Fate/black flash   作:なんか変な色の翼

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映画の話はネタバレと言われるかもしれませんが
公式のCMの中で読み取れる情報しか入れておりません
ご安心ください。



【分岐】冬の夜桜

 

 

.....いや、今日は休むって決めたんだ。

桜と一緒に、居間で映画を見よう。

 

TAMAYAから借りた映画の一部はビデオデッキが破損したせいで見れなくなっているが、DVDで見るタイプの映画であれば"あの方法"で見ることが出来る筈だ。俺もこの間まで知らなかったから、説明書を捨てたのを少し後悔してはいるけども。

 

 

「桜.....おーい、桜!」

「はい、どうしました?」

「いや、大した用ではないんだけど。この後、暇か?」

 

 

キョトンとした顔でこちらを見る桜。そういえば、桜はこっちの家に泊まった事がないんだった。それにプライベートな事について聞く機会も無かったし、もしかしたら夜に何か習慣づけた事でも有るのかもしれない。

 

 

「藤ねえがビデオデッキを壊しちゃったけど、DVDならコレを使えば見れるんじゃないかなって。一緒に見ないか?」

「はい、それは是非.....でも虎杖先輩。それは何ですか?」

「PlayStation2。冬休み中に後藤が置き忘れて、そのままになってる」

 

 

ウチの一家は騒がしいのが苦手かと言われたら、案外そうでも無かったりする。連休になったら友達を家に招く事も有るし、泊りで誰かの家に遊びに行くことだってある。士郎だって、慎二に騙されて合コンに連れて行かれた事も有るくらいだ。

 

 

「たしか、ここに差し込んで.....おっ、できた」

「ゲーム機でDVDって再生できるんですね、初めて知りました」

「そうそう。それで、どの映画見る?俺的にお勧めなのは"パイレーツ・オブ・カリビアン"か、"ターミネーター3"かな」

「ええ?ターミネーターって2で終わったはずじゃ.....」

「いやいや、去年に新作が出たんだよ。んじゃ、こっちにすっか」

 

 

ターミネーター3を挿入し、テレビの入力切替ボタンを押す。上映時間は二時間弱。夜が更けるまでの暇つぶしには丁度いい筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ターミネーター。それは、1984年を始めに放映された超有名な映画シリーズ。

 

前作の2のストーリーをかいつまんで説明するなら、人類と機械の戦争を止めるために未来からロボットが送り込まれて、それが戦争を起こしたい側の別の未来から来たロボットと死闘を繰り広げるというもの。その知名度は凄まじく、ラストの親指を立てて溶鉱炉に沈むシーンだけを知っている人も多い筈だ。

 

 

そして、今作のターミネーター3は.....

 

 

 

「凄かったな、色々と」

「..........」

 

 

前作のターミネーター2の設定を引き継いだまま、上手く昇華できた作品だと思う。前作からの時系列的に別のキャストが採用されていたのが気になったり、序盤のシーンで桜と少し気まずくなったりしたが、本場のSFアクション映画を堪能できたので満足である。

 

今作の戦闘シーンも2に劣らず高水準で、強敵に立ち向かうシュワ氏の姿は男が見ても惚れ惚れするような雄大さが溢れるものばかりだった。日本のアクションにはない味が、ここには詰め込まれているのだ。

 

 

「桜、どうだった.....あれ、桜?」

「.....ああっ、すいません!」

「あ、悪い。余韻に浸ってたのか」

 

 

中盤頃から無言だと思っていたら、そんなに集中していたのか。一緒に見た甲斐が有るというものだが、夜も遅いし寝落ちしないかと心配したぞ。九時くらいから見始めたから、今の時刻は十一時ちょうど。健全な高校生なら眠気が入り始める頃合いだ。

 

 

「それはもう、ドキドキの連続というか!今回の敵キャラは女性だっていうのも驚きでしたね。それも超高性能で、いっぱいCGも使われてましたし」

「だな。やっぱ本場は違うよ、日本には日本の良さが有るけど」

「それに、主人公側のロボットをハッキングするシーンとか特に──」

 

 

しみじみと感想を口にしていた桜だが、急に言い淀んでしまった。確かにあのシーンは他のに比べて少しショッキングだったような。もしかしたら、そういう描写が苦手だったのかもしれない。

 

 

「桜、大丈夫か?要るんならお茶持ってくるけど」

「いえ。ちょっと、思う所がありまして」

「思う所.....ね。まあ、元気ならいいんだが」

 

 

ひょいっと、テーブルの上に用意していたコンソメ味のポテトチップスを口に放り込む。やはり家での映画鑑賞にはポテチとコーラは必須だな。しかし桜は最初の二口くらいで手を止めたので、折角のジャンボパックも全然減っていない。

 

 

「虎杖先輩、夜遅くにポテトチップスというのは感心しませんよ」

「ちゃんと歯は磨いてるよ。今のところ歯科検診は全クリなんだけど」

「いえ、そうじゃなくて。女の子に出すのは間違ってると言うか.....」

 

 

成程、深夜のポテトチップスというのは確かに豪快だ。この前も朝にカツ丼というのは胸焼けすると言われたし、軽量で味わえる品にした方が良かったな。

 

次に見るときは、別のお菓子を用意すべきだな。女の子受けするお菓子と言えば.....そうだ、ジェリービーンズとかどうだろうか。

 

 

「では、虎杖先輩。そろそろ私は部屋に戻ります」

「おー、また見ような!」

「はい。是非、また誘ってくださいね」

 

 

どこか引っかかるような笑みを残しつつ、桜は部屋に戻っていった。悲しんでいるような、助けを求めるかのような。

 

なんでもない、いつもと左程変わらない微笑み。

何故かその表情が、俺の瞳に強く焼きついた。

 

 

 

 

 


 

 

桜が寝静まったであろう午前一時。

遠坂の部屋に、続々と俺たちは合流した。

 

順番としては、最初からいた遠坂。次に俺と、それについてきたセイバー。最後に、何故か遠坂から魔術を教えてもらったはずの士郎がフラフラとした足取りで自室からやってきた。

 

 

 

「.....士郎、大丈夫か?」

「だいじょば、ない」

「全然大丈夫じゃないな。そんなにスパルタだったのか?」

「スイッチがどうこうで、遠坂の宝石を飲んで.....うっ!」

 

 

熱にうなされているように胸元を抑える士郎。どんな教育をしたのかは分からんが、これでは巡回は無理だ。おでこの辺りにピタリと手を当ててやると、インフルにでもなったのかってくらいの発熱を感じる。

 

 

「遠坂、何やったんだよ。いくら何でもサドが過ぎるぞ」

「そういう趣味じゃないわよ。ただ、魔術回路を開いただけ」

「回路を、開く?」

「そう。今まで士郎は魔術回路を作ってから魔術を使ってたの。そんなんだと魔術を使う度に命がけだし、そもそも発動まで手間がかかり過ぎる。だから既存の魔術回路を全部オープンして、それの存在を知覚させてるってわけ」

 

 

成程、なんとなく理解できた。

 

一般生活で例えるなら、自前のバッテリーが元々有るのに単一乾電池を買ってきて、それを導線に流し込んでいるような物だったのだ。それなら、元あるモノを使う方法を身体に教え込ませた方が早いに違いない。

 

 

「確認だけど、虎杖君は普通に出来てるわよね?」

「俺は切嗣からは教えて貰わなかったからな。むしろ、俺が間違ってんのかと思ってた」

「だから、魔力の運用は出来ても魔術はからっきしってわけか」

 

 

容赦ない一撃が心に突き立った。

初心者ボーナスで少しはマイルドにならないものだろうか。

 

 

「それと、巡回の件だけど。今日はパスね」

「パスって.....あの影はどうすんだよ」

「"今日は"って言ったでしょ?虎杖君も体調悪いし、士郎は仮眠取らせてコレだからね。アサシンを撤退させたとはいえ、これだと二人とも戦闘の余波で吹っ飛んでいきそうだし」

 

 

まあ、それは確かに。もしバーサーカーあたりと戦闘になれば、今の士郎はセイバーへの魔力供給すら厳しかろう。俺だって魔力を使えなきゃ、あの時と同じような戦い方が出来るとも思えない。

 

 

「まあ、俺は分かったよ。士郎はそれでいいか?」

「.....うん。多分分かった」

「さては聞いてないな。もういいから寝てこい」

 

 

はーい、と朧げな返事をして自室へと帰っていく士郎。足取りがフラフラとしていたので心配になったのだが、セイバーが肩を貸していたのを見て安心した。きっと彼女なら、上手く取り計らってくれるだろう。

 

 

「じゃあ、遠坂。俺もこれで」

「待ちなさいよ。学校の調査、聞かなくていいの?」

「あー。そういや、昨日そんな話をしたような」

「長くなるから、取り敢えず座って。今後の話もしなきゃだし」

 

 

どこから持ち出したのか、洋風のクッションが敷かれた椅子を指差す遠坂。そういや、荷造りをするときにコレを持ち出していたような気もするようなしないような。

 

しかし、気のせいだろうか。やけに遠坂の口振りが真剣というか、どこか悲し気というか.....?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....これで、終わり。なにか質問は?」

「特になし。わざわざ解説も挟んでくれてありがとな」

 

 

遠坂の説明は、だいたい十五分くらいで終わった。

 

 

先ず、学校の結界について。屋上を起点にした結界は消えておらず、ライダーの仕業であれば彼女が生きている可能性が高いという。また、結界は八つを超える支点によって保護されており、セイバーの対魔力を使った力技での破壊は不可能だという事だ。

 

続いて、アーチャーが復調したという話。セイバーに斬られた傷も十分に修復され、次回からの巡回には彼が同行できるようになったそうだ。アーチャーは千里眼のスキルを保有しており、索敵に関しては他の追随を許さない。これなら倍以上の成果を期待できるだろう。

 

 

「それで相談なんだけど。明日は学校、行く?」

「そりゃ行くに決まってんだろ。行かないって選択肢が有るのか?」

「勿論。そもそも、桜がいる間は私たちもマスターとして振舞えないでしょう?だから桜が学校に行ってる間にも士郎は訓練させたいし、私も貴方について良く知らなきゃだし」

 

 

それは確かに。こうしてマスターとしての活動時間が少なくなっているのは否めないし、なにより俺と士郎は経験不足も良い所だ。訓練の時間が取れるってのは良い事なのだろう。

 

学校の探索も終わっているし、わざわざ時限爆弾が備え付けられてる場所に向かうなんて馬鹿げている。そうだ、効率的に考えるのなら家にいるのが正しい選択だろう。

 

 

「だから、私と士郎は学校を休もうかなって思ってる。虎杖君は?」

「そこは強制じゃないんだな」

「あのね、最初から強制はしてないわよ。今日の見回りだって行きたきゃ行ってもいいのよ?骨は拾ってあげるから安心して」

 

 

それは強制というより半ば脅迫では無かろうか。しかし、遠坂の言っていることは正論だ。あの調子の士郎を放っておくわけにもいかないし、俺一人で学校に行って誘拐でもされれば二人に顔向けできやしない。

 

仕方ない、二年連続の皆勤賞は諦めるとしよう。

 

 

「分かった、俺も学校は休むよ」

「決まり。私は明日の午前中に間桐邸に行ってくるから、魔術の訓練は午後だからね」

「あいよ。俺も、明日の予定は決めとかないとな」

 

 

明日やる事と言えば、それこそ修行だろうか。

もしくは遠坂の間桐邸探索の手伝いも良いかもしれない。

 

問題は山積みだが、一つずつ消化すれば、いずれ終わりは来るだろう。

 

どちらにせよ、何か実のある事をするとしよう。

俺は─────

 

 

 

 

 

「─────っつ!!!!!」

「え.....ちょっと、どうしたの?」

 

 

胸の内側が痛む。朝の時と同じだ、まるで不整脈のように、心臓が締め付けられる。

 

しかし、朝の時とはレベルが違う。肋骨が内側から切り裂かれるような痛みだ。

フラリとよろけつつ壁に手を付くと、ゴボッと胃を吐き出すような咳が出た。

 

 

「ゴフッ.....ゲホッ、ゴホッ、ハァ、は、ァ.....」

「ねえ、本当に大丈夫!?」

お前、聞こえているな?

 

 

急激に血流が頭へと昇り、今にも破裂しそうな頭痛が脳を揺らす。

口元を抑えた手を見ると、朝に出したのと同じ色をした血痰が有った。

 

吐血か?いや、違う。喉笛の瘡蓋が剥がれただけだ。きっとそうだ。

 

理性では分かっていても、本能が怯えて嫌な夢想がよぎり始める。

身体の中から斬撃が走り、己の肉体を切り裂いていくような悪夢を幻視する。

 

 

「虎杖君!?ちょっと、なにか返事して!!」

「.....何故替わらん?オマエにはもう令呪は無い筈だが」

 

 

遠坂が背中を擦ってくれているのを感じる。優しく柔らかな手が、何度も俺の背中を撫でつけている。だけど、今はダメだ。今はいけない。今近づかれると、どうしてもオマエを殺したくなる。

 

 

「だ、いじょうぶ。遠坂、自分で歩ける、から」

「大丈夫なわけないでしょ!ちょっと横になって、早く!」

「構うな、って、かまうな、マジで、離れろ、はなれ.....ッ!」

 

 

遠坂と目が合い、心臓が跳ね上がる。

 

 

ああ、どこかで感じたと思ったんだ。コレは間桐邸での飢餓状態のソレだ。まるで赤外線で透視でもしているかのように、彼女の心臓に眠る魔力を感知する。美味そうだと素直な感想が浮かんだ。

左腕に備え付けられた魔術刻印に、全身に広がる魔術回路。それは魔術師としては一級品なのだろう。全てを腹に入れ、彼女と一つになりたい。

 

犯したい(殺したい)侵したい(殺したい)穢したい(殺したい)喰らいたい(殺したい)

 

頭の中で殺意を帯びた色欲と情欲と食欲が暴走し、激情の濁流が良心の呵責を滅茶苦茶にしていく。今までに感じた事の無い純粋な悪意が、俺の中を満たしていく。喉がゴロゴロと鳴り、乾いた喉を血肉で潤せと叫んでいる。

 

 

そうか。失敗した。あの時、令呪を使ったからだ。

 

令呪とは、サーヴァントに対する絶対的な命令権。

命令する限りは、サーヴァントには意思が無ければならない。

 

だから、起こしてしまったのだ。呼んではいけない何かが起き、俺の中で癌のように成長し、あの泥に触れて、完全に覚醒してしまったのだ。

 

 

 

良いから身体を寄こせ。俺を待たせるな

「うるさい.....黙れ黙れ黙れ、黙れっつってんだろ!!!」

 

 

 

頭の中のノイズを振り払うために、喉の骨を潰す勢いで首を握る。何故、こんな事をしているのかは分からない。でも何故だか、自分の喉から声が出ている気がして、いや違う。これは俺の言葉じゃない。俺はこんな事をしない。俺がこんなのを考え付くはずがない。

 

 

意識が揺れる。意識が薄れる。

ダメだ、眠ればコイツが表側に出てくるかもしれない。

起きろ、残った精神力を総動員しろ。

 

今の俺には令呪がない。

内側のコイツを、押し留められる手段が気合以外にない。

目を覚ませ、目を凝らせ。こんな事を許してはいけない。

 

 

 

「とお、さか」

 

 

 

最後に残った力で、懇願するように口を開く。

 

言葉を選びたいが、どうもそうする余裕が無い。

今から口にするのは、きっと俺の本心になるだろう。

 

でも、それでいいかもしれない。だって、俺の本音は、

 

 

 

「遠坂、俺を────────」

 

 

 

 

 

 






虎「さて、じか


次回、「宿儺(Ⅰ)」

俺の本音は

  • 殺してくれ
  • 助けてくれ
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