日間16位まで上がるとは。感謝感謝。
聖杯戦争。
それは、何百年も昔から繰り返される大儀式....いや、儀式には儀式なのだろうが、これをその言い方で呼ぶのは無理がある。戦争という名を冠する通り、参加したからには他の六人を排除しなければならない、生き残りをかけた殺し合いだ。
この冬木の土地には聖杯が在るとされ、それを巡って何度も聖杯戦争は勃発した。その戦火は熾烈を極め、もはや死人が出るのは当たり前。下手をすれば参加者以外の人間、つまりは現地に住む一般人まで被害に巻き込まれた。
奪い合いというだけあって、その聖杯が一体どんなモノなのかを知っている者は先ずいない。とんでもない大魔術だとか、この世の理を破壊する特異点だとか、第一の魔法の亜種だなんていう陰謀論じみた憶測が飛び交っている。聖杯という名前に反して、その扱いは厄ネタに近いものだった。
しかし、現代でも戦争は繰り返し続けられている。
今でも多くの魔術師が、次の戦争の席を虎視眈々と狙っているのだろう。
わざわざ殺し合いの席に立とうなんて、馬鹿馬鹿しい話だと思うだろう。
だが聖杯の能力を知った者は皆、そんな綺麗事は一斉にひっくり返す。
曰く、聖杯はあらゆる願いを叶える願望機だというのだ。
だが、その所有権は一人にしか与えられない。
一つの聖杯が叶えられる願いは一人分。だが儀式には七人の魔術師が必要。
そして都合の悪いことに、一度使われた聖杯は休眠に入る。その期間は平均して六十年と長く、全員の願いを一つずつ叶えるなど夢のまた夢の話。聖杯の奪い合いが始まるのは、時間の問題だったというわけだ。
多くの魔術師が参加した。多くの魔術師が敗れていった。
今まで一度も成功していないのだ、参加者全員が敗北者と言ってもいいだろう。
─────そして私の父親も戦争に参加し、帰らぬ人となった。
『用件を一件、再生します.....私だ。知っているとは思うが、聖杯戦争の期限は明後日までだ。昨日も明後日とは言っていたが、事情が変わったのでな。開催前に一人脱落し、今の空席は三つとなった。協会にコネクションが有れど、流石にマスターを二人揃えるのは手間がかかる。三人なら猶更だ』
固定電話から流れる、留守番電話の再生音声。嫌味ったらしい言葉とは裏腹に、その声の感情は無関心そのものだ。開口一番に本題に入るあたり、向こうも私を一人の参加者候補としか見ていないというところだろうか。
『令呪の兆しは現れているだろう。さっさとサーヴァントを召喚し、令呪を開け。命が惜しいのなら早々に教会に駆け込むが良い』
「.....言われなくても分かってるっての」
再生が終わると同時に、消去ボタンを押して記録を抹消した。あの胡散臭い兄弟子の声を、ふとした間違いで再放送してしまったらと考えるとゾッとする。
「聖杯戦争.....まさか、十年と少しっていうのは驚きだったけどね」
前回.....第四次聖杯戦争が終結してから、僅か十年。聖杯戦争を始めるべく、願望機は令呪の兆候を配り始めた。
令呪とは参加者の資格であり、強力な使い魔であるサーヴァントを従えるために必要な絶対的命令権。聖杯を求める者に優先して配られるという令呪の性質上、第五次聖杯戦争に参加する事を目論んでいた多くの魔術師は不意打ちを喰らったらしい。現を抜かしているからだ、ざまあみろ。
.....後は簡単だ。
遠坂の霊地にある潤沢な魔力を使い、サーヴァントを呼び出して契約する。
その召喚も聖杯がサポートしてくれるため、自分がどうこうする必要は特にない。
もう少しで令呪は開き、私もマスターの一人となる。
焦りはない。後悔も疑念もない。
十年間にかけてイメージしてきた事と、同じ道を辿っているのだから。
「でも.....きな臭いわね。聖杯戦争が開始される前に、一名脱落?召喚し直せる内ならサーヴァントを殺しても、自分が無意味に消耗するだけじゃない。下手人は何を考えてるのかしら?」
炎の中にいた
崩れ落ちる家に、焼け焦げていく人々
走っても走っても、空は真っ赤で、地べたは茶色で
分かっている。これは十年前の記憶だ
その中を、無我夢中で走っていく
走って走って、どこまでも走って
誰も助けられずに倒れる、幼い頃の自分が─────
「──────────」
嫌な夢を見た。
あの火事の記憶は、今でも鮮明に覚えている。どこを走っていたのか、どんな人がどの辺りで倒れていたのか、その時の体温体感そのすべてを、俺は覚えている。これは士郎も同じだと思っていたが、アイツは結構おぼろげになっているらしい。俺より頭がいいのにと思ったが、むしろ頭が良いからなのかもしれない。
「.....そうだ。俺が朝飯の当番だったな」
ペシペシと頬を叩いて気合を入れなおし、まだ誰もいない居間へと向かう。日の出前の空気は冷たいので、そそくさと暖房器具のスイッチを入れていく。まだストーブが退院できていないので、エアコンの風向をキッチン寄りにするのも忘れない。さて、仕込みくらいはしっかりやっておかなくては。
袖を捲り、いつもの二倍増しで調理に取り掛かり────
────その一時間後、虎杖くん特製の朝飯が出来た。そう、出来たのだが。
「........うん」
「........はい」
「うめ、うめ、うめ」
なにやら藤ねえ以外の箸が重い。まさか相当マズかったのか.....いや、藤ねえはバカっぽいがバカ舌ではない。文句の一つも言わずに食えているのを見るに、砂糖と塩を間違えるといった凡ミスはやらかしていないはずだ。一体何が問題なのだろう.....?
「士郎。朝飯、美味しくなかったか?」
「い、いやいや全然?実際すごく美味しいし.....」
「全然箸が進んでないじゃないか。何かやらかしたんなら言ってくれよ」
「うーん.....」
少し気まずそうに目元を伏せる士郎。何を言われるかの見当は全くつかないが、碌な事じゃない気がする。桜に救援を求めるべく視線を投げかけるも、頬を染めてそっぽを向いてしまった。先輩はとても悲しいです。
かけるべき言葉を選び終えたのか、姿勢を正して向き直る士郎。
その目線は真っすぐに俺を捉え────
「あのな、悠仁.....朝からカツ丼はキツい」
「マジか」
「大マジだ」
冷蔵庫の中にあった豚肉、玉ねぎ、そして期限切れ間近の卵。これら全てを有効活用しつつ、弁当もカバーしようとした結果が早朝のカツ丼であった。ウチは朝飯はしっかり食べる家庭なので、別にこの程度なら胃もたれはしないだろうと思ったのだが、配慮が足りなかったようだ。
「その....先輩。お肉は好きなんですが、朝からガッツリとは少し....」
「んー、それは言う通りかもねぇ。桜ちゃんは運動部だけど、思春期の女子なんだよ?色々と気を使ってあげなきゃね、こないだ体重が85キロになってた人は特に」
「ちょ....!!藤ねえ、なんで知ってんの!?」
「ふふん、最近の体重計には記録機能が有るのだ。このゴリゴリさんめ!」
「は、85キロ.....?」
コンプレックスになりそうな所を簡単に突いてくるのはやめて欲しい、最近の教育現場は色々大変なんだから。誤解を生まないように言っておくと、俺の体脂肪率は一桁のため太っているというわけでは断じてない。鍛えに鍛えた筋肉の重みである。
だから士郎、そんな睨まないでくれ。
お前の大胸筋も、いつか大きくなるさ.....多分。
「そもそも悠仁はね、胃もたれってのを勘違いしてんのよ。朝ご飯を食べた直後はもちろんだけど、その後に運動してたら急に来ることもあるんだからね?」
「あっ....それに、三日分の餃子を作ってた記憶も有ります」
「食う量の基準が分からなかったのが原因だったヤツだな。冷蔵庫の中が餃子まみれで、あの時は藤ねえの冷凍庫を貸してもらってたんだっけ」
目の前にご本人がいる時にソレをやられると心が痛むのでやめて欲しい....と言ってやりたかったが、桜と士郎は"キツい"と言っていたカツ丼を手に取り、苦しい顔一つ見せずに口に運んでいった。無理していないかどうか心配になってしまう。
.....ああ。なんだかんだ言っても、この家は温かい。
その一家のためにも、俺も精進していかないとな。
時刻は午前七時過ぎ。
桜は今日は特に忙しいらしく、七時を待たずに学校に行ってしまった。藤ねえも昨日と同様なので、本日は野郎二人での登校だ。今日は手伝いを頼まれているわけではないので、頭の片隅で一限目までの暇の潰し方を考えつつ歩いていたのだが。
「ん、なんだありゃ?」
「警察があんなに......ヤバそうだな」
交差点近くの一軒家の前に、数台のパトカーが止まっている。なにか騒ぎでもあったのか、野次馬の数は十や二十ではきかないようだ。ちょうど昨日通りがかった道で事件が起きていたのかと思うと、背筋に嫌なものが走るのを感じてしまう。
「どうする、ちょっと見てみるか?」
「いや、やめとこう。警察の人の邪魔をしちゃダメだ」
「へーい」
興味は有ったが、士郎に腕を引かれて戦線離脱を余儀なくされた。
時間もそんなに有るわけじゃないし、今は学校を優先すべきだろう。
何か見落としているような違和感を心に残したまま、士郎の後をついていった。
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次回、「宿命の前夜」
虎杖にヒロインって必要?
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要る(士郎とは別ルートのヒロイン)
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要らん(Fate原作重視)
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曇らせるための弾薬なんだろ?(人の心)