見滝原に魔法少女(幻想体)が居るのはおかしくないよね?   作:黒月天星

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騎士の師弟は剣を磨く

 

 早朝。とある河川敷にて。

 

 そこはある一定の空間を地に突き立てられた細剣によって隔てられ、外からは普段通りの風景にしか見えない領域。俗に言う()()()()()()()()()()()()した場所。

 

 そこでとある騎士の師弟が剣を交えていた。

 

「はあああっ!」

『踏み込みが甘いっ!』

 

 ポコンッ!

 

「あいたあっ!?」

 

 さやかの大上段からの一撃をさらりと体をずらすだけで避け、カウンター気味にセイが持っていたおもちゃの剣で胴薙ぎ。どこか間の抜けていてかつ綺麗な音を響かせてさやかを打ち抜く。その様子を、

 

『ふわああぁ……毎日毎日朝早くからよくやるね。まどかちゃんもこうして付き合う事ないよ帰って二度寝しようよ』

「ううん。まだちょっと眠いけど、なんだか気になっちゃって」

 

 ぎりぎり領域内の大きめの石に腰かけ、ジャージ姿のまどかとキュウディーがのんびり観戦していた。

 

 

 

 

 

『ごめんなさい。教えてあげたいけど教えられないの。何故なら……私やおそらく私と一緒に来た仲間達も、記憶か姿に欠落があるのだから』

 

 真夜中の邂逅時、自らの出自を尋ねたロボットに対してのセイの返答はそれだった。

 

 セイが覚えていたのは、自分の仕える主である“管理人”がこの世界に跳ばされ、それを追って仲間達と共にここに来たという事。しかし無理やりに世界の壁を越えたため自分の存在そのもの、つまり記憶や姿そのものに欠落や変化が起きてしまった事。セイの場合はロボットの本名と、かつての世界の記憶が少し朧げになったという。

 

 ロボットは自分の被害が大き過ぎると憤慨したが、そこは個人差があるのだろうと返されてはどうしようもない。腹を抱えて笑っていたキュウディーはその場でロボットによる高速ストンピングの刑に処されたが。

 

『しかし、よく俺がその管理人だって分かったな。見た目がその……こんなに変わっているのに』

『……? たかだか姿が変わっただけで、私の“加護”が失われる訳がないでしょう? さて。では良くないモノも消えた事だし、行くとしましょうか』

『そうだな……どこに?』

『当然アナタが今ねぐらにしている所に。騎士が剣を捧げた主人の近くに居るのは当然でしょう?』

 

 何を驚くのと言わんばかりの顔でロボットを抱きかかえようとするセイをどうにか宥めすかし、まどかとさやかという互いの住所を知っている知人が居る事でいったんその場は一同解散。

 

 翌日、まどかとさやかで仲良く話し合っている所を仁美になにやら誤解される一幕があったがそれは割愛。今日も休んでいるほむらに思うところはあったものの、昼休みにセイやロボットも含めて屋上でこれからの方針を話し合う事に。すると、

 

『アナタ達の探しているココロ。私も探すのを協力するわ』

「えっ!? 良いんですか?」

 

 意外な事にセイの方から協力を申し出てくれてまどかは驚いた。しかし訳を尋ねてみれば至極当然の事。何故ならココロこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったのだ。

 

『こうして我が主は発見出来たし後は帰るだけ。ただ一緒に来た仲間達とは現在通信不能。直接探し出さなくては帰還出来ない。それに』

 

 そこでセイは、優しい顔でそっとロボットの頭を撫でる。

 

『私は名前を忘れてしまったけれど、他の誰かは覚えているかもしれない。アナタの記憶が少しでも戻るよう、僅かばかりでも手助けさせていただくわ』

『ああ。ありがとう。セイさん…………でも何で毎回そう抱きしめようとするんだ?』

『アナタの騎士ですもの』

「わ、わたしもっ! 出来る事があればお手伝いします! ロボットさんの記憶が戻るように」

「あたしも付き合いますよ先生!」

『お~っと。モテモテじゃないかロボット君! いやあ君の為に心を砕いてくれる人がこ~んなに。これも人徳かな?』

『皆……ありがとう』

 

 涙を流せぬロボットは、そのまま深々と頭を下げた。

 

 

 

 

 という形でまとまったのが数日前の事。

 

 現在まどかとキュウディーは、定番となっているセイとさやかの早朝訓練を眠い目をこすりながら見学していた。ロボットも付き合いたかったが、寝ぼけたタツヤに捕まったとあっては引き剥がせなかった。合掌。

 

 この訓練は『魔法少女だろうとそうでなかろうと、戦うためにはまず身体が資本よ』というセイの言葉により、さやかが弟子入りした時からほぼ毎日の日課だという。

 

 まどかは最初自分を助けてくれた時のさやかちゃんは怪物を真っ二つにしていたのにと考えていたが、さやかが言うにはあれはセイから貰った剣で持ち主に加護……要するにバフがかかっていたからだという。

 

 まず早朝の軽いランニングから始まり、次にセイが用意した模造剣(バフ無し。重量約半キロ)をさやかが持って構え……そのままの姿勢で振るわずに三分間維持。少しでも姿勢が崩れたらビシバシとセイに直され、自然と剣の重さと基礎の構えに慣らされていく。

 

 そこからやっと剣の修行だが、基本的にはさやかの打ち込みをセイが受けるという実戦方式。わざわざ自分の細剣を長剣型に変え、さやかに合わせて戦っているのは間違いなく指導ではあった。

 

「……はぁ……はぁ」

『どうしたの? もう終わり?』

「まだまだっ! ……でも先生。こうして身体を鍛えるのは分かるんですけど、先生達魔法少女が戦っている良くないモノってどいつもこいつもこう……お化けみたいな奴ばかりじゃないですか。なのに先生との打ち込み稽古って意味があるんですか?」

 

 少し息を整えながら、さやかはちょっとした疑問をぶつける。すると、

 

『ふっ……まだひよっこなのに文句? 確かにこの町の良くないモノは大半が怪物的かつ巨体ね。でも、だからと言ってこれからも巨大な相手だけとも、人型以外とも限らないわ。それにさやか』

 

 セイはゆっくりと教え諭すように語る。さやかの役割は基本的に敵を倒す事ではなく人を守る事。特に良くないモノの領域に迷い込んでしまった人の救助であり、つまり良くないモノ本体よりその手下と戦いながら逃げる事が重視されると。だから人間大の相手の戦いも練習しなければならないと。

 

 一つ一つ頷き納得していくさやかに、セイは最後に真剣な声色で付け加える。

 

『良い? 自らの魔法を、剣を、力を、何のために振るうのか? それは魔法少女も騎士も常に考え続けなければならない命題よ。……アナタの望む力はそういう力。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の。それを忘れず精進しなさい』

 

 どこか自分にも言い聞かせるような、少しだけ悲哀も混ざったようなその言葉に、さやかはゆっくりと頷いた。そして、

 

「……はいっ! へへっ。あたし、先生に会えて良かった! 先生こそまさにあたしの思う理想の“正義の味方”なんですからっ!」

『……っ!?』

 

 さやかがそう笑いながら言い、まどかも内心同意したその言葉に、セイは一瞬だけ何かを思い出したかのように反応し、

 

『…………そう。そろそろ息も整ったでしょう。たまにはこちらから攻めるわよっ!』

「えっ!? ちょちょっ!? おもちゃの剣が空から勝手に襲ってくるのってそんなのアリですかっ!?」

『問答無用っ!』

 

 急にうって変わって苛烈な攻撃を仕掛けるセイと、それを必死に迎え撃つさやか。それを見てキュウディーは、何故かふぅ~とため息をつきながら汗を拭うような仕草をする。

 

『知らないって怖いねぇ。ある意味地雷中の地雷を踏んづけるなんて』

「うんっ!? どうしたのキュウディー? 今の話で何か気になる事でもあった?」

『ふふっ! な~んでもないよまどかちゃん。それよりそろそろ良い時間じゃないのかい? いくらさやかちゃんと早朝ランニングするって言って出てきたとしても、そろそろ帰らないと親御さん達が心配するよ』

「あっ!? いけないっ! さやかちゃんっ! そろそろ時間だよっ!」

 

 そう言ってまどかが走り出す様を、キュウディーは微笑ましそうに、それでいて()()退()()()()に見守っていた。

 




 セイ(幻想体 魔法少女 絶望の騎士)が仲間になった! やったね魔法少女(幻想体)の常識人だっ! ……なお、加護を与えた相手が傷つけられたり最悪死亡すると、絶望のあまり修羅になって周囲に壮絶な八つ当たりをする模様。

 ちなみにさやかに渡した長剣(バフ有り)の方は、本来絶望の騎士から抽出される鋭利な涙の剣のデチューン品。素人のさやかでも使えてどうにか使い魔くらいなら戦えるバフが入るけど魔女は無理という塩梅です。
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