見滝原に魔法少女(幻想体)が居るのはおかしくないよね? 作:黒月天星
続いちゃったので形式を短編から連載に変更します。
注意! 今作では独自設定が大いに仕事をします。
「魔法……少女?」
光と共に現れて、そう宣言した自分と同年代か少し上の少女を見て、まどかは呆然とそう呟く。
魔法少女は勢いよくまどかと怪物達の間に割り込むように飛び込み、手に持ったステッキを残った怪物達に向けた。
「さあ悪党達。お仕置きの時間だよ。痛い目に遭いたい奴からかかってきなさいっ!」
怪物達にその啖呵が通じたのかは分からない。言葉が通じるかすら定かではない。
しかし怪物達は魔法少女に向き直った。怯えて動けないような相手よりも、こちらの方が危険だと言わんばかりに。
そしてまどか達に今やったように、怪物達は魔法少女に向けて飛び掛かった。しかしそれは悪手。
「逃げる気も降参する気もないみたいね。なら……覚悟は良いっ?」
逃げれば良かったのだ。降参すれば良かったのだ。だがそのどれもしない悪党に、(自称)愛と正義の魔法少女は容赦がない。
そこから先は戦いではなく、一方的な蹂躙だった。
魔法少女がステッキを振るう度、星形の弾が怪物を確実に討ち滅ぼしていく。
大抵のものは近づく事すら出来ず、諦めてまどか達の方に向かおうとする個体もそれに気づかれた瞬間吹き飛ばされる。
運良く弾幕を抜けてせめて一矢報いようとした個体さえ、
「はあああっ!」
直接ステッキで地面に叩きつけられ、そのままゼロ距離で星形弾を撃ち込まれて消滅する始末。
それほどまでに魔法少女の実力は圧倒的だった。やがて、
「お仕置き完了っと。ケガはない? 流れ弾とか行かないようには注意したつもりだけど」
周囲に怪物の気配がなくなるまで蹴散らした後、魔法少女はゆっくりとまどかの方に振り向いて声をかけた。
「は、はい。大丈夫……です」
「そっか! 良かった!」
未だ目の前の出来事の衝撃が冷めやらぬまどかに対し、魔法少女は優しく安心させる様に微笑む。
「だけどこんな所に居たら危ないよ。ワタシが安全な所まで送ってあげる」
「で、でも……わたしが入ってきた場所が無くなっちゃってて、それにこのロボットさんも助けないと」
まどかは先ほどから抱えているロボットを持ち上げながらそう言った。魔法少女はロボットを見て、
「可愛いロボットだね。ヘルパーみたい。あなたのお友達?」
『友達じゃない。俺が困っていて助けを呼んだら偶然この子が来てくれた。それだけだ』
今の今まで黙って様子を窺っていたロボットは、そこでやっと声を上げた。
「ふ~ん……良くないモノって感じもしないしまあ良いか。出口ならあたしがこじ開けたから大丈夫。じゃあその子をしっかり抱えていてね。……行くよ!」
「って……ちょっと待っ……きゃあっ!?」
『うおっ!?』
魔法少女は一度ステッキを仕舞うと、ロボットを抱えているまどかをさらにそのままお姫様抱っこして凄まじい勢いで駆けだした。
地を蹴り、壁を蹴り、天井を蹴り、時には現れる怪物も足場代わりに蹴り、出口に向けて疾走する姿はさながらジェットコースター。ただし安全バーは柔らかい魔法少女の腕のみである。
あまり衝撃が行かないよう繊細な動きをしているとはいえ、まどかにとってはそこらの絶叫マシンより数段怖い。
「きゃああああああっ!?」
『うわあああっ!?』
あとついでにロボットも怖かったようで、二人の絶叫が響き渡る事しばらく。
「と~ちゃ~く! ……あれ? 大丈夫? 顔が真っ青だよ? やっぱりあの良くないモノ達に何かされたんじゃっ!?」
「いえ。そうじゃなくて」
『助けてもらって言いたくないが、お前の動きが荒っぽ過ぎたんだっ!? 目が回る』
気が付けば、まどかが入ってきた防火扉を抜け、一行は非常階段の前まで着いていた。
しかしまどかは口元を抑えてふらついているし、ロボットも目の表示が器用にもグルグルしている。
「あはは。ごめんごめん。ごめんついでだけど……ここからは二人で帰って。この階段を下りて行けば人の居る所に出られるから。最後まで送ってあげられなくてごめんね」
魔法少女はそう言って、この階ではなく
そう。まどかも怪物達から逃げ回りながら感じていたが、上の階から確かにここより酷い物音がしたのだ。上にも同じかそれ以上の怪物が居るのは間違いないだろう。
「誰かと良くないモノが戦っているみたい。愛と正義の魔法少女としては見過ごせないよね」
そう言って魔法少女が足に力を込めた瞬間、
「待ってっ!? まだお礼も言えてないんです。……助けてくれてありがとうございました」
『俺からも言わせてくれ。ありがとう。君が来てくれなかったら、俺ばかりかこのお嬢さんも危ない所だった。感謝する』
まどかが深々と頭を下げ、ロボットも僅かに顔を伏せて一礼した。
「お礼なんて良いって! 人助けは魔法少女としての使命なんだから」
「じゃあせめて名前をっ! お名前だけでも聞かせてくれませんかっ!」
(あたし何言ってるんだろうっ!? こんなのお礼でもなんでもないじゃんっ!? 恥ずかしい)
咄嗟で勢い任せに出た自分の言葉に、まどかは顔が赤くなるのを抑えられなかった。
でも、仕方がなかったのだ。
弱きを守り、強きを挫く。襲い来る怪物達を前に一歩も退かず、大立ち回りをして穏やかに微笑むその姿は、まさしくまどかのイメージした魔法少女そのものだったのだから。
一言で言えば……焦がれたのだ。
それを聞いた魔法少女は何も言わず、すっとまどか達の横を通り過ぎて階段の方へ歩を進めた。
こんな事言っても駄目だよねと、少しだけしょんぼりして顔を伏せるまどかだったが、
「……
「えっ!?」
思わず顔を上げるまどかに向けて、魔法少女はクスッと笑った。
「ワタシの名前。
魔法少女……ココロは顔の横でピースサインを決めながらそう言って、ロボットの方を最後に一度ちらりと見ると、今度こそ凄まじい勢いで階段を駆け上がって姿を消した。
「魔法少女ココロさん……かぁ」
残されたまどかはしばしの間、心ここに在らずと言った感じでその場に立ち尽くしていたが、
『……い。おいっ! お嬢さんっ! 呆けている所悪いが、まずはさっきの子が言ったように安全な場所まで移動した方が良いんじゃないか?』
「あっ!? そう……だよね。うん。ロボットさんは……どうしよう?」
『出来れば、連れて行ってくれ。俺自身もどこか落ち着ける場所で状況を整理したい。少なくともここ以外で』
「分かったよ」
抱えていたロボットの言葉にハッとし、そのままどこか夢見心地で日常へと帰還するのだった。
同時刻。ショッピングモール最上階にて。
(どういう事なの? これは)
暁美ほむらは目の前の状況に戸惑っていた。それというのも、
「助けてくれてありがとう。お姉ちゃんっ!」
『うむ。良く分からぬが助かったぞ名も知らぬ少女よ。それと我が運び手よ。前々から言っているが、私を持ったまま頭を下げるんじゃない。私の視線が床に向いてしまうではないか』
「あっ!? ゴメンねネクちゃん」
魔女に襲われていた幼女と、
◇◆◇◆◇◆
事の発端は少し前に遡る。
ほむらが彼女なりの忠告を一番大切な人である鹿目まどかにした後の放課後。
あの悪徳セールスマンにして白い獣。人を甘い言葉で巧みに誘い、逃れ得ぬ契約を結ぼうとする宇宙人。キュゥべえことインキュベーターがまどかに接触する前に排除しようとほむらは動き回っていたのだが、
(……おかしいわ。キュゥべえの姿が見当たらない)
普段ならループごとに呼んでもいないのに出てくる目障りな奴が、何故かここしばらく姿どころか気配すら感じられないのだ。
普段なら嫌な奴の顔を見なくて済むのは喜ばしい。しかし、居ないなら居ないで何か裏で暗躍しているのではないかと精神衛生上よろしくない。
(まったく。どちらにせよ嫌な気分にさせられるなんて、とんだ害獣だわ)
そう内心で罵りながら、ほむらはこれまでのパターン上出る可能性の高い場所を回っていた。そんな中、
「……居た」
一瞬、しかし確実に見覚えのあるフォルムが視界の端を横切ったのを確認し、ほむらはそっとその後をつける。
その白い獣は、どうやらショッピングモールへと向かっているようだった。
(目立つ場所で動く訳にはいかない。やるなら人気のない場所に入ってから)
非情に物騒な思考を冷徹に下しながら尾行するほむら。相手が人間なら犯罪だが、キュゥべえ相手ならただの害獣駆除であると理論武装も完璧だ。
一般人には見えないのを良い事に、白い獣は堂々と入口からモールに入り、きょろきょろとどこか物珍しそうに辺りを見渡しながら進んでいく。
ふとほむらはその仕草に違和感を覚えた。あの合理性の化け物のようなキュゥべえが、まるでウィンドウショッピングを楽しむかのような事をするだろうかと。
(……いえ。どうでも良いわね。なんにせよ始末するだけ)
もう完全に思考がアサシンのそれである。
違和感を軽く振り払って尾行を続けるほむらだったが、白い獣は人気のない非常口付近まで来たかと思うとフッと姿を消した。
急いで消えた付近まで駆け寄るほむらの耳に、外の非常階段を何かが上っている音が聞こえてくる。
(これは……誘い? 罠ね)
まだこのループ内ではどの個体も排除してはいない。しかし現にこうして自分を誘い出すかのような動きをされていれば、自分の事に気づいているというのは理解できる。
問題はどの程度まで気づかれているか。ほむら自身の素性までバレているのか、或いはただ単に自分をつけている相手が居ると気づいただけか、
ほむらはそこで僅かに逡巡し、
(関係ないわね)
すぐに非常口を抜け、追っている事が丸わかりの音を立てながら階段を駆け上がり始めた。
ほむらからすればバレる事自体はまるで問題がない。どのみちインキュベーターを見つけ次第全て殲滅し、まどかと契約させなければそれで良いのだから。
着実に距離を縮めていく中、急に先行していた足音が止む。階段を抜けてどこかのフロアに飛び込んだわねと、ほむらは魔法少女としての固有武装である左手に装着した盾のような物を起動させる。
その能力の一端で取り出したのは黒光りする拳銃。どこぞの危ない組織からこっそり頂戴してきた、警察に見つかればお縄待ったなしの品である。
それを構えながらほむらが辿り着いたのは最上階。改装工事中の場所であり、丁度今は人気もなく仕留めるには都合が良い。
白い獣が遠目に見えたのを確認し、ほむらは咄嗟に拳銃を撃ち放つ。まだ距離があったため当たりこそしなかったが、白い獣は慌てて走り出す。
そこから始まる追いかけっこだが、それは特に語る事はない。事実だけ述べるなら、数分もしない内にほむらは白い獣を追い詰めた。それだけだ。
『おっと……追い詰められちゃったか。まいったねぇどうも。こう言ってはなんだけどさ。君初対面の相手に銃をぶっぱなすとか少々危なすぎやしないかい? もうちょっとこう対話を楽しむのが知的生命体のあるべき姿じゃないかと僕は思うんだけどひえっ!?』
「うるさいわね。さっさと死になさい」
やたらペラペラ喋るのにまた違和感を感じたがそれはそれ。ほむらは鉛弾をプレゼントするものの、白い獣は情けない声を上げながらギリギリで回避する。
『ちょっと待ったちょっと待ったっ!? いや勘弁してよ。なにせこの身体は一点物で代えが効かないんだから』
「戯言で油断させようというのでしょうけど生憎ね。あなた達が数多くの同一個体を持つ群体だっていうのはとっくに知ってるわ」
そう言ってほむらは、今度こそ外さないように狙いを定めて引き金を、
「きゃああああっ!?」
「今のはっ!?」
引こうとした瞬間、どこかで少女の悲鳴が聞こえてきたのと同時に周囲の雰囲気が変化する。
まるで誰かの悪夢のような不定形な世界へと。
「魔女の結界。こんな時に」
『それじゃ失礼っ!』
ほむらが結界に気を取られた一瞬の隙を突き、白い獣はまだぎりぎり正常を保っていた壁の隙間に入り込んだ。
急いで隙間に銃弾を撃ち込むほむらだが、どうやら手応えはない。
ここでほむらは決断を迫られた。にっくきキュゥべえを追うか、先ほど悲鳴をあげた誰かの下へ駆けつけるかだ。
正直キュゥべえを追って始末したい。見知らぬ誰かが魔女の手にかかる事は良い事ではないが、かと言ってキュゥべえを放っておけばまどかに危害が及ぶ。
見知らぬ他人よりも知ってる親友。ほむらは悩んだ末キュゥべえを追跡しようとし、
『大丈夫だよ。ほむらちゃん』
その脳裏にかつて彼女が救われた時の言葉が、その穏やかな微笑みが過ぎる。
一度過ぎってしまったらもう駄目だった。かつてほむらを救ったまどかなら、決してこの状況で見知らぬ誰かを見捨てない。今のまどかも同じだろう。
「……行かなくちゃ」
ほむらは苦々しい顔でキュゥべえが逃げて行った隙間を睨み、後ろ髪を引かれる思いで魔女の結界の奥深くへと踏み込んだ。
そこは、魔女の使い魔達の巣窟だった。
魔女。呪いから生まれた怪物。そしてその魔女が従えるのが使い魔である。
魔女の使い魔は何かの役割を仰せつかり、基本的に結界内を徘徊する。そしてこの結界内の使い魔は、蝶の羽と髭の生えた綿飴。控えめに言って、夢に出そうな絶妙なアンバランスさの見た目であった。
そして、何の因果かそんな所に迷い込んだ子供が一人。
「あわわわわっ!?」
幼女であった。
背丈からして歳は十に満たないほど。首元に赤いリボンの付いたフリフリの多いドレスを着込み、頭には赤いボンネットを被っている。
全体的に赤が基調の中、軽く左右を縛った髪の毛は灰色だ。そして髪飾りのように、両耳の後ろに少し大きめの鈴がそれぞれ付いている。
その腕には、幼女が持つと少々大きめに見える西洋風の赤子の人形が抱かれていた。
そんな幼女が、使い魔達に囲まれ恐怖で涙目となっている。魔女本体は近くには居ないようだが、結局絶体絶命な事に変わりはない。そんな状況で、
『え~い泣くんじゃない。しっかりするのだ我が運び手よ』
驚くべき事に、幼女の抱いた人形が声を上げた。少々ぎこちない動きだが、叱咤するように腕を振り回す。
「だって……だって」
『だってではない。お前の沢山居る友達達に比べればあの程度、ちょっと髭の生えた綿飴でしかないだろうに。何を怖がる必要がある』
「だって……
『いやそこかっ!?』
……訂正する。恐怖で涙目になったのではなく、食べ物が食べ物でない事に困っていただけであった。
そんなやり取りは知らぬとばかりに、使い魔達は幼女と喋る人形を包囲する。ただそれは獲物である人間が入ってきたからというよりは、自分達の縄張りに
しかし、その包囲はすぐに崩れ去った。何故なら、
「掴まって」
突如として包囲のど真ん中、
本当に突然の事で、どうやってかは良く分からない。包囲していた筈の使い魔達が困惑したのも当然だ。だが、
「えっ……うんっ!」
幼女は驚きながらも手を取った。その素直な行動の結果、起きた事だけを述べるとこうなる。
一つ。何故かほむらと幼女、そして抱いていた人形以外の使い魔達の動きが止まる。
二つ。ほむらが幼女の手を引き、触らぬよう慎重に包囲の隙間を抜ける。
三つ。包囲から抜けて充分に距離を取った後、ほむらが包囲の真ん中に何かを放り投げる。
四つ。……何かが爆発して使い魔達を一網打尽にする。
以上である。
ドカ~ンっ!
「……あれ?」
『なにぃぃっ!?』
幼女からすれば何が何やら分からない。人形からしても分からない。
知らない人が急にやってきたと思えば周囲の動きが止まり、逃げ出したと思ったらこれまた急に爆発である。
とりあえず超スピードとか幻覚などのちゃちな物ではない事は分かったが、驚きで幼女と人形の頭上には疑問符が飛びかっている。そして、
(どういう事なの? これは)
驚いているのはほむらの方もであった。なにせ、
最初は腹話術か何かかと思ったが、明らかに幼女と同時に喋っていたのでその可能性を除外する。
「……大丈夫?」
とはいえ、今の今まで幼女がピンチに陥っていた事に間違いはなく、魔女本体こそ居なかったものの使い魔からの精神干渉を受けた可能性はある。
なのでほむら基準では大分にこやかに、しかし傍から見ればまだ険しい部類の顔でそう尋ねた。
「助けてくれてありがとう。お姉ちゃんっ!」
『うむ。良く分からぬが助かったぞ名も知らぬ少女よ。それと我が運び手よ。前々から言っているが、私を持ったまま頭を下げるんじゃない。私の視線が床に向いてしまうではないか』
「あっ!? ゴメンねネクちゃん」
「……安全な場所に案内するわ。急ぎましょう」
魔女に襲われていた幼女と、喋る人形のネク。気になる所は多々あるが、まだ近くに使い魔が残っている可能性もある。
ほむらは急ぎ撤退を決め、レティシアの手を引いて歩き出した。だが、その道中なんとなく幼女が発した言葉に、あのまま置いてくるべきだったかと頭を抱える事になる。何故なら、
「そう言えばまだ自己紹介もしてなかったよね! 私はレティシア。前はおちびちゃんとか
「……何ですって?」
レティシアの自己紹介は、とんでもない厄ネタだったのだから。
なお、
「そこまでよ。悪党達っ! ……ってあれ? あんまり居ない?」
ほむら達が脱出したすぐ後に、ココロがほとんど使い魔の残っていない結界に再度突入して肩透かしを食らっていたりする。
こうして、ショッピングモールの使い魔達は一掃されたのであった。
という訳で、フロア一階隔てた状態で原作展開がすれ違っています。ちなみにまどかが最後ココロに名前を聞いて引き留めなければ、ぎりぎりほむら達が撤退する所に間に合っていました。
なおレティシア以外の魔法少女(幻想体)は、今作ではそれぞれ独自の名前を名乗ります。あとレティシアの持っている人形は別作品元ネタの半オリキャラです。
ネタが出来て気が向いたら書くという不定期更新で、次話はいつになるか分かりませんが、気長にお待ちいただければ幸いです。