いわゆる戦犯ちゃんに影響を受けたものです。
影響を受けたものなので、原作との乖離や他の二次創作に寄ってるかもしれません。
続きません

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尋ね、問う者

 彼女が生きたまま拘束された。

 誰もが予想していなかった快挙だった。

 

 占領地で数多の戦果を挙げ、町ぐるみのゲリラを摘発し、浄化に心血を注いだ。

 自分の頭髪と同じ色の肩章をした彼女には、誰が呼んだかこのような異名があった。

 

───審問官(Inquisitor)

 

 彼女は尋ねるのだ。指肉を剥ぎながら。

 彼女は尋ねるのだ。恋人の耳を削ぎながら。

 彼女は尋ねるのだ。両親の肺に穴を空けながら。

 

 こうして多くの犠牲を払い、功績を挙げ、次なるゲリラを生み出した。

 そして彼女は今、自分の歩んだ道の終着点にいた。

 

 親族から潜伏先をリークされ。

 拘束の際に美しい長髪は切り落とし。

 潔白を主張せんとするかつての部下によって金色の肩章は剥ぎ取られた。

 

 ゲリラを狩り、生み出す彼女は同胞からも強く疎まれ、時に憎まれていた。

 故に他の囚人から守るため(・・・・)、かつての貴族はその姓名を消され、単に『囚人A』と呼ばれる。

 

 囚人Aの実家は豪華絢爛な邸宅。自宅たる官舎の部屋も、兵隊はもちろん他の士官と比べても際立っていた。

 しかし今は7平米の単独室に押し込まれ、排泄含むありとあらゆる行動を監視される。

 

 狭く、されど空調の整ったねぐらから出る機会は3日に1度。

 彼女の罪と、犠牲者の居所を明らかにするための尋問。

 尋ねる側だった彼女は、今や尋ねられる側となったのだ。

 

 刑務官が尋問室の扉を開く。

 彼がこの尋問に干渉する条件は2つ。

 

 僕、あるいは相方が開けるよう指示したとき。

 または僕らに危害が及んだ場合。

 それ以外には一切干渉しないと、情報局からのお達しだ。

 

 言い換えれば、『手段を選ぶな』というわけである。

 必要なら小道具の持ち込みも許されていた。

 そんなものは、こちらから願い下げだった。

 

 重い金属の扉が開かれると、異臭が鼻孔に飛び込んできた。

 囚人Aはシャワーを拒んでいるのだ。

 

「また来てくれたのかい」

 

 まるで穢れを知らぬ、無垢を思わせる微笑みが向けられた。

 この程度で騙されるような人間ならば、僕はこの場にいない。

 

 着席し、資料へと視線をやる。

 

「囚人A。昨日はどこまで話したかな?」

「プラヴ村での任務。穢れたテロリスト37匹を駆除した話」

 

 湖の畔にある村は彼女が率いる部隊によって制圧された。

 占領下に置いた住民を広場で並べ、陵辱し、財産を収奪し、そして殺した。

 

「その村にゲリラはいなかったんだろう?」

「情報は確かかい? かの村は女子供に至るまで全員が武装し、攻撃してきた。我々はただ応戦したまでだよ」

 

 大嘘だ。

 現地当局からの情報提供により、ゲリラはその村で食料の購入をした程度で関係はほぼないと判断されていた。

 ましてや、村にあった武器も猟師達が持つ猟銃が数挺。

 

 どう考えても全員が武装できるはずもなかった。

 

「嘘も大概にしろ! お前は部下の手綱を握りきれずに暴走させたんだろう!」

 

 相方が立ち上がると、囚人Aに怒声を浴びせた。

 静寂とした空間に現われた轟音は、役割に慣れている僕でさえ面食らう。

 尋問されている側は大抵、後ろめたいものがある。

 故に気圧される。膨れ上がる秘め事が痛みを覚えて。

 

 しかし彼女は違った。

 

「何の根拠があって、そのような誹謗を? 私は自分の部下を徹底的に管理し、命令違反など決してさせたことはない」

 

 極めて冷静な応答。

 声に震えはなく、怯えや不安は感じられない。

 

 動揺したのは、むしろ相方のほうに見えた。

 

「ほう。じゃあ何故あの村の至る場所に男の致した(・・・)痕跡が?」

「なあ、その辺に……」

 

 相手に飲まれている。

 僕が口を挟もうとすると、彼女はそれを上回る声量で宣言した。

 

「私が命令したからだよ」

 

 耳を疑う告白だった。

 住民が攻撃したため応戦した。

 その筋書きは、検証はされるだろうが一応通る。

 

 しかし、組織的な性的暴行は真っ黒だ。

 通るはずがない。

 

「……それは、何故?」

「人には性欲というものがある。兵士達にも存在するし、私にだって、貴官らにだってある。だったら発散したくなる事もあるだろう? いざ作戦、というときに支障を来しても困る」

 

 理解に苦しむ。

 何故すぐバレるような嘘をつくのに、露骨な戦争犯罪は隠さないのか。

 

「私は優秀な軍人であり、祖国を導く士官だ。部下を暴走などさせない。これがこの告白の理由だよ」

 

 聞いてもいない事を、彼女は正確に補足してみせた。

 それはつまり、自主性の発露(・・・・・・)を罪や負い目だと思っていないのだ。

 民間人暴行に関与したという事実よりも、部下を飼い慣らせていない無能士官と思われないことの方が重要なのだ。

 

 分析官が導き出した性格通りだ。

 彼女は、敵国の人間を同じヒト種だと思っていない。

 武器を持っていないのを乱暴したとバレると面倒。そんな程度にしか考えていないのだ。

 

「甘いんだね。貴官らは」

「なに?」

 

 突拍子もない発言に、僕は思わず問い返した。

 

「私がもし貴官らの立場だったら、尋問では済まさないよ。殴ったり蹴ったり、犯し尽くして尊厳を破壊したり、11本の薔薇を咲かせたり……貴官らの言う、強化尋問(・・・・)。やっただろうね」

「自分の立場を理解しているようで何よりだよ、お嬢さん」

 

 相方の言葉に、彼女は微笑みを湛えた。

 すぐに視線は僕の方に向けられる。

 

「わざわざよその国に首を突っ込んで、獣どもの味方をするんだ。私には耐えられないよ」

「僕らは君が殺した人々をご遺族に会わせたいと考えてる。あの人達を獣とは考えていない」

「だから貴官は甘いんだ。獣に喉笛を噛み千切られる。実際、噛まれただろうに」

 

 ここで、肩に熱と圧力を感じた。

 相方の手だ。言外に自制を促しているのだ。

 

 4つ吸い、4つ止め、4つ吐き、4つ止める。

 ボックス呼吸を実践し、平静を呼び込む。

 

 血圧の低下を感じる。

 しかし、心の奥ではどす黒い感情が渦巻いていた。

 

「……君はその命令の後、どうした?」

「確か、住民に協力を要請した。砲撃跡で塹壕を掘るように」

「塹壕が必要とは大したゲリラだな。銃を突きつけながら、自分の墓穴掘らせたんだろ。違うか?」

「後方とはいえ、あの村も戦場だ。非武装というわけにはいかない。でも、確かにあの獣どもは野蛮で教養がない。塹壕ではなく単なる穴ぼこだったし、威圧していると思われたかもねぇ」

 

 馬鹿にしている。コケにしている。おちょくっている。茶化している。

 彼女はその身可愛さの元部下に拘束され、我々に突き出されていた。

 そんな人間が口を閉ざしていられるはずがない。既に罪を立証するには十分すぎるほどの証拠を得ている。

 

 まともな頭をしているなら、自分の詭弁は意味を成さないと理解しているはずだ。

 

「これは確認だ。否認しても大した意味はない」

「……何の話だ?」

「目を見ればわかる。同業者(Inquisitor)として助言しよう。君は我々の美しい言葉が得意だから選ばれたんだろう。善良で感受性が高く、芯も強い。だが遵法精神も強く、手段を選びすぎる。それを捨てれば、もっと情報(Inteligence)を聞き出せる」

「……ご高説どうも。だけど、そんな手段で得た情報は都合の良すぎる、使えない情報(Noise)だ。我々には必要ない」

「そうか。君たちは縛ってるんだねぇ」

 

 すると彼女は背もたれに寄りかかると大股を開き、微笑みを天井に向けた。

 これが尋問拒否の合図だった。

 

「楽しかったよ、また話そう。いやぁ、負けるのはいやだねぇ」

 

 こうなると、囚人Aは絶対に口を開かない。

 

 何が楽しかった、だ。

 お望み通り、強引な手段で口を割らせてやろうか。

 

 囚人Aは天井から視線を外さない。

 ただ、まるで娼婦のように股を開くばかり。

 観察するだけ無意味だ。

 

 唯一の扉を叩き、外の人間へ促す。

 間もなく、重い扉が開かれる。

 

 部屋を出ると、素早く扉は閉ざされる。

 僕は囚人エリアを抜けると、その怒りを壁にぶつけた。

 

「おいっ、落ち着けっ」

「……落ち着いてられるかよっ」

 

 胃液が沸騰し、胃壁を焼いた。

 

「あの女と、親戚の可能性だってあるんだぞっ」

「だから、お前は抜けた方がいいって言ったんだ」

 

 相方はハンカチで僕の拳を覆った。

 この拳から滴る赤い血潮も、源流は囚人Aと同じかもしれない。

 あの、隣国人を獣と嘲り虐殺するような女の。

 

 それこそ、あいつこそ獣なんじゃないのか。

 ろくでもない担当者に出会って、尋問中に死んでしまえばいい。

 終身刑で生涯塀の内側で過ごすより、相応しい最期だ。

 

 でも。だが。しかし───

 

「いや。僕がやらなきゃいけないんだ」

「移民した親の世代の話だ。お前の話じゃない」

「それでも、放っておけない。世代の問題じゃなく、僕の問題だ」

 

 もし同じ血の流れた人々が過ちを犯したのなら。

 せめて、僕の手で正さなければならない。

 

 あの女とは違う、僕のやり方で。




もうそう

囚人A
・A国(仮)の士官、貴族出身。
・極右組織のシンパでB国(仮)を強く憎んでいたが、憎しみの原動力は思想だけでなく、過去に自分を金目当てで誘拐・手籠めにしたのがB国人だった影響が強い。
・起こるべくして起きたB国との戦争でその頭脳と憎しみを積極的に活用し、敵味方から恐れられるゲリラ・ハンターとなった。
・しかし彼女含めA国は行儀がよろしくなかったため、“僕”の祖国含めた連合軍の介入を許しあっという間に敗北。
・同じく行儀が良くないB国に引き渡されるのを恐れた囚人Aの元部下は、自身らの安全を条件にして彼女を手土産に連合軍へ投降。
・元は腰程まであった長髪だが拘束の際部下に掴まれ、逃れるために自ら切り落とした。
・自分をこの状況に陥らせたB国と連合国はもちろん恨んでいるが、醜態をさらしたA国にも強く悲しみほぼ精神が壊れている。
・なんか哀しき過去持ちの被害者みたいに聞こえるが、B国に散々暴虐を働くついでに民家から高価な美術品などもかっぱらっている(本人曰く、祖国から盗まれた芸術)ので隠し場所をガッツリ尋問されている。それもいけない。
・“僕”の前任者はその辺りを重視している人物だったため、あらゆる手段の強化尋問を受けている。流石に跡が残るのはやられてない。
・部下が自分の所業を洗いざらい吐いていると確信しているので、B級・C級戦犯として裁かれる覚悟をしている(自分を裁くICC相当の組織では最高刑が終身刑なのも知っている)
・同じ民族である“僕”がB国人をヒトとして扱っているのは理解に苦しんでいるが、非人種のB国人や連合国、裏切り者の祖国や元部下と違い芯の通った人物であると認め、恋心に近い感情を抱いている(吊り橋効果。“僕”から本気で嫌われているので進展しない)
・相方には興味があまりない。添え物程度。貴様ーっ相方先生を愚弄するかぁっ
・尋問拒否のポーズは自分の目が間違っていないか見定めるため、誘っている。誘いに乗られてもまあいいかくらいには考えているが、乗られたら乗られたで本気で絶望してあらゆる手段で自決を図る(多分裁判中に服毒自殺END)



・連合軍参加国の情報機関のケースオフィサー。
・囚人Aと同じく金髪緑眼。言葉の訛りも囚人Aと近く、上品。
・文官出身で中肉中背だが、ケースオフィサーになるに当たって軍での訓練も受けているTOUGHなやつ。
・いわゆる“良い警官”役。
・両親が囚人Aと同国の貴族であり、出身地もかなり近い。
・国内で高まる雰囲気を嫌がり、現在の祖国へ亡命に近い移住を果たした。
・そんな両親を強く敬愛し、見知らぬA国に憧れに近い感情を抱いていた。現実はこれ。知りもしないで憧れていた自分に強く苛立っている。
・囚人Aを担当する以前は彼女の元部下達を担当。かなり高い精度で戦争犯罪とその犠牲者の情報を引き出している。(囚人Aの尋問にも大きく影響していた。が、知らない、想像だにしていない)
・同じ血を引く人間として戦争を本当の意味で終わらせるという使命感で現在の任務を遂行している。
・囚人Aを人間として本気で軽蔑している。が、それはそれとして人として扱わなければ同じところに堕落すると考えている。
・しかし一方でナチュラルに相手を“そういう生き物”として扱っているので、時折傲慢にもとれる言動が表われる。


相方
・“僕”と同じくケースオフィサー。大学の同期。
・大学でA国の言語を専攻していたため、A国・B国の担当となった。
・兵隊上がりのケースオフィサーであり、体格もTOUGHガイ。
・いわゆる“悪い警官”役。
・囚人Aのことは唾棄すべき犯罪者であり終身刑でなく処刑すべきだと考えている。あくまで“僕”を尊重して合せている。
・服毒自殺ENDでは囚人Aに「自分でケリをつけたい」と懇願され、彼女に毒を提供する。

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