見滝原に魔法少女(幻想体)が居るのはおかしくないよね? 作:黒月天星
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その異物は、結界の外から来たモノだった。
特に理由らしき理由はない。偶々ふらりと近くに寄り、中から美味そうな香りがしたので入口をこじ開け突入し、手当たり次第に菓子の世界を食い始めただけの事。
ムシャムシャ。ムシャムシャ。
ドーナツの小山も、ジュースの小川も、そこらに生えるキャンディーの草も食らった。美味かったようだ。
ムシャムシャ。ムシャムシャ。
そこらをちょこまか蠢くネズミ達も、一人で歩くビスケットのような使い魔も食らった。微妙だったようだ。
だが足りない。まだ足りない。
食べても食べても満たされず、常にじりじりと飢餓が内側から身を焦がす。だからそれを宥めようと、自らも全てを喰らう。内側から焦がされる分だけ外側の肉を足していくように。
『…………ハハッ!』
ふと、懐かしい匂いに笑みが零れた。
◇◆◇◆◇◆
『さあ。こっちだよ。足元に気を付けて』
「う、うん。ありがとう」
まどかはユウと名乗る自称魔法少女の手を取り、結界の中を進んでいた。
『やあやあ先導悪いねぇユウ。なんせまどかちゃんだけじゃ進むのも戻るのもあのままじゃしんどくてさ』
『礼には及ばないよ。結界内に迷い込んだ人を助けるのは、魔法少女として当然の事……らしいからね』
キュゥディーがどこかゆるりとした態度でそう言うと、ぴしゃりとそれだけ言って歩みを進めるユウ。彼女との出会いは少しだけ遡る。
「通りすがりの……魔法少女?」
突然現れたユウと名乗る魔法少女に戸惑うテーブルの上のまどか。ユウはぱちゃぱちゃと水音を立てながらまどかに近づく。
『そうだよ。魔法少女という言葉には馴染みがないかもしれないけれど、要するにこういう恐ろしい怪物達から人々を守る者だとだけ覚えておけば……おや?』
そこでユウは、まどかの肩で意味深な笑みを浮かべたまま状況を見守っているキュゥディーに目を留め、
『その白く小さく如何にも魔法少女のマスコットらしい姿。もしかして……
「キュゥべぇ?」
ユウの言った微妙に違う名前に不思議そうな顔をするまどか。そして肝心のキュゥディーはというと、
『おや? そうかこれは…………いやいやそれは人違いという奴でね。僕はキュゥべぇじゃなくてキュゥディー! ぱっと見姿はおなじだけどさ、ほらっ! 内面から溢れ出るこのユーモアとか品格? 或いは人類愛? が全然違うでしょ?』
『う~ん。そう言われても、ボクはそのキュゥべぇの話を聞いていただけで会った事がないからなんともね。しかしそうなると君も魔法少女……という訳じゃなさそうだね?』
「うん。わたしは魔法少女じゃないけど」
まどかが首を横に振ると、ユウはまどかに向けて手を差し出す。
『まあ何はともあれ。魔法少女じゃないのならこんな所に居たら危ない。ボクが出口まで案内するから早く出よう。さあ。床の水になるべく触れないようにゆっくりと降りて』
「待ってっ!? まださやかちゃんが、わたし友達とはぐれちゃって」
『何? 君の
ユウはまどかの友達という言葉にピクリと反応する。
『……そのさやかちゃんという人は、君にとって大切な人なの?』
「うん。大切な友達。だからどうか……さやかちゃんも一緒に」
チチチチチっ!
そこに、鳴き声のような声をあげて先ほどのネズミ使い魔達がまた集まってくる。床の緑の水に触れた個体は力なくその場に倒れるのだが、少しずつ少しずつ水が引いた場所から迫ってくる様子にユウは軽く咳き込み、
『こほっこほん。今はここから早く離れなくては。……ちょっと失礼っ!』
「えっ……きゃっ!?」
『わおっ!? 大胆だねぇ』
まどかと同じか少し小柄かもしれない体格のユウが、まどかを軽々とお姫様抱っこするのを見てキュゥディーは口笛を吹きながら茶化す。まあ魔法少女の力ならこれくらい造作もないのだが。
『大丈夫。ここには頼りになる友人も来ている。きっとそのさやかちゃんを無事に保護している筈さ。君はまず自分の身の安全を考えなくちゃ。……行くよっ!』
ユウはまどか達を抱えたままそう言ってトンっと地を蹴り、キャンディーの柱を蹴り、ドーナッツの壁を蹴って、三角飛びの要領で使い魔達の頭上を越えて包囲を脱すると、一目散に追ってくる使い魔達から逃げ出した。
何故かその瞬間、まどかの脳裏にはかつてあった同じような事、ココロに抱えられて走った記憶がまざまざと思い出されたという。
という事があり、まどか達一行は結界内を出口に向けて移動していた。
時折先ほどのネズミ使い魔達が寄ってくるのだが、その度にユウが緑の小波で押し流したりまどかを抱えてその圧倒的な脚力で撒く等対処していく。
そして道中、短い間ではあるがまどかとユウ(ついでに時々茶々を入れるキュゥディー)は幾つかの話をした。
『ごめんねまどかさん。一緒に来たボクの友達とは違って、ボクはあまり戦闘向きの魔法少女じゃないみたいでね。こうして力を奪う水で足止めしたり、君を連れて逃げる事ぐらいが精々なんだ。もっと余裕を持って君を逃がせれば良いんだけど』
「うう~ん。そんな事ないよユウさん。ユウさんが居なかったら、とっくにわたしもキュゥディーもさっきのネズミ達に……うん。やっぱりユウさんは凄いよ。そんなに自分がダメなんだって思わなくても良いんじゃないかな?」
『そう……かな。うん。そうだと良いな』
自分が単純な強さでは他の魔法少女に劣る事に悩むユウをまどかが励ましたり、
「ねぇキュゥディー。さっきユウさんが言ってたキュゥべぇってどういう人なの?」
『ボクもそれは知りたいな。ボクの友達が言うにはまさに君の風貌そのままで、
『そうだねぇ…………良くも悪くも人と価値観の大分違う敏腕セールスマンみたいな? あらゆる手を使って契約を取ってくるから間違いなく有能なんだけど、ボクと違って遊びがないというか合理性の極致というか。ボク個人としては気は合わないなぁ。ビジネスパートナーとしてならともかくね』
キュゥべぇについてのかな~りオブラートに包んだキュゥディーの主観を聞いてみたり、
「え~っ!?
『そうなんだ。しばらく前にどうも恐ろしい魔女に襲われたらしくてね。酷い怪我をして倒れている所を今の友達に助けられたんだ。それ以前の記憶がどうにもぼやけてはっきりしないけれど、自分の名前や魔法少女としてどこかの町を守っていた事は覚えていたからそれで充分。ボクは記憶が戻るまで友達の手助けをすると決めたんだ!』
『あ~やっぱりそういう事。……これはどうしたもんかなぁ』
地味にユウの語る身の上話がとんでもなくてまどか達が驚愕する……そんな時だった。
…………っ!
「あれ? 今何か聞こえなかった?」
微かに遠くから聞こえた音。まどかがそれに気づき、ユウも素早く提げていたハンマーを手にして警戒態勢を取る。
…………ドっ!
「気のせいじゃないっ!?」
『まどか達はボクの後ろにっ!? 何かが近づいてくる』
…………ドドドっ!
大分はっきりとしてきたのは、何かがこちらに向かってくるような音。
明らかに人の出す音ではない。なら先ほどのネズミ達かと思えば、それは違うとユウは被りを振る。規模が違い過ぎる。小さな数百のネズミではなく、巨大な一体の何かが突き進むような音であると。
……ドドドドドドっ!
『来るよっ!』
もはや耳を塞いでも聞こえる轟音に、ユウはそう叫んで何が来ても即座に動けるようにまどかを庇いながら構える。そして、
ドドドドドドドドド……ムシャバリグチャメキョバクモグっ!
菓子の壁を食い破って現れたそれは、敢えて例えるのであれば
その鱗の一枚一枚がタイル状になって輝き、小さな目とちょろりと生えた尾だけ見れば或いはユーモラスと言えるかもしれない。
しかしながら、ちょっとした家ほどある巨躯に両脇から幾本も伸びた細長い手。そして進行方向にある全てを飲み込まんとするような巨大な口が、ユーモラスどころか不気味さと恐怖を漂わせる。
『アッハッハッハッハ!』
そうしてその場を圧倒するように、黄金の魚は狂気に満ちた哄笑を響かせた。
お菓子の魔女だと思った? 残念黄金の魚でしたっ! 魔法少女が増えたのなら、それに応じてイレギュラーも増やさないとフェアじゃないよね?
なお独自設定として、今作のユウはデバフ特化のサポータータイプです。本人はそこまで強くない(他の幻想体魔法少女に比べて)けれど、集団戦だと的確に相手やフィールドそのものにデバフをばらまく縁の下の力持ちタイプですね。