見滝原に魔法少女(幻想体)が居るのはおかしくないよね?   作:黒月天星

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守りし者の師弟

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 一人の少女が居た。

 

 決して特別な少女ではない。

 

 真っ当な家庭に生まれ、真っ当に育ち、友と語らい、乙女らしい小さな恋心を持つ……どこにでも居る少女だ。そんな少女は、

 

 

「……ひっ!? 何なのよ一体っ!?」

 

 

 ある時、不意に非日常へと落ちる。

 

 たった一度の偶然。ちょっとした気まぐれ。もしかしたら起こりえたかもしれない分岐点。

 

 少女は好いた少年への見舞いの品を探しにほんの少し遠出して、偶々普段とは違う道を行き、偶々近くに居た魔女の結界に囚われた。

 

 おどろおどろしい景色。見るだけで正気を削っていく魔女と怪物達。

 

 悲鳴を上げ、涙を流し、訳も分からぬまま逃げまどい……それでもすぐに怪物達に取り囲まれてしまう。世界は少女に対して残酷だった。

 

 そのまま少女は予定調和の様に、世界で今なお起こっている数多の事件や事故の様に、名もなき被害者の一人として刻まれる……筈だった。

 

 ヒュンっ! トスっ!

 

『悪いわね。まだ私にみすぼらしいけど騎士の矜持が残っている内は、目の前で人が食い殺されるのを見過ごせないのよね』

 

 

 

 悲嘆と絶望に蝕まれながらもまだ正義として立つ、一人の騎士にして聖女たる魔法少女が居合わせなければ。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

『これは……とんでもないな』

 

 魔女の結界と化した廃ビル。その壁面に映された内部の光景を目の当たりにしてロボットは呟く。

 

 その言葉に悲嘆の色はない。驚嘆はあれど悲壮感はない。それほどまでに、中で戦っている者が負ける筈がないと思えるほど一方的かつ圧倒的だった。

 

『……ふっ!』

 

 祈りを解き、両手に細剣を構えた魔法少女は、一呼吸の後に疾風のように薔薇園の魔女へ駆けてすれ違う。

 

 一振り。二振り。まどかに見えたのは精々がそれだけ。しかし不思議な事に、たったそれだけで細剣なのに薔薇園の魔女に次々に青い剣閃が刻まれ、魔女は絶叫するかのように身体を捩らせる。

 

 魔法少女は止まる事なく魔女の周囲を駆けまわり、時には魔女の巨体そのものを足場として宙を舞う。そして剣を振るう度、魔女の身体には傷跡が増えていくのだ。

 

 勿論魔女の方もただただやられていくだけではない。残った使い魔達をけしかけたり、周囲に張られた茨で絡めとろうともした。その芋虫と植物のキメラのような巨体を活かして圧し潰そうともした。だが、

 

『言ったでしょう? ()()()()()()()()()()()()と』

 

 そう魔法少女が宣言した通り、魔女が手を打とうとする度に魔法少女の周囲を舞う幾本もの細剣が、使い魔を滅し茨を枯らし、魔女の身体を標本の様に縫い留めた。

 

『そろそろ……決めるとしましょうか』

 

 もう魔女の身体の傷跡が数十になったかという頃に、魔法少女は頃合いと見てタタタタッと魔女の身体を駆け上がる。目指すは頂上。髪のように草木と薔薇が咲き誇る頭部。

 

 魔女はどうにか振り落とそうとしたが、身体は幾本もの細剣に縫い留められ叶わない。そして、ダンっ! と勢いよく飛び上がった魔法少女は、空中で態勢を整えながら双細剣を構え、

 

『ハアアアアっ!』

 

 ザザンっ!

 

 裂帛の気合と共に回転しながら振るわれる二振りの刃。

 

 それは魔女の頭部に大きな十字の傷跡を残し、魔女は血の代わりに真っ赤な薔薇を撒き散らしながらズズンと衝撃と共に倒れ伏した。

 

 

 

 

 パチパチパチ!

 

『いやあ! 中々に面白い見世物だった! コーラとポップコーンでも用意すればよかったかな? まどかちゃんとロボット君は楽しめたかい?』

 

 映像の中の魔女の結界が崩壊を始め、外側から見える分も少しずつ本来の廃ビルに戻りつつあるのを見て、キュウディーはご機嫌で耳を拍手のように打ち合わせる。

 

『命がけの戦いを見世物と語るお前の態度はどうかと思うが……ここまでとはな。魔法少女と魔女の戦いという奴が。……まどか。やはりまどかはこれ以上関わるのは止めた方が良い』

 

 ディーの態度に呆れつつ、ロボットはまどかの事を気遣う。

 

『さ~てと。そろそろ僕達も行くとしようか』

『おいちょっと待てっ!? まだ完全に結界が消えた訳じゃ』

 

 まるで散歩にでも行くように気楽に中に入ろうとするキュウディーをロボットが呼び止めた。だが『良いのかい? まごまごしていたら、あの魔法少女がどこかへ行ってしまうかもしれないよ?』との言葉にうっと言葉を詰まらせる。

 

 虎穴に入らずんば虎子を得ず。まだ安全が確認されたわけではないが、ここで踏み出さなければ情報が得られないのも事実。自分の記憶の手がかりと安全を天秤にかけ、ロボットは少し思い悩み、

 

『……分かった。行こう。じゃあまどか。君はここで待っているんだ。何があっても追ってきちゃいけない。良いね?』

 

 そうまどかに言い残し、ゆっくり飛び跳ねながらキュウディーと一緒に崩壊する魔女の結界の中へと足を踏み入れた。ただ、一つ問題があるとすれば、

 

「……ふぇっ!? 二人共、どこに行ったのっ!?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事だ。

 

 だが、これをまどかだけの責任と断ずるのも少々酷だろう。思春期の子供がこのような超常の戦いを見て興奮しない方がおかしい。

 

 その心には恐怖が確かにある。以前結界に囚われた時のそれが確かにあって、映像を見終わった後でも思い出すと僅かに震える。しかしそれと同時に、今見た魔法少女の輝かしさに胸が躍ったのもまた事実だったのだ。今の戦いが映像だったのも災いした。直接の恐怖でも痛みでもないのなら、それは終わってしまえばただの興奮になり果てるのだから。

 

 よってまどかは少しおいて、ロボット達を追いかけて結界内に入ってしまった。

 

 内部は魔女の住処にふさわしくおどろおどろしい悪夢の薔薇園。しかし世界の元に戻ろうとする力によりみるみる薔薇は散って萎れていき、所々の隙間に日常のただの廃ビルの姿も重なる。

 

 そこだけまるでちゃちな書き割り。或いは古ぼけた芝居の舞台裏のようで、まどかはつい気が緩んでしまう。これならすぐに世界は元に戻って、ロボットさんやキュウディーに追いつけるだろうと。

 

 だが、油断などここでしてはいけなかった。

 

 如何に崩壊しつつあるとはいえ、如何に元の世界に重なっているとはいえ、崩壊の途中であるという事はまだここは魔女の結界内であるという事。

 

 つまり……まだ使い魔が生き残っていてもおかしくはないという事なのだから。

 

「えっ!? キャアアアアっ!?」

 

 まどかがそれに気が付いたのは、一体の使い魔が自分に飛び掛かる直前だった。

 

 もう仕える主人は消えつつあるが、それでも使い魔が動くのは単に侵入者を道連れとする為か最後の主人への忠誠か。どちらにせよ、気を緩めて油断したまどかに手酷い傷が刻まれるのは間違いなかった。

 

 ギラリと光るのは使い魔の携える剪定ばさみ。それは悲鳴を上げて動けないまどかに振り下ろされ、

 

 

 

「あたしの嫁に何してくれてんだああああっ!」

 

 

 

 ザンっ!

 

 剪定ばさみがまどかに傷をつける直前、そんな吠えるような声と共に何者かが剣を振るい使い魔の身体が上下に両断される。

 

 くるくると剪定ばさみは宙を舞ってまどかの足元に突き立ち、まどかはそのショックで腰を抜かしへたり込む。すると、

 

「……残心良しっと。ふぅ~。怪我はないまどか? 立てる?」

「えっ!? ……う、うん。大丈夫」

 

 近くにまだ使い魔が居ないことを確認し、構えていた剣を鞘に納めて手を差し伸べるその相手の手を取り、まどかは驚きで目を丸くしながらもおずおずと立ち上がる。

 

「良かったぁ! でもここは危ないからさ。早く安全な場所に行こっ!」

「そ、そうだね。えっと……その、()()()()()()……だよね?」

「そうだよ? まあ隠しておきたかったけどさ」

 

 まどかの問いかけにまいったねと頭を掻きながら、まどかの親友である美樹さやかは小さく笑ってそう返した。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 青い魔法少女は瞬く間に怪物達を討ち果たし少女を救った。

 

 その颯爽たる姿に、凛とした態度に、圧倒的な程の強さに……救われた少女の心を焦がしつつ。

 

 魔法少女は語った。自分は流浪の騎士であり、探し物の為にこの町に立ち寄った。しかし来たばかりの自分にも分かるほど、この町には先ほどの良くないモノの気配が蠢いていると。

 

 本来なら自分の領分ではないけれど、騎士としては見過ごすわけにはいかない。自らの目的のついでにしばらくこの町に滞在し、先ほどの良くないモノを打ち倒すつもりだから、アナタは安心して日常に帰りなさいと。

 

 少女は思った。先ほどのような怪物達がまだこの町には潜んでいる。そんな奴を放っておいては町の人達が、そして自分の大切な幼馴染や友人達が危険に晒されると。

 

「姉さんっ! あたしに剣を教えてくださいっ! 大切な人達を護るためにっ!」

 

 去り行く魔法少女に対し、咄嗟に出たのはそんな言葉だった。

 

 少女はただ見知らぬ魔法少女に守られるのではなく、自分の力で大切な人達を守りたいと思ったのだ。

 

 魔法少女はそこで足を止める。

 

 何も聞かなかった事にして去るのは簡単だ。寧ろそれが一番正しい選択と言える。一般人がこちら側に足を踏み入れる事は、十中八九互いの不幸に繋がるのだから。

 

 だが、ただ一点。大切な人を守るために力を欲するという点だけは、魔法少女には聞き流す事が出来なかった。それは落ちぶれながらも騎士であろうとする自分に未だ残っている願いであり、祈りであり、生き方なのだから。

 

 そして、魔法少女はしばし思案し、

 

「……良いわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()、ワタシにまだ騎士の矜持が残っている限り、アナタに手を貸すとしましょう。……でも姉さんは止めて」

「はいっ! 先生っ!」

 

 こうして、一人の少女はとある騎士にして聖女を師と仰いだ。その選択の先にあるのが、どのような未来かも知らずに。

 

 




 え~……お久しぶりです(土下座)。

 どうにかこうにか依頼作品やら手がけていた作品に一区切りつき、こうして戻ってまいりました。もう内容を覚えてないよという読者様には平に平にご容赦を。

 そしてこれからも不定期更新ばかりの鈍足物書きですが、なにとぞ楽しんでもらえれば幸いです。




 この話までで面白いとか良かったとか思ってくれる読者様。完結していないからと評価を保留されている読者様。

 お気に入りや評価、感想は作家のエネルギー源です。ここぞとばかりに投入していただけるともうやる気がモリモリ湧いてきますので何卒、何卒よろしく!
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