見滝原に魔法少女(幻想体)が居るのはおかしくないよね? 作:黒月天星
そこには学校の屋上に似つかわしくない、緊迫した雰囲気が漂っていた。
ベンチに座ってクールそうな表情を崩さないほむらと、そこに並んで腰かけながら服の裾を摘まみつつ、軽く足をぶらぶらさせるレティシア。そしてその膝に乗せられて頭を撫でられながら、憮然とした顔をするネク。
対して、それに向かい合うのはまどかとさやか。そして、両方の成り行きを見守れる位置にキュゥディーが陣取っていた。
「えっと、暁美さん。その……あなたは魔法少女……なの?」
まず、最初におずおずと切り出したのはまどかだった。それを聞いたほむらは一瞬キュゥディーに対して殺意すら感じさせる視線を向け、
「……魔法少女? さあ? 何の事かしら。こう言ってはなんだけど、今時そんな子供じみた物を信じるなんて実に幼」
『そうだよ! このほむらお姉ちゃんはとっても凄い魔法少女なんだから! 昨日だって困っていた私達を助けてくれたんだもん!』
さりげなくしらを切ろうとしたのだが、レティシアに速攻でばらされて苦い顔をするほむら。
「本当に魔法少女なんだ……ならっ! この人の事知らない?」
まどかはそこで、事前に撮っておいた家で留守番しているロボットの写真を見せた。
ほむらは「……人?」と不思議そうな顔で見ていたが、見覚えはないわねと首を横に振る。横から覗き込んだレティシアも同様だ。
ネクだけは一瞬ちらりと見えたそれに何か違和感を覚えたようだったが、それ以上は特に何も言わなかった。
「じゃあさ転校生。他の魔法少女について何か知らない?」
さやかはそう尋ねたのだが、ほむらは何も言わず素知らぬ顔。答えがなかった事に少々ムッとしつつも、再度問い詰めようとしたさやかだったが、
『ほむらお姉ちゃん? そこのお姉ちゃんが聞いてるよ? え~と……お名前教えて?』
聞こえなかったと思ったのか、ほむらにそう呼びかけながらもにこにこして名前を尋ねてくるレティシア。
そう言えば名乗っていなかったと、さやか達はそれぞれ自分の名前を名乗る。すると、
『うん! さやかお姉ちゃんにまどかお姉ちゃんね。私レティシアだよ! それとこの子は』
『ふっふっふ。遂に我が名を名乗る時が来たな。この真名を聞き恐怖に震え怯えるが良い人間共よ。そう。私こそは、ダー』
『ネクちゃん。お姉ちゃんを怖がらせたらめっ! だよ』
『……ただの人形のネクだ。精々よろしく頼むぞ』
レティシアに叱られて、ネクは渋々と言った感じで自己紹介する。これだけで何となく力関係が分かり、まどか達は苦笑い。
『それでねそれでね! ほむらお姉ちゃんはほんのちょっぴり人と話すのが苦手ってネクちゃんが言ってたの。だから、何度も根気強くお話ししてあげて』
横で心外なとほむらが表情筋をぴくぴくさせているが、レティシアは混じりっけなしの善意で言っているのだから反論もしづらい。代わりにネクに鋭い視線が飛ぶが、ネクはレティシアの陰に隠れて知らん顔。
「そうなの? ねぇ暁美さん。他にも誰か魔法少女の事を知っていたら、良ければ教えてほしいんだけど」
「……少し考えさせて」
しかしそれならばと、まどかが改めて尋ねてみれば、明らかにさっきより柔らかい声でほむらはそう返した。
その態度を見て、(あっ!? こいつ
それはさておき、
「一つ聞かせて。あなたが他の魔法少女を探す理由は? ……前にも言った筈よ。今とは違う自分になろうと思わないようにと」
「違うよ!? わたしはただ、さっきのロボットさんの力になりたいだけ」
そうどこか咎めるような、或いは忠告するようなほむらの言葉に、まどかは慌てて首を横に振って昨日あった事を説明する。
その内容はさやかに語ったものと同じ。不思議なロボットとの出会い。怪物の襲撃。現れたココロと名乗った魔法少女。怪しい白い獣キュゥディー等々だ。すると、
『ココロ……はいはい! 私ココロお姉ちゃんの事知ってるよ!』
「レティシアちゃんっ!?」
急にその話を聞いたレティシアが、ぴょんぴょんと手を上げながら飛び跳ねる。それにはまどかもさやかも……なんならほむらも驚いた。
『あのねあのね! ココロお姉ちゃんは
「……ちょっと待ったレティシアちゃん。今何お姉ちゃんって」
何か気になった事があったのか、さやかがレティシアに確かめようとした所で、
ギュッ。
「事情は分かったわ。そして、事情が変わったわね」
そこで話の流れを断ち切るように、ほむらがレティシアを片手で抱き上げた。当然レティシアが抱えたネクも一緒にだ。
いくら小柄とは言え、見た目はただの中学生のほむらが幼女と人形を片手で軽々と持ち上げた事に、まどか達は一瞬驚いて動きが止まる。そしてその一瞬こそが流れを大きく変えた。
気が付けば、ほむらの腕には円形の盾のような物が装着されており、
「そのココロという魔法少女は私が探す。幸い予想外の情報源も手に入ったから。まどかはただ何もせず、魔法少女に関わる事もなく、穏やかな日常の中で待っていればそれで良い。……大丈夫」
そう言うと、ほむらは僅かに、ほんの僅かにだけ優しい顔で微笑んだ。その瞬間盾のような物がくるりと回り、
「私が絶対に、
まるでそこには誰も居なかったかのように、ほむらとレティシア(と抱えていたネク)はまどか達の前からふわりと消え去っていた。
◇◆◇◆◇◆
こつん。こつん。
時の止まった世界で、ほむらはレティシアを抱えたまま歩みを進める。近くに居たさやかの横をすり抜け、まどかの方へちらりと視線を向け、
『ほむらお姉ちゃん? どうしたの? 怖い顔してるよ?』
「黙っていて」
心配するレティシアの言葉を切り捨て、ほむらは怨敵の前に立つ。そう。この場においても人を弄ばんとする白い獣の前にだ。
「キュゥべえ。いえインキュベーター。もうまどかに接触されてしまったけれど、例えアナタがただの群体の一つであったとしても、それでも少しは妨害させてもらうわ」
ほむらはスッと冷たく黒光りする拳銃を取り出して、自らの怨敵に向ける。時の止まった世界。おまけにこの至近距離となればもう外す方が難しい。
『ほほう。良いぞ! やれやれ! そんな程度で奴がくたばるとも思えぬが、多少の嫌がらせにはなるだろうよ』
『ネクちゃん。めっ! ……そんなの止めようよほむらお姉ちゃん。だってすんごく怖くて辛そうな顔してるの。これじゃあ全然笑顔になれないよ』
悪い顔をして囃し立てるネクと、しょんぼりとした顔でそれを止めようとするレティシア。
だがほむらは止まらない。耳では聞こえていようとも、そんなものはほむらの心には届かない。
「そこの人形。レティシアの目を塞いでいて。五秒で良いわ」
『構わぬよ』
『ネクちゃんっ!?』
ニヤリと笑って腕でレティシアの目を塞ぐネク。いきなりの事に慌てるレティシアがそれを振りほどくまで、かかるのはおよそ数秒。
しかしそれだけあれば事を成すには充分。残されたまどか達にはスプラッターなトラウマになるかもしれないが、これによって魔法少女関係に関わりたくないと考えるようになればそれはそれで御の字。
そんな極論を考えながらも、ほむらは冷徹に引き金に指をかけ、
『おっと。壊されるのは少し困るな。折角手に入れたボディなんでね』
「っ!?」
パァーン!
それは反射のような物だった。止まっている筈の時間。自分と自分が触れた者しか動けない領域。そんな中で平然と喋りだした異物に放たれた弾丸は、驚きからか僅かに弾道が逸れて白い獣の耳先を掠めただけに終わる。
『ふぅ~。危ない危ない。流石に当たったら痛いからね。ちょっとだけズルをして躱させてもらったよ。それと、いい加減人違いは正しておこうか』
『……人違いですって?』
油断なく拳銃を構え直すほむらに、白い獣は本物なら絶対にありえない事をしてみせた。そう。意地悪そうに、楽しそうに、
『僕の名前はキュゥディー。どこぞの
◆◇◆◇◆◇◆◇
ほむら達と
「え~。暁美さんは急に体調が悪くなったそうで、早退の連絡が入りました」
明らかに困惑している早乙女先生からの連絡事項を聞きながら、主の居なくなった席を狐につままれたような顔で眺めるのだった。
そして、その日の夜の事。
『ああ。そう言えばまどかちゃん。そして名無しのロボット君。突然の事なんだけど』
いつの間にかしれっと戻ってきていたキュゥディーが、まどかの部屋でどこまでも気楽に、まるで世間話でもするかのように嗤って切り出した。
『丁度今、ここから少し離れた所で、どこかの魔法少女が怪物と戦っているみたいだけど見に行くかい? お代は……そう。待っていろと言った同級生の気遣いを無にする背徳感、でどうだい?』
どこぞの孵卵器と違い、こっちの白い獣は人間(正確に言うと意思と感情を持った知的生命体)が大好きです。
勝利による輝かしい栄光も、温かいほのぼのとした日常も、大切な人へ向ける愛も。
そして……歪み堕ちていく様も、コイツはそれら全てを最高の暇つぶしとして楽しみます。場合によっては個々人に合わせて演出までします。
ただし、たっぷり楽しんだ分はその分の対価(場合によってはアフターケアも込みで)を支払うだけ、どこぞのべえの方よりマシ……かもしれません。