Fate/black flash   作:なんか変な色の翼

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タイトルの意味は勝手に考えやがれ下さい。




【分岐】F・O・R・U

 

 

.....真っ直ぐ、家に帰るべきだ。

 

そうだ、桜が風邪ひいてんだぞ?それを無視して自分の都合を優先するだなんて馬鹿げてる。それに、約束もしていない相手に会いに行こうだなんて正気の沙汰じゃ無い。

 

そもそも、俺は外見じゃなくて中身で人を判断するタイプだ。確かに身長が高い子はタイプだが、それはそれ。本当に大切なのは性格や歩んできた人生なのだ。別に魅了されてるわけじゃ無い。

 

だから、アイツらの事を考える必要性は───

 

 

 

 

 

 

 

「ん。これ、おいしい」

「..........よかったね」

「あと、コレとコレ。頼みたい」

「もう好きにしてくれ」

 

 

机に突っ伏しながら、半ばヤケクソ気味に呟く。

 

あの後、結局俺は路地裏に行ってしまった。誰もいないだろうと半ば諦めていると、リーゼリット"だけ"がいた。そしてどう話しかけるか迷っていると、少女らしからぬ怪力で喫茶店に連れ込まれた次第である。

 

 

「セラも来ればよかったのに」

「誰だよ」

「私の僚機。ここの持ち帰りのケーキ、美味しそうに食べてた。庶民ならではの低俗さがどうのって」

「うし、いったん口閉じようか」

 

 

店員からのギロリという視線を感じ、身体が竦む。これでも商店街の中じゃ良い方の店だってのに、まだ低俗だと言うか。やはりアインツベルンという家柄は相当の貴族のようだ、御用達の食べ物に口が慣れているのだろう。

 

 

「つーか、イリヤはどうしたんだよ。見た感じ、リズよりイリヤの方が偉いんだろ?一人でほっぽり出して会いに来て良いのかよ」

「ううん、イリヤは来てない」

「え?」

「セラに止められてたから。どうせシロウもイタドリも殺すんだから、遊んだって面白くもなんともないんだって言われてた」

 

 

.....複雑な心境だが、そのセラという人に同意だ。

 

俺とイリヤは、やはり客観的に見れば敵同士。遠坂や士郎は同盟関係だから良しとしても、例えば俺が居間から慎二のところに遊びに行っていたとしたら、二人はどう反応するのだろうか。俺の正体に気づいた遠坂など、憤慨して二日は口を聞いてくれなくなるに違いない。

 

 

「じゃあ、リズは何で来たんだ?」

「ん、確認」

「確認.....何の?」

「イタドリが、イリヤの事をどう思ってるかの確認。そっちから会いに来なかったら、会ったところで面白くない人だと伝えようと思ってた」

「そんな抜き打ちテストみたいなさぁ.....」

「でも来てくれた。これなら、イリヤも喜ぶと思う」

 

 

はむ、と木箱入りのザッハトルテ(2000円)を口に運ぶリズ。金銭感覚がぶっ壊れているのだろうか、学生がそれだけの金を稼ぐのに何時間費やしているのか、などとモヤモヤが爆速で溜まっていくが我慢だ。この程度の理不尽、藤ねえや遠坂に比べたら大したことない。

 

音をたてないように極力努力しつつ、こちらも冷たいミックスジュースを口にする。本場のベリーの味とかは良く分からんが、混ざり混ざって混濁した酸味と粒々とした種の触感が独特で新感覚だ。氷で程よく冷やされたソレは、俺の頭も物理的に冷やしてくれる。

 

 

「なあ、前に聞きそびれてたんだけど」

「なに?」

「アイツは、聖杯を何に使う気なんだ?アインツベルンがどうこう言ってたけど、やっぱイリヤの為にもなる願い事が有ったりするのか?世界征服とか、金銀財宝とかさ」

「イリヤはユー.....ううん、お爺さまの言いつけで参加してる。今までのアインツベルンの中でも一番マスターに向いてるんだって。だから、生まれた時からマスターになってる」

「最悪じゃねーか、それ」

 

 

この世に産まれた時から、戦うことを強制されている。これほど歪んだ祝福が有るだろうか。それは親に存在を望まれた普通の子供とは違い、ただ戦う兵器としての役割を望まれたも同然だ。そんな事が有っていいわけがない。

 

 

「でも、イリヤにも願いは有る。これは聖杯じゃ叶えられない事だし、イタドリなら叶えてあげられる事」

「それは─────」

「シロウとキリツグ。そして、貴方を殺すこと」

「─────は?」

 

 

さらりと、1と1を足せば2になるような当たり前のことを説明するように、彼女は突拍子も無い事を口にした。それに、それはおかしい。俺とイリヤは聖杯戦争が始まるまで一度だって会った事が無かったんだぞ。なのに、なんで俺たちに執着してるんだ。

 

というか、そもそも。

なんでお前が切嗣の名前を知っている?

 

 

「.....イリヤは、切嗣とどういう関係なんだ?」

「キリツグは、アインツベルンが十年前に雇った傭兵。アインツベルンに四代目のマスターとしての権利を委託されて、最後の最後に全てを放棄した裏切者。私は会った事ないけど、そう教えられてる」

 

 

電子音声が記録帯(スクロール)でも読み上げるかのように、淡々と。それでいて怒気や憎しみを込めたような声色で、リズは話し始める。赤い瞳が、イリヤが戦うのはお前のせいだと言わんばかりに俺を見つめている。

 

 

「アインツベルン、遠坂、マキリ。この三つの家は互いに協力して、聖杯を起動させるだけの魔術陣を完成させた。アインツベルンはその中でも別格。千年も前から聖杯の探求を続けてきて、もう止まるに止まれないところまで来てる」

「待てよ。なら、なんで切嗣が出て来るんだ。そんなんならお前たちの間だけでやってれば済む話だろ、なんで傭兵を雇う必要が有ったんだ」

「単純な話。キリツグは、他の魔術師より何倍も強かったから。魔術師殺しって呼ばれるくらい強かったし、そう呼ばれるくらいに他の魔術師を殺してた」

 

 

脳が理解を拒む。

切嗣が、魔術師を殺してた?

 

 

「馬鹿なこと言うな。切嗣は、そんな奴じゃない」

「キリツグが正しい人だったとしても、人を殺さない理由にはならない。悪い魔術師を倒すためには、殺してしまうのが一番楽だから」

「......でも、それは間違ってるだろ」

 

 

そんなのは、切嗣の言っていた正義の味方じゃない。"悪い事をすれば死ぬ"みたいな強迫観念を押し付けるような事をしたところで、正しい世の中にはなりやしない。正義を信念にした執行人がいたとしても、錆び付けばお終いだ。恒久的な平和なんて訪れない。

 

そんなのが、切嗣が目指した正義なのか?

 

 

「イタドリは、人を殺さないの?」

「殺せるわけないだろ、当たり前だ」

「なんで?」

「なんでって、そりゃ────」

 

 

....."殺さない"、じゃなくて"殺せない"だ。

 

俺は、人を殺めるという事に漠然とした恐怖が有る。倫理に反するとかそういうのじゃない。サーヴァントと戦う上において一番手っ取り早いのはマスターを殺す事だとは理解しているが、それを出来ないのはそういう理由じゃない。

 

 

「一回殺すって選択をしたらさ、もう戻れないじゃん」

「.....戻れない?」

「人を殺したら、その次からも"殺す"って選択肢が俺の生活に入り込むと思う。そしたら、きっと俺は変わってしまう。人の命がこんなに簡単に消えるんだって自覚すると思う」

「それが、イタドリが人を殺せない理由?」

「命の価値が曖昧になったら、きっと俺は大切な人の価値も見失うと思う。俺は、それが怖い」

 

 

俺は、皆に正しく死んでほしいと思っている。

 

殺されることも、人生を踏み躙られる事もなく。頑張った人間は報われて、頑張れなかったヤツも人並みに幸せな最期を迎えられて。死が平等に訪れるなら、せめて人間としてあるべき死に方をする権利も平等にあるべきではないか。

 

 

だから、俺は人を殺せない。

例え切嗣の信念と違おうと、これだけは譲れない。

 

 

「......うん。少し安心した」

「こっちは安心できないけどな。それでイリヤは切嗣を追っかけて、切嗣の息子を殺そうってのか」

「そう。それが、イリヤの生き甲斐だから」

 

 

生まれた時から与えられた役割。それはきっと、俺が自分自身に課した責任とは重みが違う。いつでも放り出せた俺とは違って、彼女は放り出す事を許されなかった。

 

その原因になった切嗣に憤りを覚えるのは当たり前だし、その息子の俺たちに飛び火する事だって不自然だとは思わない。

 

 

「だから、イリヤに殺されてあげて?」

「悪い、それはできない」

 

 

だけど、それは間違ってる。

 

つい昨日、遠坂から簡単には死ぬなと言われたばかりだ。いくら意味のある死だからと言っても、俺が必要とされている内は死んでやれない。それは俺を信じてくれてる人への裏切りも同然なのだから。

 

 

「..........ごちそう、さま」

「今日はケーキの持ち帰りはすんなよ?」

「もう頼んでる」

 

 

いつの間にか伝票受けの中に紙が3枚近く入っている事に気づく。こいつ、人が話してる隙になんて事しやがるんだ。

 

ホールケーキが2つに木箱入りのケーキが1つで、合わせた値段は何と12000円。あの時のバイト代、もう3000円くらいしか残ってないんだが?

 

 

「バイバイ。また、昼に会えるといいね」

 

 

無表情だった顔をぎこちなく微笑ませつつ、お土産を手に喫茶店を出て行くリズ。別れ際の台詞は、裏を返せば夜に会ったら殺すという事だろう。あそこまで清々しい殺害予告は初めてだ。

 

 

「.......帰るか」

 

 

伝票を3枚纏めて、店を出る支度を始めた。

早く帰ろう。桜が家で待っている。

 

 

 

 

 

 


 

 

どんな回路だろうと、中身が無ければ意味がない。

 

電化製品であれば電気がなければ動かず、魔術回路も魔力が無ければ無用の長物だ。どれほど優れたモノだろうと、原動力無しに動かす事は不可能なのだ。

 

 

 

「─────ギギ、ギ」

 

 

それは、この()も同じ事。生物とも現象とも捉えられる虚数的な存在のコレでさえ、魔力が満ち足りなければ真価は発揮できぬ。この世に存在する以上、この世の法則に従わねばならぬのだ。 

 

だから、この砂蜘蛛(アサシン)は贄を放り込んだ。

 

昨晩供えられたのは、神の血を引く蒼い槍兵。主人からの命に、イレギュラーの存在。この二つの片方さえ無ければ、この大英雄は遅れを取ることは無かったであろう。

 

 

「そろそろ、来るか」

 

 

随分と格の高い英霊だったのだろう、漸く全てを魔力に変換し終わったようだ。捕食の為にバシャバシャと掻き立てられていた水面は、今や鏡のように凪いでいる。

 

 

「あの器には"殻"が有った。ならば、お前には逆が出来るはずだろう。その性質ならば、中身を作り変える事など造作も有るまい」

 

 

アサシンの手によって、女の英霊の死骸が投げ込まれる。彼女に"中身"は無い。魔力は微塵も残っておらず、その惨状は防腐処理をされたミイラにも等しい。ただ"英霊である"というだけの情報(データ)の残り滓だ。

 

だが、ソレに形を与えるのであれば十分すぎる餌だ。起動させるだけの魔力を与え、手足の鋳型も食わせた。ならば、後は勝手にソレ自身がやり遂げる。人を呪う事しか能の無い英霊なのだ、自ずと最適な形へと変貌するだろう。

 

 

 

「起きろ、真人。我らが悪の純化英霊(アルターエゴ)よ」

 

 

 





・原作では

ムシキング「偽アサシンの魔力を使ってアサシンを呼んだら、聖杯もバグって再召喚が通るんじゃね?」

・本作では

羂索「英霊を半殺しにして魔力を抜き取って、宿儺の器の中に再召喚。余った死骸は保存しといて、聖杯の泥に食わせて再利用しよう」



次回、「違和感(Ⅲ)」

誰を虎杖のマスターにしたい?

  • 衛宮士郎
  • 遠坂凛
  • 間桐桜
  • イリヤ
  • 黒桜

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