転生シラオキの軌跡   作:ハハハのハ

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目覚め

どうもみなさん、こんにちは。突然ですが、どうやら私は所謂『転生』というものをしてしまったようです。

 

よく世間で流行っているような、『神様的存在に導かれて』ということもなく、死んだ、と思った次の瞬間には知らない天井が広がっていたのです。余りにも急すぎることに理解が追い付かなかった私は、取り敢えず周りの状況把握から始めることにしました。

 

するとどうでしょうか、私は恐らくベッドのようなものの上で寝かされているのでしょう。背中に感触が伝わってきます。そして周りに貼ってあったポスターのようなものには、日本語が書かれています。どうやら転生先の世界も日本だったようです。言語の心配等もする必要が無いようで、安心しました。

 

しかしポスターに書かれている文字が、遠すぎるのか上手く読めません。

欲しがりません、勝つまでは』……ふむ、やはりよく読めません。

 

それと体を動かしているうちにわかったことですが、私はまだほんの子供のようです。成程、道理で体が動かしにくいわけです。今まで慣れ親しんできた自分の体とは違うわけですから。

 

それにしてもこの子……いや私の両親はどこでしょうか。まだこんな子どもを長時間放っておくのは、あまりよろしくないことだと思いますが……。

 

……おや、向こうから少し声が聞こえてきますね。何を話しているのでしょうか、少し聞いてみましょう。

 

 

「……まさかあなたにも赤紙が届くなんて……」

「はは、まあ来てしまったものはしょうがないさ。精一杯お国の為に頑張らせてもらうぞ!……なんてな」

「もうっ!冗談はよして!……あなたがいなくなってしまったら、私一人であの子を……」

「……確かにお前やあの子と長い間離れるのは辛いが……君はウマ娘だろう?僕よりもずっと力は強いはずさ、あの子をしっかり守ってやれよ」

「ええ、ええ……!もちろんよ、だからあなたも……絶対に帰ってきてね!」

「はは、もちろんさ。今まで僕が約束を破ったこと、あったかい?」

「ふふっ、調子いいんだから」

 

 

一枚壁で隔たっているせいか、うまく聞き取れませんね……。それはそうとあの二人はきっと私の両親でしょう。隣の部屋にいたようですね。

 

しかし『守ってやれ』や『帰ってきてね』等、私の父親だと思われる人はどこかに行くのでしょうか?会話からしてかなり長い間どこかに行ってしまいそうですし……単身赴任というやつですかね?

 

……部屋の扉が開けられて、隣の部屋から私の両親と思われる二人が入ってきました。

 

ふむ、父親らしき方は、特にこれといった特徴はありませんね。普通の日本男児といった感じです。黒目黒髪短髪です。

 

そして……おや、母親らしき方は、日本人には珍しく栗色の髪をしていますね。そして髪型が……これはまた、まるで馬か何かの耳のように髪が跳ねていますね。

……いや、これはむしろこういうヘアスタイルなのでしょうか。最近はこういうものがトレンドなのですかね?

 

 

「ほら、僕はもう明日には発たなければいけないからね、この子にもちゃんと挨拶をしておかないと……。これが最後になるかもしれないからね」

「ちょっと!縁起でもないこと言わないで!」

「はは、ごめんごめん。……でも、もうしばらくは君もこの子にも会えないのは、ちょっと寂しいかな」

「ふふ、私たちはこの家で待ってるからね」

「ああ、それじゃ……行こうか」

「ええ」

 

 

……二人とも行ってしまいましたね。会話からして本当に私の両親で間違いなさそうです。ですが『最後』とは……余程危険な場所にでも行くのでしょうか。少し心配ですね。

 

……しかし眠くなってきてしまいました。今日はもう寝るとしましょうか。

 

この家の壁が薄いのか、別の部屋から夫婦の営みの声が聞こえてきましたが、聞かなかったことにしておきましょう。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

この世界に転生してから、2年が経ちました。その間に分かったことがあるので、紹介しておきましょう。

 

まず一つ。ここが日本であることは間違いないのですが……如何せん時代があれでした。私が転生してきたのが1930年代後半です。もっとも私が転生したのが、この体が5歳くらいの時だった為、今はもう7歳ですが。

 

とにかく、1930年代後半……いえ、今はもう1940年代です。そしてこの時代といえばなんでしょうか。そう、戦争です。今の日本は絶賛戦争の真っ只中なのです。

 

日本に転生できたこと自体は嬉しいのですが……もっとこう、時代だけはどうにかならなかったものですかね。

 

そして私の父親は無事でしょうか。早く戦争が終わって、帰ってきてほしいものです。

 

どうやらこの世界、『ウマ娘』とやらがいるらしいです。というか私もそれです。

 

……む、何を言っているのか分からない?……まあ、それもそうでしょう。丁寧にご説明しますね。

 

ウマ娘、というのは頭に耳が、お尻に尻尾が生えた女性のことで、他の人間に比べて数倍の力があり、時速数十kmで走ることができます。そしてウマ娘は基本的に顔が整っている美女です。理由は知りません。

 

あと男性版は存在しません。もしいたら『ウマ息子』とかになっていたのですかねえ。まあいないので関係ないですが。

 

それとあの時私が流行のファッションだと勘違いした私の母親の髪型、いえ耳は本物でした。私の母親も私もウマ娘です。

 

また、この世界に馬は存在しないみたいです。ウマ娘が馬の代わりの存在と言ったところでしょうか。

 

ウマ娘は、そのうちの多くが普通の人間と比べて大食らいです。当然食料も多くいるのですが……最近米等が配給制になってしまい、私たち母子ともにウマ娘の家庭では食料が不足しがちです。やはり今の時代、こういったこともしょうがないのでしょうが、そのせいで私はいつもお腹を空かせてしまっています。戦争許すまじ、です。まあそんなことを口に出してしまうと非国民になってしまうので、心の中だけに留めておきますが。

 

私の母は、自分も明らかにお腹が空いているというのに、自分の分の食べ物まで私に食べさせようとしてくれます。大人の方が量はいるというのに、そんなことをしていたらいつか倒れてしまいます。よっていつも私はその好意を断固拒否させてもらっています。

 

我が子とはいえ、他人を助けて自分は二の次、などあってはいけません。まずは自分がしっかりしていないとどうしようもないですからね。

 

それはそうとお腹は空きますが。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

私たちが住んでいるところは、岩手県です。ちなみに私は岩手生まれ岩手育ちのウマ娘です。

 

この時代、東京や大阪といった大都市、それに海に面している軍事都市なんかは空襲も激しいようですが、岩手、それも盛岡などといった都市ではなく、山奥の私たちの家には空襲なんてほとんど来ません。というか一回も来ていません。戦争を感じるところと言ったら、そこら中に貼られている国の標語ポスターか、少ない少ない配給か、飛行機で戦争ごっこをしている子供たちくらいのものです。実に平和です。食料が少ないこと以外は。

 

食料のことばかり言っているように聞こえるかもしれませんが、別に私が特段食いしん坊というわけではありません。これは私がウマ娘であるので、仕方のないことなのです。種としての生理的欲求ですから、本当に仕方のないことなのです。

 

ところで私の母ですが、家にいてもすることがないからなのか、近くの牧場で働いているらしいです。ウマ娘は力が強いですからね、牧場の方としても助かっているとか。

 

それにしても牧場……、馬はいませんが牛やら豚やらは普通にいました。一度母の働いている牧場で直に触れ合ってきましたから、間違いありません。

 

そしてこの体、未だ齢一桁にして牛と力比べができました。流石ウマ娘の体です。

 

まあ今日も岩手は平和ということで、母が牧場でもらってきた、余りもののハムを食べましょう。

 

多分母は、この余りものの為に牧場で働いているのでしょうね。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

私の母は働いているので、普段は家にいません。そしてこの岩手の山奥、他のウマ娘はほとんどいません。同年代の子など尚更です。

 

そんなわけで競争相手もいない私は、村中を走り回っていました。山奥、さらに村とはいっても、この辺りは牧場やら畑やら、そして少し離れたところにも、それらの食品を加工する工場やらが集まっていて、ある程度の大きさがあります。そしてそんな中を私は走り回っているわけです。

 

この体、ウマ娘の体の影響なのか、ウマ娘の本能なのか、『走りたい』という欲求が体の奥底から湧き上がってきます。そしてそれに従って全力で走った時は…………最高に気持ちいいです。

 

まあこの村の子供のウマ娘は私一人しかおらず、そんな中辺りを縦横無尽に走り回る私を見て……近所のクソガキ共から『爆走女』とかいうあだ名をつけられました。実に不名誉です。

 

私が走っていると周りのクソガキ共から『爆走女』と呼ばれ続けるのです。非常に不快になった私は、そのクソガキ共をとっちめに行くことを決意しました。

 

 

「あ!おいみんな、爆走女だぞ!」

「お、ほんとだ!やーい、爆走女ー!」

「今日は走んないのかー!」

 

ふむ、本当にイラつきますね、このクソガキ共は。まあいいでしょう、今日はあなた達を理解(わか)らせに来たのです。なにせ私は前世も合わせるとあなた達の数倍の人生を送ってきたのです。それにこのウマ娘の強靭な肉体……!負ける気がしませんね。

 

「おい、何を分からせるって?」

「爆走女にそんなことできんのかー?」

「一人で走ってろよ爆走女!」

 

私はあなた達に、その不名誉なあだ名を撤回して欲しいのです。今日は、そのためにあなた達に勝負を挑みに来ました。あ、勝負内容はそちらで決めてもらって大丈夫ですよ。

 

「おいおい、本当にこっちが決めて大丈夫か?お前の得意なかけっこじゃなくても大丈夫かぁ?」

「爆走女に走り以外で負けるわけないだろ?」

「へぇ、じゃあまずは俺からだ!メンコで勝負だ!俺のメンコ捌き……見せつけてやるぜ」

 

メンコ、ですか。何やらカッコつけていますが、関係ありませんね。テクニックなど無視してウマ娘パワーで全力で叩きつけるだけです。

 

「な、なんだと……?メンコを叩きつけただけで風が……!」

「うおぁー!?ぜ、全部吹き飛んじまった!?」

「く、クソ……!俺の負けだ……!」

「よ、よし!なら次は俺とベーゴマで勝負だ!」

 

金属製のベーゴマ。成程、ですがこれもウマ娘パワーで全力で回すだけです。相手のコマとぶつかり、火花が飛んで弾け飛びます。

 

「うおぉ!一発当たっただけで場外に……」

「ダメだ……。強すぎる……」

「け、ケンちゃん……俺の仇を取ってくれ……」

「おう、分かった!俺に任せろ!」

 

ケンちゃん、と呼ばれた男の子は、私よりも一回り年上でしょうか。クソガキグループの中のリーダー格のようです。

 

「よし!にらめっこで勝負だ!」

「け、ケンちゃん……にらめっこって……」

「うるせえ!爆走女に力で勝てるわけないだろ!」

「いやそれはそうだけど……」

 

にらめっこですか。確かにフィジカルではウマ娘には勝てませんからね。賢い判断だと言えるでしょう。ですが私は前世も今世もポーカーフェイスが得意です。私の表情筋は動かないことに定評があるのですよ……!

 

「よーし、にーらめっこしましょ、わーらうとまけよ、あっぷっぷ!」

 

ほう、なかなか面白い顔ですねケンちゃん。ですがその程度では私の不動の表情筋を動かすことは不可能……!

 

ですが私の方もただの真顔でしかないのでケンちゃんを笑わせることは不可能……!

 

あれ、もしかして詰んだのでは?

 

そう思っているとケンちゃんの顔が急に赤くなり始めてしまいました。そして急に横を向いてしまいました。

 

「おや、どうしたのですか?顔を逸らしたということは、私の勝ちでよいのでしょうか?」

「う、うるせえ!いいよそれで!」

「あのー……大丈夫ですか?顔が赤いですよ?」

「だ、大丈夫だからこっちくんな!俺から離れろ!」

「いえでも……本当に顔が赤いですよ?」

「だあぁぁぁぁぁぁぁ!うるせぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

「あ、ケンちゃん!」

「どこ行くの!?」

 

ケンちゃんは叫びながらどこかに行ってしまいました……。

 

あんなに顔を赤くして、負けたことがよっぽど悔しかったのでしょうか。まあ残ったクソガキ共に『爆走女』という不名誉なあだ名を撤回してもらったので良しとしましょう。

 

今後はしっかりと私の本名、『シラオキ』で呼んでもらいましょうか。




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