バカとテストと召喚獣〜The Another Story〜 作:ぷろとうぃんぐ
「あ、あのっ……!遅れて、すいません……!」
肩を上下に揺らして息を整える彼女。大遅刻だけど、何か理由があるみたいだね。
でも、確実に彼女の乱入によって、2F内の濁った空気が凍りついた。少なくとも、皆唖然としているような気がする……….
それに気付かないのか、先生は彼女に振った。
「ああ。ちょうど良かったです。今自己紹介の最中なんで、姫路さんもどうぞ」
「はっ、はい!
緊張からか顔を紅潮させる姫路さん。すると、1人の男子生徒が高々と手を上げた。
「質問があります!」
「は、はい。なんですか?」
「どうしてここにいるんですか?」
え?、と私が首を傾ける。それはどう考えても失礼な質問だ。どうしてと言われても、大抵の人は成績が悪かったから、じゃないの?
怪訝な表情を浮かべる私に、また月風さんがボソッと告げる。
「姫路さんは容姿端麗で成績優秀。学力も高いんです。なのに、どうしてFクラスに来たのか、ってことですよ」
「そ、そうなんだ。それにしてももうちょっと聞き方ってものが……」
「翼。ここは格差社会よ。私達はその底辺。分かる?」
さっきから蓮はマイナス発言しすぎ。プラスに考えようっていったの、蓮だよ。なんでマイナスに貶めようとしてるの?いくら寛容な私でも、簡単に首を縦には振れない。
姫路さんはおずおずとして質問に答える。
「その……試験中に熱を出してしまいまして………」
あぁ、成る程という声があがった。要するに私と同じく、テストを受けそびれてFクラスに入ったんだ。
不運だね……私が言えたことじゃないけど。
すると、その言い訳を聞いて、彼方此方で言い訳の声があがる。
『俺も熱(の問題)が出たせいでFクラスに』
『あぁ、化学だろ?あんな問題が出るなんて思わなかったぞ』
『妹が試験前夜に事故にあって、心配で』
『黙れお前一人っ子だろ』
『前の晩、彼女が寝かせてくれなくて』
『今年1番の大嘘をありがとう』
これは酷い。って言うよりも、言い訳のレベルが…………
姫路さんは逃げるようにして、空いている席に着く。すると、坂本君が姫路さんに尋ねる。
「体調は、もう大丈夫なのか?」
「あ、はい。もう大丈夫です」
もしかして、体が生まれつき弱いとか、かな。それだけ成績優秀なら、特例で見逃してくれてもいいのに。世界的に注意されてるだけあって、不正は許されないのかな。
「それなら、安心だね」
「よ、吉井君!?」
吉井君がそう言うと、過剰に反応した姫路さん。なんだろ、すごい気になる。
それに気付いた坂本君がフォローを入れ込む。
「姫路。明久が不細工ですまない」
「雄二なりのフォローなんだろうけど、フォローになってないよ?」
「友人の欠点を拭うのは、人として当然のことだろう。何言ってるんだこの脳なしは」
「フォローと同時に罵倒するのはどうかと思うよ!?」
しかもフォローになってない。友人としてどうなんだろうソレ。
反論したのは姫路さんだ。
「不細工なんて、そんなことないです!」
「確かに、見た目はいいかもしれないな。そういえば、俺の知ってる奴に、お前に興味があるとか言ってた奴がいたな」
「え、それ「誰なんですか!?」」
吉井君の台詞に重複するように姫路さんの焦ったような台詞が入った。乙女ともなると、そういう話題は好きなのかな。
あるいは………
あ、ちなみにさっきから私達は一言も話してないよ。正確に言うと、姫路さんが入ってきたくらいのところから。
だって、何にも知らないのに出しゃばるのは癪じゃない。
一応話題には興味があるので、聞き耳は立てる。
「確か………
「………………」
「おい、明久。声を殺してさめざめと泣くな」
「久保君は学年でもトップの順位なんですよ。男の人ですけど」
「「へぇ」」
月風さんの説明に適当に相槌を打つ私と蓮。
でも、女の子だけじゃなく、男の子からも好意を持たれてるなんて、すごいんだなぁ。
「はい、そこ。静かにして下さいね」
先生が私達に注意を促す。そして教卓を軽く叩いた瞬間、
「あ、すみま
バキィ パラパラパラパラ………
『『『……………………』』』
一瞬で教卓が塵と化した。いくらなんでも、これは酷い。どうやったらあそこまで劣化するんだろう。
替えの教卓を取りに行って来ます、と扉を開けて出て行った先生を見送る。
どうせ替えのって言っても、前のと変わらないような古い教卓を持ってくるんだろうけど………
その機会を見計らって、話し合いでもするのか吉井君と坂本君が廊下に出た。
「さて………暇だねぇ」
「そうね。私は一時寝るわ。グッドナイト」
「朝ですよ!起きて下さい!1.2の3!」
強制睡眠モードに入った蓮を月風さんは見過ごすわけもなく、昔懐かしのアラームを唱えながら、上下に揺らしまくる。
よく見たら右左斜めにも揺らしてた。
「う、ぅ………吐き気が………」
「誰ですか!私の敬愛する蓮さんを吐かせたの!」
「まだ吐いてないよ。ツッコミどころ多くてツッコみ切れないよ」
私は片手に単行本を持ちながら冷静に対処。蓮はコーヒーカップやメリーゴーランドまでも酔ってしまう。
元々、体が弱いんだし、それも当然のことなんだけどね。
じゃあなんで止めなかったって話。
「翼………貴女に遺言があるわ……」
「………。対した遺言じゃないと思うけど、一応聞いとく。何?」
「今まで生きてきて…………そんなに、楽しく………なかったわ。……がくり」
「あ、死んじゃった」
「れぇんさぁん!?」
もはや遺言なのかどうかわからない今世最期の言葉を見届けた私。これは伝説かな。
そんなこと言い残されても、どうしていいのか困るよ。
蓮の死(?)を見届けた月風さんは拳を震わせてわなわなしながら、虚空を見上げる。
「蓮さん………私、貴女の分まで生きます………!そして、私の人生はあと10秒で終わります」
「早っ……!」
不死の病にしてはなんでタイムリミットはっきりしてるの!?後追い自殺みたいだし!
「翼さん………我が生涯に、一片の悔いあり!……ばたり」
「………死んだ」
悔い残るんだったら、成仏は出来そうにない。でも、死んで一片しか悔いがなかったら、それは幸せだったのだろう。
人生後悔しない人なんて、いないはず。
私は享年16歳(推定)の2人に黙祷を捧げた。あの世でも、お元気でやっていってね。
「なかなか面白そうな茶番やってるわね。私も混ぜてくれない?」
「………ありゃ、貴女は確か」
「私は
喋り方が若干……いや、容姿も蓮に似ている。遠目から見れば間違えてしまいそうなほど。
「単なる暇つぶしだよ?」
「私も暇なのよ。この暇な時間をどう有意義に使うかによって、新たな展開が………」
「へぇ、私と同じタイプじゃない。気に入ったわ」
今まで死んでいた蓮がむくりと起き上がってこちらを見る。月風さんは寝息を立てていた。あくまでフリーダムだよね………
「あら、私と似てるわね。……こんな言葉を知ってる?『妖怪キャラかぶり』」
「…………何よ、それ」
「容姿、喋り方とかが似てるキャラが同小説内に2人以上いると、どっちかの出番が増えて、どっちかの出番が減る。そういうもの。私は貴女の出番を奪うわ」
「やって見なさい。私は翼の親友という名目で出させてもらうから」
「粋がるのは今のうちよ?私の盗み取る技術はすごいわよ。出番だって抜き取ることが出来る」
「それはすごいわね。貴女人間かしら?それとも妖怪の類?」
「誰が一反木綿よ!」
「誰も言ってないわよ!」
「く………見てなさい!いつか貴女の出番を根こそぎ………」
謎の自意識過剰によって更に怒りを増した蘭は、踵を返して元の席に着こうと歩み出した。でも、何かを見た彼女は、ビックゥ!と肩を震わせる。
その前に、私が空気になりそうなんだけど………既に浮いてるし。
「きゃ………きゃぁぁぁああ!?蜘蛛ぉぉぉ!!蜘蛛嫌ぁぁぁ!!」
「………ちょっと、アンタ、蜘蛛如きで叫んでたら生きていけな
話が逸れた。
蘭は卓袱台に這い寄っている例の生物に飛び上がると、一転、一触即発モードの蓮(私)の元に飛びついてきた。
「うぐっ………!?」
「あぅ………っ!」
ホールドがあまりにガッチリし過ぎて、何故か巻き込まれた私も小さく声を出して後ろに倒れた。
蘭はそんなことに気を止めず、怯え切った表情で言う。
「わたっ、私…!虫、虫が大の苦手なのよ……!!うぅ………!」
「………はぁ。ちょっと待ちなさい………」
蓮はやれやれ、と言った表情で立ち上がって、蜘蛛の元まで行くと、左ポケットから出したハンカチで蜘蛛を掴んで、窓から放り投げた。
虫という難敵がいなくなったことを確認した蘭は、蓮の元まで行くと、膝を曲げていった。
「おぉ………其方は私の救世主……其方の望むことをなんなりとお申しつけ下さいませ………」
「…………私の下僕になりなさい……」
「イエス、マム。貴女の望むがままに」
私達の茶番より酷いやこれ、と内心溜息をつく。
でも、悪い人ではなさそうだ。しっかりしてそうだし、いざとなれば頼りになるかもしれない…………よね?