Fate/black flash   作:なんか変な色の翼

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tips

呪術の虎杖と違い、ここの虎杖は十年の修行期間を積んでいます。並のマスターとの戦いであれば、地雷でない限り安心して送り出しましょう。


【分岐】誰かのために

 

身体、動け、身体を動かせ、動いてくれ。

あの槍を避けなければ、即死だ。絶対死ぬ。殺される。

 

前に跳ぶか?いや、距離が足りない。

相手の得物は槍。それじゃ背中を突かれて死ぬのがオチだ。

 

そもそも遠坂を助けに来たんだろう。

当たらなかったとして、逃げ出すなんて有り得ない。

 

 

ならば答えは一つ。

今すぐに振り返って、その槍を受け止める!

 

 

「──────ガ、ァァァァァ!!!」

「おおっ、マジかよ!」

 

 

薄皮と肉を破り、骨を割られる寸前で槍を掴む事には成功した。槍が突き立ったのは右胸の真上。背中を向けたままだったら、ちょうど心臓を刺し貫かれていただろう。だが安心はできない。命のやり取りは始まったばかりなのだ。

 

 

「ぐっ......くっ、そ!」

「褒めてやるよ。だが、こっからどうする?」

 

 

槍が押し込まれる。膂力は互角、全力で拒絶すれば槍が心臓に刺さることもないが、それに集中していては払い除ける事などできやしない。それに此方は顔をしかめるほどに力を入れているというのに、向こうは笑みを浮かべている。このままではマズい、早く槍を────いや、違う。

 

 

「押してダメなら────!!!」

 

 

力の入れ方を変え、今まで踏ん張っていた足で屋上の床を蹴り潰す。槍で突かれていた力も加わったのが良かったのか床はウエハースのように割れ、重力に従って身体は下の階へと投げ出された。

 

身体を起こして屋上からの気配を感知する。これだけやったら遠坂に標的を変えることはないはずだ、このスピードで一転集中の攻撃パターン、砂埃の向こうからの攻撃は────頭部を狙った突き!

 

 

「────あぶねぇ!」

「ほう、よく躱す。心眼でも持ってんのか?」

「ンなモン知らねぇ.....よッ!!!」

 

 

後ろに跳躍して突きを躱し、槍の穂先が下を向いている隙を狙って殴りかかる。あの槍は両刃ではない。片方は剣の刀身が丸ごと移植されたような形をしているが、もう片側はレイピアのような形になっている。

 

つまり、密着してしまえば気を配るのは片側の刃だけで良いという事だ。もう片側の針では頭を刺されない限り即死する事はない、と信じたい。

 

 

一撃、二撃と拳を放つ。その度に的確に受け流され、いとも簡単に躱されていく。今はそれでいい、槍を構えさせる隙を与えずに追撃を加えていけ。

 

コイツのスピードとパワーは凄まじいが、全く相手にならないってわけじゃないはずだ。問題は得物を持っているという事、そのアドバンテージを殺しつつ、コイツが隙を見せるまで殴り続けるんだ。

 

 

「いいねぇ、お前みたいなヤツは嫌いじゃないぜ」

「勝手に言ってろ!」

「惜しいなぁ。もっと別の形で会いたかったんだけどよぉ!」

 

 

ボディを狙った一撃、軽くいなされる。頭部を狙った上段蹴り、片手間でさばかれる。どれだけイメージを凝らした攻撃でも、変幻自在な守りによって全てが無意味にされていく。コイツ、基礎能力だけじゃなくて技術まで超一流かよ!

 

 

「攻撃も悪くねぇ。んじゃ、しっかり気張れよ」

「──────ッ!!」

「飛べ」

 

 

夥しい殺気を感じ、反射的に後ろに跳躍する。次の瞬間、ヤツの蹴りが十字に身体を守っていた両腕に直撃した。テニスボールのように俺の身体は吹き飛ばされ、廊下を数回バウンドして漸く止まった。

 

今のはヤバかった、下手に踏ん張ってたら両腕が千切れ飛んでいたかもしれない。というか今の一撃は.....

 

 

「....."魔力"?」

「魔術の知識も有るのかよ。なんだ、あの嬢ちゃんの協力者か?」

「違ぇよ、ただのクラスメートだ」

「へっ、恋人でも協力者でもねぇのに(タマ)張るってか。泣かせるねぇ」

 

 

....そうだ。確実に、今の一撃には魔力が乗っていた。コイツが何者なのかは分からない。そもそも人間かどうかなのかも微妙だし、こんな現代日本の真ん中で槍をブンブン振ってる時点で色々おかしい。正しく、正体不明の刺客だ。

 

でも、これだけは言える。

コイツは、虎杖悠仁(オレ)よりも強い!

 

 

「そんじゃ、精々足掻きな!」

「ちょ、待」

 

 

"待て"という暇も無くヤツは槍を構え、空に向かって槍を突き出した。その次の瞬間、俺の右耳スレスレを魔力の塊が弾速で通過して、廊下の奥の壁を砕く。冗談じゃない。ただでさえ得物でリーチが長いってのに、飛び道具まで有るのかよ。

 

 

「そら、避けれるモンなら避けてみな」

「避けれるかよ.....!!」

 

 

悪態を付きながら、ヤツの槍の穂先を見つめる。魔力による砲弾の速度は....多分、俺が反応できる速度をギリギリ超えてるくらいだ。避けられる確率は運も込みで五割、残り五割は腕や腹に当たれば御の字だが、急所に当たれば一撃で戦闘不能になってしまう。勘が外れて頭にでもくらえば、まず死ぬだろう。

 

 

.....落ち着け。俺の勝利条件は、屋上にいる遠坂が逃げる時間を稼ぎ切る事だ。何の事情が有るかは知らんが、夜にコソコソ動こうって腹のヤツだ。まさか人の多いところでドンパチやろうってほどイカれてはいないだろ。

 

なら、やる事は一つだ。

 

 

「ほう?」

 

 

両足で垂直にジャンプし、わざと隙を見せる。五割の確率で身体に当てられるのならせめて、どこに当てられるかはこっちで決めさせてもらう。五割の安牌を取るくらいなら、一割のロシアンルーレットに全てを賭けろ。常に命を張ってなきゃ、コイツから時間をもぎ取れない。

 

 

「いいぜ、乗って(殺して)やるよ!!」

「────!!」

 

 

両足が地面に設置する寸前に魔力が打ち出される。狙う場所は二択、心臓か頭だ。この速度なら....よし、躱すことは不可能。音速ならまだしも、弾丸の速度は俺でも対処できない。速度ってのは重さと力の集合体だ。

 

数センチの銃弾ですら人間を殺せるってのに、バレーボールみたいな砲弾なんてオーバーキルにも程がある。

 

だが、狙っている場所さえ分かれば───!!

 

 

「────マジか」

「左腕一本で、引き換えに......!!」

 

 

左腕の肘で心臓、手首で頭部をガードする。結果はドンピシャ、肘と手首、更に首元をガードしていた中央部から肉が削ぎ落とされた。この程度なら大丈夫だ。近接戦が多少不利にはなるが、その分は足で補えば良い。

 

ヤツの懐を目指して走る。距離は離されたが、この程度なら一瞬だ。問題は槍のリーチだが、刃にさえ触れなければ骨が割れるだけで済むはずだ。何を今更、頭以外なら全て許容範囲。

 

今の間合いは五メートルで、向こうの凶器は二メートル。残った三メートルで加速を付け、危険区域(レッドゾーン)を一瞬で駆け抜ける!

 

 

「馬鹿が、片腕で挽回できるかよ」

 

 

凶刃が奔る。狭い廊下の壁をスライスしながら横に振るわれた一撃を、スライディングの体勢となって躱す。普通の相手なら槍なんて長物を持っている以上、俺より身体能力で上回っていたとしても、向こうは俺を近寄らせたくないはずだ。

 

だがそんな定石はコイツには通用しない。攻めの槍なんていう異色のスタイルの持ち主だ。次の瞬間に、俺の予想外の行動を起こしてきても何もおかしくはない。

 

そもそも、俺とコイツが同等の業の使い手であっても、武器を持たれてる時点で勝負の天秤なんて簡単に振りきれる。加えて、相手に自分の技まで熟知されていては徒手空拳(グラップラー)に勝ち目なんてない。それでも隙を生み出そうというのなら、相当な奇策が必要になる。

 

 

「よく逃げたが、これで詰めだ!」

「────ッ!!!」

 

 

もう次の攻撃態勢に入られた。あの槍には"退き"の隙が無い。一度突き出された槍を戻すまでの所要時間が限りなくゼロに近いんだ。だからこそ、俺が狙うのは攻撃を放った直後ではなく、必然的に攻撃を放っている最中(・・・・・・・・・・)になる。ああ、自殺行為もいいところだ。奇策を放つために相手の定石に飛び込むなんて。

 

 

 

これは賭けだ。

 

次のアイツの一秒と

 

今までの人生につぎ込んできた一生全部。

 

どっちに勝利の女神がほほ笑むかという

 

命を天秤に乗せた、一世一代の大勝負。

 

 

 

体勢を起こして右手を構える。それに対し、ヤツも槍に魔力を込め始めた。これで俺に逃げ道は無くなった。この距離じゃ、魔力で高速化した槍を躱すのは困難。まぐれで躱せたとしても、魔力による衝撃波はどうしようもない。離れすぎたら圧殺され、近づきすぎれば全身打撲で肉塊になる。

 

ならば、俺も同じ土俵に上がってやればいい。

 

 

「.....!テメェ、今さら魔力を使うか!!」

 

 

右腕に魔力を込めたのを見て焦ったな。一瞬だけ槍が迷い、狙いがやや上に逸れた。心臓を狙って放たれたであろう一撃は空を切り、俺の制服の肩口を切り裂いただけに終わった。それも一瞬の話だ、次の瞬間には第二撃が来る。だが、それだけ有れば俺の拳をヤツにぶち込むには十分だ。

 

 

「────いける!!」

「調子に乗るなよ、たわァァァァッ!!?」

 

 

槍を手放し、無手となった二本の腕がガードの構えを取る。ここまで来ると惚れ惚れする。俺が一回殴るまでの間に、コイツは槍を繰り出し守備の体制を取るという二つの工程を高速で果たしているのだ。単純な戦闘速度は俺の倍以上か。

 

しかし時間が無かったせいで定石に戻ったな。

俺が殴ったのは、その戻された腕の方だ。

 

胴体か顔面への拳の軌道を読んでいたのか、俺の右拳は吸い込まれるようにヤツの右腕に的中した。魔力を込められてステンレス鋼のように硬化された右手は、そのまま受け止めた右腕の骨を数本砕き、勢いだけで三メートル近くヤツを後退させる。

 

 

「......やるじゃねぇか。魔術はてんでダメだが、よく動く」

「上から目線にどうも。舐めるのも大概にしろよ」

「腕を潰し返して引き分け(イーブン)だと思ってんのかよ、青二才」

 

 

槍を取ろうとする気配はない。当然だ、あんな長物を片手で両腕の時と同じ精度で振るえるのなら、化物にも程がある。あくまでコイツは人型、その動きは人間の可能な範疇に収められるはずだ。右腕の骨を飛ばした今、アイツは左腕を活かせるステゴロで戦わざるを得なくなっている。

 

今の俺の持ち札は....さっきの反動で麻痺しかけた右腕、上がり気味の息、さっきから出血しっぱなしで朦朧としてきた頭に両足。そして、あと一発打ち込んだら千切れ飛びそうな左腕。

 

 

「─────来いよ」

 

 

右腕で"来な"と挑発した途端、あい分かったとばかりにヤツの飛び蹴りが頭部を強襲し、避け損ねた頬をかすって血が吹き出す。だが、先ほどの槍よりは死の気配を感じない。拳を叩きつけるのなら、今が絶好にして最後の機会だ。

 

 

魔力の込めた右腕でヤツの腹にボディブローを叩き込む。次の瞬間、金槌で殴りつけられたかのような裏拳が俺の頭部に入る。

 

後ろに倒れ込むと見せかけ、追撃に身を乗り出したヤツの顎に上段蹴りをお見舞いする。その次の瞬間に胴体に蹴りを貰い、俺はサッカーボールのように廊下を跳ね回る。

 

 

ああ、まさしく泥試合。だがこれでいい。

ダメージが蓄積しているのはお互い様だ。

 

ここから勝機を待って─────

 

 

 

悪いな、遊びは終わりだ

「─────え?」

 

 

 

顔つきが変わった。

ヤバい。完全に実力を読み違えた。

 

ダラダラといなしておけばいいものを

入れてはいけないスイッチを入れてしまった。

 

 

すぐさま防御姿勢を取る。どれだけヤツが速かろうと、絶対に後手にならないように全神経に気を張り巡らせて、全身で殺気を感知する。

 

だが、何故だろう。頭を打たれたからだろうか。

ヤツの殺気が、俺の足元(・・)からするような気がするのは──

 

 

(アンサズ)

 

 

それは何かの呪文だったのか。今までの生活の中で、一度たりとも耳にした事のない一句が、ヤツの口から発せられた。高まる地面からの殺気に、今いる階の事など気にもかけず、俺は窓から外へと飛び出す。

 

 

そして次の瞬間。

 

俺の身体は、爆炎に包まれた。

 





人間の身で魔術も用いず、兄貴の右腕を潰してルーンを使わせてる時点で虎杖は異常です。殺さずの令呪が有るにしろ、ケルトの大英雄ですからね。

ちなみに虎杖の筋力はリズより少し強いくらい。
サーヴァント基準だとBランクです。ヤバいね。

次回、「赤、紅、赫」
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