アンケートの回答、ありがとうございます。
これからも分岐式アンケートを取るので
是非ともご協力ください。
────そうだ、桜を送っていかなければ。
「士郎は.....風呂か。もう夜も遅いし、せめて途中まで送って行かなきゃな。俺がダメだったら藤ねえに頼めばいいだろ」
ふんっ、と腹筋運動をするように体を跳ね起こして居間へと向かう。そこには丁度片付けを済ませ、帰り支度をしている桜の姿があった。
「あれ。虎杖先輩、どうされたんです?」
「ああ、家まで送っていこうかと思って」
「私を......です?」
「おう、最近色々と物騒だしな。桜の家は住宅街の方だろ?けっこう遠いし、わざわざ来てもらってんだから。そのくらいはさせてくれ」
「..........」
気まずそうに口を閉ざす桜。なにかマズイ事でも言ったんだろうか。実は俺のことが苦手で、家の近くまで来られると迷惑だったりするんだろうか。嫌な汗かいてきたぞ。
「いや別に俺じゃなくてもいいんだけどね!?藤ねえに俺から頼んでもいいし、そろそろ士郎も風呂から上がるだろうから────」
「そうじゃなくて.....兄さんに見つかったら、虎杖先輩にまで迷惑がかかると思うんです。兄さん、先輩たちとは、あまり....」
そうか。間桐の家まで送るってことは、慎二と鉢合わせるかもしれないって事か。アイツとは気が合わないけど....こんな時に桜を一人帰らせる方が問題なんじゃないか。俺と慎二が喧嘩するのは仕方ないが、桜に何かあってからでは遅いのだ。
「まあ大丈夫だって。男同士でケンカしない方が変だし、慎二とはそれぐらい素直に言い合った方が早い。知ってるか?俺と士郎、桜と藤ねえがいないところだと結構喧嘩してるんだぜ」
「え....先輩たちが?」
「そうそう。直近のだと、冷蔵庫に入れておいたプリンだったかな。ありゃ酷かったなぁ、小一時間は大喧嘩してたぞ」
それは一週間前、士郎が俺の名前を書いたプリンを食べたのが発端だった。なんでそんな事をしたのか士郎に問い詰めると、"自分の名前を書いたプリンを悠仁が間違えて食べたから"だなんて言う。お互い、プリンを食べられた事よりも嘘をつかれた方にカッときやすい性分なのが悪かった。
そしてヒートアップした結果、藤ねえからストップがかかるまで道場で大喧嘩したのであった。対俺用の関節技まで開発していたとは恐れ入る。ちなみに事件の真相は、藤ねえが士郎のプリンを勝手に食べていたというモノだった。あの二十五歳は深く反省してほしい。
「大丈夫、これでも腕には自信があるんだ。大抵の暴漢なら返り討ちにできるから、こんな時くらいは頼ってくれ」
「あっ、虎杖先輩にケンカされると、色々と困るんですけど.....」
「いやいや、もうちょっと信用しても─────」
「先輩がケンカすると、相手の骨が折れるまで止まらないって、兄さんが」
「慎二ィ.....」
「そういえば、不良からは西中の虎って言われてたって......」
「あー、時効!時効です!若気の至りです!」
クスクスと笑われているような気がする。そんな小悪魔みたいな一面があったなんて、先輩は悲しいぞ。そういうSっ気の有るような美人は、ウチのクラスの遠坂くらいで事足りているのだ。話したことないけれど。
「ふふっ。なら、此処は先輩の顔を立ててあげます」
「え....って事は?」
「はい。お見送り、宜しくお願いしますね」
テクテクと坂道を降りていき、住宅街へと繋がる交差点に到着する。
この辺りにも人影はなく、重苦しい静けさが辺りを包んでいた。
「.....なんか歌うか」
「近所迷惑ですよ?」
「やめとくか」
他愛ない会話をしながら、十時過ぎの住宅街へと入っていく。
.....本当に静かだ。この辺りでも事件が有ったのだろうか。
「えっと....桜の家、どこら辺だったっけ。この坂の上?」
「はい。一番上で....ああいえ、一番上は遠坂先輩のお家でしたね」
「へー、けっこう家近いんだな...って、あの遠坂?」
「先輩たちの同級生の遠坂さんです。もしかして苦手なんですか?」
こっちの心情を察したのか、随分と的確な質問をする桜。苦手ってわけじゃないけど、お嬢様系っていうのは扱いが分からないから話しかけづらい。それに一成とも良く喧嘩してるし。というか男絡みの悪い噂も結構聞く。男をいじめた話という意味だが。
......まあ、でも────
「まだ話したことは無い。でも、仲良くなれたらなって思うよ」
「.....ふーん」
桜にしては少しそっけない返事が返ってきた。
もしかして、桜も少し苦手だったりするのだろうか。
「桜は遠坂と話したこと有るのか?」
「ええと.....学校では少し。近所づきあいとかは有りません」
「えっ、こんな近いのに?小中とかだと校区は一緒だろ?」
予想外の返答に少し驚いた。ここまで近所であれば、登下校でもすれば嫌でも一度は顔を合わせるだろう。桜は弓道部だから帰宅部の遠坂とは下校時間が違うだろうが、小学校に中学校と通っていれば自然と親交が生まれるものではなかろうか。
「昔から言われてたんです。坂の上のお屋敷には、怖い魔法使いが住んでるって。だから坂の上には、一度だって行きませんでした」
「へぇ.....流石に冗談なんだろ?」
「ええ。でも信じました。だって、子供だったんですから」
今の桜は子供じゃないだろ、と言ってやりたかったが。
真剣な顔をしている彼女の顔を見て、その言葉は喉の奥へと引っ込んでいった。
「先輩、どうしました?」
「.....あっ、悪い悪い」
今度は坂道を登っていく。
坂道近くの住宅街はどこも変わらないもので、町に近い坂の下側の方に家が集中している。つまり登れば上るほど建物が少なくなっていき、人の手の加えられていない雑木林が増えていく。成程、怖い魔法使いにはピッタリな雰囲気になってきたな。
そして.....頂上にある洋館にも負けない大きさの屋敷を見つけた。ここが間桐邸のようだ。士郎は何回か行った事が有るみたいだが、俺は初めて見た。人の事を言えたものではないが、一世帯で住むには大きすぎる。遠縁の親族とかと一緒に住んでいたりするのだろうか。
「それじゃ、おやすみなさい。送ってもらえて嬉しかったです」
「礼なんて言わなくていいよ。お世話になってるのはこっちなんだ」
「はい。では、たまにでいいので送ってくださいね。兄さんにバレたら怒られるかもですが、私は先輩達と一緒の方が良いので」
「じゃあ次は士郎と一緒に送ってみるか?」
「ふふふ、それは"アリ"ですね」
満足げにほほ笑む桜。口が裂けても礼を言えない兄とは大違いである。これは一家の中で慎二だけがああいう性格になってしまったのか、桜だけが突然変異なのかでトトカルチョができそうだ。まあ慎二は慎二で味の有る性格の悪さをしているのだが、アレを理解できるのはパクチーを食える人間の数と同じくらいしかいないだろう。
「じゃ、またな!」
「はい。今日はありがとうございました」
ペコリと会釈をして、間桐邸へと消えていく桜。
さて、俺も────
「────────!!?」
その瞬間、俺の体は凍った。
「筋肉が強張る」とか「痺れる」とかいうレベルじゃない。内側から恐怖や嫌悪感が体の内側から皮を破って飛び出し、骨を押し曲げて筋肉を縛ったような感覚。生存本能がパニックを引き起こすような嫌な気配が、背後から立ち込めていたのだ。
「────どうした、若いの。立ち去らんのか」
「誰、だ......?」
「ほほう。後ろから驚かせた事は謝るが、そこまで怯えるものではないぞ。ただでさえ頼りの少ない老骨、そう怖がられると気分は悪くなるというものよ」
蝋で固められたように鈍い首を捻り、なんとか振り返る。そこには見慣れない和装の老人が立っていた。小さな体に、ヨボヨボで枯れ落ちた枝のような手足。それでも、一睨みで俺を百度は殺し得るような威圧感を、その老人は持っていた。
深呼吸して恐怖を吐き出しながら、俺は老人に向き直る。
「さて、誰だと聞いたな。ワシは慎二と桜の祖父、
「.....虎杖、悠仁」
「そうかそうか、悠仁君か。今後とも、ウチの孫を宜しくな。この老骨は隠居している身、若い者に口出しはせぬ。桜に用ができれば、気兼ねなく訪ねるがよい」
「いや.....はい。そうします」
「いやはや、君と偶然会えてよかった。いつもは奥座敷でくたびれておるのでな。ウチの孫たちは家に人を呼ばんので、学校に友人がいるか心配しておったんじゃ」
俺の姿が滑稽だったのか、カカカと笑いながら玄関へと向かう臓硯。
.....さっきのは気のせいだ。きっと今の恐怖は、急に後ろから話しかけられたからだ。こんな老人に対して生存本能が働くなんて、明らかに感覚がバグっている。物騒な話ばかり聞いていたから、そういう制御が壊れてしまっていたんだ。
自分で自分を納得させながら、臓硯が桜と同じく間桐邸に入っていくのを見送る。
そして老人の足が家の敷居を跨いだ瞬間。
「羂索め、気色の悪いことをする」
「えっ、今なんて言い──────」
俺が聞こうとする前に、バタムと大きな音を立てて扉が閉ざされる。
.....ああ、そうだ。これも気のせいなんだろう。
きっと、これは
拭い切れない違和感を直視しまいと、俺は急いで間桐邸を後にした。
感想欄で言及されたので虎杖の現段階のスペックを紹介すると、魔力抜きにした喧嘩なら、言峰相手に粘れる程度です。魔力を使わないバゼットさん相手なら殴り合っても生還は狙えます。
覚醒前主人公の姿か?これが.....
次回、「朝・焦げたトースト」