見滝原に魔法少女(幻想体)が居るのはおかしくないよね?   作:黒月天星

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見滝原に魔法少女(幻想体)が居るのはおかしくないよね?

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 そこは、例えるなら一つの世界の終わりだった。

 

 崩壊する建物。吹き荒ぶ烈風は放置される家々や自動車などを軽々と吹き飛ばし、遠くの空にはそんな暴風に負けじと育った火災が周囲を焦がす。

 

 命あるものはほとんど見当たらない、新手の地獄だと言われれば頷かざるを得ないそんな場所を、

 

「こんな……こんなのって、ないよ」

 

 桃色の髪の少女が一人、離れた崖の上に立ち尽くして眺めていた。

 

 いや、正確には少女が眺めていたのは荒廃した風景だけではなく、その元凶ともいえる存在。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは見上げんばかりの山のような巨体の何か。くるりくるりと回転しながらまるで無人の野を行くように街を進み、甲高い哄笑を上げながら建物を破壊していく。

 

 まるで子供が積み木細工を手で押して壊すようにいとも簡単に。

 

 だがよくよく注視してみれば、その怪物に立ち向かう存在があった。

 

 それは黒い長髪をたなびかせる、黒と白とグレーの衣装を着て銃火器を持つ少女。

 

 

 そして、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 自らの貪欲を抑えきれず、全てを喰らわんと突撃する黄金の魚。

 

 悲哀と絶望を纏いながらも、誰かを護るべく細剣を振るう修羅の如き青の騎士にして聖女。

 

 隠し切れぬ憤怒を込め、大槌と化した両腕を叩きつける蜥蜴のような緑にして赤の獣人。

 

 

 黒髪の少女も含め、どれもが並の魔女なら単騎で蹴散らせる強者揃い。

 

 しかし、対峙する怪物もまた魔女の中の魔女。人外の中の人外。

 

 いくら身体に銃弾の嵐を受け、食い千切られ、剣を突き立てられ、大槌を叩きつけられても尚止まらない。

 

 歩を進める度に黒髪の少女と怪物達は吹き飛ばされるが、その度に傷だらけになっても立ち上がって怪物に立ち向かっていく。

 

「どうしたら。わたしは……どうしたら」

 

 そんな力なく顔をくしゃくしゃにしてただ見ているしか出来ない桃髪の少女に、

 

 

『そうだねぇ。()()()()()()()()()()()()()……ってのはどうだい?』

 

 

 そう少女の肩に乗る白い獣は、何でもないように頭の中に直接声を響かせる。

 

『正直旗色は悪い。しかしまだ勝ち目がない訳でもない。その僅かな勝機を掴む為にああして戦っているわけだしね。……とは言え、優しい君が誰かが傷つくのを見たくないという気持ちもよ~く分かるとも』

 

 頭に響くその言葉はまるで甘い毒。優しく寄り添いながらも、だんだん自力で抜け出せなくなっていくがんじがらめの蜘蛛の糸。

 

 白い獣はすたっと地に降りると、その赤眼でじっと少女を見つめる。

 

『君が本当に望むなら……良いとも! 君に戦わせまいと奮戦する彼女の祈りを踏みにじってでも助けたいというのなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()友達の命を救わんと欲するのなら』

 

 そう言うと一拍を置き、その獣はにっこりと笑って手を差し出した。まるで人を導く天使のように。或いは人を誑かす悪魔のように。

 

 

『僕と契約して、魔法少女になると良いさ!』

 

 

「わたし……わたしはっ!」

 

 少女はおずおずと差し出された手を取ろうと自らの腕を伸ばし、

 

 

「諦めないでっ!」

 

 

 そうどこからともなく聞こえてきた声にその手を止めた。

 

「確かに今は絶体絶命大ピンチ。でも大丈夫。任せて!」

『ぷぎゃっ!?』

 

 その誰かは空から舞い降りて白い獣を踏んづけつつ、見る者を安心させるような笑顔でポーズを決めて見せた。

 

 腰まで伸ばした水色の髪。クリっとした黄色の瞳に、ピンクを基調として可愛らしくフリフリの付いたスカートとジャケット。

 

 胸元にあるリボンとハート形の髪飾りをアクセサリーに、極めつけに星とハートを両端にあしらった独特の形の羽の生えたステッキを携える。そう。

 

 

「愛と正義の名の下に、魔法少女ここに参上! み~んなまとめてワタシが救ってあげる!」

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 見滝原 ショッピングモール内のとあるファーストフード店にて。

 

「あははははっ!」

「ふふふっ」

 

 店の一角にて、二人の少女が一人に対して大笑いしていた。これだけ見ればいじめの一種かと思われるが、実際はそうではない。

 

「そんなに笑う事ないじゃないっ!? 酷いよぉ二人共」

「いやごめん。ごめんって。だけど……ぷぷっ。いくらなんでも()()()()()()()()()()()()()()()なんてないわ~」

 

 ぷくっと小さく頬を膨らませて抗議する桃髪ツインテールの少女鹿目まどかに対し、友人である青髪の少女美樹さやかが笑い過ぎて涙を流しながらそう返す。

 

 そう。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 事の発端は、まどか達の通う中学校のクラスに今日転校生が来た事から始まった。

 

『暁美ほむらです。よろしくお願いします』

 

 僅か数秒足らずで自己紹介を終わらせたその転校生は、たった一日でクラスの話題の中心となった。

 

 なにせ文武両道にして才色兼備。中学生レベルを少々逸脱している数式さえ平然と解き、体育の走り高跳びでは軽々と県内記録を叩き出した。

 

 おまけに同性からも美人と評される美形となれば、注目の的になるのも当然だった。

 

 それだけならまだクラスに凄い人が来たというだけで済んだかもしれないが、そこからさらにまどかは個人的にこのほむらから意味深な言葉を投げかけられる。

 

『鹿目まどか。あなたは……自分の人生が尊いと思う? 家族や友達を大切にしている?』

 

 まどかにその質問の意図は分からなかった。それでも、分からないなりに真剣に返した。家族も、友達の皆も、大好きでとても大切な人達だと。結果、

 

『もしそれが本当なら、()()()()()()()()()()()だなんて絶対に思わない事ね。さもなければ……全てを失う事になるわ』

 

 これである。まどかには何が何やらさっぱり分からず、その日の放課後友人二人に相談に乗ってもらおうと近くのショッピングモールに誘い、こうして雑談する事しばらく、

 

「まどかさん。本当に暁美さんとは初対面ですの?」

 

 もう一人の友人、どこか育ちの良さを感じる志筑仁美から突っ込まれ、まどかはしどろもどろながら語った。

 

 夢の中で見た崩壊する街。巨大な怪物。そしてそれに立ち向かう暁美ほむらのような少女と別の怪物達。

 

 最後に自分を妖しく誘う白い獣と、それに割って入った実に魔法少女らしい魔法少女の事を。

 

 だが所詮どこまで行っても夢の話。友人達にはこうして笑い話と流されてしまったという訳である。

 

「ははは……ふぅ。笑った笑った! でももうこれはアレだ。それ前世の因果かなんかだわ。あんた達時空を超えて巡り合った運命の仲間とかそういう奴じゃない?」

「もぅ。わたし、こんなにも真面目に悩んでいるのに……」

「真面目に悩んでる奴がこんなん授業中に書くか~?」

「あっ!? さやかちゃんっ!?」

 

 一瞬の隙を突き、さやかがまどかの鞄からノートを取り出してぺらぺらとめくる。そこには本来授業の内容を書き記すものだが、

 

「まぁ。まどかさんったらいけない人。でも可愛らしいですわね。これが夢で見たという御方ですか?」

「うん。顔はちょっとぼやけて思い出せないからわたしで代用したけど、姿はこんな感じだったよ」

 

 ノートにでかでかと描かれていたのは、夢で見た魔法少女の服装を着た自分の図。割と細かい所まで描かれている事に、仁美は少し感嘆したような声を上げる。

 

「で、隅っこに描かれているのが夢で見た転校生と怪物って奴? 確かに似てなくもないけど、こういう黒髪ロングな美少女ってだけじゃなんとも……んっ!?」

 

 しかし、細かく描かれているとはいえ少々独創的なまどかの画風。さやかも冗談交じりにざっと目を通し……途中で何かに気が付いたように()()()()()()()()()

 

「どうしたの? さやかちゃん?」

「……何でもな~い。アハハ。偶然だよね偶然! まあそれは置いといて」

 

 まどかの不思議そうな声に、さやかは軽く頭を振って笑い飛ばすと、

 

「まどか。あんた昔魔法少女モノのアニメでも見てたんじゃない? その時の内容をたまたま夢で思い出したかなんかしたんだよきっと!」

「そうかなぁ? じゃあ夢で出てきたほむらちゃんは?」

 

 もっともな疑問にう~むと腕を組んで考えるさやかだったが、そこに仁美が助け舟を出す。

 

「まどかさん。それでしたらこういう可能性はどうでしょう? もしかしたら初対面ではなく、以前にまどかさんと暁美さんはどこかで出会っていた……とか?」

「えっ!? どこで?」

「そこまではなんとも。町中で互いに気づかずすれ違っただけかもしれませんし。しかしまどかさん自身は憶えていなくても、それが深層心理に残っていて夢として出てきたのかもしれません」

 

 それってどんな偶然よとからかうさやかだったが、前世の因縁よりはありそうですわよとさらりと返され思わず苦笑い。

 

 そんなこんなで雑談を続けていると、

 

「あら。もうこんな時間。ごめんなさい。お先に失礼しますわ」

 

 お茶の稽古があるという仁美は先に席を立つ。それに合わせて、

 

「じゃあ、私達も行こうか。ねっ! さやかちゃん」

「おう。……あっ! まどか。帰りにちょっと寄り道して良い?」

 

 二人もそろそろ店を出る事にした。その行先とは、

 

 

 

 

 ショッピングモール内。CDショップ……()()()()()()()()()()()()にて。

 

「う~ん。どれが良いかな」

 

 さやかは果物のコーナーで、両手にリンゴとみかんを持って悩んでいた。

 

「やはり食べやすいのはみかん。……でも、リンゴを剥いて食べさせてあげるというシチュエーションはちょっと惜しいかも」

「珍しいね。それって上条君のお見舞いでしょ? これまでは音楽関係の物を買っていたじゃない?」

 

 まどかの疑問は当然のものだった。

 

 件の上条……上条恭介はまどか達のクラスメイトであり、さやかの幼馴染であり、そして周囲には隠しているつもりかもしれないがさやかの意中の人である。

 

 全国大会にも出場するほどのバイオリニストだったが、今年の春交通事故に遭って左腕を負傷。現在入院生活を送っている。

 

 何度も自身の小遣いで見舞いの品を用意していくさやかのいじらしさを知っているまどかとしては、急に見舞いの品が変わった事を少々不思議に思っても仕方ない。

 

 どんな心境の変化かとまどかが尋ねれば、

 

「……その、この前なんだけどさ。あたしの……先生? まあ姉さんみたいな? 人にお見舞いの事を相談した事があったんだ。こういう相手にはどんなお見舞いの品が良いですかってさ。そしたら」

 

 

 

『これは私の友人の話だけどね。とにかくやたら食べる事が好き……というより生きがいの奴が居るの。栄養を摂らなきゃ死ぬって意味じゃなく、目の前に出された食事は全て平らげなければ気が済まない。そういうタイプね』

『だけどある時、とある事情でしばらく物を食べられないという事になったの。そんな中、彼女の見舞いに好物を持って行った相手にソイツはこう言ったわ。()()()()か? と。まあもっともな話ね。どれだけ好きでも味わう事が出来ないのだから』

『必ずしも欲する物が必要な物ではないし、その逆も然り。手の届かない所に欲しい物を置かれても、苛立ちが募るだけ。……なら別の無難な物を渡すか、治った時にまとめて退院祝いとして渡す方が賢明でしょうね』

 

 

 

「……だってさ。あたし、恭介が喜ぶと思ってこれまでCDを渡していたけど、もしかしたらかえって恭介に辛い思いをさせてたんじゃないかって。内心……見舞いに来るあたしの事を迷惑に思ってたんじゃないかって」

 

 そう語るさやかの顔には、明るさの中にほんの僅かだけ後悔の色が見えた。

 

「さやかちゃん。恭介君は別にそんな事」

「分かってるよ。もしかしたらって話。……ちょっぴりブルーになって、お見舞いも止めた方が良いかなって考えたりもしたけどさ。それはそれとして今のあたしに出来るのはこれくらいだから。少しでも顔を見せておいた方が、治りが早くなるかもしれないじゃん!」

「……うん。うん! そうだね」

 

 だが、さやかの表情が陰ったのも一瞬の事。すぐに明るさを取り戻した友達にまどかはホッとする。

 

「でしょ! という訳で、こうしてたまには趣向を変えて果物なんかを贈ろうかなぁって事。まどかもちょいと手伝ってよっ!」

「分かったよ!」

 

 

 

 

 そうしてお見舞いの品を吟味する二人だったが、普段の品とは違うためか中々決まらない。そんな中、

 

「……だけどその先生さんって、もしかして()()()()()だったりするの?」

「ん~どして?」

 

 それは、品物を探す中のちょっとした雑談。

 

「だって最近さやかちゃん。こう見るからに姿勢とかビシッとするようになったじゃない? あとこの前チラッと見えたんだけど、手になんかマメみたいなのが出来てたし。なんとなく剣道とかその辺りかなって」

「あ~……あはは。ま、まあそんなとこ。ほらっ! この所世間は何かと物騒じゃん? 護身術の一つも必要かなってちょっと習っててさ。あたしの嫁たるまどかに襲い来る暴漢をこう斬っては捨て斬っては捨てってね」

 

 そこでさやかは大仰に剣を振るう仕草をしてみせる。それが意外に様になっているのを見て、まどかも凄い凄いとはやし立てる。

 

「えへへ。と言ってもまだ全然なんだけどね。もうちょい強くなるのを大船に乗ったつもりで待っていてくれたまえっ! ……っと」

 

 ドヤ顔で胸を張るさやかだったが、そこで急にぶるりと震える。

 

「う~。ちょっとさっきの店でジュース飲みすぎちゃったかな。ごめん。ちょっとトイレ行ってくるわ。すぐ戻るから待っててね」

「行ってらっしゃい! こっちはこっちで探しておくからね」

 

 最寄りのトイレに走り去っていくさやかを見送り、探し物の続きをしようとするまどかだったが、

 

 

『……けて』

 

 

「……んっ!?」

 

 最初まどかは空耳かと思った。ここには人も多いし、誰かの声が偶然聞こえたのだろうと。しかし、

 

 

『……()()()……誰か』

 

 

「空耳じゃ……ないの?」

 

 やけにはっきりと、まるで直接頭に響いたような中性的な誰かの声に、まどかはきょろきょろと辺りを見回す。

 

 だけど近くに誰も助けを求めるような人は居ない。なのに、

 

 

『誰か……助けて……誰か』

 

 

「やっぱり呼んでるっ!? どこっ!? どこに居るのっ!?」

 

 不思議な事に、周囲はその声が聞こえていないようだった。むしろ急に大声を出したまどかに怪訝な顔を向ける人ばかり。

 

 そんな中まどかは一瞬だけ葛藤し、

 

「ごめんさやかちゃん。すぐ戻るからね」

 

 今ここに居ない友人に一言謝り、どこかから聞こえる助けを求める声に導かれるように店を出た。

 

 

 

 

 まどかは声に導かれ、ふらふらとショッピングモールを奥へ奥へと進んでいった。

 

 次第に人は少なくなり、倉庫のような場所を抜け、非常口と示された場所のその先へ。そして非常階段に出たかと思えば、さらに上へ上へと歩を進めていく。

 

「どこ? ……どこに居るの? あなたは誰?」

 

 時折まどかの方から質問を投げかけるも、帰ってくるのはただ助けを呼ぶ声だけ。どうやらこちらからの声は聞こえていないみたいだと、まどかはひたすらに歩き続ける。

 

 まどかにもこれが異常事態だとは分かっていた。声など聞かなかった事にしてさっさと日常に戻る方が絶対に良いと。しかし、

 

「待ってて。すぐに行くから」

 

 その助けを求める声があまりにも真剣で、それこそ本当に助けがなければ死んでしまいそうで。

 

(声の主が誰かは分からないけれど、今はとにかく助けなきゃ!)

 

 その一心でまどかは息を切らしながら非常階段を上り、声の聞こえる()()()()()()()()()に辿り着いた。

 

「ん~……しょっと!」

 

 どうにかこうにか重い防火扉を開き、まどかはその中に入り込む。

 

 中はとても暗く、そしてがらんとしていた。コンクリートは打ちっぱなしで、何かの機材が床に無造作に置かれ、壁の一部からは僅かに配線が露わになっている。

 

 さっきまでまどかが居たモールの一部とは思えない光景だったが、そこでまどかはふとここに来る途中の壁の案内図を思い出した。

 

(そうだ。今改装中で、最上階とその下の階の一部を工事しているんだった)

 

 どうやらここはその一部の場所らしいと納得し、今も尚続く助けを呼ぶ声に向かってまどかは奥へと進んでいく。

 

 そして、どれだけ歩いただろうか。

 

 暗い中を僅かな明かりのみで歩いたためそう長い距離ではないが、本人からすれば普段の数倍は疲れる歩み。その先で見つけたのは、

 

 

『誰か……助けて……助けてくれ』

「…………()()()()?」

 

 

 そこに在ったのは、どう見ても生物ではなかった。むりやり近い物を挙げるなら、()()()()()()()()()()()()()()()()だろうか。

 

 大きさはちょっと大きめのぬいぐるみほど。頭部にはウサギの耳のような二つの突起とつぶらな瞳。頬は黄色くペイントされ、ライン上の口らしきものもある。

 

 頭部と胴体の境に黒い紐が巻かれ、下の白く丸みを帯びた胴体の中央には的のような円形の印が付いている。しかしそれに腕はなく、黒い底部には足もない。

 

 それらの要素だけならデカい人形でも通るのだが、目の部分が機械的に点滅している事からまどかはロボットと表現したのだ。

 

 まどかは放心しつつも、よろよろとそれに近づいていく。

 

 下手に近寄ったら感電してしまうんじゃとか、何でこんな所にロボットがとか色々な気持ちが頭をグルグル回ってはいたものの、今は肝心要の事を尋ねるために。そう。

 

「あなた……なの? 助けを呼んでいたのは?」

『……ああ。そうだ。……()()()()()()()()、助けに来てくれてありがとうな』

 

 相変わらず直接頭に響いてくる言葉と共に、ロボットは僅かに頭部をまどかに向けた。

 

 ()()()呼んでいたんじゃないのかと少々複雑な気持ちのまどかだったが、まずは何はともあれ明るい場所に移動させるべくロボットを持ち上げようとして、

 

 

 誰かの、嗤い声が聞こえた。

 

 

『……っ!? 危ないっ! 今すぐここから逃げるんだっ!?』

「ロボットさん。一体何を……へっ!?」

 

 まどかが気が付いた時には、そこはもうさっきまでの場所ではなくなっていた。

 

 壁も床も天井も、どこかねじ曲がってぐにゃぐにゃしている。そして少しずつ少しずつ、風景すらも変わっていく。

 

 まるで現実が誰かの悪夢へと変わっていくように、不気味かつ不定形な世界へと。

 

「に、逃げなきゃ!? 行くよロボットさんっ!?」

 

 気が付けば、さっきから()()()()()ミシミシと嫌な音が響いていた。何かが暴れているような、ドンドンという音と共に。

 

 さっきから何が起きているのかまったく理解できていないまどかだったが、だからこそ単純に天井が落ちてくるんじゃという不安から身体が動いた。

 

 見かけよりも数段軽いロボットを両腕で抱えるように持ち上げ、早く入ってきた場所から脱出しようとしたまどかだったが、

 

「そんな……ウソっ!? 出口が消えてるっ!?」

 

 扉は確かに開けたままにしていた。勝手に閉じないよう、まどかは自分の鞄をストッパーにしていたから閉まる筈もない。

 

 それなのに、出口のあった場所はすっかりこの悪夢のような空間に侵食され閉ざされていた。

 

「どうしよう。出られなくなっちゃった。他の出口を探さないと」

『……そう悠長に構えている暇はなさそうだぞ。あれは何だ?』

 

 ロボットの向いている方向をまどかも見る。するとそこにはなんとも形容しがたい何かがあった。

 

 蝶のような、もしくは髭の生えた綿飴のような、明るい所で見るならまだしもこんな所では不気味でしかない存在が、わらわらとどこからともなく湧いてくる。

 

 いつのまにか、まどかとロボットはすっかりそれらに包囲されていた。

 

「……ひっ!?」

 

 まどかはもう恐怖でどうにかなりそうだった。目じりには涙が溜まり、膝はここまでの疲労と恐怖でガクガク震え、もう気を失った方が楽なんじゃないかと自棄な思考に陥りかけるほどに。

 

 それがギリギリで踏みとどまっていたのは、抱えているロボットが居たからだった。

 

『……おい。お嬢さん。俺をここに置いて逃げろ』

「えっ!?」

『良く分からないが、どう見てもこいつらは友好的な感じじゃない。かと言って逃げようにも俺を持っていては邪魔になるだろう。だから置いていけ』

「そんな事出来ないよっ!?」

『良いから早くするんだっ! 俺を助けに来た誰かがそのせいでやられたなんて事になったら目覚めが悪すぎるだろうがっ!?』

 

 そう問答している内に、何者か達の包囲はじりじりと狭まっていく。そして遂に、

 

「き、きゃああああっ!?」

 

 飛び掛かってくる何者か達に対し、まどかはぎゅっとロボットを抱えたまま悲鳴を上げ、

 

 

 

「そこまでよっ! 悪党達!」

 

 

 

 そんな誰かの声と共に、急に光が差し込んだ。

 

 それと同時に星形の光弾のようなものが、次々と飛び掛かろうとしていた何者か達を撃墜していく。

 

「……あなたはっ!?」

「大丈夫だった? でももう安心だよ」

 

 そこに現れてこちらに笑いかける少女を見て、まどかは驚きの声を上げる。何故ならその姿こそ、まどかが夢の中で見た少女そのもの。つまり、

 

 

 

「愛と正義の名の下に、()()()()ここに参上! ここが前居た場所とは違っても、み~んなまとめてワタシが救ってあげる!」

 

 

 

 愛と()()()の名の下に、見滝原に魔法少女(幻想体)がやってきた。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 そして、根本的にどこかズレている物語は動き出す。

 

 

 

「姉さんっ! あたしに剣を教えてくださいっ! 大切な人達を護るためにっ!」

「……良いわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()、ワタシにまだ騎士の矜持が残っている限り、アナタに手を貸すとしましょう。……でも姉さんは止めて」

「はいっ! 先生っ!」

 

 

 

 青髪の少女は、悲しみを纏う青き騎士にして聖女に教えを乞い、

 

 

 

「さあっ! 町の平和を守るため、今日も張り切っていくわよ魔女退治!」

「分かった。()()()()()()()()()()()()()()()()()、ボクもそれに付き合おう。さあ行こうか。友達(マイフレンド)

「うふふふ! 誰かと一緒に戦うって……こんなにも嬉しい物なのね」

 

 

 

 黄髪の少女は、憤怒を抑えた緑の従者を友とし、

 

 

 

 ズルズルズル。

 

「……ぷは~っ! ごちそうさんっ!」

「ちっ!? 一歩先を越されたか」

「ははっ! そんなんじゃ私に大食い勝負で勝つのは十年早いぜ。……またその内かかってきな。()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()、私は何度だって相手してやるよ。お前の貪欲を私の貪欲で飲み込んでやるために。またな!」

「ふざけんな! あたしがお前の相手をしてやってんだよ! ……じゃあな」

 

 

 

 赤髪の少女は、貪欲を満たさんと動く黄金の王と張り合い、

 

 

 

「ねぇねぇお姉ちゃん。どうしていつもそんなムスッとした顔をしているの?」

「……ムスッとなんてしていないわ。私はいつもこんな顔よ」

「じゃあ尚更笑わなきゃ! 大丈夫。私に任せて。イタズラはあんまりやっちゃダメって言われてるけど、私は色んな魔法が使えるんだよ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()、私頑張るからね!」

「……拾うんじゃなかったわね」

 

 

 

 黒髪の少女は、心優しき“小さな魔女”に懐かれた。

 

 

 

 

 そして、

 

『……OK。これで契約完了だ。いやありがたい。なにせこの世界で活動するにはこの世界の肉体が居るけど、中々自分から()()()()()()()なんて奇特な……いや失敬。合理的な判断が出来るモノはあまりいなくてね』

『まったく。こんな数ある肉体一つと僕達への()()()()()だけに、宇宙の延命数百年分のエネルギーをポンと支払うだなんて。契約が終わった後だから言わせてもらえば、君はどうにも訳が分からないよ』

『なに。趣味半分に詫び半分という奴さ。僕の失態でお気に入りの役者を失う所だったんでね。救出のついでに新たな暇つぶしが出来ると考えればこの程度安い安い。……ところで、契約完了の祝いに飲み物でもどうだい? インキュベーター君』

 

 

 

 

 どこかの悪徳セールスマンこと白い獣は、自称“元”神の傍観者に蓋の空いた缶ジュースを差し出されていたのであった。

 





 正月なので折角だしと書いた今作でしたがいかがだったでしょうか?

 きっかけは作者がよく小説のネタに使うロボトミーコーポレーションの魔法少女シリーズは、まどマギの魔法少女とよく似ているなぁというものでした。ポップな見た目の割にエグイ設定が多いとか、色々限界を迎えると暴走する所とかも。

 なのでこの二つを悪魔合体させたらどうなるかと思い筆を執った所こうなりました。一部正確には魔法少女じゃない幻想体が混じっていますがそこは気にしない方向で。原作でもいずれ魔女になるから魔法少女というセリフがあるし、なら逆説的に魔女の幼体は魔法少女だよね(暴論)という事で。

 なお、変なロボットの中身に関してはどっかの世界線の管理人です。

 次回、続きません。

 もう一度言います。続きませんっ! (断言)

 色々伏線っぽい物も張って予告編じみた内容になりましたが続きません。……良ければ誰か続きを書いてくれても良いんですよ?



 なお、登場した幻想体達の性格は完全に独自設定です。これだけじゃどういう人物か分からないという方は、原作のロボトミーコーポレーションをチェックするか、或いは拙作『マンガ版GXしか知らない遊戯王プレイヤーが、アニメ版GX世界に跳ばされた話。なお使えるカードはロボトミー縛りの模様』をご一読頂ければ幸いです。

 という訳で、長文失礼いたしました。
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