Fate/black flash   作:なんか変な色の翼

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前回のあらすじ
特に無し

高木「えっ」



おつかれさま

 

 

放課後、商店街にて。

無事に退部届を提出できた俺は、バイト先へと急いでいた。

 

 

「全く、あんなギャラリー集めなくて良かったってのに。おかげで藤ねえに見つかったし.....家に帰ったら事情聴取とかされそうだな」

 

 

高木先生との勝負は砲丸投げで決めた。

 

勿論ソフトボール投げとは訳が違う。砲丸と呼ばれるだけあって、ハンドボールを一回り小さくしたくらいの鉄球を投げなければいけない。こういうのには専用の投げ方が有るのだろうが、全く教えてくれなかった。あの人は正々堂々と豪語するくせに、こういう所だと狡くなるから困る。

 

結局、俺は無我夢中で投げた。野球やハンドボールの経験がある訳じゃないから、野球中継で見たピッチャーの投球をイメージしながら投げた。そしたら思いっきり飛んで、隣で活動してたサッカー部のゴールポストに着弾した。怪我人が出なくて本当に幸いだったと思う。

 

 

「帰りには買い出しが有るってのに。熱血なのもいいけど、生徒の方の事情も....ってヤバ!もう二十分も無いじゃん!」

 

 

腕時計を確認すると、予定の時間が予想以上に迫っていたのに気づいた。士郎と一緒にバイトをしているコペンハーゲンは飲み屋と酒屋を兼業しているような店で、棚卸しをするのに男手がどうしても必要になる。そんなわけで、他人より少し力の強い俺は頼りにされているのだが.....走らなければ確実に大遅刻だ。今まで築き上げた信用が崩壊しかねない。

 

 

「やっちまった!クビになったら祟るぞ、先生!!」

 

 

その上、そこの店長は藤ねえと知り合いなのだ。遅刻をわざわざ言いつけたりするような人ではないと信じたいが、何かの拍子で漏らされると衛宮家での信用も大暴落してしまう。そうなれば俺は終わりだ。あの優しい人々から極寒の氷河の如き視線を投げられたらと考えると.....

 

 

『流石に"ナシ"だと思うぞ、悠仁』

『虎杖先輩.....最低です』

『ちくわ大明神』

「げ、幻覚が......って誰だコイツ!?」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「全然怒られなかった......」

 

 

むしろ口約束のシフトに入っただけで褒められた。優しい世界だ。

 

今日のバイトは二倍増しで忙しく、普通なら最低五人は必要な業務内容だったと思う。特に倉庫整理と棚卸しがてんてこ舞いで、腰に過重労働を強いる事で俺一人でやり切れた。元々繫忙期だという事はオヤジさんも理解していたようで、一応の声掛けはしていたらしい。それが俺が気にしていた例の.....

 

『あっ、来週あたり忙しいから。手伝える人は手伝ってねーん』

 

という指示の正体だったそうだ。それでフタを開けてみれば、手伝いに来たアルバイトは俺一人。士郎がいない事を少し不思議に思ったが、放課後に一成と校内を歩いてるのを見たし、今頃ぶらり便利屋珍道中でもしているのだろう。そして店は俺、オヤジさん、その娘のネコさんの三人態勢で回り、無事に三時間後の閉店時間を迎える事ができたのであった。

 

 

「ははは、それにしても助かったよ虎杖君。こんだけやっておいて、お駄賃が余り物の賄いってのもアレだろうし....はい、これボクからのお気持ちね」

「あ、どう.....マジです!?」

「男に二言は無いさ。君には五年もお世話になってるんだし、このくらいはね?」

「いえいえ、俺の方がお世話になってるっつーか.....」

 

 

ポンと渡された万札三セット。三時間弱の労働にしては破格のお駄賃だ。受け取るのは気が引けるが、受け取らなかったら隣で熱燗をやってるネコさんに絡まれそうなので貰っておこう。触らぬ神に祟りなしで──

 

 

「はーい、ちょい待ち。ユージ君にお話が有ります」

「.....げ」

「"げ"、じゃない。はい正座ね」

 

 

カウンターを警戒してたら踏み込んできた。流石は蛍塚(ほたるづか)音子、恐るべし。ちなみに名前の方の呼び方は"ネコ"じゃなくて"オトコ"が正解なのだが、この呼び方をして生きて帰った人間はおらんそうな。なんて言ったって、ウチの学校を急性アルコール中毒で辞めていったという武勇伝が有るくらいだ。温厚な見た目と裏腹に、藤ねえとタイマンを張れるだけのポテンシャルの持ち主なのではなかろうか。

 

 

「んー?なんか失礼なこと考えなかった?」

「気のせいだと思いまーす」

「いや、別にお説教とかじゃないんだけどね?君、ずっと倉庫の中で作業してたけど大丈夫だったの?今日の仕事量、かなり半端無かったと思うんだけど」

 

 

首をかしげる。確かに作業量は半端無かったが、努力すれば終わる範疇だったはずだ。ヘルプを頼みたいとは思ったが余裕が無いのはお互い様だろうし、別に行動に移そうとまではしなかった。

 

 

「まあ無理だと思ったら無理だって言うよ。お互いに大変な事になるし」

「んー....キミさぁ、人のお願いを断った事ってないでしょ?それで、必死でやれば何とかなる事だったら投げ出しもしないでしょ?そんな調子じゃ、エミヤん共々悪い女に引っ掛かるんじゃないかって、アタシは心配になっちゃうわけなのです」

 

 

くいっと熱燗を飲みながら、ネコさんはクルクルと指を回す。新手の催眠術だろうか。

 

 

「それになにさ、"西中の虎"って。藤村の"冬木の虎"を思い出したわ」

「また恥ずかしい呼び名を.....他称だから!俺は名乗ってないから!」

「まあ、人助けも程ほどにね。その金はちゃんと自分の事に使うんだよ?」

 

 

へーい、と生返事をして店を出る。

時計の長い針は、七時を半分回り切ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明日の分の食料を確保し、夜の街並みを行く。

 

今は夜の八時くらい。家に着く頃には、皆はご飯を食べ終わっているだろう。バイトの帰りに買い出しに行く事は伝えてあるので、自分用のご飯は封印されしエグゾディアのようになっているに違いない。藤ねえあたりが強欲な壺(つまみ食い)でもしなければ、今日の分の駄賃を含めて最高の一日と言えるだろう。

 

 

「.....にしても、静かになっちまったなぁ」

 

 

この時間なら帰宅途中のサラリーマンの一人でもいるかと思いきや、人気というものが一切ない。つい先日、この深山町のあたりでも事件が有ったらしい。たしか押し入り強盗による殺人事件、だったろうか。隣町では実感がなかったが、自分の街でそういうのが起きていると思うと心が痛む。

 

 

「ガス漏れに強盗か。物騒な世の中だ」

 

 

なるほど、世のお父様方が定時退社するのも当然だ。これじゃ桜を帰らせるのも危なくなってきた。藤ねえは....まあいいとして、桜の家は反対側の住宅地にある。傍から見たらどうかは兎も角、士郎か自分かが送ってやるべきではなかろうか。

 

 

「帰ったら士郎と相談.....んん?」

 

 

 

一瞬、目を疑った。人気のないと思っていた坂道に人影がある。

坂の途中で登ってくる俺を見下ろすようにして、その人影は立ち止まっている。

 

 

身長はとても低い。外国人....いや、人形のような美形の女子だ。

銀色の髪の毛が夜風に揺れ、薄暗い月光を浴びてキラキラと光っている。

 

 

彼女はニコリと微笑むと、足音も立てずに坂道を降りてくる。

 

 

その途中──────

 

 

「.....少しは焦った方がいいよ、お兄ちゃん?」

 

 

 

────おかしな言葉を、口にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「こ、これは.....!?」

「最近外は寒いからな。ほら、早く手洗ってこいって」

「ふふ、まだ皿に()いでないので暖かいですよ?」

 

 

居間に入るなり俺の鼻腔を満たす、旨そうなメシの香り。テーブルには夕食を囲む三人の姿がある。今晩のメインディッシュはクリームシチューのようだが、どうやら俺の分は鍋の中で保温してくれていたらしい。じーんと、身体の内側が温もるのを感じた。

 

 

「もしかして、俺が来るのを待っててくれ.....」

「.....すまん、俺が来た時点で全員食べ始めたんだ。だいたい悠仁が帰ってくる五分くらい前だったかな」

「お、おう。そっか.....」

 

 

少しいじけつつ、手を洗って制服を着替えに自分の部屋に戻る。

 

特に目立った趣味もないので、少し掃除が行き届いている事以外には何もコメントする事もない殺風景な部屋だ。一度景気づけにグラビアのポスターを貼ろうかと検討したが、女性陣に見られるリスクが高いため中止となった。グッバイ、俺のジェニファー。

 

 

「はいはい、戻りましたよっと」

「お帰り。パンにバターは?」

「二切れ頼む!」

「いや、流石に自分で切れ」

 

 

戻ってくると、既にテーブルには夕食が用意されていた。本当にありがたい。士郎から受け取ったバターをナイフでサクサクと切りながら、お辞儀をして"頂きます"の儀を完了する。

 

 

「さてさて、先ずはシチューを......む」

 

 

文句なしに旨い。いや旨い、というより巧い。

 

鶏肉は煮れば煮るほどボソボソになってしまうデリケート品。故に、面倒でも煮る前に一焼きしておくと旨味を損なわずにジューシーな仕上がりになる。一応知識としては自分も知っているのだが、その加減が絶妙だ。そこらのレストランの味は軽く超えているのではなかろうか。

 

 

「んー、美味しい!これ作ったのは士郎か?」

「俺じゃない、桜だ。もう洋物じゃ敵わないな.....」

「マジかよ。俺ちょっと自信無くしてきたわ」

 

 

どうだ、参ったかとばかりに胸を張る桜。なんだろう、朝にも同じ光景を見たような気がする。もしかして俺たち、結構な頻度でマウントを取られてたりするのだろうか。まあ慎二のマウントと違って全然癪に障らないからいいんだけども。

 

.....あれ、朝と同じといえば。

 

 

「.....藤ねえ。スレイヤーのパートⅡはやめろって」

「そうだぞ。とろろ汁の次はシチューまで汚染するのは勘弁してくれ」

「ふーん。夜更けに帰ってくるお二人さんには、月に代わって天誅すべきではありゃせんかー?」

「「.....すいません」」

 

 

ニンジャなのか魔法少女なのか美少女戦士(25)なのかはさておき。どうやら桜の夕食でご機嫌になっていたのが、俺たちの顔を見たとたんにご機嫌斜めになってしまったご様子。ニンニンと両手で印を結び、今にもオイスターソースを手に暴れだしそうな気配を放っている。

 

 

「もう、最近は物騒なんだから早く帰ってきなさいってば。六時までには家に帰りましょうって、ホームルームで言ったでしょ?」

「え、ンな事言ってたの?」

「悠仁に至っては聞いてすら....お姉ちゃん悲しいなー!泣いちゃおっかなー!」

 

 

ゴロンゴロンと駄々を捏ねる様に回転し始める藤ねえ。こうなってしまえばマリオのスター状態だ。巻き込まれ事故を防止するため、無駄な抵抗は避けるのが良いだろう。

 

 

「もぉ....二人とも切嗣さんに似ちゃったのかなぁ?」

「なんだよ、爺さんは関係ないだろ」

「悠仁はバイトだから良いとして、士郎は生徒会のお手伝いをしてたんでしょ?美術室で色々やってたの、通りがかりで見ちゃったんだから」

「職権乱用.....」

「有効活用ですぅー!」

 

 

おっ、珍しく士郎がドン引きしてる。ネコさんといい、この世代の女性は強い人が多いなぁ。

 

 

「二人ったら昔から息ぴったりなのよ。年上の男の子にいじめられてる女の子がいたら助けに入ってたし、切嗣さんが不精だったから家事だって一生懸命こなしてくれたし。悠仁が不良狩りし始めたって聞いた時はお灸を据えてやろうと思ったけど」

「いや、アレは偶然の積み重なりで.....」

「そうそう、偶然と一緒に不良を積み重ねてたのよね。それで士郎と一緒になって、ボクの夢は正義の味方になる事です、だなんて作文まで作っちゃって。あーあ、あの頃は純真だったのになー」

 

 

.....えらく昔の話を引きずりだして来られたものだ。

あの頃の夢を今も追いかけているのは、誰にも話せない秘密なのだが。

 

 

「ほら、二人とも反省なさい。明日からは早く帰ってくると約束する事!」

「「はーい」」

「うーん、棒読み!」

 

 

ヨヨヨ、と泣き崩れる真似をしながら桜にお代わりのお茶碗を催促する藤ねえ。なんだ、全然元気じゃないか。まあ暫くバイトの予定は入っていないし、これ以上心配させる事は無いだろう。

 

 

 

 


 

 

「─────ふぅ、食った食った」

 

 

自室に戻り、ゴロリと大の字になる。

鍛錬をするまでには多少時間が有るな。

 

ここは──────

 

 

 

 

 

 

 





大事なフラグなので切ります。
どのルートにするかは次回までに決めときます。

日間六十四位でした、ありがとうございます。
高評価や感想、誠に励みになります。

ここは───

  • 桜を送っていこう
  • 藤ねえと遊ぼう
  • 士郎と鍛錬しよう
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