仮面ライダーギーツ ウマ娘・クロスオーバリング 作:玉ねぎは大正義ッ!
黎明R:憧れた景色への招待状
『嬢ちゃん、大丈夫か?』
『は、はいっ…!』
(す、すごいや…こんな、こんな危ないじょうきょうをくぐり抜けてあたしを、祢音ちゃんを、皆さんを助けてくれた…)
(あたしもいつか…この人みたいに皆を助けられるヒーローに、なりたいな…)
(…ううん、いつかこの人とまた出会って、いっしょにそんなあたしの夢をかなえていきたいっ!!)
────あれ?今の何だろ…ってダメダメ、皐月賞に集中っ!)
今日はキタサンとクラウンが出場する2020年皐月賞当日。すでに幕は上がり場は温まりレースも佳境を迎えていた
それぞれのトレーナーである英寿や道長は観客席から自らの担当の勝利の到来を望んでいた。
『ここで一番人気 サトノクラウンが上がっていった!久方ぶりの無敗の皐月賞ウマ娘誕生なるか!?サトノ家の悲願達成することが出来るのか!?』
「…!」
「(ッ、このタイミングで⁉︎ 間に合わないっ!)」
『おっと、ドゥラメンテ!弾かれるように外を回されてしまった!最終直線に入って 後方も一気に追ってきた!先行勢も粘っている!サトノクラウンはまだ中団!果たして届くかどうか!?中山の直線は短いぞ!』
突如ギアを僅かに上げ前に出るドゥラメンテ、弾かれ追いすがるも彼女の前に出ることは叶わないクラウン。瞬間の攻防は前者に黒星がつき、ドゥラメンテはクラウンを認識しつつそのまま何かを伺っているようだった
『粘るキタサンブラック!外からゲンジツスティール!』
『かわすか!?かわした!僅かに外、ゲンジツスティール!』
(──ここだ!ここで私は!)
溜めた足を解き放つ。憧れの存在に、自らのトレーナーに胸を張れる自分になるためにキタサンブラックという北国の黒い太陽は勝利へ向けて最後の輝きを放ち前進し、そして────
『外から、ドゥラメンテー!外から、なんと!ドゥラメンテ!これ程までに強いのか!?これ程までに強いのか!?』
『強い!皐月賞を制したのは、ドゥラメンテ!恐れ入りました!』
「まっ…ま…ま…ま…負けちゃったぁ!?」
──刹那に駆け抜けた荒々しいダークホース、ドゥラメンテにその輝きを、脚を踏破されてしまったのだった。
「中盤、抜け出す際に多少邪魔が入ったが見事だドゥラメンテ。君の存在こそこのレースの唯一無二のリアリティ…ダービーもこの調子で行こうか」
「恐縮です」
「…荒々しいまでの見事な走り、これがニラムの肝煎りウマ娘か。なるほどどうしてキタの夢の壁になりそうなアスリートだ」
(…なんて言ったが俺はあいつに、キタサンブラックに…クラシックの初戦を、勝たせてやれなかった)
(2度は繰り返させたくはないな、こんな光景は)
ドゥラメンテのトレーナーたるニラムはほくそ笑み、英寿は担当の夢を叶えられなかったことを1人慚じるのだった…
「ふわぁ〜。おはよう、キタちゃん。今日も早いね」
「行ってくるね!」
「うん!行ってらっしゃい!」
それから少し時は流れ、ダービーも近づいてきたある日の朝。
キタサンはいつも通り英寿に組まれた日課をこなしに眠たがる同室で幼馴染のダイヤをよそに寮を出たのだった。
(皐月賞、初めてのG1)
(初めての負け…皆強くって周りの空気がピリピリしてた)
(でも次は日本ダービー、憧れのダービー)
(あのカッコよく走っていたテイオーさんのように、テイオーさん…)
「よぉし! キタサンブラックぅ、行っちゃうぞ〜!」
クラシック二冠目の日本ダービーで勝利してみせると改めて意気込むキタサン。憧れに対する彼女の気持ちはクラシック三冠その一戦目を負けで終えてなお奮い立つばかりだった。
「…ってアレ? お婆ちゃん、どうかした?」
「ああ、腰が痛くってちょっと休んでただけさ」
「お家はどこ? 運んであげる!」
「悪いよ、すぐそこだし」
「しっかり捕まってね〜…そぉれーーー!」
「わぁあああ…」
「そぉれーーー!」
「ありがとうねえ」
「いえいえ、では!」
ちなみに彼女は大のお人好しで世話好きでお節介である。
家族や自らのトレーナーである英寿に止められてもやめることなんてできない程度には。
「よぉし、改めてキタサンブラック行っちゃうぞお〜!!…ってアレ?」
「ハウアーユー?」
「東京レース場はどこですか?」
「ぱ、ぱーどぅん! あいきゃんとすぴーくいんぐりっしゅ!」
「ここです!」
「! おーけーオーケー!オーケーオーケー…オーケーオーケー…ディスっ!」
「センキュー!」
「ぐっどらーっく!」
「よぉし、そろそろ戻ってトレセン学園に…パァン! ⁉︎」
「やっちまった!…やっちまったあ…」
「おぉう…」
「うぅ〜にゃっにゃっにゃっにゃっにゃっにゃっ!」
「早ぇ!」
「いやあ助かったぜキタちゃん!」
「全然平気です、いいトレーニングになりましたし!」
「ありがとうねぇ…」
「いえいえ!困っている人が居たら助けてあげろ 落ち込んでる人が居たら隣で笑ってやれ そしたら皆笑顔になれるって父さんが!」
「さっすがキタちゃん!」
「よっこのお助け大将!」
「お助け大将だねえ!」
「ほんとキタちゃんがいると周りがぱあっと明るくなるしねえ」
「えへへ…♪ ところで今何時ですか?」
そしてそれは今日も健在なようで、登校時刻を過ぎてなお発揮され、今はもう授業開始の20分前。
「授業開始20分前だな」
「20分前⁉︎ というかトレーナーさん、なんでここに?」
「お前は時間問わずトレーニングと同じくらい世話焼きを優先する嫌いがあるからな。それはお前の誇るべき長所ではあるが、こういうタイミングなら命取りだ。そして今日もそうなるだろうと踏んだわけだ」
「てことでゴン助、出番だ」
「キューン!」
「お前だけでどうこうできないことは俺がなんとかしてやる。さ、行くぜ?」
しかし天道様はその努力を見逃さないようで、密かにこうなることを予期した英寿が先手を打って迎えにきてくれたようである。
彼の相棒の小動物でキタサンも気に入られているゴン助も一緒だった。
「トレーナーさんっていつもながら先読みが上手いですね…さっすがスター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズ。では…えへへ、トレーナーさんとゴン助ちゃんのお力お借りします!」
「任しとけ、ただ飛ばすからヘルメット被ってしっかり俺を抱きしめてな」
「はい、ゴン助ちゃんも改めてよろしくね♪」
「キューン!」
そしてゴン助にはブーストライカーを模したバイクに変形可能という特徴がある。こうしてキタサンの迎えに来れた理由の一つ。
そうしてキタサンは英寿を抱きしめるように彼の後部からバイクに跨り、トレセンに向かうこととなったのだった。
「ハァ…遅いなぁ、キタちゃん」
「ダイヤちゃーん!」
「ごめんダイヤちゃん!」
(向こうに見えるのは浮世トレーナー…なるほど、バイクで送ってもらったんだね)
「もーっ、無理は禁物だよ? レースの後なんだし。キタちゃんのトレーナーさんの予定もあるんだから」
「あはは、だね」
「キタちゃん急ごう!」
「あっうん!」
「1時間目何だっけ?」
「家庭科だよ」
「うげ〜っ、あの怖い先生かあ…」
無事間に合い、入り口で彼女を待ってくれていたダイヤと合流した直後、学校での1日を告げる始業のチャイムが鳴り、キタサンはまず着替えるべくダイヤ共々ロッカーに急ぐのだった。
「こーやって、こーやって、こーやって…」
「あいたあ⁉︎」
「大丈夫キタちゃん⁉︎ 」
「キタちゃん大丈夫?」
「ありがとダイヤちゃん…」
「針使ってるときは気をつけないと」
「うん…ちょっとダービーのこと考えちゃってて」
「いよいよだもんねダービー…私もキタちゃんと一緒の年にデビューしたかったなぁ」
「ダイヤちゃん……ダイヤちゃんって昔から刺繍得意だっけ?」
「ううん、さっき先生がお手本を見せてくれたから」
「流石だなぁダイヤちゃんは。なんでもすぐできちゃうんだから」
「それに比べてあたしは昔からぶきっちょで、トレーナーさんの足も引っ張ったりしちゃってて…」
1時間目、ダービーを気にしてか無自覚に精細を欠いた行動をしてしまうキタサン。元来不器用で体当たりで物事に挑みがちなこともあってか少し落ち込むのだった。
「じゃあ問題だ。19万人強の歓声が響いたダービーで優勝したのはアイネスフウジンだが
その次にダービーを優勝したのは「はい!」
キタサン!」
「トウカイテイオーです!」
「この話題だと食いつきが強えな、じゃあミホノブルボンの前にダービーを取ったのは「はい、トウカイテイオーです!」おう、トウカイテイオーだな!」
ただ時が変われば気分も変わるのはよくある話。本日最後の授業では自らのアスリートとしての憧れであるテイオーが取り上げられたこともあってか意気揚々と授業に臨んでいたのだった。ちなみにこの時間の担当は現在トレセンおよび富良洲高校に就職している弦太朗である。
「キタちゃん今日も絶好調だったね〜」
「うん。さあて練習だあ!!」
「でも放課後が一番元気♪」
「トレーニングでテイオーさんたちに会えるからね〜。ダイヤちゃんも世界スター所属ならもっと良かったんだけど」
「ごめんね、別のところに入っちゃって」
「サトノにとってあのチームは特別なの。チームカペラはトレーナーさんも他の子もサトノ家の夢のために戦う…そういうチームだから」
現在キタサンが所属しているのはチーム世界スター。
英寿がちょっとしたゲームの末に決めた名前のチームであり、彼女の憧れであるテイオーとダイヤの憧れであるマックイーンが所属しているチームである。
またカペラもそうだがチームとしては珍しくトレーナーも担当に合わせて個別におり、おまけに英寿以外のトレーナーは全員聖都大学病院から派遣されているスポーツドクターの資格持ちの医者という看護にも手厚いチームだった。
対してダイヤが所属しているチームカペラは少数精鋭かつウマ娘はサトノグループの血族、トレーナーは同グループに何かしらの手段で彼女たちに相応しいトレーナーとして見定められた者が所属している。
そして普段英寿と仲がいい景和がダイヤ、英寿をライバル視している道長がクラウンのトレーナーとしてカペラに所属している。
「見つけましたよキタさぁん!!」
「うわぁい⁉︎」
「あばばばばバ…!「その通りです!呼ばれて飛び出てサクラバクシンオーです!」
「あはははは…「それじゃキタちゃん、先に行くね〜♪」ダ、ダイヤちゃん⁉︎ 待ってえ〜!!」
「デビューからこれまで、貴方の走りに何かを感じます! 貴方の中に眠るバクシンのセンス、それをビビビッと感じるのです!」
「そして私の見立てではあなたは短距離向きっ! さあ!私と共にスプリンターとしての道を究めましょう! さあ!さあ!さあ~!!」
「あ、あのー、私もうチーム世界スターに入ってますので〜…すみませーん!!」
「なんでーーー⁉︎」
彼女はサクラバクシンオー、キタサンの日常面での良き先輩の1人であるが押しが強いからかキタサンからは敬遠されがちだった。
「バクシンオーさん良い人なんだけどな〜良い先輩なんだけどな〜…」
「ふふ今日も雑巾掛けか、まめにやるのはいいがあまり無理はしないようにな。いかな時も油断大敵って言葉は嘘じゃない」
「トレーナーさん!」
「よっ」
「それじゃあ見るか、テイオーのレース」
「! はい!」
部室でいつも通り部屋掃除をキタサンが行なっていると英寿がやってきた。キタサンにとっては慕うべきトレーナーである。
「やっぱりいつ見てもかっこいいですよね~」
「風みたいにびゅんって飛んでくようでっ、稲妻みたいにビビビって速くて~♪」
「そういうのは本人のいないところでやって欲しいんだけどっ」
「テイオーさん!」
「照れてますの?」
「照れてないよっ」
「おっはよーーー!アタシ達が来ましたぁ!!」
「今は昼も過ぎてんだけど」
「レース前とかってどんなこと考えてましたか?」
「うーんそうだなぁ……♪ ウイニングライブの事かなっ。後はね~、カイチョーにいいとこ見せようとかっ」
「仲睦まじいのもいいがお前ら、着替えたらトラックに集合な。今日はエグゼイド・ブレイブ・スナイプ・レーザーが忙しいぶん俺がまとめて受け持ちだし」
「はーい。じゃあキタちゃん、今日も頑張ろっか」
「はい!」
それから少ししてテイオーとマックイーンが、さらに遅れてチケゾーとタイシンがやってくる。ちなみにテイオーが来た瞬間、キタサンの尻尾の瞬間的な振り幅が途端に荒々しくなっていた。
「いいな、キタ。ダービーでは皐月賞から400伸びる。そのうえ府中の直線は長い、お前の逃げの脚質ではやや不利だ」
「レースの山場、即ちハイライトに凄い脚を使って追い込んでくるクラウンやドゥラメンテみたいなやつがいるからな」
「言いたいことは分かるな?」
「ただ、とはいえ脚質を変えるのはリスクが大きい。なんで長所を磨き伸ばす方向で今回はお前を鍛えていこうと考えてる」
「1にスタミナ、2に持久力。周りがどう攻めようがペースを維持してお前のハイライトをお前の全力で迎えられるようになってもらう」
(! あれは…忘れもしない、こないだの)
「まあごちゃごちゃ言ったが、とりあえず意識集中や練習前の慣らしも兼ねて一度走ってこい。なんか気になってるようだしな、ドゥラメンテが?」
「うぇあッ⁉︎ あ、見抜かれてたんですね…あはは、恥ずかしいです」
「あれだけ外から見事に勝利を掻っ攫われたんだ、気にするなってほうがまあ難しい。それに俺としてもニラムの担当ウマ娘があそこまで爆発力を秘めたやつだったのを思い知らされた」
「…だからこそ勝ちたいだろ、はっきり言って?」
「…はい! あたしの夢を叶えるためにも!」
(夢か…どこか今のキタは夢に囚われて先が見えているようで見えていないような気もするが、今ここでそれを言って下手に追い込んでも仕方ないか)
「なら行ってこい、ただ身体が悲鳴を上げないよう、ライバルより先に夢に追い込まれないようにペース配分は慣らしとはいえ一応気をつけてな」
「了解ですトレーナーさん!じゃあ行きます…どぉりゃああああぁああぁああーーーーーー!!」
その後時間になり練習がスタート。ただ自らを負かしたドゥラメンテが出てきた都合上どうしてもキタサンはそれが気になってしまう。そこら辺の事情を汲み取ったうえで慣らしを提案、キタサンも同意し、決意の爆走かスタートしたのだった。
「張り切っているな、キタサンブラック」
「はい! ただ力みすぎなような…」
「めーじんもそう思う? つっても漠然とした感じだから同じチームとはいえ自分も無闇に切り込めないんだよな…」
「…キタちゃんと英寿くんを信じるしかないですね」
キタサンの爆走を同僚目線で語り見守る彼らこそチーム世界スターの主なトレーナー、宝生永夢・鏡飛彩・九条貴利矢である。
かつては新種のウイルスから世界を守り、そして今はトレセン勤務の彼らは、医者とトレーナーを兼務しているぶん忙しく、本日もそんな感じで時間が無いなりに少しだけ見守りに来ていた。
だがキタサンのペース配分に英寿同様若干の心配や違和感を感じ取っていたのだった。もちろん直感じみたものなので具体的に説明することはやは難しいのだが。
「トレーナーさん見てください。キタちゃん、頑張ってますね!」
「うん、英寿くんもいつもより張り切って指導したみたい。2人とも皐月賞の敗北をバネにしてやるって感じっぽいね」
「──キタサンブラック、そしてそのトレーナーの浮世英寿」
「──ギーツとその担当ウマ娘か」
「道長さんにクラウンちゃん!」
「吾妻トレーナーさんにクラちゃん!どう、ダービーは勝てそう?」
「ええ、ダービーこそ勝つわよ!」
「俺たちの積み重ねを証明するときだ、皐月賞の敗北はここで取り返す」
「ええ。皐月賞では寄られたせいで不利を受けたけど、本当に強ければ勝てたはずだから」
「それに私たち…特にミッチーと私の努力をただの努力止まりで終わらせたくない。形ある未来にしたい。この人の、私のトレーナーの愚直だけど涙ぐましい私のための頑張りに正当な結果で報いたいの…」
「…横に本人がいる状況であまり言いたくはないけれど私は…まだサトノにだって、ミッチーにだって何もレースで返せてはいないから」
「はっ、相変わらず詩人みたいな浮いたこと言いやがる…まあお前はそのほうがらしいがな。ただ気負いすぎには気をつけろ」
「私が?」
「ああ、お前は終わった直後から無自覚に闘志を剥き出しにしてた。普段じゃなかなかお目にかかれないレベルでな」
「だから心配ではある。あるが同時に、ならお前のそのやる気に応えてやらねえのも失礼だ。俺はお前の担当、お前が何かを望むなら幾らだってそれを形にできるよう努力してやるだけだからな」
「…ふふっ、面と向かってこういう激励を言われると確かに照れるわね♪ とりわけ貴方が言ってくれるなら尚更…でも多謝(ありがとうね)、ミッチー!」
「ああ、お前と俺でサトノグループの悲願は実現してみせてやる」
「ええ。サトノ家のG1勝利は、私とミッチーが必ず!」
(クラちゃんも吾妻トレーナーも、お互いのことになると熱が入るね。普段からサトノの夢のために互いに強く支え合ってるぶん、というより個人として強く認め合って頑張ってるせいかな)
「うん、そうだね!」
(…クラウンちゃん、心配だったけど道長さんのことになると明らかに普段以上に饒舌になってるね。相当に努力を積んでる状況だからこそ、かな。とすると…)
「…やっぱりお似合いだね、2人とも」
「お互いに当然の努力をしてるだけだ、泥臭く見られるかもだがな」
「…分かるよ、俺とダイヤちゃんだってそうだから」
「だからチームカペラのトレーナーとしては同じ願いを掲げたという意味で負けられないけど頑張ってほしい」
「当たり前だ。サトノの悲願を叶えるのはクラウンと俺、それをダービーで証明する!」
「Me右边也一样(右に同じよ)。私たちのここに至るまでの研鑽と収斂の日々…絶対に勝利として実らせてみせるわ!」
そしてキタサンの練習を伺っているのは同チームメンバーだけでなく。ダイヤや彼女のトレーナーである景和、彼女のチームメイトにして彼女と同じ夢を叶えるべく競い合っているクラウン、そのトレーナーである道長。
(キタさん、凄くキレがある…)
(私とシュヴァルちゃんもいつかは…)
そして今回は見ているだけだったが、祢音とシュヴァル。
彼らもまたキタサンと英寿、彼らが登録している日本ダービーを超えるべき壁として見据えているようだった。
「では今日の肩慣らしと行こうか、ドゥラメンテ」
「無論だ。──────ッ!」
「「「「「⁉︎」」」」」」
「(このままじゃ…!?)うおおおお!!」
(ダービーでも壁として立ちはだかること間違いなしの豪脚っぷり。ただそれにいかんせん逸る気持ちは分かるが焦るなよ、キタサン…)
そしてニラムの指示のもとドゥラメンテも走りだし、キタサンと英寿、そして彼女を見ていた者たちはそれを見て否が応でも自らが越えるべき壁の凄まじさを再認識させられるのだった。
『やっぱドゥラメンテだよ、あの勝ち方は凄かった!』『才能の塊って感じだしな!』
『サトノクラウンも巻き返すんじゃないか?』
『才能はピカイチだもんな~』
(…あたしは、まだ皆さんからは期待されてない、か。事実だけど、やっぱり悔しいよぅ)
(何より…不安になっちゃう)
『キタちゃん頑張ってるね、毎日っ』
「あっダイヤちゃん、今帰り?」
あれから数日、本日も練習を終えトレセンが無料開放しているスペースを通り抜けながら、皆がダービーにて期待する選手は自分でないことにどうしてもキタサンは無力さや弱さを自覚させられ落ち込みそうになっていた。
そして校門を出ると気づいたがそこには明らかに1人、待っていた自らの幼なじみの1人がいた。もちろん直近の半径内には誰もいない。
ダイヤはキタサンの帰りだすタイミングを辛抱強く待っていてくれたのである
もちろん彼女はそうは言わないし、キタサンも偶然のようにトークをこなす。2人の健気さが伺い知れる一コマだった。
「────もしも明日ダイヤちゃんが日本ダービーを走るとしたらどんな気持ちで挑むかなって
「…勝つこと。ただそれだけ! それくらい強い気持ちじゃないとサトノのジンクスは破れないから! 結果はどうなるか分からない」
「だけど、自分を信じないまま走って勝てるほど甘くはないかなって。キタちゃんは違うの?」
「私は…」
「G1って今まで見たことないくらい凄くって。知らない景色だった」
「ダービーだと…もっと…もっと…皆みたいに自信が持てなくって」
「そっか。キタちゃん、ダービーが怖いんだね」
「そうみたい…いくら練習しても勝てる気がしなくって…ん?」
2人はそのまま縁日に移動していろいろと話し合っていた。
すると──────
「それでは街の人の声を聞いてみましょう。明日はいよいよ日本ダービーですね!」
「はい、うちも家族ともども楽しみにしてまして」
「うん、だってお祭りみたいなんだもん♪」
(おま、つり…)
「お祭りみたいなんだも〜〜ん♪」
「ふふっ。あの子可愛いね、キタちゃん…キタちゃん?」
キタちゃん:「お祭り…お祭り…」
「お祭りだねえ!」「お祭りだね!」
「お祭りね!」「お祭りね♪」
「(あたしは…明るくて、元気で…皆が笑ってるあたしの大好きな、ダービーは…)うん!」
「ダイヤちゃん、あたし頑張れるかも!」
「ほぇ、キタちゃん?」
「あたし、たい焼き買ってくるね!」
(そうだ、きっと大丈夫!ダービーは楽しくて大騒ぎのお祭りみたいで、だったら、あたしは!)
「いろはにほへと組の大将、たい焼き2つ頼みます! あたしはカスケ…いや、カスタード!」
「あいよ、いつにも増して張り切ってるねえキタちゃん!」
「はい、だって祭りは楽しんだ者勝ちですから!!」
(そう、ダービーは祭)
「なら袖振り合うも他生の縁、躓く石も縁の端くれ! 共に走れば繋がる縁! この世は楽園!! 悩みなんて吹っ飛ばす!! 笑っちゃえ笑っちゃえ!ハーハッハッハッハ!!」
(心配で見ていたがどうやら俺の根回しはいらないか…ただやはり妙な胸騒ぎがする)
「何か絶対的に見落とした、いや履き違えてしまった前提が今のあいつにあるような」
ただそれがきっかけかは分からないがキタサンは何かしらの気づきを自力で得たようで迷いなく立ち上がると、たい焼きをご褒美にダービーへの向きあいかたを固めたのだった。
『さあいよいよ始まります日本ダービー
今年はどんなウマ娘のどんな走りがどんなレースを生み私たちを魅了してくれるのでしょうか?』
『山本さん、本日はよろしくお願いします』
『はい、よろしくお願いします。ダービーという栄冠を戴くことはその世代の最強、ナンバーワンであることの証。互いに力を振り絞り、いいレースになるといいですね』
「僕が言えることはあまりないけど、これはゲーム、だから不安も緊張も全部楽しんで!」
「にしし、キタちゃん! 自分らしく、ね!」
「俺からは特に言うことはない。ただまあそうだな。お前の夢をお前の意思と実力でお前らしく叶えてこい、キタ!」
「トレーナーさん、テイオーさん、宝生トレーナー…はい! 行ってきます!」
(…ダービーを走るんだ。明るく、楽しく、あたしらしく!)
そして当日、チームメンバーの多くがいろいろあって応援に来れなかったのだがどうにか来てくれた永夢・テイオーやもちろん同伴してくれている英寿から最後の励ましをもらい、それを胸にキタサンは夢を叶える舞台に飛び込んでいくのだった。
『さあ、なんと言っても注目はこのウマ娘、圧倒的な力で皐月賞を制したドゥラメンテ!三冠の期待が掛かります。中山で見せた脅威の末脚、直線の長いこの府中でまた炸裂するのでしょうか?』
『続きましてはサトノクラウン、G1制覇の悲願を背にどういった走りを見せてくれるのかっ』
『前走はやや不利を受けたところもありましたが彼女はここ1番であれば勝っても何の不思議もありませんね』
(負けられない! 勝つしかない! ジンクスなんて、この私が打ち破ってみせるわ!)
「クラちゃん…」
「(さっきは気のせいかと思ったが、やっぱこないだにも増して気負ってやがる…あんまこういうことはこのタイミングで言わないほうがいいんだが仕方ねえ…)クラウン!」
「!(ミッチー?)」
「あの時も言ったがあんま気負いすぎんな、お前はお前らしく行け!お前の努力で、お前の揺るぎない走りで立ちはだかるもん全部ぶっ潰しちまえ!!」
「(…どうやらまーた力んでたのかしらね、にしてもふふ)「いつもいつも多謝(ありがとうね)、ミッチーーー!」
『そして皐月賞3着、キタサンブラック!あのスター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズの浮世英寿氏をトレーナーとしてその指導の基、入念なトレーニングを積んできたという情報が入っています!』
『疲れなどは表立って見えないようですが気合いの乗りは良さそうですね、期待しましょう!』
(あの時は応援席でテイオーさんの翔ぶような走りを見ていた…よし!)
世代の頂点を決める一世一代の大決戦。そこに参戦する強者たちはキタサンやクラウン、ドゥラメンテ問わずその身に揺るぎない勝利への覚悟と決意、そして願いを宿していた。
実況『世代の頂点を決めるトゥインクルシリーズ最大の節目!』
『東京優駿、日本ダービー! それぞれの想いを胸に選ばれし18人のウマ娘たちがゆっくりとゲートに入っていきました』
『人事を尽くして栄光を待つ!』
『いや執念で!その手に掴み獲れ!!』
『────スタートしました!!』
そしてそういった選手たちの思い、願い、ギラギラとした感情が会場の熱気にさえ負けないぐらいに立ちこめる中、その年の優駿たちの頂上決戦、泣いても笑っても勝っても負けても一度きりの片道切符、即ち2020年日本ダービーがスタートした。
「さあ始まりました!若干ストレートバレットが出遅れましたが、各ウマ娘揃って好スタートを切りました」
『まずスタンド前、どのウマ娘が端を取るのか。1番後ろからメモリアルブラストが行くのか。キタサンブラックの前で、おっと真ん中から行きましたリボンピンヤンが先行だ!このウマ娘が行くのか⁉︎ 連れてキタサンブラック2番手だ!』
(歓声が凄い…)
(音が形になって襲ってくる…、でも!!)
キタサンはひとまず“怖がってない"。その点で好調な滑り出しだと英寿には映った。
しかしライバルたちが後方なのが、何とも不穏ではある。皆、各々の策を講じるべく今日まで自らを追い込み鍛え上げている。その意味では誰にだって勝利の女神は微笑む可能性があり、何よりどんな強い願いも決意表明も裏返せば叶わない可能性と変わらないのだから。
『さあ難しい難しい第一コーナー中間に入りました!』
「ダービーは最も運が強いウマ娘が勝つ。エイシンフラッシュ・タニノギムレット・スペシャルウィークなどデータ的には前走皐月賞三着のウマ娘が勝つ事も多い……」
「どうした急に」
「今年の皐月賞3着は誰か知ってるか? キタサンブラックだ!」
「!…フッ、ならいけるな!」
『難しい第二コーナーから向こう正面へ、さあ先頭から見てみましょう。先頭はリボンピンヤン、2番手にキタサンブラック、ドゥラメンテは中団のここ、サトノクラウンは皐月賞の雪辱を果たせるか⁉︎ 1000m通過が58秒8という枠を刻んでいます!』
『…ちょっと速い…?』
『ああ、それもただ意図してタイミングが早いというより狙い澄ませていない?まさかかかっちまってるのか、キタ…?』
1000メートル通過タイムがいつもより少し速く、後方が有利な展開に。当然それをいつも通りではないのではと英寿とテイオーは勘繰っていた。
(前にいるのはこの子だけ…、ゴールは…見えた!!)
『熱い熱い日差しが照りつけるここ府中東京レース場のターフ』
『さあ第四コーナーのカーブ! ここからは後戻りできない真っ向勝負!全てを賭けて、全てを賭けて!! さあ直線だ日本ダービー!』
(あたしならいける!)
(ここしかないわ、勝つ!絶対勝つ!)
『目一杯追っている!ミュゼスルタン!並びかけるキタサンブラック!』
「「「「「「いけー!!」」」」」」
「…いや、これは…!」
「ドゥラメンテが、何かを狙っている?」
『先行勢が粘っている!』
(もうちょっと!もうちょっと!)
「うああァアアアア!!」
二番手のキタサン、後方のクラウンは加速をかけて獲りに行く。しかし、それがいけなかったのか。
『粘る粘るリボンピンヤン!キタサンブラックもグッと追いかける!先行したウマ娘はここで消えてしまうのか⁉︎ だがまだ分からない! 長い長い府中の最終直線、栄光へと続く一本道の坂を──』
「……ッ!」
「──さあドゥラメンテ、見せつけろ。この場を牛耳得るリアリティ、それは君をおいて他にいないのだと」
────瞬間、暴風がなお荒れ狂う。
ドゥラメンテの力がこのレースにおいて産声を上げる。
『来たか来たかドゥラメンテかぁあ!!!』
ドゥラメンテが加速、思い切り踏み込んで異次元の加速へ。
かつてのサイレンススズカも連想させる最高潮へ。
この「踏み込み」に勝てるのか?
とにかく速い、その一言に尽きる加速だった。
(負けない!まだここから!!)
「えっ……!?」
『残り200!』
(あっ…)
当初、キタサンは闘志に溢れていた。まだ全然諦めてはいなかった。
が、今はどうだ。ドゥラメンテの後ろ姿を見るうちにどんどん焦燥し絶望していくのが自分でも分かる。何がいけなかったのか?そう悔やむ暇さえ許してしまうほどに。
(!?)
そうこうしているうちに他のウマ娘たちも怒濤の加速へ。
クラウンも彼女の随伴であるラーゼンも前へ。その間もキタサンの順位は下がり、その走りはキレを失っていく
(まだゴールは!!)
まだまだ諦めてはいない。
されど際限なく彼女の脚は後退する。
キタサンは、トップ争いをしていたウマ娘たちの一部と共に後方に沈んでいく。
勝てるという自信は幻想か、彼女自身は後方のまま、そして──
『ドゥラメンテ先頭! ドゥラメンテ先頭!』
「⁉︎…くぅっ!」
(まだ、まだゴールは!!)
『ドゥラメンテ先頭!ドゥラメンテ先頭!ドゥラメンテ先頭…! ………ドゥラメンテ先頭!』
『やっぱり強い! あっという間に抜けだした!』
『2番手サトノラーゼン!』
『3番手サトノクラウン!』
『ドゥラメンテ! 二冠っ! たっ! せーーーーい!!』
『太陽の輝きも戴冠の悲願もその暴風のような力こそが荒々しく捩じ伏せた! 史上に残る、圧倒的な末脚の炸裂だァーーー!!』
──そんな苦悩など知る由は当然なく、ドゥラメンテの勝利がこの戦いの閉幕を、キタサンとクラウンの敗北を無慈悲に告げた。
「見事だドゥラメンテ…やはり君の存在はこの世代の頂点、リアリティそのもの!」
かくて終わってみればドゥラメンテの圧勝。
トレーナーたるニラムの、日本中の観客の胸に湧き立つ欲望に応えた瞬間だった。
「…また、勝てなかったのね、私…ッ!」
「(クラウン…)クソッ!!」
ただ当然、願いが叶わなかった者、願いを叶えられなかった者たちは自らの無力さに打ちのめされる。
道長とクラウンがまずそうだった。
サトノの力はラーゼンも含めて皐月賞はもちろんダービーを取ることにも届かなかった、ということなのだから。万全の努力が意味を成さないこともある。そしてそれはレースの醍醐味の一つと言えばそれまでだが、受け止める当事者は違うのである。
「…ドゥラメンテ、トウカイテイオーにも似た強さだ。ただひたすらにな」
「ええ、この場の主役、ダービーという台風の渦は間違いなく彼女でしたわ…」
「策は十分すぎるほどに講じてた。それがまさかここまで通じない、とはねえ…」
「アタシ、今のキタちゃんが心配だよ…ダービーを取ることは…アタシがそうだったように、他の何をおいても譲れないあの子の願いで夢だったから」
喜びに沸く観客の裏で、飛彩とマックイーン、貴利矢とチケゾーら世界スターの面々は愕然としていた。
「英寿くん、キタちゃんは…」
「──4着、14着だ。俺の眼が間違っていなければ…」
「あいつは逃げに秀でた脚質、ただそれは裏返せば周囲の勢いに飲まれれば平均スピードを上げ過ぎてしまう可能性もあるということ。つまりそうなれば終盤で逃げをうつ脚力は残らない…」
「何より祭りの中心はあいつじゃなくドゥラメンテだった」
「なんで、なんでこうなることに気づいてやれなかったんだ!」
(…浮世トレーナーが思わず感情剥き出しになるぐらい、この負けはただただ残酷。僕に憧れた子が僕みたいな走りをしたウマ娘にクラシックの舞台で二度負けた…つまりキタちゃんの夢は、もう…)
「キタちゃん…」
無論永夢も英寿もテイオーも同様で、とりわけ後者2人はキタサンの師と憧れだった。その苦悩も窺い知れるというものである。
そしてまさかの14着落着。
『ドゥラメンテ大拍手~!』
『彼女のトレーナーであるニラムさんも鼻高々と言ったところでしょうか』
ドゥラメンテはというと沈黙しつつもゆっくりファンの前で止まり、手を振って応えていた
いい子なのは間違いないようである
案外、キタサンと似た者なのだろうか、はたまた純粋にファンが好きなのかもしれない
「キタ!」
「ぁ。とれぇなー、さん……あたし、あた、し‥」
そしてその間も、なんなら先程からずっと、彼女はひたすらにか細い声で慟哭していた。
「負け…、ちゃった……!!」
──キタサンブラック。
なんでも叶えられる、なんでもやってみせるという若さゆえの全能さにも似た彼女の無邪気な自信が、皆を照らすはずだった太陽の輝きが、負けられない二度の戦いでの惜敗と惨敗、それに伴う夢の喪失、憧れに届かないという事実をもってついに悉く地に堕ちた瞬間だった。
ED:『ロストシャイン』作品コード:774-5444-8
https://youtu.be/0bEXxRpUPYY?si=MWYX2wRLM_-F2yg0
今回は1話まとめて投稿でしたが、長いとか数話に分けてほしいと感じた方、曲の貼り方ご存知の人は感想欄で言ってください。
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