見滝原に魔法少女(幻想体)が居るのはおかしくないよね? 作:黒月天星
まどか達が通りすがりの魔法少女に助けられていた頃、同じ魔女の結界内にて。
「今回の獲物は私が狩る。あなた達は手を退いて」
剣を構えるさやかを背に庇いながら立つ巴マミに対し、氷のように冷たい言葉を向けるほむらの姿があった。
時は少し遡る。
「まどかっ!? どこに居るのまどかぁっ!?」
まどかと共に結界に囚われたさやかは、必死にはぐれてしまった親友を声を限りに探していた。
(あたしのせいだ。あたしがさっさと離れなかったからまどかが巻き込まれて……急いで見つけないとっ!?)
チチチチチっ! チチっ!
「邪魔すんなァっ!」
焦燥のまま寄ってくる使い魔を斬り捨てさやかは駆ける。普段ならお菓子の世界などに目移りの一つもするかもだが、今はそれどころではなく当てもなく駆ける。しかし、
チチっ! チチチっ! チチチチチチチチチチっ!
「数が……多いっ!?」
一体一体は弱くとも、とにかく数が自慢なのがネズミである。一体斬り捨てても二体やってくる。二体両断しても四体がその隙をついてまとわりつく。四体を振り払っても八体がさやかを取り囲む。
さやかは一般人である。たとえ魔法少女に指導を受けようが、魔法少女の加護を受け魔法少女の武器を持とうが……一般人である。
「はぁ……はぁ」
次第に体力は落ち、息は切れ、汗が滴る。
幸い傷らしき傷はないが、このままではいずれネズミ達の餌になるかその主のおやつにされるか。
(ごめん……まどか)
もはや怒涛のように押し寄せるネズミ使い魔達に、さやかも遂に心が陰り、
チカっ! チカっ!
ほんの一瞬、視界の隅に光が視えたと思った瞬間、
ドガガガガガっ!
轟音が鳴り響き、さやかに迫る使い魔達が消し飛んだ。
「…………は?」
そんな呆けた声を出すほどに、さやかは目の前の光景が信じられなかった。そこへ、
「大丈夫だった? 出来ればそこでじっとしていてね。万が一にでも流れ弾に当たったら危ないから」
少女が現れた。多数のマスケット銃を空中に並べ、力強さと優雅さを背中越しに語る魔法少女が。
そこから行われるのは蹂躙。銃が
「これが……先生と同じ魔法少女」
これが、美樹さやかと巴マミの出会いだった。
「お願いしますっ! まどかを、あたしの友達を助けてくださいっ!」
「分かったわ。ここには
こうしてそれぞれのはぐれてしまった友を探すべく同行するさやかとマミだったが、二人はすぐに気があった。
さやかはマミに先生と同じく“正義の味方”。まさしく世間一般で言う正義を行い悪を正す魔法少女の姿を見る。この人が居るなら大丈夫だという安心感を覚えたのだ。
マミはさやかのその真っすぐな在り様に好感を覚え、またさやかの言う先生にも興味を抱いた。さやかの語る人となりから、もしかしたら自分の友達と同じく、自分と共に戦う同志になってくれるのではないかと。
そして二人は魔女の結界内の探索を続け、
「今回の獲物は私が狩る。あなた達は手を退いて」
現れたほむらに対峙する形になり、こうして場面は現在に戻る。
「あっ!? この前消えた転校生っ!?」
「あら? 突然現れたかと思ったら、中々不躾な事を言うのね」
急に現れたほむらにさやかはやや警戒の色を見せるが、マミは依然として優雅な態度を崩さずそう聞き返した。すると、
「今回の相手は今までとはワケが違うの。アナタでは厳しいわ……もう一度言う。ここの主は私が狩る。あなた達は手を退いてこのまま結界から脱出しなさい」
そう冷たく突き放すように再度語るほむら。しかしその内心は、
(困ったわね。この言い方はマズかったかしら。しかしここで止めないと高い確率で巴マミは……)
この結界の主の事を、ほむらはこれまでの周回から知っていた。
正直マミとの相性は微妙な所。真っ向勝負なら大抵の魔女に余裕を持って打ち勝てる強さを誇るマミだが、今回の魔女は初見殺しの搦め手を使う。それに引っかかれば危険なのだと。
しかし正直に話せば何故そんな事を知っているのかと不審がられる。おまけにほむらは自分ではあまり自覚はないがコミュ障である。内心を知らない人から見れば、ぶっきらぼうな言い方しか出来ない。伝達力に難ありだ。レティシアが居ればフォローも出来たが生憎お留守番である。
そんな人物の説得など、普通なら聞き入れられるケースは少ない。大抵は言われた方が怒り出すか無視して先へ進むか、或いはここで諍いになる事もありえた。だが、
「そう……ありがとう。
(……んっ!?)
予想外の返答にほむらも一瞬戸惑う。すると、
「確かにここの魔女は普通のそれとはワケが違うようね。アレを見せられては嫌でも分かるわ」
「……アレ?」
「なんだ転校生。あんたも後ろの奴を見たから忠告に来たんじゃないの? ほらアレっ!」
さやかがそっとこれまで自分達が通ってきた後ろの道を指さし、ほむらも何事かとそちらを見る。そこに広がる光景とは、
「……なっ!?」
いや、正確に言えば、ぽっかりと虚ろの開いた菓子の残骸だけがあった。それも比喩ではなく小高い菓子の山や壁に大きな風穴を開ける形で。
(これは何? 私や巴マミの使う重火器で開くような綺麗な円じゃない。どちらかと言えば、一直線に何かが突っ込んで食い散らかしたような……こんなものこれまでの周回にはなかった)
「ワタシでも必ず勝てるとは言い切れない相手。忠告はもっともよ。でもごめんなさい。ワタシ達だけ逃げる訳にはいかないわ。この美樹さんやワタシの友達を探さなくてはならないし、それに……アナタだけに無茶をさせる訳にもいかないものっ!」
ガシッ!
「マミさんっ!?」
「何をするの巴マミっ!?」
突然近寄ってほむらの手をそっと自分の手で包むマミに、ほむら本人とさやかは驚きを隠せない。
「あのレティシアちゃんの為にグリーフシードを集めようとまた一人で無茶な事を。でもそれでアナタが危ない目に遭ってはそれこそレティシアちゃんが悲しむのよ?」
「なっ!? 別に私はレティシアの為にではなくて」
妙な勘違いをされたままだと戸惑いっぱなしのほむら。そこに、
「マミさん。グリーフシードって危ない物なんじゃないんですか? それを何でわざわざ集めるなんて」
「そうね。確かに危ない物だわ。でもね美樹さん。グリーフシードは魔法少女にとって有益な物でもあるの。だけど魔法少女になりたての子や戦闘向けの能力じゃない子では中々集められなくて死活問題。だから暁美さんは、
「っ!? だからそれは」
「そうだったのかっ! 実はあんた良い奴じゃん転校生っ!」
何やら勝手に話が進み、勘違いが深まっていく事にほむらは歯嚙みする。
すっかりマミとさやかの中でほむらは、一見クールでぶっきらぼうだが、実は幼女の為に危険を承知で危ない事や少々グレーな事であっても身体を張る不器用で優しい少女という認識になっていた。
「さあっ! 一緒に行くわよ暁美さんっ! 大丈夫。はぐれたワタシの友達と合流して三人で戦えば、美樹さんを守りながらでも充分対処出来るわ。だからもう一人で無茶をしてはダメよ」
「そうだよ転校生。急いでまどかを見つけて外へ脱出したらさ。その頃には先生も駆け付けてくるだろうから鬼に金棒って奴? 皆で良くないモノの親玉をタコ殴りにすれば良いんだよ。それでレティシアちゃんを安心させてあげなよ。……あっ!? ずっと転校生呼びってのもなんか硬いよね。これからは暁美さん……いやいっそマミさんみたく名前呼びの方が良いかな?」
「……勝手にして」
こうしてほむらの精神に若干の疲労が重なるという形になったが、マミとさやかに加えてほむらが三人同行するという形になったのだった。
ほむほむとマミさんとさやかが普通に仲が良くなりました。
これは原作との相違点として、
・原作ではマミの友人であるキュゥべぇを傷つけたという事で最初からマミの好感度がマイナス。しかし今作ではキュゥべぇが所在不明なためそれがない。
・初対面の際にレティシアが居た事からほむらへの印象が良い方向に変わっている。おまけに連絡先も交換したのでマミからしたら既に知人。
・何故かお菓子の魔女の結界内が既に荒らされていてマミの浮かれっぷり(油断)が減少。その状態で知人からぶっきらぼうではあるが警告を受けたのだから素直に受け取る。……あと知人一人で危険な相手に立ち向かおうとするのは見過ごせない。
・ついでにマミには既に新たな友達が出来ているのでメンタルが原作よりも数段良い。
という事からです。あとさやかも地味に以前ほむらとレティシアの絡みを見ているので、マミの言葉を素直に受け取り好印象だったりします。