見滝原に魔法少女(幻想体)が居るのはおかしくないよね?   作:黒月天星

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それは、穢れ溜まりて孵るモノ

 まどか達と、絶望の騎士ことセイ達が合流してからしばらく、それなりに穏やかな日々が続いていた。

 

 朝はセイとさやか(と一緒に軽くまどかも)の訓練。昼間まどか達が学校に行っている間はセイと時折ロボットがココロを探しに町の探索。その際良くないモノが居れば仕留めて町の治安を守り、ついでにロボットを愛でつつ付き従う騎士ムーブをかましてメンタル回復。

 

 夜は余裕があれば再びさやかに指導し、場合によっては野良で出歩いている良くないモノの眷属を一体捕まえてさやかに実戦稽古をさせる日々。

 

 それらをキュウディーがにやにやしつつ時に野次を飛ばしながら見守り、度が過ぎた所をロボットに折檻される。そんなある日の事、

 

「今日は珍しく先生の訓練も休みだし、放課後は恭介のお見舞いに行くんだけどまどかも来る?」

 

 さやかのそんな突然の発言から、今日という一日は本腰を入れて動き出す。

 

 

 

 

 見滝原市立病院。この見滝原でもかなり大きい病院であり、多くの病人や怪我人を受け入れている場所。その一階ロビーで、まどかとキュウディーは先に手続きを済ませて恭介の病室に向かったさやかを待っていた。

 

『まどかちゃんも律儀だねぇ。別に二人いっぺんに行ったって、そこまで恭介君の負担になるって事もないだろうに』

「あはは……実はそこまで考えてはいないんだ。それよりもその、さやかちゃんと恭介君が」

『はは~ん。つまりは友人同士の恋路を邪魔しちゃ悪いと。いやぁ~気の利く子だねこのこのっ!』

 

 二ヒヒと笑みを浮かべて腕をつつくキュウディーに、まどかは苦笑しながらされるがまま。

 

 ここ数日、諸々怪しかったりおかしかったりするキュウディーではあるが、少なくともまどかはそれなりにこの白い獣を気に入っていたのだ。

 

 それだけではない。ロボットの事も含め、自分と身近に接してくれる保護者、或いは悪友のような何かとして。だからこそ、

 

「ねぇキュウディー。そろそろみんなに話しても良いんじゃない? アナタが知っている事を全部」

『そうだねぇ。どうしようかな~。……必要になったらね』

「もう。またそうやってはぐらかす。皆ココロさんを探して大変な目に遭ってるんだよ? 暁美さんだって休んでばかりだし」

『ふふっ。僕はこれでも悪~いセールスマン兼スカウトマンだからね! 今はちょっと趣味に時間を割いているけど、然るべき時に然るべき相手を誘うのが仕事なのさ!』

 

 相変わらず良く分からない事を言って煙に巻くキュウディーに、まどかは相変わらずだねと軽くため息を吐く。そんな風に雑談に興じていると、

 

「ごめんね待たせて」

「さやかちゃんっ! ……どうしたの?」

 

 帰って来たさやかの顔が僅かに曇っているを見て、なにかあったなとまどかは察する。

 

「うん。なんか間が悪い事に丁度恭介は検査で会えないんだってさ。悪いねここまで付き合わせたってのに」

「良いよ良いよそんなのっ! それに……それだけじゃないでしょ? 何があったの?」

 

 まどかの再度の問いかけに、さやかは少し言葉に詰まりながら「帰りながら話そうか」と受付に向かった。

 

 

 

 

 コツコツ。

 

「実はさ。検査直前の恭介の姿をちらっと見ちゃったんだ。恭介の奴……泣いてた。動かない腕を押さえながら歯を食いしばって、声を押し殺して」

 

 コツコツ。コツコツ。

 

「恭介がバイオリンを演奏するとさ。とっても綺麗な音がするんだ。音楽なんて良く分からないあたしでも分かるくらいに。それで恭介が嬉しそうに演奏について教えてくれてさ。その笑顔がまた素敵でさ。……最近、そんな笑顔を見れてないんだ」

 

 病院を出るなり、そうさやかが語るのをまどかは何も言わずに聞いていた。

 

「恭介の腕……相当悪いみたい。もし神様っていうのが居るのなら、なんであたしじゃなくて恭介の、しかもよりによって腕を持って行っちゃったんだろうね?」

「さやかちゃん……」

 

 そっと空へ向けてぽつりと呟くさやかに、まどかは何も言う事が出来ず、キュウディーは嗤うでも揶揄うでも悲しむでもなくただ見定めるような目を向ける。そして、

 

「……っと、ごめんねまどか。付き合わせた挙句なんか湿っぽい感じになっちゃって。今日はもう帰ろ帰ろっ! なんならまどかの家におジャマしてちょっと憂さ晴らしにお菓子パーティーでもしようよっ!」

「……うん。うんっ! そうだね! ちょっとくらいなら遅くまで騒いだって良いよね!」

 

 気持ちを切り替えようとバカ騒ぎを提案するさやかに対し、まどかもそこは乗って悪ノリの態勢に入る。それをそっと見届けたキュウディーはまどかの肩に駆け上がろうとして、

 

『……おやおや。そういう流れになったかい』

「どうしたのキュウディー……あれ?」

 

 その瞬間、キュウディーに続いてまどかも遠くから感じる違和感に気が付いた。

 

 それは、病院の敷地内にある自転車置き場の脇に在った。まどかが近づけば近づくほど、違和感とかつて味わった嫌な感覚が強くなる。

 

 まどか達が病院に来た時は気が付かなかったが、少しずつ陽が落ち夜に切り替わっていった事で存在感が増し、感知出来るようになったそれこそ、

 

「さやかちゃん。これって」

「うん。ここまで来たらあたしにもはっきり分かる。良くないモノ関係だ」

 

 小さなオブジェのような形の中に、凄まじく大量の穢れが溜まり脈動する物。良くないモノを倒した時に稀に落とす物。魔女の卵、嘆きの種。

 

『グリーフシード……だね』

「へぇ。これってそんな名前なんだ。時々先生が拾ってはなんか危ないからって預かってるけどさ」

『セイが? それは英断だね。何せこれは魔女の卵。使い道はあるけど、処置もせず長く放置すれば君の言う良くないモノを生み出す代物さ』

「これから良くないモノが産まれるのっ!?」

「というかアンタっ!? そんな大事な情報一体どこから」

『お~っと今はそれどころじゃないねぇ』

 

 まどか達が慌てだす中、キュウディーはどこか飄々とした態度でそう制した。

 

「これはマズい事に孵化寸前と来た。もういつ卵が孵ってもおかしくない。こ~んな所で孵化したら厄介な事になるんじゃないかなぁ?」

「……っ!? そうだよさやかちゃん。こんな病院の近くでもしあんなのが出てきたらっ!?」

 

 大惨事。二人の脳裏にその三文字が浮かび上がり、冷や水を浴びせかけられたように一瞬にして慌てていた頭が冷える。

 

『落ち着いたかい? じゃあまずはさやかちゃん』

「……何よ?」

『こういう時こそ……なんだっけ? ホウレンソウ? 報告連絡相談って奴? 君の先生に知らせるべきじゃないのかい?』

 

 そう言われてハッとし、すぐさま持っていたカバンを探り出すさやか。そして、取り出した小さな剣のような飾りを握りしめると、そっと目を閉じて念じ始める。

 

(先生……先生っ! お願いっ! 気づいてっ!)

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

『……ええ。事情は分かったわ。良い? さやか達はすぐにその場から離れて私が行くまで待機を。大まかな場所さえ教えてくれればこちらで何とかするわ。場所が場所だけに、下手に刺激して良くないモノが孵化したら大変な事になる。くれぐれも手を出さないように』

「で、でも先生っ!?」

『すぐに退避しなさい。良いわね?』

 

 その言葉を最後に念話を切り、セイは抱きかかえたままのロボットに向けて困った顔をする。

 

『我が弟子も困ったものね。私が居ない時に限ってピンポイントで遭遇するなんて』

『ああ。一緒にまどかとおまけにキュウディーも居るようだからな。危険な目に遭う前に急いで向かいたい所なんだが……』

 

 ロボットはそう言いながら周囲を見渡す。

 

 そこは魔女の結界の中。当然セイとロボットは、この結界の主の魔女とその使い魔達に囲まれている状況で。

 

『少し厄介ね。まさかココロが居そうな場所に踏み込んでみたら良くないモノの巣だったなんて』

『これは突破するにしても時間がかかりそうだな……すまん。直接会いたいと連れてきてもらったばかりにこんな。足手纏いになるな』

『ふっ。いいえ。何を言うの?』

 

 申し訳なさそうに顔を伏せるロボットを床に置くでもなく、手を離さぬままセイは涼しげに笑う。そこを隙と見たか使い魔達が一斉に襲い掛かり、

 

 ヒュンっ! ズドドドっ!

 

 その周囲に浮かび上がった細剣が嵐のように乱舞し、使い魔達を迎撃していく。その中央に立つセイとその主に一切寄せ付ける事無く。

 

 

 

『仕える主を守りながらの戦いで、騎士が無様を晒すと思って? アナタに傷一つとてつけさせないし……3分もあれば充分よ』

 




 なんだかんだ魔女やグリーフシードの呼称など、言ってない事が多すぎるキュウディーです。最初にセイが良くないモノ呼びで通しちゃったから言う必要がなかったというか。……まあ逆に必要だと思ったらペラペラ聞いていないことまで話してくれるんですが。
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