Fate/black flash   作:なんか変な色の翼

41 / 43

そろそろ中盤に差し掛かってきます。
.....40話で中盤?




違和感(Ⅲ)

 

 

家に帰ってきたのは昼の十時過ぎくらいだった。

 

八時くらいに家を出たので、ただの買い物と言い訳するにしては少し長すぎるくらいになってしまっている。しかし、まさか馬鹿正直にリズに会ってきたとも言えまい、何か言い訳を考えておかねば。

 

 

ガラガラッと玄関を開け、靴を脱いで廊下に上がる。勿論、ちゃんと向きを揃えるのも忘れない。昔はよくこれで藤ねえの所のお爺ちゃんに叱られたものだ。礼儀作法に厳しい人だったが、今になってそのありがたみが良く分かる。

 

 

「ただいま。士郎、桜の昼飯の献立の話なんだけどさ.....あれ?」

 

 

廊下に響くように呼び掛けるが、奇妙までに反応が無い。遠坂は兎も角、士郎は声が聞こえたら必ず返してくれる筈だ。セイバーだって、昨日は帰ってくるまで玄関で待ってたくらいだ。魔力の温存のために就寝しているのかもしれないが、いくらなんでも屋敷が静かすぎる。

 

 

「奥の方にいるのかな。となると、桜の部屋か」

 

 

ウチの女性陣の部屋は、離れを利用している事もあって玄関からかなり遠い。あそこにいるのなら声が届かないのも納得だ。それなら丁度いい、スポーツドリンクと冷却シートを今のうちに運び込んでおこう。

 

 

いそいそと廊下を進み、桜の部屋の前に着く。中からは衣擦れと荒い呼吸の音。寝ているのかもしれないし、ノックをするのは逆効果だろう。このまま入ってしまえ。

 

 

「────────!!!」

「.........うおっ!?」

 

 

......ビックリした。部屋の中に入ったと思ったら、士郎が空中でトリプルアクセルを決めてテーブルの上に着地した。氷の床でもないのに良く跳ねる、俺がフィギュアスケートの審査員だったら、彼は間違いなく日本代表入りを果たすだろう。

 

 

「凄い動きだな。でも、靴下でテーブルに乗るのは如何なものかと」

「あ────うん。気が動転してたな、うん」

「そうだ、コレ。スポドリなんだけど、桜は寝てんの?」

「ああ、寝てる。寝てると思うぞ、きっと」

 

 

妙に歯切れの悪い返事をする士郎。ここまで言い淀むのは珍しい。しかし、桜の方を見てみるがスウスウと寝息を立てて毛布にくるまっている。俺が来るまでに何が起こっていたのだろうか。

 

 

「それと、遠坂はどこ行った?ちょっと買い物行ってる間にいなくなってんだけど、もしかしてアイツも行き違いで外出してるわけじゃないよな?」

「ああ、遠坂なら間桐邸に行くって言ってたぞ。元々の予定は崩せないから、代わりに俺が付きっきりで面倒を見てろってさ」

「なるほどね。となると、アーチャーは.....」

「いないだろうな。一人で行くとは思えないし」

 

 

そういや、昨日そんな話をしていたようなしていないような。午前中に間桐邸の調査に行くから、訓練は午後からという話だったような気がする。しかし桜が寝込んでしまっているのだから、それもおじゃんになっているものかと思っていたぞ。

 

 

「あ、ならセイバーは?やっぱり寝てんのか?」

「いや、道場の方に.....思い出した。悠仁、セイバーが道場で呼んでるぞ。実力を試したいって言ってたから、多分稽古を付けてくれるんだと思う」

「え?」

「行ってこい。多分、死にはしないから」

 

 

グッドラック、とばかりに爽やかな笑顔で親指を立てる士郎。

 

その親指がどうしても、I'll be back(死亡フラグ) に見えてしまうのは何故だろうか。

 

 

 

 


 

 

 

「死にはしないって、マジで無責任な.....」

 

 

庭に出て、トボトボと道場へと歩いていく。あそこから詳しく話を聞いてみると、今夜の巡回で俺が遠坂ではなく士郎に同行するという話を知ったセイバーが、ならば実力を確かめたいと言い出した結果らしい。ちなみに、その話のソースは遠坂だとか。

 

やはり、向こうも俺がサーヴァントだという事を知って警戒しているのだろう。まあ、それが正常な判断だ。絶対に有り得ない話だが、俺が命惜しさに遠坂と士郎を殺すかもしれないのだ。そんなのに背中を任せるのは嫌だよな。

 

 

「来ましたか、ユウジ」

「セイバー、来たぞ.....って、その恰好か」

 

 

道場の戸を開けると、そこには瞑想でもするように正座をしていたセイバーがいた。それ自体は構わないし、雰囲気も道場に合っているから何も言う気はない。しかしパーカー姿の俺が言うのも何だが、その私服姿は道場には合っていないと思う。

 

まあ、ここまで着こなされては文句の付けようがないのだけども。

 

 

「はい、動きやすく運動にも適していますから。用件は士郎から聞いていると思いますが.....ああ、鎧は魔力で編んでいるので、どこかに置いてきたわけではありません。武装している方が良いというのでしたら着替えますが」

「いやいや、いいよ。セイバーがそれで良いんならそれが一番だし、何より似合ってるしな。もし破れたら大変だなって思ったけどさ」

「それは、私から一本取るという心意気で?」

 

 

捕食者のような瞳が緑色に煌めく。イリヤがルビーなら、セイバーはエメラルドといったところか。どうしてこう、俺が知り合う女性は全員気が強いのばかりなのだろう。その個性は尊重したいが、もう少しお淑やかな人がいても良いと思う。

 

 

「えーと、稽古を付けてくれるんだよな?」

「はい。ですが、今の貴方の技量から見れば必要なのは技術より戦闘経験です。肉体も人間としての規格においては限界に近い、これ以上手を加える必要はないでしょう」

「戦闘経験.....というと、試合ってこと?」

「はい、ですが本気の"試合(死合)"です。寸止めはなし、お互いにお互いを打ち倒すつもりでやりましょう。貴方であれば、そこまで手加減をする必要は無いでしょう」

 

 

セイバーが手に取ったのは.....木刀!?

 

道場内の倉庫にしまっていたのは知ってたけど、もっと別の武器が有っただろう。せめて竹刀だ、あんなのが急所に当たれば流血沙汰になりかねないぞ。

 

しかしセイバーは知って知らずか、木刀を両手剣の構え方でガッチリと握る。なるほど、あの日もこんな感じに構えてた気がする。案外、刀と剣って通じ合う所もあったりして.....って考えてる場合じゃない!

 

 

「貴方が徒手空拳の使い手というのは知っています。では」

「では、じゃねぇって!待て、待てって──────!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本来、武器というのは長柄になればなるほど取り回しが難しくなる。

 

それは武器の重量に加え、先端に加わる遠心力の強さで次打を放つのが大変になっていくからだ。だから薙刀の試合だと一撃か二撃で勝負は決するし、ナイフのプロは一秒で相手を五回近く刺せたりする。

 

 

その理論で行くと、木刀はそんなにビシバシ打てたりはしない。実際に素振りであれば兎も角、実戦であんなテンポで打つような展開になることはない。そもそも日本刀は鎧の隙間から槍を突くようにして扱う武器なので、そういう扱いをそこまで想定されていないのであるからして─────

 

 

 

「うおぉぉぉっ!?」

「そこ、逃げない!せめて数発は打ち込んでみなさい!!」

「ちょ、無理だって!」

 

 

気持ちいいくらいのフルスイングを乱発し、バックステップで逃げ回る俺を追いかけてくるセイバー。ここまで清々しいのなら、振ってもらっている木刀の方も喜んでいるに違いない。

 

 

「というかセイバー、お前の膂力は俺より.....魔力使ってるな!?試合だってのに魔力使ってんのか、絶対あの時の事を根に持ってんだろ!」

「あの一撃については全く根に持っていませんとも!ええ、あんな偶然の一撃で負傷したからと言って、騎士の誇りに傷は付きませんから!」

「絶対根に持ってる!!!」

 

 

セイバーが一太刀振るう度に、ゴウンと大砲が発射されるような轟音が空気を切る。あんなのは旋風とかいうレベルじゃない、剝き出しのミキサーの刃が回転しながら襲い掛かってきてるようなもんだ。

 

魔力で拳を強化していればグローブ代わりになるが、アレを受け止めたら手首の関節を確実に脱臼する。前の時に比べて反応できない速度ではないんだ、力の向きに受け流すか完全に回避するかの二択を取るしかない。

 

 

「クソッ、こうなりゃヤケだ!!」

「なっ─────!?」

 

 

道場の隅に備え付けていた雑巾を手に取り、魔力で強化して手裏剣のように投げつける。傍目から見ればアホの所業だが、こちとら大真面目。魔力で固まった雑巾はセイバーの木刀に当たると、ギンッと鉄と鉄がぶつかるような高音を立てて弾かれる。

 

やはり、あの木刀に対して素手で向かうのは無謀だ。数発受けるのを覚悟してセイバー本体を叩くのも良いが、腕の関節を外されては殴るにも殴れない。ここは小手先の技で押し切るのがベストだろう。

 

 

「いっせぇ、の────!!!」

 

 

掃除用具を入れていたロッカーを放り投げ、同時に中から飛び出たモップを回収する。これを使うのは小学生の時に士郎とのチャンバラをして、藤ねえにガチ目に怒られた時以来だ。

 

案外長さは丁度いい。繊維の部分を足でへし折り、柄の部分だけを両手で持って木刀の真似事をする。これに魔力を込めれば、多少は打ち合えるはず────

 

 

「.....ぬおおッ!?」

剣使い(セイバー)の土俵に上がるなど言語道断!」

 

 

上段からの振り下ろしをモップで受け止めると、あまりの重圧で膝がガクンと揺れた。この棒きれ一本でダンプカーを丸ごと受け止めているみたいだ。踏ん張っても押し返すのが精々で、道場の床がギシギシと軋んでいる。

 

 

「自分のっ!長所をっ!相手にっ!押し付けるっ!そういう立ち回りを!心掛けろと言っているのです!!」

「痛い痛い痛い!おまっ、この───!!!」

 

 

更に上からビシバシと叩かれる。全部なんとか武器でやり過ごしてはいるが、それでも衝撃が半端じゃない。魔力を通してるというのに、モップの柄には無数のヒビが入っている。もしも素手で受け止めていたら、俺の拳がこうなっていただろう。

 

モップを手放し、セイバーへとブン投げてもう一度距離を取ろうとする。しかし、二度目の離脱は許されない。回転しながらセイバーの頭部へと向かったモップは容易く弾かれ、その一閃で真っ二つになった。

 

 

()った!!」

「なんのッ─────!!!」

 

 

魔力で固めた拳で空を打つと、手榴弾が爆発したような衝撃波でセイバーが吹っ飛んだ。即席のバーサーカーの真似事だったが上手く行った。一回限りの不意打ちだが、これで少しはやり返せたというものだ。

 

しかし、その程度ではセイバーからダウンは取れやしない。すぐさま受け身を取り、鋭い眼光が俺へ放たれる。まだまだやる気は十分ということか。

 

 

彼女の木刀が上段に構えられる。対して、此方は徒手空拳。いかなる攻撃をも受け流せるよう、守りの構えを取って敵を見据える。

 

だが、これはフェイク。セイバーが踏み込んだ瞬間、膝を抜いて頭部に卍蹴りを放つための布石だ。今の彼女は獣を追う狩人。俺を仕留める事に集中しているせいで、俺から手痛い反撃を貰うなんて考えすらしないだろう。

 

 

さあ来い。これで決着を────────

 

 

 

「────はい。一旦、ここで終わりましょう」

「......え?」

 

 

緊張した空気を解き、静かに木刀を下ろすセイバー。彼女から巻き上がっていた魔力も鳴りを潜め、道場の中に静寂が訪れる。余りにも突然の打ち止め。こちらからすれば、余力を残したままゴングを鳴らされたボクサーのような気持ちだ。

 

 

「貴方の戦い方というのは分かりました。一定の型に収まることなく、それでいて一つ一つに力が入っています。一流とは言えませんが、私たちの世界に入門しているのは確かでしょう」

「ああ.....もしかして、褒められてる?」

「はい。ですが、ユウジも気づいた事は有るのでは?」

「気づいたこと?」

 

 

この一戦で、何か学びを得たのかという話だろうか。

 

道場の中での戦闘だから、屋内を想定した戦い方とか?それとも武器を使った戦闘方法?いや、相手の土俵に上がるなって話が有ったはずだ。となると、そこから視点を変えて────

 

 

「────あ。俺、一回もセイバーを殴ってない」

「はい。貴方が武器を使わざるを得ない状況まで追い込みました」

「それで、俺が安易に武器を取るかどうかテストしていたって事?」

「ええ。最後は初心に立ち返ってくれたようで何よりです」

 

 

流石は最優のサーヴァント、演出も上手い。つまり、追い詰められたからといって小手先の技に頼れば痛い目を見るぞと伝えたかったのだろう。そのために魔力放出まで使って、あそこまで窮地に追い込んだってわけなのか。

 

.....なんだ、最初から最後まで手のひらの上じゃないか。

 

 

「あー、今の勝てたと思ったんだけどなー!」

「ですが、良い腕前でした。私も手加減を忘れてしまいそうでしたから」

「そうか?そっか......そうなのか?」

「はい。生前に出会えていれば、貴方を家臣にしたい程に」

 

 

どうやら、相当お褒めになってくれているらしい。英霊に家臣にしたいと言われるなど、魔術界隈で見れば相当な賞賛では無かろうか。今度遠坂にからかわれたら、カウンターで自慢してやろう。

 

 

「ユウジ。貴方がシロウの味方で、本当に良かった」

「......おう!」

「では、私はこれで。シロウとの稽古の相談をしてきます」

 

 

一礼し、道場を出ていくセイバー。その立ち振る舞いは正に清廉そのもので、ただの一礼だというのに高潔さすら兼ね備えたような気がする。アレは、いわゆる"完璧な人間"の一種なのかもしれない。

 

現に彼女は俺を信用して、こうして戦いの知恵を授けてくれている。今は知らないとはいえ、本来なら敵同士である俺にだ。

 

 

「.....士郎の味方、か」

 

 

そうだろう。きっと、俺は士郎の味方だ。

だけど、それはセイバーの味方をするというわけではない。

 

この戦争が終わった時に俺が生きているなら、お前は.....

 

 

 

オマエがいるから、人が死ぬんだよ

「─────最悪だ」

 

 

嫌な幻が頭をよぎった。しかし、あながち的外れな言葉ではない。

 

俺たちは殺し合う定めにある。誰かが生き残る時は、他の全員が死に絶える時だ。どんなに憎しもうと情が湧こうと、最終的にはお互いがお互いを潰し合う羽目になる。それは、俺の存在のせいで誰かが死ぬと言われても過言にはならないだろう。

 

その過程で、マスターを巻き込んでは目も当てられない。

正義の味方を目指す人間が存在しているせいで、人が死ぬのだから。

 

 

「..........」

 

 

だから、俺はやるべきことをやらねばならない。

 

聖杯戦争を穏便に解決させ、間違った死が起こるのを防ぐ。正しい死が何なのかは分かっていなくても、引き金が引かれるのを止める事は出来る筈なのだ。俺の命は誰かを殺すためではなく、誰かを生かすためにある。そうだ、そうしようと必死にもがいている。

 

 

時計を見ると、午後五時前といった頃合いだった。

じきに遠坂も帰って来るだろう。

 

 

セイバーの後を追うように、俺も道場を後にする。

 

傾き始めた冬場の夕陽が、大火事のように街を照らしていた。

 

 

 

 

 

 






【ここから先はタイガー道場です】
【地の文なんてねえよ。うるせえよ】



虎「負けた!!!第三部、完!!!!」
イ「押忍、イギリス産の合法ロリにはご用心であります!」
虎「やっぱりセイバーには勝てないな.....これが一番善戦した演出ってマジか?圧倒のされ方が日車にやられてた時の俺じゃんか」
イ「セイバー相手にここまで出来てる時点で凄いよ?あのティーチャーみたいな搦め手を使わずに、タイマンでも実力が認められる程度に戦えてるもん」
虎「昨日は絶不調だったけど、今日は幾分かは回復してるみたいだな。魔力を問題なく使えてるし、モノに魔力を込める強化モドキも使えるようになってるし」
イ「でも魔術は使えないから、魔術の特訓とか無意味じゃない?」
虎「バッキャロイ。セイバーとの特訓だと体術が鍛えられるけど、遠坂との魔術の特訓を続けたら黒閃の理解に繋がって、使えるシーンが増えるんだぞ?」
イ「ふーん.....つまりどういう事?」
虎「ゲームのステータスで例えるなら、セイバーとの特訓が基礎パラメータ上げ。遠坂との魔術の特訓が、クリティカル率の上昇バフみたいな感じだな」
イ「じゃあ、サクラとの休憩は何よ?」
虎「即死イベント回避」
イ「えっ?」
虎「では、本日はここまで!またいつかの回で、君を待つ!」



次回、「ツーマンセル・準備編」


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。