見滝原に魔法少女(幻想体)が居るのはおかしくないよね? 作:黒月天星
薔薇園の魔女が倒れ伏したまま少しずつ大気に溶け、主である魔女を失った結界が急速に崩壊を始める中、
『……そろそろ、様子を窺うだけでなく姿を見せても良いのではなくて? それとも……狩り出してほしいの?』
何かを待っていたかのように、青き魔法少女はそういって軽く指を振る。すると先ほど魔女と使い魔達を雨あられと貫いていた細剣が一つ浮かび上がり、ある一点へと切っ先を向けて空中に停止する。
『三、二、一……』
『ああ分かったっ!? 分かったからっ!? 今出ていくから落ち着いてっ!?』
静かに宣告されるカウントダウンから本気の意思表示を感じ取り、細剣の先にある瓦礫の陰から慌てて白い獣が飛び出してきた。それこそ、
『やあやあしばらくぶりだねぇぇぇっ!?』
『チッ……待って損したわ』
『タイムっ!? 僕だよ僕っ!? ちょっと今はこんなプリティーかつマスコットっぽいボディだけど忘れてないよねっ!?』
姿を見せるなり舌打ちと共に飛んでくる細剣を、キュウディーは悲鳴じみた声と共に紙一重で回避。顔を青くしながら耳でバッテンを作りつつ弁明する。
『忘れてないわ。だからやってるのよ』
『ぎゃああっ!? 暴力反対っ!?』
魔法少女の絶妙にそっけない言葉を後ろに細剣から逃げ惑うキュウディー。そんな中、
『個人的にもっとやれと思わないでもないが、話が進まないのでひとまずそこまでで止めてもらえないだろうか?』
『誰かしら? コイツの仲間だというのなら、事と次第によってはアナタ……も……』
魔法少女は声の方を向いて一瞬声を詰まらせる。そこには、
『言いたくはないが、ただの居候仲間だよ。それはそうと不躾な質問なのだが……俺の事を何か知らないだろうか? 魔法少女さん』
自らの失われた記憶を探す、一体の白いウサギ型ロボットが居た。
一方その頃。
「先生……さん?」
「うん。セイ先生。ここが崩れ始めたって事は、先生がここのボスを倒したんだと思う」
タッタッタと先を駆けるさやかの手を取り、まどかもまた崩壊する結界の外へと進んでいた。
先に中にロボットさんとキュウディーが入ってしまったから探さないととまどかに言われるさやかだったが、もう結界が崩壊を始めている事と中にはさやかの信頼する先生が居るからとまどかを説得したのだ。
「でも驚いたよ。万が一に備えて結界から出てくる良くないモノが居ないか離れた場所で見張っていたら、誰かが結界内に入っていくんだもん。それで慌てて助けに入ってみたらまどかでまさかの驚きの二段構えだったし」
「驚いたのはこっちだよ。まさかさやかちゃんがそのセイさん……魔法少女さんと前から知り合いだったなんて」
「ま、まあね」
まどかがどこかキラキラした目で見つめてくるのに対し、さやかはどこか困ったような顔をする。
「酷いよ。じゃあ今日の朝あった時から知ってたんでしょ? 話してくれたって」
「ゴメンって。……出来ればこの件にはまどかを巻き込みたくなかったんだよ。それにあの転校生と一緒に居たレティシアちゃんもセイ先生の事を知ってたみたいだし、魔法少女界隈でも話がややこしくなりそうだったから」
そこでいったん話を切り駆ける事しばらく、薄ぼんやりと見える外の風景をさやかが持っていた長剣で切り裂き、大きくなった裂け目を突き抜け、まどか達は結界の外へと脱出した。
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫まどか? はい。スポドリだよ」
「ありが……と。さやかちゃん」
すっかり疲労困憊という感じのまどかが震える手でスポドリを飲む中、さやかはそこそこ息を乱した程度で済ませている。これは基礎体力の差もあるだろうが、魔女の結界という非日常に対する慣れというのも多少あるだろう。
どうにか二人が息を整えていると、外側からでもはっきり分かる程度に結界の崩壊が進み、もう粗方普通の廃ビルに戻りつつあった。あと数分もすれば完全に元に戻るだろう。そこで、
「ねぇまどか。多分ここが最後のチャンスだと思うから言うけど、今すぐ回れ右してこっそり家に帰って布団被って寝ちゃわない? 今日ここでの事は悪い夢だったと思ってさ」
「さやかちゃん?」
さやかはそうゆっくりとまどかに語り掛けた。
「ほんのちょっとだけだけど足を突っ込んだあたしだから言えるんだけどさ。多分魔法少女はあんたの思うようなキラキラでピカピカな話じゃない。もっとドロドロでギトギトでえげつなくて……どうしようもない事なんだよ。単なる憧れだけで追っかけてるならここが潮時。引き返した方が良い」
そう語るさやかの言葉には実感が伴っていた。
ただの憧れや理想論ではない。直接何度も魔法少女に触れ、良くないモノに触れ、その餌食になりかけた人の心の闇に触れたからこその実感。
ひたすら真摯に親友を案じての言葉なのが端々から伝わってきて、まどかもゆっくりと頷き、
「うん。ありがとうねさやかちゃん。でも、放っておけないんだわたし」
「それは……あのロボットの事? なら」
「それもあるよ。ココロさんのあのキラキラに憧れがあるのも本当。でも今話を聞いて思ったんだ。
ギュッ!
「ちょっ!? まどかっ!?」
突然まどかに優しく抱きしめられてさやかは目を白黒させる。
「ごめんね。いつからかは分からないんだけど、さやかちゃんはこんな危ない事に関わっていたんだね。気づいてあげられなくてごめん」
まどかは気づいてしまったのだ。
今真摯に話していたさやかの瞳にほんの僅かにだが陰りが見えた事に。そして今はほんの僅かだけど、もし最悪それが大きく膨らんだら……自分の親友が壊れてしまう事に。
「自分だけで抱え込まないで。先生さんに頼るのは当然だけど、わたしや仁美ちゃん。皆に話して楽になっても良いんだよ」
「……ははっ。ありがとう。でもこんな事誰かに話しても信じてもらえるわけ」
「そうだね。信じてもらえないかもしれない。でも……話すだけでも、吐き出すだけでも良いと思うんだよ」
どうすれば陰りが膨らまないか? まどかなりに咄嗟に考えた結論がこれだった。とにかく溜まる前に吐き出せば良いのだと。
あまり気の利いた言葉ではなかった。しかしまどかなりの人に寄り添う言葉に、
「…………うん。ありがとね。まどか」
そっと抱きしめ返し、さやかはそうポツリと呟いた。
「んっ!?」
そこでさやかはふと気づく。
『……おっと!?』
近くで自分達をニヤニヤしながら見守る白い畜生が居る事に。
『僕の事には構わず続けて続けて! 流石の僕も少女同士の麗しい時間に水を差すほど野暮じゃないからうん』
「だったら黙って星になってろおおおっ!」
『ぷぎゃああ~っ!?』
剣の腹で綺麗にキュウディーをホームランし、慌ててさやかはまどかから離れて辺りを見渡す。キュウディーがここに居るという事は、結界が完全に崩壊して中に居た人が出てきたという事。つまり、
『何をしているの我が弟子。入り口を見張っていろと言ったのに』
凛とした声が響き、さやかとまどかはそちらに振り向いて……唖然とする。そこには、
「すみません先…………先生こそ何やってるんです?」
「なっ……えっ!?」
『何って……探し人の一つが見つかったから捕まえているだけだけど』
『あのぉ……下ろしてくれないか?』
『ダメ』
魔法少女の短いが強い言葉に、ロボットはしょんぼりと情けなく項垂れた。
なお、この世界線のさやかちゃんは多少先生について荒事を潜っているため、原作よりも少しメンタル強者です。自分の正義について少しだけ考えさせられています。まあ根本は同じで弱い所が消えたわけではないのはまどかに普通にバレましたが。