Fate/black flash   作:なんか変な色の翼

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tips

ここの虎杖は渋谷後くらいに追い詰められてます。
肉体的ダメージより、精神的なダメージに気を付けましょう。


【分岐】質実剛健

 

 

衛宮邸には立派な道場がある。無論、そういう教室を開いていたりするわけではない。藤ねえなら剣道教室は開けるかもだが、ここが剣道場として使われていたのは切嗣が生きていた間の話だ。

 

そもそも、ここは"ついで"で建てられた施設だというのだから驚きだ。世界中を旅する人間は考えが違う。金銭感覚というものが破壊されているのだろうか。

 

 

「92、93、94.....っと。アップ終わり!」

 

 

腹筋に背筋、腕立て伏せと"取り敢えず"のメニューを終える。そう、あくまで取り敢えずだ。筋力は武道に不可欠だが、筋力だけで悪漢に勝てるかと言われればNOだ。ここまでは前座、そしてここからが鍛錬の本番となる。

 

 

「────よし」

 

 

意気を深く吸い、有酸素運動に備える。

 

全身に流れる血液を脳内でイメージし、その流れを辿って神経を蜘蛛の巣のように張り巡らす。嵐の前の静けさ、躍動の予兆。その全てを感じ取るため、神経を静まり返った夜の道場の隅々まで伸ばし続ける。

 

 

 

氣沉丹田(きちんたんでん)虛領頂勁(きょれいちょうけい)。その我流。

 

 

 

ゾーンと呼ばれる精神状態がある。気を張りすぎず、されども緩めすぎずの絶妙な集中。人間が最高のパフォーマンスを繰り出すのに、最適な内部環境を指す。

 

武術を扱うのであれば、どんなに気が抜けていようと、この状態に一瞬で切り替えることが出来なければならない。戦っている内にボルテージが上がっていくのは当然の事、そのボルテージを一瞬で奮起させる技術を扱えなければ、その技を十全に使いこなせるとは言えないだろう。

 

 

すぅ、と羽衣をはためかせるように腕をしならせる。筋肉の強張りを解き、それでも制御下におく絶妙な力加減。今の腕は腕としての役割を果たしていない。言わば、これはレーダーの一つだ。全身を耳にし、空間を把握して即座に反応できる構え。

 

その名を聴勁(ちょうけい)。虎杖悠仁が十年近くかけて極めた技の一つだ。

 

 

目を閉じていても外の景色が見え、背中側の様子も手に取るように分かる。空気の微かな流れを察知して標的を捉えると、目より早く物を見て、耳より早く物を聞く事が出来るのだ。おかげで、大人数と喧嘩をする事になっても苦戦することは無い。

 

 

 

「────里、合、脚!」

 

 

右足を軸としつつ、左足で円を描くように蹴りを放つ。柔軟を積み重ねてきた甲斐もあり、その動きにぎこちなさはない。やはり自分には、こういったフィジカルに頼ったやり方が向いている。

 

 

「そっから中段────で、旋蹴り!から、三段!!」

 

 

膝を曲げてから即座に中段蹴り、軸足を変えつつ往復蹴りを交え、そのまま三段蹴り。

 

傍から見れば分かると思うが、俺の武術に流派というものはない。組み手をしてくれた藤村組の男衆とか、ときどき藤ねえとかの技を目で見て盗んで、それらを無理やり合体させたキメラ躰道だ。明らかに繋げない技でも身体を鍛えればゴリ押しできるし、技を覚えては体を鍛える、という無限ループも中々悪いものではなかった。

 

 

「うっし、次は躰道を......んん?」

 

 

ふと右手を見てみると、痣のようなモノが出来ているのに気づく。青タンとかではなく、蚯蚓腫れに似た赤い痣だ。しかし妙な事に、そこから少し血が垂れていた。ぶつけただけで出血とは変な話だし、集中していたとはいえ痛みを感じないのは変だ。

 

 

「....冬場だし、乾燥したのか?」

 

 

不思議な痣もあったものだ。手首の内側に忍び込んだ蛇が肩を目指しているかのようで、少し不気味ですらある。そういや昨日は上裸で寝てたし、ちょっと身体に負担がかかってるのかもしれない。

 

しょうがない、今日くらいは布団の中で寝てやろうじゃないか。

少し湿った道着を脱いで肩にかけ、風呂に直行する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

翌朝。ゆっくり睡眠を取ったおかげか、いつもより身体は軽快だ。士郎の作った和風の朝食を堪能し、藤ねえとふざけ合って、と毎日のルーティーンを繰り返す。核家族化というものが問題視されていると家庭科の授業で習ったが、ウチには縁遠い言葉だな。

 

 

 

 

「だからそのっ、遊びに行くとかじゃなくて!本当に個人的な用事で来られなくなるだけで、ちゃんと部活にだって出るんですから!だ、だから何かあれば道場に来てくれれば何とかしますから!」

「???」

「おーい、そろそろ玄関から出てくれないか?カギ閉めたいから」

 

 

もはや見飽きた夫婦漫才を横目に、今日も元気に登校する。

 

今日は土曜日なので午前中授業。朝から登校するのは面倒だが、バイトも何も入っていないので家でゴロゴロしたり、夕方は藤ねえに稽古をつけてもらったりできる日でもある。筋肉痛を気にせずに全力運動するのは気持ちがいいので、日曜よりもお気に入りかもしれない。

 

 

「だからヘンな勘違いはしないで貰えると.....」

「どしたん士郎、喧嘩か?」

「いや、桜が月曜まで来られなくなるってさ。それで大丈夫だって言おうとしたんだけど」

 

 

桜は引っ込み思案というか、自分の事情を説明するときに挙動不審になる事が偶にある。にしても、今回のは大分極端だ。もしや彼氏ができて、二人きりでデートにでも行く予定が有るのだろうか。そうでなくとも、いつも衛宮家で過ごしてるんだし。たまには友達と遊びに行くべきだと先輩は思います。

 

 

「あうぅ.....」

「あー、大丈夫、桜にも事情が有るのは理解したって。取り敢えず学校行こうぜ?」

「あうぅぅ.....」

「.....士郎助けて」

「すまん。俺にも無理だ」

 

 

駄目だ、俯いていじけてしまった。というかデジャヴを感じるんだが。

どこかで似たような事が有ったっけな.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────すまないな、二人とも。礼はまた今度、必ず」

「おう、またな一成!」

「じゃあ、また月曜だな」

 

 

.....まさか生徒会の手伝いが舞い込んでくるとは、この悠仁の目を以ってしても見抜けなかったぞ。TAMAYAから借りてきたビデオのレンタル期限は明日なのだが、こりゃ借り直しをする羽目になりそうだ。生徒会の繫忙期、許すまじ。

 

 

「もう六時くらいか。晩飯どうする?」

「いや.....実は慎二から弓道場の掃除を頼まれてて....」

「マジか!?」

 

 

申し訳なさげに頭を抱える士郎。それにしても美綴ではなく慎二からか。性格が複雑骨折しているアイツの事だ。どうせ頼み事なんて嘘で、職務怠慢と士郎への嫌がらせのアンハッピーセットだろうに。士郎の責任感の強さには脱帽するが、もう少し相手は見て欲しい。

 

 

「悠仁は先帰ってて大丈夫だ。弓道場の手入れは慣れてるし.....」

「いや、手伝うわ。また門限で藤ねえに怒られるのも嫌だしな」

「.....そうか、悪い」

 

 

こないだネコさんに怒られてた原因が分かった気がする。こういう風に安請け合いをしすぎると、周りから便利屋というより都合のいい人として認識されてしまうんだろうな。一成みたいな実直なヤツならまだしも、相手の事も考えなければ.....うん、俺も頭では分かってるんだけどな。その気持ちは分かるぞ、士郎。

 

 

「そんじゃ、鍵を......?」

「ん?どこ見てんだよ、士郎」

「ああいや、何でもない。俺は鍵を取ってくるから、悠仁は弓道場で待っててくれ」

 

 

はぐらかすように話を切り上げ、鍵を取りに走り去っていく士郎。今朝の桜くらい挙動不審じゃないか、一体どうしたんだか。確か、運動場側の窓を覗き込んでたような....

 

 

「ん.....あれ、遠坂か?」

 

 

体操服で片づけを始めた運動部の生徒の中に、制服姿の女子が一人だけ紛れ込んでいた。遠くから見てもよく分かる風貌に髪型、アイツは遠坂凛だ。確か帰宅部だって聞いてたんだけど、なにか用事でも有ったのだろうか。案外、陸上部の見学だったりして。

 

 

「つーか、士郎....もしかして遠坂の事が好きなのか?いや、別に人の恋路に口出しする気はないんだけど。そういや、昨日も変なこと言ってたし」

 

 

アルバイトの帰りにビルの屋上を見上げると、そこに私服姿の遠坂がいた....とかいう話を聞かされたのを思い出す。なんでビルの屋上に遠坂がいるのか、なんで昨日は休んでるはずの遠坂が私服姿で街をうろついていたのか、と聞きたいことが山のように有ったが、士郎も思春期なんだと納得して追及しないことにした。

 

でも流石に怖くなってきたな、士郎が危ないストーカーになってしまうかもしれん。身内から犯罪者が出る前に藤ねえあたりと相談して、第一次家族円卓会議でも開催するのがベストだろうか。

 

 

「って、いかんいかん。弓道場に行かなくっちゃな」

 

 

覗き込むために開けた窓を閉じ、廊下を小走りで駆け抜ける。

せめて、藤ねえが帰ってくるころまでには終わらせたいものだ。

 

 

 

 


 

 

 

 

「これでラスト.....うし、終わったぁ!」

「お疲れ、悠仁。お陰様で助かったよ」

 

 

弓道場の手入れを漸く完遂し、ツルツルの床に身体を投げ出す。弓の手入れだとか小難しい専門業務は士郎に任せ、俺は端から端まで雑巾がけだのモップ交換だの、そういう雑務をひたすらに担当した。掃除の教育が行き届いていないのか、用具入れの裏とか着替え場とか、藤ねえに見つからないような場所に汚れが溜まっていた。帰ったら藤ねえに告げ口してやろうか、あの髪質ワカメ。

 

 

「いや、待て。今は何時だ?」

「時計はそこに.....八時ちょいだな」

「ヤバくね?」

「ヤバいな」

 

 

どうやら告げ口して困るのは俺らの方らしい。バイトの日であれば兎も角、午前中授業の日で門限を破ったとなれば大目玉もいいところだ。六時までには帰りましょう、なんて言われた次の日にコレ。下手をしたら日を跨ぐまでお説教されるかもしれない。

 

 

「.....うし、士郎。今晩は外食にしよう。ちょうど、こないだのバイト代が有る」

「アリバイ作りか、いいな。今日はちょっと贅沢してもいいだろ。命のためにも」

「そうだなそうだな、そうしよう」

 

 

うんうん、と二人で相槌を打ちながら弓道場を出る。扉を開けた瞬間に木枯らしが吹きこみ、下手くそな口笛を吹くような音が木霊する。この辺りは冬場も暖かい方なんだが、今夜は一段と冷えていた。

 

 

「さっむ。鍋とかどう、鍋。もしくはカレーとかも」

「カレーって言うほど温まるか?ラーメンとかも良いと思うぞ」

「じゃあ家系ラーメン行くか?次の日の腹が地獄だけど」

「悠仁で地獄なら俺は即死だよ。やっぱり、あっさり系の胃に優しいモンで頼む」

「じゃあカツ────」

「却下」

「なんで!?」

 

 

月の光が見えないので、電灯を頼りに校門へと歩いていく。門限を過ぎて、人の気配のしない学校には熱気というものがない。俺たちの声以外に雑音一つもない敷地のせいか、より一層寒気が増している気がする。冬服越しでも鳥肌が立って、いつもより感覚が敏感に────

 

 

 

 

 

 

 

 

────────誰かいる

「え?」

 

 

背後から人の気配がする。そう近くはない。すぐ真後ろとかじゃなくて、もっと遠くだ。振り向いて辺りを見渡してみるが、校舎の近くに人影はない。運動場も同じだ。だが、気取り違いなんてことは有り得ない。この校舎の近くに絶対に....いや、そうか!

 

 

「士郎、屋上だ!」

「屋上って.....ッ!!?」

 

 

屋上に備え付けられた給水塔の上。そこには、薄暗い夜の中に溶け込んでしまいそうな、深い群青の鎧を身につけた男がいた。身長は目測で180と少し、無駄のない肉付きの良さに恵まれた体形が遠くからでも見て分かる。俺たちが風下にいるからか。校舎から吹き降ろされた風に、獣に似た何かが乗って伝わってきたような気がした。

 

理屈は知らないが、第六感で分かった。アレは、良くないモノだ。

本来、人間が当たり前の人生を過ごす中では、絶対に出会わないモノだ。

いや、出会ってはいけない(・・・・・・・・・)モノだ。

 

だって、ほら。

目を合わせてすらいないのに、俺はあの男が恐ろしい──!!

 

 

「ゆ、うじ。あれ、あれ見ろ」

「分かった、分かってる。早くここから」

「遠坂が────」

 

 

 

屋上に向けて、もう一度目を凝らす。

 

そこには、先ほどと変わらずに蒼い獣が給水塔の上に立っていて。

 

その視線の先には、さっき見たばかりのクラスメイトがいた。

 

 

 

 

 

「.....ッ!!士郎は先に行ってくれ!!帰ってこなかったら直ぐに警察!!!」

「ば、馬鹿!お前────────」

「説教は帰ってから聞く!!!」

 

 

頭の中でスイッチを切り替え、脚部から恐れを全て排出する。長年の成果か、未知への恐怖で竦んでいた両脚は直ぐに戦闘態勢へと切り替わった。よし、これなら問題ない。最短ルートで屋上に行ける。

 

 

「いち─────」

 

 

男の腕が上がる。

 

今まで何一つ握っていたその腕には、深紅で染められた二メートル近い凶器が出現していた。形状は棒....いや、槍か。僅かに金属特有の光沢を放つソレは、明らかに練習用の木刀や竹刀とは違う用途のために作成されている。

 

アレは相手を打ち負かすための武器ではない。

相手を打ち殺し、刺し殺すための武器だ。

 

 

「にの───────!」

 

 

イメージする動きは走り高跳びだ。不安は残る。なにせ今まで、俺は全力で身体を動かすという機会に恵まれていなかった。ここまで踏ん張りながら力加減をするのには慣れていないし、下手をすれば大怪我だ。

 

それでも、絶対に出来ないわけじゃ無いのは感覚で分かる。こういうのは俺の特技だ、ぶっつけ本番でも割とイケる。普通は無理な事でも、土俵に上がれさえすれば案外出来てしまう。そう思い込むことにしよう。

 

 

男の腕が振るわれる。

紅色の軌跡が、容赦も無く遠坂に襲いかかる。

 

ここから屋上までは十五メートル。

律儀に階段を登ってたんじゃ間に合わない。

 

それなら───────!!!

 

 

「────────さん!!!!」

 

 

利き足で地面を全力で踏み込み、腿と膝の筋繊維を余す所なく駆動して蹴り上げる。作用反作用の法則に従って俺の身体は空高く上がり、急発進した自動車のような加速度で屋上へと突き進む。

 

簡単な話だ。屋上まで走って追いつけないなら

屋上まで飛べば(・・・)いいんだろ!

 

 

「そ────オラァッ!!!!」

「うわっ、誰......って!虎杖君!?」

 

 

落下防止用のフェンスをブチ破り、勢いを殺すために一回転しつつ体勢を整える。良かった、遠坂は無事だ。アイツが何かする前に、早くここを離れなければ。

 

 

「無事なんだな!早く逃げろ、アイツは───」

「馬鹿、後ろ!!」

「は?うし────」

 

 

漸く気づいた。アイツは、いつの間にか給水塔の後ろから姿を消していた。そんな素振りも物音も一切感じさせず、俺の視界からアイツは消えていた。

 

代わりにするのは、後ろからの猛烈な殺気。恐らく遠坂ではなく、未知の乱入者である俺を殺そうとしているのだろう。振り返るまでもなく、アイツが槍を構えている姿が想像できた。

 

 

どうする、考えろ。このままじゃ犬死にだ。

俺が死ねば遠坂も殺される。考えろ、頭を回せ。

 

十年間も何をしてきた!何の為に努力を積み重ねてきた!

今がそうだろ!考えろ、考えろ、考えろ、考えろ!!

 

絶体絶命くらいで怯んでる場合か!身体を動かせ!

 

俺は──────

 

 

 





アンケによって行動が変わります。
虎杖の気持ちになって考えて下さいな。

あっ、虎杖in月姫リメイクverも製作中です。
これが終わったらやってみようかな。
でもブルアカの虎杖先生もやってみたいんよな.....

絶体絶命で怯んでる場合か!俺は────

  • 前に跳んで、槍を避ける
  • 一か八か、槍を掴む
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