ゲロ(インタールード)から始まる異世界生活。
「────ふむ、これで七人目。骨は粗方治ったか」
新都に位置する、とある荒廃した施設にて。
巨大な砂虫が、コロコロと音を立てながら人間の骨を
心臓周りの肋骨を嚙み砕き、刃を用いて肉を斬り臓腑を摘出する。
要らぬと判断した肉塊は、隊列を作った小さな羽虫に与える。
異様な食事風景が、事務的に、淡々と進められていく。その惨劇の主である砂虫────アサシンは、仮面の下を地に濡らしながらため息を吐いた。
「しかし、ここまで都合が利くとは思わなかった。我が必要なのは魂だけだが、魔術師殿が必要なのは肉体だ。食う部分が違うとなれば、手間が省けて此方としてもありがたい」
どこまでも続く影の中で、灯篭のように白い仮面が浮かんでいる。その面の顔は、薄っぺらな髑髏。それも当然だ、この仮面は人間の頭骨で作られている。哀れな素材提供主の顔面の凹凸が、そのまま彼を象徴する紋様と化しているのだ。
「|譌ゥ縺乗イサ縺帙h縲り恭髴翫↓莉倥¢繧峨l縺溷す縺ァ繧ゅ↑縺?□繧阪≧《早く治せよ。英霊に付けられた傷でもないだろう》」
「委細承知。これでも暗殺者の身、足と
遠坂凛の予想は正しかった。アサシンは致命傷を負い、三日は活動できないというのは正しい計算だ。むしろ完治させるのならば五日は必要な重傷、余裕を持った見立てだと言っても良い。
しかし、それはサーヴァントの自動回復で見立てた推算。アサシンは歪な英霊であり、自動回復の機能を保有していない。だからこうして人間の魂を喰らい、魔力を魂ごと獲得する事によって身体を治癒しているのだ。
英霊と人間の魂には大きく差が有れども、人間一人をリソースに充てるという凶行が効率的で無い筈もない。全身の骨を砕いたはずのアサシンは直立が可能なまでに復活し、じきに持ち前の
「しかし、魔術師殿。アレで本当に良いのか?」
「
「アレは人間.....いや、英霊でも相当なモノでなければ手を付けられるモノではない。あの黒い閃光、自らの身で受けたからこそ分かる。アレの正体はロクな物では無い。私の右腕と同等か、それを超える忌み物だ」
「
蟲の大群が、牙と羽を擦り合わせる音でアサシンに答える。
当然、ただの蟲ではない。"人間が"寄生した蟲である。
肉体にある遺伝子情報を失った生物は、
「解せぬ。アレは泥に沈めるべきではない」
「
「違う、これは諫言だ。魔術師殿が欲するのは、アレの中身ではなく器としての機能だろう。わざわざ裏返しにして大厄を世に解き放つ必要はあるまいて」
行動と矛盾した諫言を口にするアサシン。
しかし、彼自身の信念には適った言葉だ。彼は今を生きる者を殺し、必要となれば喰らうが、それは一つの手段としてだ。決して殺すこと自体が目的にすり替わる事はない。
だからこそ、彼の主人の行動が理解できなかった。あの少年に苦痛を与えるだけの行動を取る意味が、効率主義のアサシンには分からなかったのだ。
「─────必要だからだ」
「必要?」
「然り、儂に必要な力は二つ。魂を強く保つ外法に、それを容れる不朽の器だ。聖杯を手にする事が出来れば遠回りをする必要はないが、今回の聖杯は不完全。保険をかけておいて損はない」
蟲が集い、人の頭部を作り上げていく。そこから発せられたのは、地獄の窯の中から聞こえてくるような老人の声。遠くから聞けばうめき声にも似た発声器官を携えたソレは、僅かな憤りを携えてアサシンに語り掛ける。
「しかし、そうなると邪魔になるモノが有る。儂が欲するのはあの小童の肉体だけであって、魂まで欲しいのではない。この老いぼれの腐敗しきった魂であれば、移したところで磨り潰されて終いだ」
「.....だから、泥に沈めると?」
「いや、それだけでは足りん。苦痛だけでは折れるのは心のみで、魂までは屈服させられんのだ。魂を折りたいのであれば、生きる意志を根こそぎ奪ってやらねばならん」
人間を根底から殺す場合、二つの手段が存在する。
一つは、生きる意味を奪う事。その者の願いを破壊し、心の底から絶望させる事である。もう一つは、自分の"死"に納得させる事。生きていたいという願いを、本人に否定させる事。生への意思を放棄させ、物言わぬ死体も同然とする事だ。
「成程、そういう事か。だから孫娘殿を行かせたのだな?」
「そうだ────儂にはあの家が、魂を沈めるための蟲毒に見える」
カッカッと汚い嗤い声が薄暗い部屋に響く。
昼夜を問わずとも、汚物は暗い闇の中に潜むモノなのだろう。
「本腰を入れる。アサシン、"真人"を起こしに行け」
「.....やっぱ、麻痺してんな」
トボトボと、家と繋がる帰路を歩いていく。
喫茶店で時間を潰していたとはいえ、まだ時刻は三時手前といったところ。まだ士郎や遠坂は学校だし、帰ったらさっさと障子を張り替えて証拠を隠滅しなければ。
「にしても、どうなってんだ。俺の身体は」
んべ、とベロを引っ張り出してみる。こちらの麻痺はすっかり完治してしまったのか、冬の外気で唾液が凍りつきそうになるのが感じられた。さっきのコーヒーの味がした所で違和感はしていたが、ライダーの時の反動がもう治ってるとは思わなかった。
明らかに、前よりも再生速度が上がっている。内出血などの流血を伴わない怪我であれば、プラグをコンセントに繋ぐような感覚で治してしまえるだろう。喉笛の傷は痕も残っておらず、魚の小骨でも突き立ったような違和感すら、一時間も有れば新陳代謝だけで取り払われると勘が言っている。
「じゃあ、もう一眠りしたら麻痺も取れるかな.....っと」
玄関の鍵を開け、我が家の空気を肺が満タンになるまで吸いこむ。アロマに似た香りが心地よい。玄関用の芳香剤を使った覚えはないのだが、桜か遠坂あたりが買ってきたのだろうか.....
「お帰りなさい。私が言う事ではないかもしれませんが、他人の臭いを嗅ぐ癖が有るなら早急に直した方が良いかと。人間としての信用問題に繋がりますので」
「......ごめん、事故なんだ。マジでごめん」
.....セイバーが玄関で待っていたからだったか。
まさか、俺が帰ってくるまでずっと玄関で待ってたのか?
「なあ、セイバー。いつ頃から玄関で待ってたんだ?」
「そう長くはありません。確か、二時ごろに粗方ですが掃除が終わりましたので。そろそろ帰ってくる頃かと思って玄関で待機をしていました」
「ああ、ごめん。ちょっと昼飯も兼ねて行ってたから」
「構いません。ですが、三時を超えても戻らなかった場合は捜索に行こうかと思っていましたので。次回からは一声かけてから外出するようにお願いします」
淡々と業務報告をするような口調で言い聞かせるセイバー。しかし、どこか口振りには呆れのような感情が混ざっているようにも見えた。これからの態度で挽回していくしかないだろう。
だが、イリヤと会ったことは黙っていることにした。本来なら遠坂と士郎を呼び戻してでも伝えるべき事なのだろうが、あの時のイリヤはマスターとしてではなく、一人の少女として会いに来てくれたのだ。生き死にが関わってるのにおかしいという事は分かっていても、それを無下にするのは少し憚られる。
.....いや、こういう言い訳は良くないな。
単純に、あの子を敵だと認めたくない気持ちが有ったのだ。
「あ、セイバー。障子紙買ってきたぞ」
「おお、コレが.....貼り付けの様子を見学しても?」
「大丈夫だぞ。折角だから、ちょっと我流気味だけどやり方は解説するよ」
コクリと頷き、少し浮足立ちながらも奥の間に歩いていくセイバー。
.....そうだ、彼女はセイバーだ。これはあだ名でも本名でもなく、サーヴァントのクラス名なんだ。同じサーヴァントである以上、どちらかが死ななければいけない。その時はきっと、セイバーは彼女自身の願いの為にあの時のように俺を斬り伏せるのだろう。
なら、俺には出来るのだろうか。
聖杯に願いを持たない俺は、彼女を殺せるのだろうか。
「.......そん時にならなきゃ、分かんねぇな」
「ユウジ、何か言いましたか?」
「なんでもない。洗面所からスポンジ取って来るから、待っててくれ」
障子の手入れを終え、昼寝をして目が覚めると夕食時になっていた。
寝ぼけ眼を覚ますために洗面所で顔を洗っていると、ちょうど士郎が浴室に入っていくのが見えた。いつもに比べて早いな、などと聞いてみると、不意打ちで殺されないようにセイバーと鍛錬をしていたという。次は是非とも見学していたいものだ。
「さてさて、今日の夕食当番は────、っと」
「......なによ、馬鹿みたいに立ち尽くしちゃって」
「いや、遠坂も料理出来るんだなって。美味そうじゃん」
今に入ると、香ばしい中華風の香りが漂ってきていた。テーブルを見ると、昨日の買い出しによって冷蔵庫の隅へと追いやられた食材を再利用した一品物が、五目炒めだのニラの卵とじだのと多種多様にワンプレートへと乗せられている。
「ああ、それ私だけじゃなくてね。桜も手伝ってくれたの」
「だから品数が多いのか、納得納得」
「あ、それと伝言ね。藤村先生は残業が有るみたいだから、暫くはウチに来られないんだって。なんでも、弓道部の部長副部長が不在で忙しいのに、運動部の会議にまで呼ばれて大変だそうよ」
美綴が入院して、慎二は聖杯戦争から脱落した筈だ。それで弓道部の上層部がガラ空きだってのは理解できるが、運動部の会議?どっかの部活が、大きめの問題でも起こしたのだろうか?
「まあ、その話は後で。それと配膳前に、テレビを点けといて」
「分かった。それと、セイバーは呼んできた方がいいか?」
「確か士郎の部屋に行ってたような.....。うん、やっぱり呼びに行ってくれない?私が入ってもいいんだけど、あの性格じゃ拗らせそうだからね」
「うわぁ、サディスティック」
テレビのリモコンを操作し、居間を出て士郎の部屋を目指す。ここから土蔵と反対方向へと向かえば直ぐに着くのだが.....中で物音はしない。というか、さっき士郎は浴室にいた筈だ。彼を訪ねたのであれば、別の所を探しに行っているのではなかろうか。
廊下を反対方向へと歩いていく。ここから居間を過ぎたあたりに俺の部屋があり、更に進むと遠坂と桜の部屋が有る。別に、結構距離は有るのでドキドキはしない。しかし俺と遠坂の部屋の間には廊下と壁が一つずつ挟まれているが、セイバーの部屋は士郎の隣だった。サーヴァントとはいえ、年頃の女子が隣の部屋というのは色々大変そうだ。
「あれ、士郎?」
「うわっ!って、驚かすなよ悠仁!」
「驚いたのはコッチだよ。なんでボーっとしてんだ?」
真正面の方向.....浴室のある方から士郎が居間に向かってきた。意識が朦朧としたように視線はおぼつかず、耳元は茹でた蛸のように赤い。どんだけ長風呂をすればこうなるのだろう。
「どうした士郎。顔真っ赤だぞ、風邪引いたか?」
「あー、そのだな。風邪引いたっていうか、百年の冷凍庫も急速解凍というか」
「マジで大丈夫か、病気というより酔っぱらってるような呂律だぞ」
「慌てるな慌てるな。先ずは落ち着いてラジオ体操をだな.....」
どうやら錯乱状態にあるらしい。言い出しっぺにはならないのにノリの良い士郎だが、今日はやけに口が回る。その回転率は正に、ダイエット中のハムスターに与えた回し車にも相当するに違いない。
「あ、そうだ。セイバーを知らないか?ご飯できたから呼ぼうとしたんだけど」
「セイバーは.....その.....」
「どうした、知ってるような口振りだけど。もしかして手洗いか?」
「いや.....浴室!浴室にいる!それじゃ、俺は先に配膳しとくから!」
すったかたー、と逃げるように走り去っていく士郎。いったい何が有ったのだろう。しかし、セイバーは浴室だというのだから出直すほか有るまい。彼女には悪いが、先に夕食を食べさせてもらうとしよう。
「ふぅ、食った食った」
「余韻に浸ってないで、流しに持っていきなさいよ」
「へいへいっと。あ、冷蔵庫にアイス有るんだけど、誰か食べる?」
「あ、私欲しいです。ハーゲンダッツが残ってましたよね?」
「俺も欲しい。スーパーカップのバニラで頼む」
「今は二月よ、アンタら正気!?」
衛宮邸での日常に慣れていない遠坂が何やら叫んでいる。
全く、一年の中で一番アイスが美味いのは夏。二番目は冬だと相場が決まっているだろうが。暖房が効いた部屋の中で食べるアイスは、電気代を無駄にしているような悪魔的な背徳感が有ってたまらないんだぞ。
「んじゃ、俺はガリガリ君っと。セイバーも要るか?」
「はい、私も食べてみたいのですが.....オススメは有りますか?」
「藤ねえが買ってきたのが色々と。まあ、見た方が早いな」
シンクの中に洗い物を入れ終わり、冷凍庫の中をセイバーと一緒に物色する。パック詰めのかき氷に、パピコやメロンシャーベット。練乳アイスというのも捨てがたい。見れば見るほど迷う品々だ。
「興味深い。ところで、このアイスはどうやって食べるのでしょう?」
「どれどれ?」
「はい、このオレンジ色の包みの物です。商品の名前は、ええと.....平仮名とカタカナで、"おっぱいアイス"?」
セイバーがそれを読み上げると、ブーッと士郎が茶を吹き出したのが聞こえた。タイミングがピッタリなのが驚きだが、まさか単語に反応したわけでは無かろう。士郎に限って、そんな小学生みたいなツボが有るなんて事は有るはずがない。
「あー、これね。気になる?」
「はい。"おっぱい"というのは女性の乳房を指す単語だという事は知っていますが、いまいち食べ方が想像できません。中身もゴムで包まれていますし、過剰包装ではないでしょうか?」
「いや、これは赤ちゃんがおっぱいを飲むのを見立てて.....」
また士郎が咳き込む音が聞こえた。さっきのお茶がよほど酷い所に入ったらしい。しかしそれでもゾンビのように這いずって、よろよろと台所の中に侵入してくる。ゾンビ系シューティングゲームなら、真っ先にチュートリアルで試し打ちされてそうな死に体だ。
「ゲホッ....セイバー、恨んでるなら言ってくれ」
「何がでしょう、シロウ。もしかして、シロウもおっぱいアイスを?」
「いや違う!その、風呂場での一件を怒ってるんじゃないかって事だ!」
キョトン、と目を丸にするセイバー。居間にいる桜や遠坂も、なにやら興味あり気に聞き耳を立てているご様子だ。しかし、当の士郎はしまったとばかりに口を閉ざしてしまった。俺も続きが聞きたいというのに。
「セイバー。風呂場での一件って、なんだ?」
「いえ。私が浴室を使おうとした際、シロウが先に入浴していましたので。浴室が空くまで扉の前で待機していたのですが、思いのほかシロウは裸体を見られるのを気にしていたと言いますか」
「あちゃ.....」
そりゃ酷い。士郎からすれば、風呂上がりの油断した瞬間をセイバーに目撃されたというわけだ。士郎も現在進行形で普通の男子高校生なのだ。覚悟の決まった戦士じゃあるまいし、女性に裸を見られたら普通に恥ずかしがるぞ。
「でも、それだと何でセイバーが士郎を恨むんだ?」
「いえ、別に恨んでも怒っても有りませんが。どうやら、私の裸を見たことが気にかかっているようなのです。私は構わないと言ったのですが」
「.....まさか、服を脱いだ状態で待ってたのか?」
「はい。なにか問題でも?」
空気が凍る。かき氷食って頭がキーンときた時よりも、空気が重たくなったというか刺々しくなったというか。具体的には桜と遠坂から、軽蔑と侮蔑と憤怒の混ざった妖気が発せられてるというか。
「衛宮君、凄く良い思いしてるじゃない」
「違うんだ、遠坂。これは────」
「良かったですね、先輩。私とは一回もそういうのは無かったのに」
おどろおどろしいという言葉はこのために有るのだろう。学校では青春の酸いも甘いも見てきたと自負しているが、女性の敵というレッテルを張られる寸前の光景は初めてだ。うむ、勉強になるな。
今にも死にそうなくらい顔面蒼白な士郎にサムズアップをし、ガリガリ君を片手に俺は居間からログアウトする。
悪いな士郎、後は一人で耐え抜いてくれ。
「さてと。こっからどうしようか」
おっぱいアイス事件から一時間が経過。士郎の顔面に平手打ちの痣が出来ていたのを見るに、あそこから士郎は更なる失言をかましてしまったのだろう。しかし話は有耶無耶になったようで、まだ普通に三人は会話していた。微笑ましい限りだな。
だが、ここから寝るまでは、マスターとしての行動時間となる。士郎は遠坂と一緒に魔術の鍛錬をすると言っていたような。今の俺は魔力を使えないが、なにせ独学の身だ。見学させて貰えるなら見ておいた方が良いだろう。それに、夕食のときにテレビを点けてた理由も知りたいし。
それとも、セイバーに頼んで体術の稽古をつけてもらうのも良いかもしれない。過去の英霊から学ぶ戦闘の極意だ、タメにならないはずがない。小手先の魔術も良いが、実践的な訓練をするのであればセイバーに頼むのが一番だろう。なにせ、最優のサーヴァントなのだから。
二択に一択。どちらも外れではあるまい。
ふむ。ここは────────
虎「シッシッシ!ワンツー、ワンツー!」
イ「ユウジ、真人の出番はまだだよ?」
虎「悪いイリヤ、今回のタイガー道場はお休みだ。まだ序盤というのも有って、解説するべきことが余りにも少ない。ついでに言うと、初走だからネタバレし過ぎるのも良くないと思ってな」
イ「はーい。じゃあ、今回はスキップで!今回は強化イベントのアンケートだから、プレイヤーの皆はちゃんと考えて回答していってね!」
(高評価などが有れば、モチベが上がります)
(なにせ、ノベルゲー形式は少し執筆コストが高いので....)
そうだな。今日は────
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遠坂の魔術教室を見に行こう
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セイバーに稽古を付けてもらおう
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今日はお休み。桜と映画を見よう