流石に死亡ルートは踏まなかったか。
HF履修済がこんなに多いとは恐れ入るぞ。
あ、一日に二回投稿したので日曜は寝ます(覚悟)
「..........」
「いいだろう。では、殺すぞ」
チャキリ、と短剣を構えるアサシン。一体どこから補充しているのやら。遠坂によって既に四十は落とされているというのに、まだ暗器は尽きる気配が無い。あのボロ切れのようなマントは収納に長けた装備だったのか、それとも魔力を使い果たさない限り作り続けられるのか。
だが、あの刃はそこまで怖くはない。接近戦の腕前は投擲以外は二流と見ていい。そして投擲も、力任せに相手の手足をもぎ取るものではなく急所を穿つような暗殺者らしい攻撃手段。それを弁えて行動すれば、俺単体でも宝具を使われなければ勝負にはなる。
────だからこそ、怪しい。
コイツが俺の事を知っているなら、猶更挑んできた意味が分からん。
奴には俺を殺しきれると確信できる、必勝の術が有るはずだ。
「遠坂、逃げるぞ!」
「────分かった!!」
左腕で遠坂を抱え、来た道を引き返すように森の中へとダイブする。アサシンを殺し切るのは不安が有るが、撤退の難易度は幾分容易だと見てもいい。この山の中腹まで来れば、寺に張られた結界が有る。アサシンとてサーヴァント、対魔力でも無ければ強行突破は考えまい。
「させると思うか、器。オマエは此処で殺す!」
「うおっ!?」
舞い落ちる木の葉に紛れ、漆黒の短剣が飛来する。
一本目は気づけた、右腕でキャッチする。
二本目と三本目も対応は可能だ、短剣で弾き飛ばす。
四本目と五本目は少し厳しい。跳躍して躱す。
だが、六本目と七本目と八本目と九本目と────
────この三十の短剣はどう受けろと?
「グッ.....ハアァッ......!!」
「────虎杖君!?」
遠坂を胸に抱きかかえ、背中で全て庇いきる。一本一本は大した事はない、ライダーの釘が脊髄を割りかけた時の方がダメージは激しいだろう。ただそれが散弾銃のように大量発射されたのが問題だ。今の俺の背中は、まるで針鼠のように歪な形になってるだろう。
体勢を崩しつつも、空中を蹴って更に前へと進む。一気に前進した風圧で背中の短剣は粗方抜けた。この程度の痛みでは止まっていられない、アイツは腕の一振りで
「こっちは気にしないでって!
「ああ、援護どうも!いいから結界を抜けるぞ!!」
足に魔力の光が灯り、より動きが加速される。今の疾走の速度なら、恐らくは残りの百メートルと少しを五秒以内に走り抜けられるだろう。だが、それはあくまで直線ルートの話。それをアサシンが許す筈もない。
「しつこいぞ、テメェ!!」
「ギギ────キィィッ!!!」
先回りをしていたアサシンが、前方から落下するように体当たりを仕掛けてくる。それを短剣で受けると、お互いの加速度がゼロまで落ちた衝撃によって刀身にヒビが入るのが見えた。
しかし、見れば見るほどに奇怪なサーヴァントだ。黒い身体に、何より怪しいのは包帯で封じられている右腕だ。俺が遠坂を抱えながらでも戦闘が成り立っているのは、アイツが片腕で戦っていることに他ならない。元々隻腕なのか、それとも何かタチが悪いモノを隠しているのか。
いや、答え合わせを待つ気はない。強行突破で行かせて貰う。
「いい加減、退けっつーの.....!!」
「断る。オマエの方こそ、役割を全うしろ!」
「うるせぇ、初対面で何言ってんだ!!」
足払いを放つも、アサシンの下段蹴りで阻止される。右腕で斬りかかれど、向こうの左腕に携えた短剣で弾かれる。まるで鏡を相手にしているようだ。コンマ一秒の遅れも無く、完全に俺の動きをコピーしてやがる。
それに、何かがおかしい。殺気は感じるのに、向こうから俺を仕留めようという気概を全く感じない。のらりくらりと俺の進路を妨害するだけで、まるで時間稼ぎをしているようだ。何か援軍でも待っているかのような、追う側には似合わない逃げの構えをしている。
「コイツ、何か様子が.....遠坂、決めに行くぞ!!」
「ええ、分かってる!!」
遠坂を
それを隙と見たヤツは、俺へと飛び掛かり────
「小賢しい真似を.....グォッ!?」
「
「────いけるッ!!!」
それは、正しく爆撃だった。遠坂が投げた宝石は、高さ三メートルを超える巨大な氷塊となってアサシンの身体を押し潰しつつ固定する。英霊とて筋力の限界は存在する。特殊な逸話や伝承が存在しない限り、アサシンでは城投げはおろか、家投げすら厳しいだろう。
拳を肩ごと沈め、"殴る"のに最も適した構えを取る。今のコイツは隙だらけどころか、都合の良いサンドバッグだ。これなら入る。あの時の感覚が蘇る。全力の打撃に、全力の魔力。今の俺なら、令呪を使わずとも叩き込める。
ああ、もう一度アレを決めたい!
一歩ずつ着実に、魔力の核心に近づいている気がする!
理論も理屈も何もかもが分からないが、これは俺の技だ。なら、名付けてやろうじゃないか。この一撃の名は────!!
「待て、器!!オマエのそれは────!!!」
「黒閃!!!!!」
氷塊が黒い閃光が乱反射し、アサシンの肉体を巻き込んで砕け散った。打撃によって出血したのを見るに、ヤツの肋骨が数本ほど曲がって、肺を裂きつつ肉を突き破ったのだろう。そのまま抵抗を許さず、右と左のボディスローを胴体へと打ち込む。
ここまで追い詰めれば、向こうも必死になる。きっと宝具の使用すら厭わないだろう。だが、宝具の使用には真名の解放と魔力のタメで二つの隙が生まれる筈だ。このまま
「グォオ.....ッ!ナナ、ナ、めるな────!!」
「よそ見!!」
急降下してきた遠坂の膝蹴りが、俺へと向けられた左腕の肘にクリーンヒットする。そして空中で一回転し、惚れ惚れするような回転脚をアサシンの後頭部にお見舞いした。
さっきの肉体強化は、どうやら俺だけではなく彼女自身にも付与していたらしい。蹴りが決まると同時に、鉄パイプでコンクリを殴ったような衝撃音が、森の中に木霊する。
逃げるのは止めだ、叩くには今が絶好の好機。
ここで殺し切って、後顧の憂いを断つ!!
「サンキュー、遠坂!このまま仕留めるぞ!」
「言われなくても、分かってるっちゅーの!!」
「待────────」
待て、と言おうとしたであろう口に、遠坂の寸勁が打ち込まれた。これは後から知った話だが、彼女の肉体強化には十年も魔力を溜め込んだ宝石を使っていたそうだ。その効果は正しくAランクの魔術に相当し、サーヴァントにすら攻撃の通る一撃を繰り出せるようになるらしい。
今のアサシンは死に体だ。俺たちを深追いするあまり、胴体に黒閃を一発貰って体幹がグチャグチャになっている。肺と呼吸器系はプレスされて壊死寸前。左腕は肩の肉ごとデロリと力無く落ち、意識が朦朧としているのか視線の方向は虚ろになっている。
「殺す──────!!!」
「ぶっ飛べッ────!!!」
咆哮と共に、遠坂と共にアサシンの処刑を始める。
頭蓋骨を叩き割らんと右腕をぶち込んだ直後、遠坂の旋脚がアサシンの両膝を裂き折りにかかる。後ろに回り込んでエルボーを首筋へと入れると、倒れこんだ身体に肘打ちが深々と突き刺さる。足掻こうと持ち上げられた左腕を固めれば、アサシンの顎へと遠坂の上段回し蹴りが的中する。
バキバキと骨を鳴らしていた打撃音は、やがて肉をすり潰すような汚い音へと変貌していく。もはや折れるだけの体積を残した骨が無くなったのか、全身が脱力してゴム人形のような殴り心地になっていった。
コイツの残りの体力は後僅かだ。攻撃を一時中断し、もう一度拳を構える。
黒閃をもう一発ぶち当ててやれ。
もうコイツは────
「ガ.......アアアアアアアァァァァア!!!」
断末魔と呼ぶに相応しい絶叫が響き、アサシンの肉体に一瞬だけ力が戻る。それは何らかの魔術行使だったのか、それとも薬物による感覚遮断だったのか。通常では考えられない関節の動かし方をしたアサシンは大きく跳躍し、芯の砕けた手足を車輪のように回して森の中へと消えていった。
そして、同時に気配が消される。アレだけの傷を負いながらも、血の臭いの一片すら感じ取れなくなった。恐らくは出血を抑えるために、霊体となって気配遮断の能力を使用したのだろう。これでは、索敵の能力を持つ英霊でもなければ発見は困難だ。
「逃がすかってーの!
「遠坂、ダメだ。霊体化されてる」
「..........そう」
悔し気に腕を下ろす遠坂。そりゃそうだ、あそこまで追い込めてたのに、俺のやらかしで取り逃してしまったのだから。サーヴァントは人間よりも早く傷が回復する。あの時のアーチャーより重傷とはいえ、三日四日もあれば全快するだろう。
「悪い、俺のミスだ。確実に殺すなら、あのまま痛めつけるべきだった」
「別に良いわよ。虎杖君がいなかったら、ここまで攻勢には出られなかったし」
遠坂の声には、徒労感にもやるせなさにも似た感情が満ちている。地面に落ちた彼女の宝石には、もう毛ほども魔力が残っていない。きっとアレは虎の子、非常時以外は使わないようにしていた消耗品なのだろう。もし俺がアーチャーと同じくらい強ければ、殺し切れていたかもしれないのに。
「撤退が目的だったんだから、収穫はちゃんと有ったわよ。貴方の実力も十分に確認できたんだし、それだけでも上々だと思わない?」
「.....ああ、そうだな」
「だから、そんなに落ち込まないの。次はアーチャーかセイバーと────」
「は?」
気配は池が有った方角からだ。
まるで、三日三晩餌を抜いた猛獣が、飼い主に対して牙を剝くような。
何年も地下に眠っていた蝉が、殻を脱ぎ捨てて産声を上げるような。
殺し殺され、瓶の中で蠢いていた蟲の最後の一匹が、初めて外気を浴びたような。
異様な殺気がズン、と。俺の腹の底を揺らした。
だが、何故だろう。この殺気、この気配、この絶望
これを、どこか懐かしいとすら思ってしまうのは。
「...............逃げるぞ」
遠坂を抱きかかえ、全速力で山を下りる。なにか言っているようだが、呼吸の音が煩すぎて鼓膜まで届かない。届いたとして、パニックを引き起こした脳が情報を解読してくれやしない。
走る、走る、兎に角走る。夜の闇が、後ろから湧き立つナニカによって黒く塗り潰されていくような幻覚に侵されながら、一心不乱に斜面を駆け下りていく。まるで空間が歪み、後ろに引っ張られているようだ。全力で走っているのに、思ったように足が進まない。
アレを拒絶し、逃げようと必死なのに。何故、なぜ、何故に、どうして?限りない数の疑問符が脳内を占拠する。子供のように現実から目を逸らし、必死に走る。走って走って、足を前に動かすことを繰り返して。
「あっ」
気が付けば、遠坂を放り投げていた。
悪意が有ったわけじゃない。
俺の僅かに残った理性がそうしただけだ。
ああ、なんて馬鹿をしたものだ。
影は地面を伝っていくんだから。
子供でも知っている常識だ。
アサシンのように飛べばいいものを。
俺の足は、もうアレに巻き込まれて、もう、
身体が朽ちる 肉は腐り、蛆虫が湧いて蠅へと成長する
抱きしめるように、慈しむように巻き付いてくる黒い布。ソレはまるで聖母のようであり、触れられる事に地獄のような痛みが走る。
身体はどこまでも落ちていく。果ての無い闇へと落ちていく。そのくせ、底に有るのが黒い軟泥だという事を俺は知っている。
憎悪が満ちる 己の信念すら嫌悪の対象になる
俺という存在が、消えていく。どこまでも続く悪意が、俺を薄めていく。
虎杖悠仁が失われるのは、これで二回目だ。きっと一回目のような半端なモノではない。
きっと今度は、二度と戻ってこれない闇の中へと堕ちていく。
不思議だ。此処にいると、酷く安心する。ここが贖罪の果てなのだと。
自分に相応しい末路なのだと、それでも自分を肯定できる自分の異常さに驚かされる。
最期に、名残惜しむように
あの日のように、自分を嘲笑しながら、空っぽの腕を空っぽの期待で動かした。
届かない。掴めない。闇に包まれた手は、ゆっくりと落ちていく。
そして、地面に倒れた手が泥の中に飲まれそうになった、その瞬間。
優しい両腕が、抱き上げるように水底に手を突っ込んで、俺を引き上げた。
後書きで出張版タイガー道場しようかな.....
色んなところを解説していきたい。
呪「敗因......慢心、ですかね」
(結界の外に出られるのを焦って、奇襲するのを躊躇ってタイマン始めたのが敗因。宝具使ったら勝ってた)
次回、「雪の少女(Ⅲ)」
後書き!
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出張版タイガー道場!
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作者自筆の怪文書!
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いいから早く次の話書けや