いや、これは────」

「.....遠坂、どうした?」

 

 

自然と、池の中へと視線が移る。

 

昼間に見れば人の手の入っていない、どこか神秘的な空気さえ醸し出す池。確かウチの生徒がこの池を描いた風景画が、どこぞのコンクールで優勝したという話も聞いたような気がする。

だが、闇の中ではまた違った印象が与えられる。澄み切った水は墨汁のように真っ黒で、水底の景色は全く見えない。

 

 

「.....凄い魔力。なによアレ、なんであんなのが────?」

「おい遠坂、聞いてんのかって!何が見えてんだ!?」」

 

 

池の中を覗き込むように視線を落とす。しかし、魔力を感知する事のできない俺からすれば、ただの池にしか見えない。夜風で波が立ち、月明かりがキラキラと反射して鬱陶しい。そこに星の光が五つ、まるで流れるように煌めいて────?

 

 

 

 

「遠坂、伏せ......!?」

 

 

反射的に、遠坂の身体を地面に叩きつける。結構良い音を立てたのを聞いたのも束の間。俺の額、両目、喉笛、肺の真上へと凶器が飛来してきた。

 

スピードはそこまで速くはない。しかし頭部は首を回して回避できるものの、腕一本で胴体を守り切れるわけもなく。右肺を狙った暗器は掴み取れたが、無防備な発声中の喉笛に深々とソレは突き立った。

 

 

「────────!!」

「ちょっと、何を......ッ、次のが来てる!!」

 

 

状況を一瞬で飲み込んだ遠坂が、第二波の襲来を警告する。手に取った暗器を片手に、殺気が向けられた方角を視認すると、はるか彼方から飛来した無数の投擲短剣(ダーク)が、風を切る音を奏でていた。

 

 

「援護、頼む!!!」

「黙ってて────Fixierung(目標検知)EileSalve(一斉掃射)!!!

 

 

遠坂の手により、同じく無数の弾丸が放たれる。向こうがクラスター弾なら、こっちは対空射撃だ。まるで雨雲を逆さまにしたような高速連射が、次々と短剣を弾き落としていく。

 

迸る魔力に照らされる境内。日の目の見えない真夜中だというのに、そこだけ正午の太陽が昇ったかのように明るい。一発一発が照明弾のような光源となっている魔力の塊が、何十発も空中に放出されているのだから当たり前だ。

 

そして、あまりの眩しさに目を背けた瞬間。俺の側面にある深い茂みの中にうっすらと。白い髑髏の面が見えた気がした。

 

 

「────そこ!!!」

「キ.....キキキキキキキキキ!?」

 

 

魔力で視覚を強化し、フルスイングで短剣を茂みの中へと投擲する。まさか気配を察知されると思ってもいなかったのか、俺の投げた短剣は白い面へと吸い込まれるように的中した。

 

 

「見つけたぞ!白い仮面に、えっと.....」

「目を離さないで!ソイツはアサシンのサーヴァント、気を抜いたら気配遮断で雲隠れされるわよ!遮蔽物の多いここじゃダメ、場所を移して───きゃっ!?」

「遠坂ッ!?」

 

 

遠坂の予想に反し、アサシンのサーヴァントは逃げる事なく遠坂へと飛びかかってきた。ああ、そりゃそうだ。向こうから見れば、マスターが二人も狩場に迷い込んできたようなもの。襲わない理由を探す方が難しい。

 

だが、速さもそこそこだ。ランサーの一撃に比べたら、その太刀筋のキレは二級くらいは劣ってる。

 

 

「離せ、テメェ────!!」

「キキッ、キキッ!!」

 

 

横っ腹を殴りつけると、虫が羽を擦り合わせるような音を立てつつ池の中へと着水し、水切りの石のように数回跳ねてから、四本の手足をアメンボのように伸ばして水面を這った。なんの魔力も感じないのを見るに、どうやら素の技術で水上に立っているらしい。

 

血の混じった唾を飲み込み、ヒビの入った白い面に視線を向ける。面には紐の代わりに肋骨のような形の釘が有り、それで顔面の皮膚に直接固定されている。全く、悪趣味極まりない。

 

 

そして、お互い睨み合って十数秒が経過。

先に口を開いたのはアサシンだった。

 

 

「───なに、誇れるようなモノではない。砂漠を行く者には必要な技よ。流れる砂に溺れぬようにする足捌きも、水に沈まぬように這うのとさして変わらぬ」

「.....驚いたよ。喋れんのか、お前」

「それは此方の台詞だ。何故、器が遠坂の人間に手を貸している。決して相容れぬ者同士の筈だと記憶しているが」

 

 

辺りをチラリと見ると、先程の遠坂の対空砲火のおかげで、地面に大量の暗器が散乱しているのが見えた。武装に困る事はない。さっきの太刀筋を見るに、刃物との打ち合いに負けるって事も考えづらい。

 

 

「さあな、そもそも器って誰だよ。俺にはちゃんと、虎杖悠仁って名前が有るんだ。そっちで呼んでくれねーかな?」

「呼ばん。私と同じ身だ、役割(クラス)で呼ぶのが道理だろう」

「もっと意味が分からん。俺の何を知ってんだ」

 

 

困るとすれば、コイツが俺が"宿儺の器"だと知ってる事。教会から漏れた情報なのか、はたまた何処ぞでバレたのか。これ以上コイツに余計なことを喋らせたくはない。

 

それに加えて、コイツはアサシンのサーヴァント。放っておけば、どんなしっぺ返しを喰らうかは分かったものじゃないのだ。クソッ、やっぱり新都の方に向かうべきだったよな。

 

 

「どうした、来ないのか。ならば私から殺しに行くが」

「..........遠坂、どうする?」

「いけるなら、倒して。貴方の判断に任せる」

 

 

ヤツは池の中心にいる。今の俺なら一度の跳躍で向こうまで辿り着けるし、水底を蹴れば地上へと戻って来られる。水中の戦闘には支障は無いだろう。

 

だが、その間は遠坂が無防備になる。もしも余りのキャスターと組まれていたら遠坂が危険にさらされるし、なによりマスターが姿を見せていない。決着を付けるなら、即断即決が求められるだろう。

 

 

考えろ、考えろ。相手は悠長に待ってくれやしない。

 

俺が今できる、最善の行動は─────

 

 

 

 

 





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今できる、最善の行動は───

  • 遠坂とアサシンを倒す
  • 遠坂を連れて逃げる
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