バカとテストと召喚獣〜The Another Story〜 作:ぷろとうぃんぐ
翌日、Bクラス戦2日目。これ以上長期戦になるのも癪だから、今日で勝負をつけたいところ。
眠い目を擦りながら学校に登校するやいなや、坂本君がいきなりこう切り出した。
「翼、蓮。いいところに来たな」
「………ん、んー……?」
「……翼は今低血圧だから私が代わりに聞くわ。何かしら?」
「ああ。それが、昨日お前達が帰ってからややこしいことが起きてな」
「何よ、朝から物騒な話してるわね」
「……おーはよーございまーす………」
私達に続いて、蘭さんや鳥花さんも教室に入ってくる。鳥花さんに至っては目が開いていない。私と同じ低血圧なのかな。
朝型より夜型の人、最近増えてるんだよね。分かるよ。私がそうだもん。
「で、緊急事態?」
「軽くな。実は昨日Cクラスに不穏な動きがあると聞いて、協定を結びにいったんだが………」
「ええ」
「……CクラスはBクラスと同盟関係にあるらしい。組んでいやがった」
「Cクラスが………?また何で」
「両方、性根が腐ってるからでしょ」
蘭さんや、それは言い過ぎでは。
でも、坂本君は特に今の発言について補足もないまま話を続ける。
「似たもの同志だからだろ。それだけ俺たちに存在を疎ましく思っているようだ。だから------------」
「だから?」
「--------今からCクラスをけしかける」
そう言って自分の鞄から自分の学校のブレザーを取り出す。大きさは私と同じくらいかな。
でもそれを何で坂本君が持ってるんだろう。繋がりとかあるのかな。母親がここの出身だった、とか。
「これを秀吉に来てもらい、こいつの双子………木下優子に成りすまし、Aクラスの使者になってもらいたい」
「別に構わんが………」
「そこで、だ。東雲。蓮。万が一の為について来てくれないか?そこの馬鹿とムッツリーニも含めてだが」
「誰が馬鹿だよ!!」
うん、確かに変装も含めてバレる可能性は確かにある。
低血圧の真っ只中の私と鳥花さんがついていっても、お荷物になるだけなのだろう。
合計6人の人が教室から出て行ったのを見届けると、大分覚醒してきたので、情報屋鳥花さんに聞いてみる。
「ねぇ、木下さんのお姉さんってどんな人なの?」
「う〜……あんまり会ったことがないからわかりませんがぁ………一言で言うならぁ………性格はサバサバ系シブヤギャルみたいなぁ………」
「………想像つかないんだけど」
「秀吉さんの真反対の性格れすよ〜……ひひっ……あへ、あれれす。妙に堅物な……ひっく……うい〜…」
「………ねぇ。鳥花さん。酔ってない?」
「酔っへ〜ないえすよ〜…?ひっく」
……安全に酔ってる。低血圧の症状とは違うこれ。鳥花さんのことだから、牛乳と酎ハイを間違えて飲んだとか。
そうだとしても、親が多分黙ってないよね………ちょっと色んな意味で覚醒してる。
しかもそれ、どんな性格なの?
しばらくして、意気消沈した彼らが戻ってきた。一体何があったの。
「どうしたの?失敗した?」
「いや………完璧なまでに成功したんだが……俺は1つ、重要なことを見落としていた………」
「えっ?」
「今のを本人に聞かれたら………マジ切れするでしょうね………」
「どんな内容なの………」
「『静かになさい!この薄汚い豚ども!!』から始まったわ………」
「………それはまずいかもね」
生唾を呑む私。思ったより事態は深刻そう。
「過ぎたものは仕方が無い。折檻されればそれまでのことじゃ………」
「誰も気付かなかったとは……くそ、盲点だった……!!」
「で、挑発は………」
「……うまいくらいに成功して、目も当てられないわよ……」
ああ、だから問題なのか。
とにかく、Bクラス戦まであと5分を切っていた。まずはこの厳しい戦いを終えてからだよ。
「壁と扉を上手く使うんじゃ!決して戦力を広げさすでないぞ!」
木下さんの命令が飛ぶ。今回の坂本君からの指令はこう。
『Bクラスの連中をそのまま抑えておけ』
その命令通り動く副隊長の木下さんだけど、ここで誤算が1つ発生していた。
前線部隊の隊長である姫路さんが、昨日とは打って変わって、全く動こうとしない。
私は待機組だったけど、滞っていると聞いて前線へ派遣された。
ここは戦場。尚且つ隊長がオドオドしっぱなしっていうのは、問題がある。
何を言っても謝罪か、「あ、え、その………」の一点張り…………大丈夫なんだろうか。
慌ててフォローに入ろうとした時、私は姫路さんの目線をおった。彼女が見ていたのは、戦況ではない。
うすら笑みを浮かべる少年の姿だった。
「ん………?」
私は目を凝らして少年の手に持っているものを見やる。それは、手頃な大きさの封筒………白いウサギのシールで封止めまでしてある。
…………脅迫されてるの、彼女は……?
て、ことがあれがBクラスの代表……?
姫路さんがあれを見て動かない以上は、恐らくあの便箋は彼女のものなのかな………誰かに渡すつもりだったけど、彼に奪われて、それをダシに脅迫されてて、下手に攻撃が出来ない………
その封筒は姫路さんにとって、よっぽど大切なものなのだろう。
「………く………!!」
私は踵を切り返すと、教室まで走った。扉を開けると、そこには坂本君と吉井君が居た。あとの人は出払ってしまっているようだ。
「……小林もこいつと同じ用か?」
「翼、でいいよ坂本君。それよりも………」
「分かってる。奴らセコいことばかり思いつきやがる………!」
ギリリ、と歯を食いしばる坂本君。相手の策略が気に入らないのだろう。
それもそっか。相手は非合法の行動をとってくる。勝利の為にはどんなことでも躊躇いなく行動に移してきそう。
………気に入らない。
「だが、そうなると姫路が通常担うはずだった作戦を誰が別の奴が代役をしなければならないな………」
「吉井君は坂本君にどういう提案をしたの?」
「『姫路を作戦から外すこと』と-------『根本の制服をパクる』ことだ」
吉井君に一体何があったんだろう……これからの人生に影響しそうなんだけど。
「違うよ翼さん!誤解だからそんな僕から距離を取らないでよ!」
「……分かってるよ。姫路さんが盗られたあの封筒を取り戻したいんだよね?」
「……ふん、こいつは器用なんだか、不器用なんだか……ただの鈍感かもしれないが」
坂本君は小声で言う。
ただの鈍感じゃないよね。鈍感だったら、そんなことまで考えない訳だし、まず、気付かない。
「だが、これで人材が来たな。お前が担うはずだった奇襲を、翼。お前に任せる」
「奇襲?」
「ああ。さっきも言ったが、姫路がこの役をするつもりだったが、タカが外れた。だから、姫路よりも上回る力を持つ翼にやってもらう。大丈夫だよな?」
「……うん。任せて」
私は力強く頷いた。この際仕方が無いんだよ。今の姫路さんじゃ、多分失敗する……!!
吉井君もコクリ、と頷く。
「ありがとう、雄二。こんな無茶な提案を飲んでくれて」
「正直、俺たちには全くメリットもない。デメリットだらけだ。だが……このままあいつに無茶をさせるわけにはいかない、だろ?」
「………うん!」
「よし、それでだ、翼。お前にやって欲しいのは、タイミングを見計らって根本に攻撃を仕掛けろ。科目は問わない。とにかく奇襲を入れてくれ」
「当然、皆のフォローは、なしだね?」
「ああ。作戦上大幅に狂ってるからな。しかも、教室の状態もあのまま……つまり1VS1の状態だな」
今は前後2つずつの扉で、タイマンを張っている状態。この方が都合がいいらしい。
奥にいる根本……Bクラス代表に近付くには、個人の圧倒的な力量が必要になる。
私の、私の力なら何とかいけるかもしれない……!
「分かった。やってみる」
「頼んだぞ………俺が合図を出したら早く扉に突っ込んで欲しい。どれだけ早く根本の元まで行けるかが鍵になるからな」
成る程ね、スピード勝負ってことか。生憎スピードには自信がある。何とかこの作戦、成功させないとね。
教室を後にする私と吉井君。フォローはないと言ってたけど、吉井君も参戦してくれるみたいだ。
そして……未だ躊躇している姫路さんに声をかける。
「姫路さん」
「よ、吉井君?翼さん?」
「……具合が悪そうだからあまり戦線には加わらないようにね。まだAクラス戦があるんだから」
「は、はい……」
「それじゃ、僕たちは行くね」
「あ……!」
姫路さんは何か言いかけたけど、あえて言わない。
姫路さんからすれば、多分私たちが真実を知っていることは気付いてないはず。ここは、あえて刺激しないでおく。
「私が他の人を引き付ける。その隙を狙って
「大丈夫……なの?」
「うん、多分ね……無事は約束出来ないけど」
作戦決行は3時。後の10分間はBクラスの隣……空き教室へと姿を隠して、いつでも突入出来るように準備しておく。準備は万全にしておかないとね。
「……翼さんも、ありがとね」
「ん?」
「こんな無茶な作戦に協力してもらって………」
「……何言ってるの?私は協力したいからしてるだけだよ。それに……」
「それに?」
「……私は、誰かの為に自分を犠牲にしてまで行動する人………好きだよ?」
「………え……」
私は、そう吉井君に微笑む。
誰も、やはり自分の身を第一に考えると思う。命あっての物種なわけだし、死んじゃったらどうにもならない訳だし。
例えが大きいけど、誰かの為に自分の身を案じないで行動出来る人は、本当にすごいと心から思う。敬愛出来るよ。
「………あ、勿論友達としてね」
「……………」
なんだ、と少し残念な顔が見え見えだよ………
よくよく自分の発言振り返ってみると、完璧に告白だったからフォローを入れとく。これ大事。
そんなことを言っていると、いつの間にか残り1分に迫っていた。私たちは扉のそばまで移動すると、隣の教室に聞き耳を立てる。
『お前らいい加減に諦めろよな。もう勝負は着いたも同じなんだよ』
『はっ、それはどうかな。軟弱なBクラス代表(笑)は随分とせっかちだなぁ?』
一方は聞き慣れた坂本君の声。もう一方は恐らく籠城中のBクラス代表の声だろう。
姫路さんが戦闘に参加出来ない分、坂本君率いる本隊まで攻めざるを得なくなったのかも。
それにしても、なかなかいい挑発だね。逆撫でさせてから奇襲をいれるんだから。直ぐには対応は出来ない。
尚もやりとりは続く。
『言ってろ。どうせもうすぐで決着するんだしな、負け組代表さん』
『それはお前らのことだろう?無用なこと言ってる暇あったら自制でもしてろよ』
『そうか?お前らの頼りの姫路サマは調子が悪そうだぜ?』
『お前ら相手にフル参戦するまでもないと思ってな。休ませておくさ』
「吉井君、そろそろ……」
「うん……!!」
教室に掛けてある時計を凝視する。あと……5、4、3、2、1………
『それに………こっちはまだ切り札が残ってんだよな………
ドガンッ!!ガッシャァァンッ!!
「ンなっ!?」
後ろのドアは幸いにも警備も手薄で、人もいない。
好都合と判断して、空き教室から翻すと2つのドアを私の渾身の力で蹴り飛ばした。
床に叩きつけられてガラスが割れたドアを踏みつけると、スカートということも忘れて、思いっきり跳躍した。
中はあと5.6人だった。これなら行ける………!!
「Fクラス、小林翼が根本恭二に勝負を---------ッ!!」
「Bクラス、山本浩一が勝負を受けます!!
「Fクラス、吉井明久が-------!」
「Bクラス茅野沙奈が勝負を受けるわ!!」
「くっ………近衛部隊か……!!」
吉井君は悔しそうにBクラス代表を睨む。私は乱暴に適当な机に着地した。
取り繕うように笑う根本恭二。
「ふ………ははっ……!残念だったな!お前らの奇襲は失敗だ!!」
「……そうかな……」
私たちの奇襲は、近衛部隊に囲まれて逃げ場がなく、一見失敗に思える。
でも、坂本君がこんな
これはブラフだ。そう私の中で答えが出た。
丁度その時だった。
ダン、ダンッ!!
2つの足音が窓の方から降り立った。
Dクラスに要求した室外機の破壊。熱気が立ち込めた教室に耐えられず窓を開けっぴろげにしたBクラス内。
そこを狙って、屋上からロープを垂らして舞い降りた2人の人影。
土屋君と、西村先生の姿だった。
「……Fクラス、土屋康太。保健体育勝負を申し込む」
「キ、キサマァ………!!」
「……
【Fクラス 土屋 康太 保健体育 441点】
VS
【Bクラス 根本 恭二 保健体育 203点】
土屋君は小太刀で一撃で切り捨てる。
こうして、Bクラス戦は私たち、Fクラスの勝利で幕を閉じた。