見滝原に魔法少女(幻想体)が居るのはおかしくないよね?   作:黒月天星

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勘違いされるほむほむと奇妙な同居人

 

「やはりここに居たわね。巴マミ」

「あら? ワタシの名をご存じなの?」

 

 優雅に笑う少女を前に、ほむらは想定通りの反応であると同時に気圧されまいと軽く息を整える。

 

 巴マミ。目の前に居るこの魔法少女こそ、ほむらが知る限りで最強の魔法少女。この魔女のはびこる魔境見滝原において、ほぼ単身で数年もの間戦い抜いてきた歴戦の戦士。ややメンタルに問題がある事さえ目を瞑れば、戦力としてこれ以上頼りになる者を他に知らない人。だが、

 

「ごめんなさいなのだけど、ワタシは今少し疲れていて急いで帰らなくちゃならないの」

「でしょうね。だけど巴マミ。こちらも大切な用件があるの」

 

 警戒心。ほむらにも一目で分かるほどに、マミからはその色が濃く見えた。

 

 理由は一目瞭然。たった今倒したのであろう魔女の残滓が身体のあちこちにこびり付き、その手には戦利品が握られている。

 

 グリーフシード。嘆きの種にして魔女の卵。打倒した魔女が時折落とす、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 つまり今の状況をマミから見ればこうである。自分がどうにか町を荒らす魔女を打ち倒した所、自分を知っているだろう誰かが些か剣呑な雰囲気を醸し出しながら現れた。自分の手には魔法少女が場合によっては他の魔法少女から奪い取ってでも欲しがるグリーフシード。おまけに自分は多少なりとも体力を消耗している。

 

 そう。つまり今ほむらは、傍から見れば滅茶苦茶怪しい人物なのだ。

 

 一つ間違えば一触即発。戦いになってもおかしくない緊迫感が二人の間に流れ、

 

 

『こんばんわっ! 綺麗な黄色いお姉ちゃんっ!』

『待てっ!? 待つのだ我が運び手よっ!? こういうのは知り合いらしいこやつに任せておけばって止まらぬかっ!?』

 

 

 普通に歩み出てきた一人の小さな魔女と付き添いの人形の手で霧散した。

 

「えっ……ええ。こんばんは」

『私レティシアっていうの。こっちのお姉ちゃんはほむらお姉ちゃんで、この子はネクちゃん! よろしくね! お姉ちゃんのお名前は?』

「ふふっ! 元気な子ね。私は巴マミ。よろしくねレティシアちゃん」

 

 自分より一回りも小さな子が元気に挨拶してくるのを見れば、流石に警戒心よりも微笑ましさが勝つというもの。マミもそっとしゃがみ込んでさりげなく目線を合わせながらレティシアに笑い返す。

 

(この子もどうやら魔法少女みたいね。持っている人形がレティシアちゃんの能力かしら? しかしこんな小さな子が魔法少女だなんて)

 

「ねぇレティシアちゃん。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 自分のような迷う暇すらない事情があったのかと、初対面の相手に不躾かなと思いながらもマミはそうレティシアに尋ねる。すると、

 

『願い? う~んとねぇ……良く分からないけど、()()()()()()()()()()()ってそう思うよ!』

「……そう。成程ね」

 

 マミはなんとなく納得する。実際レティシアが現れた瞬間、このほむらという魔法少女との一触即発の雰囲気は消え去った。おそらくそういった能力が願いから生まれたのだろうと。ただこの喋る人形だけはイマイチよく分からなかったが。

 

「……レティシア。まだ話の途中だから下がっていなさい」

『えぇ~。だってほむらお姉ちゃんさっきからずっと怖い顔してるんだもの。そんな顔してちゃお話なんて出来ないよ』

「いえ。そういう問題ではなく」

 

 そんな困ったようなほむらとレティシアの様子を見て、不意にマミの脳内に存在しない記憶が浮かび上がる。それは、

 

 

 

『わ~いっ! 私魔法少女になったよ! これで皆を笑顔にしてあげられるね!』

「ふっ。良かったわね」

『でも、魔女と戦うの私怖いよ。だけど魔女と戦わないとグリーフシードは手に入らないし、それがないと皆を笑顔に出来ないし』

「分かったわ。アナタは何もしなくて良いの。グリーフシードは私が集めてくるから安心しなさい。そう……誰かから奪い取ってでも」

 

 

 

(そう。そうだったの)

 

 一人納得したマミは、その手にあるグリーフシードを見て僅かに逡巡し、何かを決心したかと思うとほむらの元へ歩き出す。そして、

 

「ほむらさん……だったっけ? これ、あげるわ」

「……私は別にこれが欲しい訳じゃ」

「良いの。私も()()()()()()()()()()のだけど、そちらにも事情があるのでしょう? でもいくらその子の為とはいえ、人の物を奪い取ってまでというのはよろしくないわ。これをあげるから、ゆっくりとレティシアちゃんの為に何が出来るか考えましょう」

「いえ、だからそうじゃなくてっ!? 私はアナタに話があって来たの。巴マミ」

 

(これは天然? それともまさか計算? どちらにせよ、レティシアのおかげで助かったわね。……あと今一瞬聞き捨てならない言葉がマミから出た気がしたけど気のせいよね?)

 

 微妙に勘違いされる形になって憮然とするほむらだったが、一応互いに戦意が薄まったのは事実。これ幸いと話し合いに持ち込むのであった。

 

 

 

 

「ココロという魔法少女? ……ごめんなさい。思い当たる人は居ないわ」

「そう。やはりそう簡単にはいかないわね」

 

 早速探し人の事を尋ねるほむらだったが、結果は普通に空振りであった。

 

 マミが言うには、ココロという魔法少女は知らないけれど、ここ最近見滝原で自分以外の魔法少女が何人か戦った痕跡があるのだという。また、

 

()()使()()()()()()()()?」

「そう。少し前に一度見かけたの。私が着いた時には丁度魔女を倒した所で、そのまま話しかける前に行ってしまったわ。もしかしてその人がアナタの言うココロさんかしら?」

「……多分違うわ。その魔法少女は如何にも魔法少女らしい戦い方だったらしいから。それこそステッキからビームを放ったりね」

 

 そう言いながらも、ほむらは少々気にかかる事があった。

 

(剣を使う青い魔法少女……まさか美樹さやか? しかし昼間会った時には彼女にそんな素振りは見えなかった。そもそも彼女はどの周回でも魔法少女になるきっかけは……くっ!? やはり今回の周回は普段とまるで違うようね)

 

 思考を重ねてみても答えには辿り着けず、ほむらはもやもやとした気持ちを抑えきれない。そこへ、

 

『はいはいっ! 私ココロお姉ちゃんの似顔絵持ってるよ! ネクちゃんに言われて準備したの!』

『人探しには似顔絵が基本だからな。まあ少々タッチが独特なのは許せ』

「見せてくれるの? ありがとう。これは……そうねぇ。確かに私が見た人は別人ね」

 

 色鉛筆で書いたのだろうどこか味のあるタッチ。しかし色合いや服装等は特徴を捉えていて、自分の見た相手とははっきり違うと断言するマミ。

 

「……ふぅ。ありがとう。時間を取らせたわね」

「いいえ。じゃあ私もそろそろ行くわ。こちらでも少しそのココロさんを探してみる。連絡先を教えてくれると助かるのだけど」

 

 連絡先と言われてほむらは少し悩む。スマホは諸事情で持っていないし、根城にしているアパートは本当にただ寝る為だけのような場所で電話を受けても居る可能性は低い。しかしこういう時の連絡網があった方が何かと助かるのも事実。どうしたものかと思案していると、

 

『え~っと……これだよマミお姉ちゃん!』

「ありがとう。じゃあ……はい。これが私の家の番号。こちらがスマホの方ね。多分どちらも大体の時間は取れると思うわ。また何かあったらかけて頂戴」

 

 勝手にレティシアが部屋の電話番号を紙に書いて渡し、交換する形でマミが自分の番号を手渡す。

 

「レティシア。勝手に」

『まあ良いではないかほむらよ。それにこれで口実が出来た。あのどこにでもついてくる勝手気ままな幼女を、電話番として部屋に留めるという口実がな』

「……それは、アナタ達をもうしばらく部屋に住まわせるという事ではないの?」

『そこはまあそれ。必要経費という奴よ』

 

 クククと悪い笑みを浮かべるネクに渋い顔をしながらも、ほむらは心のどこかでそれも良いかとほんの僅かに思っていた。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

「……ふぅ」

 

 とあるワンルームマンションの一室。ほとんど真夜中に自らの暮らす部屋に戻ったマミは、多少の疲労とそれなりの充実感。そして新たな知己を得た満足感の混ざったため息を吐いた。

 

 両親は既に亡くなり、そこは女子中学生一人が住むには少々広すぎる部屋。慎ましやかにであればずっと暮らしていけるだけの物が遺され、帰っても誰も居ない部屋にも嫌でも慣れたこの数年間。

 

 マミが自分では友人だと思っている白い獣もしばらく姿を見せずにいるこの状況で、

 

 

 スタスタ。

 

『お帰り。こほっこほっ……遅かったね。友達(マイフレンド)

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 緑色のふわりとした髪に、まるで西洋の小姓が着るような仕立ての服とズボン。おそらく整っているだろう顔の上半分、特に目の辺りをくるりと布で巻いて目隠しし、腰からは小さなハンマーのような物を提げたどこか中性的かつ小柄な少女。

 

 目隠ししているのにまるで周囲が見えているかのように、軽くせき込みながらも起きて自分を待っていてくれたこの奇妙な同居人に対し、

 

「ダメじゃないまだ寝ていなくちゃっ!? ……えぇ。ただいま!」

 

 マミは困ったように、でもどこか嬉しそうにそう笑って返した。

 




 存在しない記憶って恐ろしいですね。なお、マミさんの方にもどこかの友達兼メンタル回復要員が付き添っている模様。一体どこの誰なんでしょうねぇ?




 ほむほむのレティシアへの絆されポイントが3上がった。
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