仮面ライダーギーツ ウマ娘・クロスオーバリング 作:玉ねぎは大正義ッ!
よろしくお願いします。
────第4コーナー周ります! 3番手にサトノダイヤモンド、4番手にエクセレンシー!』
『さあ最後の直前に入りました、内はツールドワール、食い下がって外からサトノダイヤモンド上がってくる!』
「行っけーーダイヤちゃん!」
雨が降り頻る2020年11月8日、ここ京都競馬場芝ではダイヤのデビュー戦が行われていた。
本日の応援メンバーは英寿・キタサン、景和・沙羅、道長・クラウン、カペラのトレーナーの計7名である。レインコートを羽織っての観戦となっている。
当初こそ苦戦をしていたものの、しかし────
「ッ…ッ…!」
『外からサトノダイヤモンド! 残り200を切って堂々先頭に代わって1バ身のリード!』
『突き抜けたサトノダイヤモンド、ゴールインッ!!』
残り200あたりから独走し見事優勝。
景和と二人三脚で積み上げた努力が活きたようだ。
幼少期からそうだが、キタちゃんを圧倒していたダイヤ。スペックは段違いなのかもである。
「ダイヤちゃん…」
「ダイヤ…」
「「やったあ!!」」
「いい走りじゃない♪」「「うわああああ!」」⁉︎ さ、桜井トレーナーに沙羅さん、どうしたの…ってああ、なるほど。まあしょうがないわね♪」
「姉ちゃん…」
「けーわぁ…」
「「ダイヤちゃん、ほんと頑゛張゛っ゛た゛ね゛え゛…!」」
「クラウンが言った時点でやめてくれ! こんなとこで泣き散らかすな!」
「まあまあミッチー、私も気持ちは凄く分かるし堪忍してあげましょうよ」
「ったく…」
「ふっ、泣き上戸なのは姉弟揃ってか」
『サトノダイヤモンド、メイクデビューを勝利で飾りました!』
『いやぁ〜素晴らしい末脚でした!』
『これからの活躍が実に楽しみですね!』
当然親友で幼馴染であるキタサン、親戚で幼馴染であるクラウンは大喜びし、なんならトレーナーである景和とその姉でこちらもダイヤを可愛がっている沙羅は姉弟揃ってボロ泣き状態だった。
道長はそれを止めるも、気持ちが分かるクラウンからすれば見逃してあげたくなるのだった。
ちなみに英寿はいつも通りである。
『さて。今年もたくさんの走りとドラマが生まれましたが、来週からいよいよ有馬記念のファン投票が始まります』
ここはトレセン、やはり雨に降られているがそんなことは我関せず、ゴルシが1人走り込みをしている。
掛けたラジオの実況から漏れ聞こえてくる有馬記念は、日本中央競馬会(JRA)が中山競馬場で実施する中央競馬の重賞競走(GI)である。
暮れに日本ダービー級に盛り上がるレースをと提案されスタート。
提案は有馬頼寧伯爵。
当時、彼の急逝により名を冠したとのこと。
────2020年も、彼女のアスリートとしての生涯もいよいよ終わりが近づいていた。
『山本さん、今年はどんなメンバーになると予想されますか?』
『秋の天皇賞を制したブラーボで、菊花賞を制したキタサンブラックなどに人気が集まりそうですが、過去3度の有馬記念に出走し、好成績を残してきて現在GⅠ六勝のゴールドシップ。彼女にも注目したいですね』
『ゴールドシップと言えば、あの衝撃の宝塚記念が記憶に新しいところですが』
また有馬記念はファン投票で選出されるお祭りレース、中でもゴルシに期待が集まるも
しかし同年、宝塚での開幕早々の失態をやらかしており、それゆえに結末はどうなるか分からないといったところが事実である。
『そうですね、常に予想のつかないレースを見せてくれるのが彼女の魅力ですっ』
『4度目の有馬記念でどのようなレースを見せてくれるのか期待しています』
解説や世間は好意的であるものの
当のゴルシは気にしているのか、ラジオにも耳を傾けず珍しく必死に走り込みをしている。
普段のゆるキャラ感溢れる振る舞いみたいとは打って変わって別人、こんなに真剣なのは初めてではと思えるほど打ち込んでいた。
雨が降りそうなどと言える状況でなく。
いや実際、めっちゃ降ってる訳なのだが。
「……」
(ついに来たか‥)
────そして夜、彼女の机には意味深な手紙が置かれていたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それでは! ダイヤちゃんのメイクデビュー&(アーンド)初勝利を祝ってぇ〜…かんぱ〜い!!」
「「「かんぱ〜い♪」」」
「「「「「乾杯!」」」」」
ダイヤの勝利を祝い英寿とキタサンが発案して夜の栗東寮食堂、計9人で集まって祝勝会を行なっていた。
ちなみに男子陣や美浦寮生であるクラウンの入寮も含めて、栗東寮には事前に申請を通してあるのでモーマンタイというやつである。
そして生卵とオロナミンCを使った絶好調カクテル(景和命名)を大量に用意しジョッキに注いで乾杯していた。
ビールの雰囲気は味わってほしいが健康にも配慮してほしいというトレーナー陣の意図によるもの。
オロナミンCは黄色、卵によりとろみも味わえるので、見た目にも喉越し的にもビールっぽさは十分だった。
「ってもー…、これで乾杯何回目?」
「っとはふはふ!…にしてもマルちゃんの牛すきうどん大盛り、美味しいわね♪」
「まあまあいいじゃない。めでたいことは何回も祝ってなんぼよ〜!」
「沙羅さん…それもそうね、ツルツル♪」
「姉ちゃんは厨房で包丁握りながらクラウンちゃんにそれを向けないで、初心者じゃないんだから…」
ちなみに英寿たちは調理中である。手が開けば入れ替わり立ち替わりテーブルのほうに座っていくスタイルだ。
「たくっ、なんで俺たちが料理を…」
「ふふ、そう言いながらミッチーが1番張り切ってくれてたじゃない♪」
「そーそー、こういうことは熱心に祝え(声真似)みたいな感じで材料集めに精を出しちゃってね」
「クラちゃん引き連れて私とシュヴァルちゃんにも凄い勢いで参加を促してきた時はビビったよ〜もう、まあ楽しいからいいけど」
「祢音ちゃん…うぅ、どうしてボクまで……」
「あっ、青いちゃんぽんが相変わらずイケる…チュルチュル」
先程からクラウンやシュヴァルが啜っていることからお分かりかもしれないが、マルちゃんの赤いきつねと緑のたぬきシリーズの商品が各種幾つか鍋に投入して用意されていた。
季節は冬、ただしお手軽さを楽しみたいということで担当ウマ娘たちから発案した形である。
まあこれだけ量があると鍋パーティ感があるが。
「絶好調カクテルもやっぱり美味しい! あ、もちろんお祝いも何回やってもめでたいからね〜♪ では、今日の主役のダイヤちゃんと桜井トレーナーより一言!」
「今日のメイクデビューでようやくスタートラインに立てました。皆さん、応援ありがとうございます!」
「言いたいことはだいたいダイヤちゃんが言ってくれたから少なめに。…なんとかダイヤちゃんの努力が実ってくれて、俺はもう感無量です!」
「ダイヤちゃん、けーわ、おめでとー!!」
「「ふっふぅ!」」
「タイクーン、おめでとう」
本日の主役であるダイヤと景和が感想を述べていく。あっさりに見えてしっかりと嬉しさが感じられる一言だ。
「ズルズル…ゴックン! (やっぱりきつね美味しい〜) ではでは!これからの抱負をッ!」
「抱負? ……目標は来年のクラシック三冠レース」
「まずは皐月賞で、サトノ家悲願のG1タイトルを必ず獲ります」
「ここからダイヤちゃんの夢が始まるから慎重に選びました!」
「おお〜!」
「…まあせいぜい頑張れ、クラウンだって負けてやらんがな」
「ミッチー…そうね。頑張りましょうダイヤ、桜井トレーナー。私たち4人で、サトノ家の勝利のために!」
「うん!」
「もちろんだよクラウンちゃん!」
そして今後の抱負も述べていく。中身が中身なので、同じチームカペラに所属している道長・クラウンとも相通じる抱負。
かつてニラム・ドゥラメンテが持っていった皐月賞、英寿・キタサンが逃がしたものに必勝宣言。
伸び盛りを感じる決意表明だった。
「ではでは、続いてシュヴァルちゃんと祢音さんの抱負を!」
「ぁえっ、僕もお⁉︎」
「いきなりだね…でもピカリ♪ 任されました!」
「うん!」
「…ハァ。…春先の怪我でクラシックに出走できず悔しい思いをした。ッ、来年は巻き返し、必ずG1を獲る!!」
「正確にはジャパンカップをいずれは2人で取れたらなぁって考えてます♪」
「あっ、そこまで言わないでえ!」
「ジャパンカップ! テイオーさんも取ったあのジャパンカップかあ…」
「復活後のレースとしては記憶にまだ新しいよね」
「いいんじゃないか、堅実だが諦めないって意思が感じられる」
「そっか、シュヴァルも祢音さんと来年度以降のG1、もっと言えばジャパンカップを…なら同期としては私たちも負けてられないわねミッチー!」
(…もう、秋天みたいな惨敗はごめんだから)
「お前はお前のやり方があるから焦らなくてもいいだろ。…まあ今のお前が目指して困るもんじゃないのはそうだがな」
なぜか続いた抱負表明。
シュヴァルは昨年怪我、なのでリベンジをということらしい。
彼女に限らずアスリートはつくづく怪我やメンタルダウンが絶えない、怪我や自分との勝負。
とりわけウマ娘であれば輪を掛けて繊細な生き方であるのだと。
人並みの体格から繰り出される人を超えた速さの持ち主ならさもありなん。
────そして少しばかり前に秋天で大敗を喫してしまっていた道長とクラウンも密かに闘志を燃やすのだった。
「じゃあキタちゃん、英寿♪」
「うん、僕たちが言ったんだから次は2人の抱負をっ」
キタサンブラック『えっ⁉︎』
「キタはともかく俺までとは予想外の流れ弾だな…まあ構わないが」
「トレーナーさんまで⁉︎」
「ほら早く」
「ぅえ〜⁉︎」
そしてさらにさらに抱負はなぜか続く。
シュヴァルなりのキタサンへの意趣返しであった
巻き込まれて強制参加、そのうえ抱負まで言わされたことの原因たる彼女への意趣返し。
まあ英寿はそこまで意に介していないようだが。
「えっと、ええっとぉ〜…! あ、有馬記念!」
「憧れの有馬記念で走りたいっ!! ですっ!」
「おお、同じ考えか」
「トレーナーさんもですか⁉︎ 良かったあ〜!」
「キタちゃんが2020有馬記念…」
「…出られるんじゃないの?」
「条件は満たしてるはずだよ、確か」
「えっ?」
「そうよ、菊花賞取ったんだし♪」
「あれだけ熱い勝ち方してりゃ、キタサンを支持する観客もわりといるだろ」
「そうですか…出られるかな、出られたらいいなぁ!」
抱負としては今年の有馬記念に出走したいということ。英寿も同様である。キタサンからしてみればチームの先輩で憧れであるテイオーが最後の復活を遂げたレース、英寿からしても先輩である永夢がテイオーと組んで栄光を勝ち取ったレースである。先程シュヴァルが出ると予定していたジャパンカップもテイオーが出たレースではあるが、やはりこのレースは特別。
両者共に目標としての興味は尽きず、なら形にしたいというところなのだろう。
「いやクラウンもそうだが、というかキタサン、お前こういう出れるかどうかみたいなことはギーツに直接聞いたほうが早いだろ」
「本人がいやがるんだからな」
「あっ、それもそうですね!」
「失念してたわね…で、実際この子は有馬に出られるの、浮世トレーナー?」
「そうだな…」
「と、トレーナーさん…⁉︎」
「──もちろん、出れるはずだ。知名度的にばっちり行ける」
「最近ちょくちょくリサーチはしてあったからな、スター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズ特権で」
「…やったあっ!!」
「走れるんですね、有馬で!」
そして気は早いがどうやら出られるようだ。こういうところの調査を担当にさえバレずにやってのけているあたりが英寿の英寿たる所以かもしれない。
「あくまでまだ確定してないうえでの話だが、ローテ的にも距離的にも菊花賞の走りなら十分戦えると判断した」
「そう、弱さは強さと知った今のお前ならきっとこの冬の祭典で戦える。お前のハイライトはまだまだいっぱいあるってことだ!」
「トレーナーさん…う、うぅ…ぃいやったあああッ!!」
「ほんと良かったわね、キタサン!」
「うんクラさん、あたし今めっちゃくちゃ嬉しいよお…!」
「涙流しちゃって、ふふ♪ でも頑張ってね、応援してるわ!」
「もちろんミッチーもね♪」
クラウンも当然喜んでくれる。元来彼女は悲願というフィルターを外せば自分も周りもハッピーエンドがモットーな欲張りっ子なので、今回のことも我がことのように嬉しく思うのだった。
「勝手に言いやがって…まあ頑張れキタサン。というかくそっ、いつかはクラウンだって有馬にも来年以降の秋天にも出てもらうからな!」
「今年の秋天の負けがなんだ、G1でのお前の力はこんなもんじゃねえ!」
(! ミッチー…)
『ぁっ…わた、わた、し…!』
『对、不起(ごめん、なさい)ミッチー…負け、ちゃったぁ…グスッ!』
『…もう何も言わなくていい、俺とお前の策が至らなかったせいで負けちまったんだ…すまねえ』
『ぇあっ、うっ、うっ……うわあああああああ〜〜〜!!』
「///、もう、今はキタサンのターンなんだからまた今度にしてよお…」
「…でも、うん。私だって負けっぱなしじゃ、悲願を叶えられないままじゃ決して終わりたくない。絶対にここから巻き返してみせるわ!」
「クラちゃん…うん、頑張ろう!」
「クラさんと同じ皐月賞時点で三勝バのあたしが行けたんだもん、クラさんだってきっとG1、取れるよ!」
「お、応援してる…」
「ありがとうダイヤ、キタサン、シュヴァル。まだまだこのままじゃ終われないからね、私も!」
そしてミッチーが改めて触れたが、秋天で17着と惨敗を喫してしまったクラウン。
彼女のリベンジのためにも改めてG1勝利を誓うのだった。
「ふふ…あっ! 良い意味で脱線してたから話を戻すけど、キタちゃんと浮世トレーナーならきっと有馬記念は大丈夫。私とトレーナーさんと義姉様が保障しますっ!」
「今のキタちゃんを見て応援しない人はいやーなかなかいないでしょ!」
「英寿の知名度はもちろん、キタちゃん個人でも長距離である菊花賞、その一着になったことで間違いなく通用する実力があるアスリートとして有名になってるからね。まだまだ未熟な俺の意見だけど、通用すると思うよ」
「私とシュヴァルちゃんも保証します、ピカリ♪」
「…あの走りを見て難しいんじゃって考える人はなかなかいないんじゃないかな、たぶん…」
「皆…ありがとお〜!!!」
桜井姉弟やダイヤ、祢音・シュヴァルらも皆各々の激励をし、有馬に臨むキタサンの気持ちを今から奮い立たせるのだった。
「ちなみにテイオーからも応援メッセージが来てるぞ」
「⁉︎ ほ、ほんとですかあっ⁉︎」
「ああ、ほれ」
『にしし♪ キタちゃん聞いたよ〜、浮世トレーナーと有馬記念に出るつもりなんだってね。…今の君が出る有馬なら熱戦激戦間違いなしっ! 」
『──うん。頑張ってね、キタちゃんっ!!』
「あっ…」
「あたし、今あ゛た゛し゛、ここで死んでも悔いがないかもでずぅ゛〜゛!」
「「「「「「「いや死んじゃダメだからね⁉︎」」」」」」
ついには今はここにいないテイオーからの応援メッセージが届いたことで感極まってしまい、成仏するみたいなことを言い出す。
「…良かったな、キタ。お前の努力がまた報われて」
「ふわっ⁉︎///」
「と、唐突なスター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズっぷりというかサプライズムーヴ…流石のエンターテイナーね浮世トレーナー…私も負けてられないわ!」
「いやこんなもん見習うな!」
(有馬記念に出られるって聞けたうえに、テイオーさんに凄く褒められて、そうかと思ったらトレーナーさんに頭を撫でてもらっちゃった…///)
(今日はダイヤちゃんと桜井トレーナーが主役なのに、祝ってもらえてるあたしってほんと幸せ者すぎるよお〜)
おまけに英寿に頭を撫で撫でされたことで、恋心にウブで無自覚なキタサンとしてはまたまた舞い上がってしまう。
(…でもだからこそ、頑張らなきゃ!)
「…ありがとうございますトレーナーさん、でもこれもトレーナーさんやチーム世界スターの皆さんのおかげです」
「だから有馬記念、絶対一着取りますっ!」
が、こういうところの気の引き締めが意外としれっとできるキタサンなので、自らがこうなったことを喜びつつ有馬に向けた意思表示を改めて行うのだった。
「──そうか。だがキタ、今までは同年代とのレースだったが有馬ではそんなのは関係なしの無差別級。クラシック級はもちろん、心身ともに完成されたシニア級とだって戦う事になる」
「トレーナーさん!」
「──そのうえで一着を取るっていうなら、覚悟はいいな!!」
「はいッ!! よーし!これからのあたし達皆の華々しいハイライトにぃ、皆でかんぱーい!!」
「「「「またー!?」」」」
そしてそこでまたまたお祝い代わりの祝杯を上げようとして道長やクラウンらに突っ込まれるまでがセット。
皐月賞・ダービーでの敗北でひたすら凹み、地球の裏側までぶち抜かんばかりだったキタサンだが、前以上に明るくなった気さえする。
ちなみにずっとカクテル髭が付いた状態で喋っているのはご愛嬌というやつである。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「…有馬記念、おめでとうキタサン」
「頑張ってね〜キタちゃん!」
「キタサンブラック、今のお前なら特に心配もいらんだろう」
「素直じゃないなあ。あ、僕も応援してるからね!」
「タイシンさんチケゾーさん、鏡トレーナーに宝生トレーナー…はい、頑張ります!」
瞬間、轟音
「「「「「「うわぁ!?」」」」」」
「なんだこの轟音…まさか…って、やはりお前かあ!」
「どうしたの⁉︎ ってこれは酷いなぁ」
「言うに及ばずだけど言うわ、酷い」
何事かと思えば、部室外でいつものスタートゲートが転倒。どうしてこうなったというと
原因はゴルシ。いつからかチーム世界スターにマックイーン絡みで居着いている彼女がまたまたやったのである。というのも自由奔放さが売りと言えるぐらい破天荒なウマ娘だからだ。
今年に限れば宝塚で観客の声援を一時的に大量の悲鳴に変えたゲート立ち上がりも記憶に新しい。
「何やってんだゴルシ!」
「おおパラドか、ゲートから出られなくてな」
パラドが怒鳴りにいくが、いやはやその原因はおかしい。
出ようとして引っかかり、ゲート自体をひっくり返してしまったのだろうか。
ゴルシだからとするのではなく、体幹がおかしいだろうとか、筋肉的に考えるのであれば。
「ハァ…頼むよ、宝塚記念の悪夢はもうごめんだよ…」
「やらかしたしね」
「やらかしたもんねえ」
妙に息ぴったりでむしろ怖いタイシンとチケゾー。
そう、先程も触れたが宝塚記念の悪夢
2020年、つまり今年の6月28日の宝塚記念、約120億円の金の流れを紙くずに変えたそうな
スタートに失敗しただけだが、なら伝説級である。
「全くだゴールドシップ。やっとお前はゲート再試験に合格したというのに今度のジャパンカップで失敗したら「安心しろ!」んおっ⁉︎」
「次こそ完璧なスタートで芝のGⅠ七勝。そのまま有馬に乗り込んで史上初の八勝だッ!!」
「「「夢みたいなこと言ってないで、ちゃんと練習しろー!?」」」
リアリストな永夢以外ロマンチストとそもそも人間じゃないやつな状況でそれ言う!?とはなるが、そこはまあ立場の違い。
夢みたいなことを謳って成績を残せないままに去っていく誰か
これはどういった職種や業界でもあるあるで、とりわけそれが如実に出やすいトゥインクル・シリーズというウマ娘限定職種なら尚のこと。
それを見届ける側の人間だって切り捨てたくて切り捨てるわけではないのだから。
「ったくあの方は……」
マックイーンという出会いから現在に至るまで散々ゴルシに振り回されている者が言うと重みが違う。
ちなみに最近目を狙っていない。
とはいえ皆が目標とするGⅠを六冠
ゴールドシップは本当に凄いアスリートウマ娘なのである。
なので、こいつのせいで120億が紙屑になったことにぶう垂れるやつがそれなりにいるのも一応理解はできるのである。
「……気合入ってますね、ゴルシさん…!!」
「お前もそう思うか、キタ」
「はい、闘志に満ちてました!」
が、みんな呆れる中で戦意を高める英寿とキタサン。
このトレーナーとアスリートウマ娘、恐らく前者に磨かれる中で後者の育ちゆえの真面目さやトレセンに来るまで眠っていた勘が研ぎ澄まされ鋭利になっていったと言うべきか
とにかく2人とも察しが早く戦うこと、競い合うことに実はわりと意欲的。
特にキタサンはダービー時点ならゴルシの本気を感じた時点でビビリ倒してそうなもの。そうでない今はダービーによる挫折、英寿による再起を経た事が活きているということなのだろう
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ありま~ありま~あーりまーっ♪ 有馬っをねっらっえ〜♪」
「だーれと走っても負っけないぞぉ~♪ 」
「鼻歌混じりとは余程嬉しかったんだな、キタ」
「そりゃもう! ダイヤちゃんが主役なのにこんなに幸せお裾分けされていいのかってぐらいには昨日の夜は嬉しかったです!」
「生徒以外基本立ち入り禁止な寮だからトレーナーさんと楽しく語り合う時間もなかなかなかったですし」
「それこそ今みたいな時間も貴重なんですっ。あたしやトレーナーさんの都合がなければトレーナーさんとはなるべく長くいたいですし」
「…可愛いやつめっ!」
「⁉︎ はにゃあ〜…えへへ、ありがとうございますっ♪」
放課後、それも帰り道。昨日の一件で有馬に凄く意欲的だからか、はたまた英寿と最初は進路が同じだからか一緒にいられることに浮かれたのかテイオーみたいに歌いだすキタサンがいた。
真似ているのか似てしまったのか。
そして丁度、見慣れた地獄みたいなチームスピカ勧誘看板に差し掛かったところである。
今さらではあるが、これみて入部する者がどこにいるのだろうと思われやすいぐらい八ツ墓村感のある凄惨なイメージイラストである。
「──辿り着くまで挑み続けてぇ〜(以下略)いつか叶うときを信じてる〜(以下略)期待と願いあっきらめないっ♪…おっ?」
「菊のコンチェルトで聴かせて貰ったよ、君の魂のメロディーア…!!」
「デザイア~♪ 英寿、君に一目惚れだベイビー♪ 結婚しようよ♪」
そんなおり、またえらく濃いトレーナーとウマ娘が現れた。
英寿を待ち受け、ギターを弾いていた暫定トレーナー。
キタサンを待ち受け、ヴァイオリンを弾いていたウマ娘。
おまわりさんこっちですと言わんばかりの怪しい雰囲気。あとどうでもいいが、すごく巻き舌である。
「ベリッシモ! 浮世トレーナーにキタサンブラック!!」
「私がサウンズオブアースだ!」
「プチョヘンザ! ドープなレースだったなキタサンブラックに浮世英寿! 俺がこいつのトレーナー、晴家ウィンだ! ハードノックに行かせてもらうぜ〜!」
「「よろしく!!」」
「誰だお前ら」 「あっハイ…」
((うわぁ…))
キリスト教に出てきそうな名前に、遊戯王のモンスターみたいな名前の2人。
何かと音楽に絡めたワードを出すのは、演劇に絡めて語りやすいオペラオーを彷彿とさせる。
同じく芝居がかったタイプなものの彼女より没入感が強い。ただウィンに限ればまだどこか敢えて演じているふうでもある。
まあどちらもありていにいって変なのは間違いない。
「レースは地球とウマ娘とトレーナーのアンサンボウ! さあ!アースと共に、美しき音色を…!!」
「か、顔が近いです!?」
「俺たちと見せようぜ! パンクでロックな、エルヴィスもかくやってぐらいのギグを!」
「いや近づいてくるな、というかよせ気持ち悪い」
ウィンは英寿を、アース早くキタサンを壁ドンする。
ダイヤがいなくてよかったというべきか。
いたらキタサンに関して危うく殺し合い宇宙、とは流石にいかないが多少揉めていた可能性はあるだろう。
「Ah、君たちとなら有馬で空を舞うVirtuosoにだって「近いですってばー!?」」
「インプロヴィザッツィオーネのアイデアが湧いて止まらねえぜ!」
「あっインプロのほうが聞きやすいか!」
「知らんが離れろ、早く」
「こ〜ら、ウィンさんにアースっ!」
「「ぁうっ(ん)?」」
「あんたらまた何やってんの!」
「ネイチャさぁん…!」
「救いの女神ありだな」
そんな状況は幸いネイチャが通りすがって終了。まさにナイスなタイミング。しれっと落下する形で看板が犠牲になったが。
「やれやれ…これからがハーモニーだったのに」
「俺たちのセッションはまだこれからなんだがねえ」
言ってウィンはギターの弦から指を離し、アースはヴァイオリンのスイッチを切って去る
いや弾いてなかったんかい!!と英寿・キタサンは内心叫んだのだった。実はヴァイオリン型の音楽プレイヤー、そういうのもあるようである。
「では楽しみにしているよキタサンブラック、有馬記念のオルケストラをッ♪」
「楽しい対バンにしようぜ! じゃあな英寿、キタちゃん♪」
「ハーハッハッ♪ ハーハッハッ!」
(あれが浮世英寿か…まあプレイヤーとしてはどうにかしなきゃだがデザグラ抜きなら仲良くしたいタイプだな!)
今さらだが、また濃いのが現れたものである。
「ごめんね、キタサン、浮世トレーナー…ウチの新入り2人が迷惑かけちゃって」
「え…、ウチの!?」
「なんとなく察してたが、やはりか…」
「あーはっはっは!!」
ちなみにやはりカノープスのメンバーだった。
予想を裏切らないというか、納得の面子だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「カノープスの所属だったんですねアースさんと晴家トレーナーって」
「ちょっと変わり者なコンビだけどね〜。…でも、それだけじゃないから!」
「えっ?」
「強いし凄いよあの2人は! 有馬に出たらとっちゃうかも? カノープスで初めてのGⅠ!」
「お前が自信ありげにそう言うってことはそれなりに腕は立つってことか」
「もち、アクは強いけど実力も強いよ〜」
「それにあんたらも出るんでしょ、有馬記念?」
「うぇ? あっはい! まだ確定ではないですけど走れるだろうってトレーナーさんが言ってました!」
「まあな、出れないわけないだろうし」
「2人とも嬉しそうじゃん♪」
「はい、憧れのレースですから!」
「教え子が一年めから有馬に出るかもなんだ、そりゃな」
広い公園にありがちな見慣れたボート。
そこで3人は喋りながら漕いでるもののキタサンが興奮するたびにボートが加速し、長い付き合いとはいえ英寿は少しヒヤヒヤしていた。
「有馬記念…、あたしにとって特別なレース…!!」
「あのレースかぁ…♪」
テイオーが奇跡の復活を遂げた舞台が少し前。まだ記憶に新しいレースである。
「ネイチャさんも出走してましたねっ」
「まあ、三年連続三着だったけどっ」
「謙遜すんな、毎年それだけ善戦できてるやつもそうはいない」
「あはは、どうも」
「でも確かにちょっと特別だよねえ、有馬記念って」
「そうなんですっ!…あっ」
「…ありがとうございましたネイチャさんっ!」
「俺からも言わせてくれ、ありがとうネイチャ」
「え⁉︎ ちょっと何よ2人して突然⁉︎」
そんな有馬について語る中、何を思いだしたのか2人はネイチャにお礼を言いだす。当然ネイチャからすれば困惑が勝つのだが。
「あたしたちが有馬に出られそうなのって菊花賞を取れたからです」
「そこまでの期間、ネイチャさんはじめ、トレーナーさん以外のいろんな人がいろいろアドバイスしてくれるってこともなかったら…」
「よ、よしてよもー/// その間頑張って菊花賞に出て勝ったトレーナーとウマ娘は他ならぬあんたらでしょ。あたしはなーんにもしてないよ」
理由が分かるも、その間メンバーの感情に合わせていよいよボートの加速がえらい事に。
ただ英寿も言っていたが謙遜こそすれど、そも有馬はもちろん重賞に出走できるだけで栄誉である。本人的には不満もあろうが三着というのも充分好成績である。
つくづく「凄い奴らの同世代に挟まってしまった」名バでつまりはすごいウマ娘なのである、ネイチャさん。
「まあ2人とも余計なこと考えてないで、今は有馬に向けて仲良く一緒にがんばんな?」
「相談あるなら…まあ先達として話くらいは聞いてあげるしっ」
母性に溢れているというのかさり気ない気の利いた言い回しができるあたり、商店街でいろいろな人間と接しているだけはある。
ダービーでも我がことみたいに応援してくれていたこともまだ記憶に新しい。
「ふわぁ〜…! ありがとうございますっ、ネイチャ先生!!」
「ご教授感謝するぜ、ネイチャティーチャー?」
「せ、先生って…///」
(うわぁ、やばいやばい…キタサンってばキラキラしてるし後輩力高すぎっしょ〜!)
(浮世トレーナーはキザなだけかと思ったらあざとさある笑顔見せてくるし〜!)
こうやって人並みに照れてくるのも親しみやすさを感じさせるようで、彼女の魅力というやつかもしれない
そして3人はその後も洗足池公園でちょっとしたフリートークを楽しみ帰宅したのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「うおおおおおおッ!!」
「────はっ、はっ、へぇ〜ッ…しゃあっ! どうだ、完璧なスタートだったろぉ⁉︎」
「ああ、これなら問題ないだろう」
「どんなもんよ!これでジャパンカップはいただきだぜっ」
「まったく、油断は大敵ですわよ?」
「おお、あんがとなマックちゃん!」
珍しくゴルシがずっと練習に打ち込んでいるゴルシ。
またこちらも珍しくマックイーンがゴルシをひどいめに遭わせていない。
いつも意図せず、本当に意図せずマックイーンがゴルシを痛い目に合わせていたと考えると甲斐甲斐しい場面ではある。
恐らくジャパンカップに向けた追い込みなのだろうが。
「だああああああああああああッッ!!!!」
「これでラストだ、行けキター!」
「頑張ってキタちゃん!」
「っだあああああーーーッ!!」
「おお!! キタちゃん、最後の最後で今日一のタイムだよっ!!」
「いい感じに仕上がってきたなキタ、有馬が楽しみだ」
「! やったあッ!!」
「はいキタちゃん、どうぞ!」
「ありがとうございますっ!」
「おお、お前も練習終わりか?」
「はい、でももう一本行ってきます!」
「「うぇ⁉︎」」
「キタちゃ〜ん、ボトルー!」
「うおおおおおおおおおおーーーーー!!!!」
そしてそんなゴルシはキタサンの奮闘に目を奪われる事に。
ちなみに彼女は知らないことではあるが、ドゥラメンテに囚われていたダービー敗北後のキタサンに今のゴルシは似ている。
彼女がドゥラメンテに動揺し、練習に身が入らなかったように、彼女に意識を削がれたゴルシが集中を乱してしまうとは皮肉なもの。
「…まだ走れんのか、アイツ……!?」
「伸び盛りだからね、正直羨ましいよ」
またキタサンはこれで最後かと思いきや、まだまだわき目も降らずに走っていく。
元来そういう性格だったが最近は封じられていた練習魔の側面が復活したようである。つまり調子がかつてのそれにどんどん戻ってきているということ。
どうやら伸び悩み、克服に励んでいるらしいゴルシと対照的で眩しさと物悲しさが漂っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
────そしてさらに季節は流れ、今は2020年12月。
『今年も残すところあと1か月となりました!』
『皆さん、クリスマスプレゼントはもう決まりましたか?』
「こいつでっ、ハイライトだな!」
「よいしょっ!」
「助かったぜ英寿さんにキタちゃんっ」
英寿とキタサンはというと商店街でちょっとした人助けの最中だった。
「気にしないでくれ、人間助け合いも大切だ」
「はい、これぐらいぜーんぜん!」
「そうだ。キタちゃんに投票したからな有馬記念!」
「! そ、そうなんですか⁉︎」
「良かったな、キタ」
「はい、えへへ♪」
渦高く積まれたバナナ箱のタワーを見れば分かるが、大半をキタサンが指定された場所に何回かに分けて積み上げている
軽トラを引いて爆走していたこともそうだが人間より身体的に優れた都合上、人間が持てない物を朝飯前で持てる生物である、ウマ娘は。
横目に見ていて英寿は改めてそう感じているのだった。
「私もだよ〜。はいこれ! 2人とも応援してるから頑張ってね♪」
「豪勢な差し入れだ…ありがとう女将さん」
「わぁ、ありがとうございますっ!」
「ん?」「…あっ」
そして八百屋の女将さんからもらった差し入れのニンジン十数本が新聞で包まれていたのだが
が、その一面にゴルシ敗退が載っているのが2人の目に留まる。
内容は
ゴールドシップ10着 大まくり不発
しかもジャパンカップで、というようなものでつまりあれほど意気込んだジャパンカップで惨敗してしまったということになる。
(シュヴァルちゃんも目指してるあのジャパンカップ、テイオーさんが踏破したあのジャパンカップ、その今年のもので大敗…)
(ゴルシのやつ、思い詰めてなきゃいいが)
それを察してか、英寿とキタサンはどこか神妙な面持ちになったのであった。
「…」
そして同じ頃ゴルシは、自室でURAからの手紙の封を切っていたのだった。
ちなみに部屋は同室の誰かはいる気配はなく雀聖などゲームポスターばかり、ある意味多才だがこの状況だと寂しさを感じさせるものばかりだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ほら、キタちゃん起きて〜」
「ふわぁ〜むにゃむにゃ…お布団が恋しい…」
「今朝はキタちゃんの大好きなニンジンご飯とバナナステーキ、牛乳とは別にオロナミンCも付くんだって♪」
どうやらキタサンはニンジンもそうだがバナナやオロナミンCも好物なようである。
絶好調カクテルを美味しそうに味わっていたのもそういうことなのかもしれない。
「ほんと⁉︎ よぉし、今日も一杯食べて一杯練習しよーっ!!」
「…あれ? ゴルシさん?」
が、食堂はそんなキタサンの雰囲気と裏腹にざわ…、ざわざわ……と不穏な空気である。
まるで時間停止のようで、みな一様にテレビにくぎ付け。
『本日はお集まりいただき感謝する』
『この会見はあたしのある決断を発表する為に無理言って開かせてもらった』
『────私、ゴールドシップは有馬記念を以ってドリームトロフィーリーグに移籍します』
「ええ!?」
画面に映ったのは珍しく真剣そのもの、記者会見を開いているゴルシであった。
事実上の引退宣言である。
『ドリームトロフィーリーグに移籍すればトゥインクルシリーズではもう走れなくなりますが!?』
キタサンの動揺をよそに淡々と告げられていく
ドリームトロフィーリーグとは、野球でいう引退リーグに近いものである。つまり同じく野球に照らせば位置付け上は昇格に等しいもの
ある種の名球会とも言えるのやも。
「────あたしのトゥインクルシリーズは有馬記念がラストランだ!」
『『『『おお~~……』』』』
「ラスト…、ラン…!?」
キタサンが驚くのも無理はなく。
ゴルシのトゥインクル・シリーズからの引退。それはいわゆる青天の霹靂、降ってわいた大先輩の引退劇、本当にあまりに意外な展開で。
言葉なく、その場は呆然としていたのだった。
「ゴルシさん、あの…、本当なんですか? ラストランって……」
「ニュースは見たぜ。…思い切ったな、ゴルシ」
「…おう」
「…」
「皐月賞に菊花賞、初めて出た有馬記念でも皆捩じ伏せてやった」
あの後どうしても気になったキタサンは1人ゴルシの元へ、すると同じくニュースを見ていたのか英寿が一足先に来ていたのだった。
ゴルシ本人はというと大樹のウロに腰かけており、もう叫んだあとにも見てとれた。
いつも自由で、ここに限らずゴルシが叫ぶ姿はあまり想像のつかない。ゆえに今の彼女はキタサンから見ても当然珍しく思えた。
「…皐月賞に菊花賞、初めて出た有馬記念でも皆ねじ伏せてやった!」
「最後尾からぐーっと上がって、まとめてぶっちぎる!」
「それが、あたしのレースだった」
そう、本当にアスリートとして強いウマ娘なのである。
脚質こそ違えど終盤に強いという意味では、第一話曰くキタサンの得意とする局面と同じ。
しかしそれが出来なくなった、新聞にもあったように。
実のところ幼い頃からレースだけは思うままに行った試しがないと本人が英寿に言っていたことがあるのだが、だからとてこんな形の思うままならなさはただただ悔しい以外の何物でもないだろう。
「──なのに、いつ頃からか捲りきれなくなってきた」
「感情をうまく抑えられなくなってきたし……」
「それはいつもの事だろ」
「いや、今さらじゃないです?」
そう語りながらかつてに思いを馳せるゴルシの中の本人は、まさに「周囲が知るゴルシ」そのものな自由っぷりだった。
だからこそゴルシはこうだとも言えるのかもしれないが。
ちなみに夢の中でもジョーダンはゴルシに蹴られまくっているのがなんとも哀れ。
英寿とキタサンからすれば何今さらなことを言っているんだとなったが。
「ゲートを出るのも下手になった」
「色々と集中できなくなっちまった……」
((麻雀で)どれを切ればいいんだ……)
「なるほどな」
(その極致が宝塚の失敗、だからこいつは気にしていたのか…)
(ただそれでも頑張って克服しようとしたが今年のジャパンカップ敗戦が悪い意味で追い風になり、いい区切りだとばかりに引退を決意してしまった…そんなところか)
「いやトレーナーさん、たぶんそれも前からだ「あァ⁉︎」うひぃッ⁉︎」
「…まあ、そういうこった」
「後悔は…無さそうだな」
「だから、だから…ラストランなんですか?」
またキタサンに突っ込まれつつ今の自分が引退を決めた理由をゴルシは端的に語り終えた。
本当にいろいろ突っ込みどころはあるが、自由奔放に見えてその実確かな物悲しさに溢れた数分だった。
「2人ともシケたっつうかしんみりした顔してんじゃねーよっ、あたしの夢はまだ終わってねえ!」
「前々回の有馬はオルフォーヴルに、前回はジェンティルドンナに持ってかれたからな?」
「今年の有馬はあたしがとって、GⅠ七勝、有終の美って奴だ!!」
実はゴルシは3年前に一度有馬にて勝利しているのだが、続く二回は彼女が語った2人に敗れている。ちなみにジェンティルドンナのほうは彼女の同期である。なお二人は引退済み。
「…前から思っていたが、覇者でありチャレンジャーなんだなお前は」
「へっ、止せやい♪」
「ゴルシさん…!!」
「お、泣いてくれるのか?」
「…ゴルシさんのラストラン! あたしとトレーナーさんが勝っちゃうせいで、有終の美飾れなくなっちゃうぅ〜!!」
「ぷっ⁉︎ い、言うようになったなキタサン!」
「!? てめえら!! ふざけんなーっ!」
「おっと危ない」
「⁉︎ なぁうぐにゅにゅふがぐぐぐげ(以下略)⁉︎」
「んむぐぐぐ…「観念しろ、そこの転生トレーナーに似やがったのか生意気な後輩めえ!」ぐぐ?」
「あたしのラストラン、手ぇ抜くんじゃねえぞこの伸び盛りィ!!」
「ん?」
(今ゴルシのやつがとんでもないことを口走ったような…気のせいか)
キタサンのこの畜生じみたクソ度胸は彼女が思ったことはわりとすぐ口にする素直な性格、またダービー→菊花賞終了までのあれこれな積み重ねでがっつり立ち直ったおかげもあろうが、生来煽り好きな英寿に指導され憧れる中で多少なりとも似てきたというのが1番可能性があるだろう。
そして、かくて互いに手を抜かず、チーム世界スター所属メンバー同士の全力対決と相成った。
あんなことを言いあって恨みっこなしとは気風がよく、二人らしい関係性である。
「あっ…ふふっ♪ ゴルシさんこそゲート、出遅れないでくださいね!!」
「あたしのハイライトに間に合わなくなっちゃわないように!」
「似たもの同士ってわけじゃないがサプライズムーヴに期待してるよ」
「…! 任しとけ!と言いつつ、キタサ〜ン? さっきからおバカなことを口走っちゃうのはこのお口かな~? うりうり〜」
(…あんがとな、英寿、キタサン)
「「…」」
そして、それはもう可愛がった。数分程度だが
そして見守るテイオーとマックイーン、共にキタサンとゴルシに肩入れする者同士
思えば、今年の有馬記念はこの二人の間接対決みたいなものでもあるのかもしれない
「それでは!ダイヤちゃんの二勝目にぃ…
「「かんぱぁい!!」」
今回は自室でキタサンとダイヤは絶好調カクテルではなく、なまはげビールを飲んでいた。流石に寮では自室で食材を加工したり調理することはできないので仕方ない。
また自室の写真にはダイヤのデビュー戦の一枚も加わった。
それにしてもパジャマが浴衣とは、今すぐ祭りに行けそうな格好である。
「ぷはぁ♪ …今日の勝利が、明日のキタちゃんの勝利に繋がれば嬉しいな♪」
「なるなる! すっごい勇気と元気を…ンクッンクッぷはぁ、もらったもん!」
「いよいよだね…」
「うん、いよいよ有馬記念…」
「! キタちゃん?」
「トゥインクル・シリーズ引退…ラストランって、どんな気持ちなんだろう……」
「……分からない。でも、今は解らなくていいと思う」
「えっ…?」
「だって、今そこまでは分からない私たちは、だからこそ目の前のレースを全力で走るしかないんだからっ!」
「ダイヤちゃん…」
「浮世トレーナーと一緒にゴルシさんに引導渡すんでしょっ? 頑張ってね!」
「うん…絶対勝つよ!」
皐月賞前も、メイクデビューでもその後もダイヤは揺ぎなく前向き、たびたび揺らぐキタサンと対照的である
幼馴染だから、ということを除けば魂の姉妹や相棒とでもいうのか、英寿とはまた別な意味で生まれながらキタサンを励ます為の意識的なものでも無自覚に持っているのかもしれない
「英寿…今の気持ちは?」
「デザイアグランプリの新シーズンという新しい始まりがあれば、今回みたいなお別れもやってくる」
「まあ寂しくなるなってとこだ」
「…ゴルシちゃんへの花向けだけど、頑張んなよ」
「ああ、まあ明日頑張るのはキタサンだがな」
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『寒さ染み渡る冬空となった、ここ中山レース場。今年は12万人のファンが集まりました!』
『この厳しい師走の寒風でも掻き消せるファンの期待、いよいよ始まります! 総決算GⅠ有馬記念!!』
『改めまして解説の山本さん、豪華な出走メンバーとなりましたね!』
『そうですね。G1二勝、ファン投票2位に選ばれたプラーボディ』
『今年の菊花賞ウマ娘、キタサンブラック』
そして今日は2020年有馬記念当日。いずれ劣らぬ強豪たちが中山レース場に集っていた。
『秋から調子を上げてきているサウンズオブアース』
『リバーライトとパロールの姉妹対決も見ものです』
『しかし! なんといってもファン投票第一位! このレースがトゥインクルシリーズラストランとなるゴールドシップでしょう!』
「頼むぞゴールドシップぅ!」
「頑張ってアース!」
ただあいにくと曇天、テイオーの時とは全く違う。というかキタサンのレースは天気が悪いこと多い。
ただそれを忘れさせるようにゴルシは貫禄のファン一位、師走かつファン投票、有馬記念は盛り上がる内容ばかりである。
『いっけー! アースぅ!!』
チームカノープスも勢揃い。
例によって、眼鏡のウマ娘も来ていた。
(興奮と不安が無い混ぜ、でもなんだか心地良い…)
(うん。寒いのに熱くて、怖いのにワクワクする…、これが有馬記念!)
『────キタ』
『何ですか?』
『今日は勝つことと同じぐらい有馬を楽しんでこい、ゴルシへの花向けも大事だがな』
『楽しむ、ですか…?』
『ああ、すぐに分かる』
(あたし…、いま有馬の舞台に立ってるんだ!)
(トレーナーさんが言ってた通りすごく…楽しい!)
これもまた「憧れた景色」か。
まだまだ今後も出られるも
アスリート人生1年目にしてファン投票で選ばれる大舞台、つくづくとんでもない名バなのである。
英寿の教えか、ここに至るまでの彼女自身の経験と蓄積か、怖い事も「ワクワク」に変わっている。
頭に覆いを乗せてゲートインするゴルシ、
落ち着かせる為なのかもしれないがまるでレスラーてまあ抜けて
問題なくゲートイン出来た模様
そして────
『さあ、各ウマ娘ゲートイン完了』
『暮れのグランプリレース、有馬記念』
『────今!揃った奇麗なスタートを見せました!!』
2020年有馬記念、ファンに愛された者たちのレースが幕を開けた。
(よおーーし!!)
『さあ、先頭争いですがキタサンブラックが先頭。内からオールハイユー、その後ろにはサウンズオブアースが付けました』
『ゴールドシップはいつも通り最後方から』
『16人が今、1周目のホームストレッチへと入ってまいります』
「かっ飛ばせアースぅ! G1取ってこおい!」
十六人、先頭はキタサンブラック、ゴルシはいつも通り最後尾である。
「ゴルシさんとキタちゃん、どっちを応援すればいいの〜⁉︎」
「どっちもに決まってるでしょ!」
「頑張って、キタちゃん…」
「ああ神様、キタちゃんが勝てますよう…」
「鼓起勇气(ファイトよ)、キタサン!」
「…負けんじゃねえぞ」
(…ゴルシの衰えがどこまでレースメイクに響いてくるか。キタの走りに特に問題はなさそうだしな)
世界スターメンバーはゴルシ・キタサン2人ともだが、チームカペラメンバーはキタサン推し
そう、同チーム対決はどちらかが敗けるということを指し示してもいる。
「ゴールドシップ」
「ゴールドシップのラストランか……」
「「えっ!?」」
「夢のグランプリ」
「この有馬記念は数々の名ドラマが生み出されたひのき舞台!」
「現役最強を見せつけたシンボリルドルフ、世代交代を果たしたマンハッタンカフェ…」
「誰!?」
「そしてトゥインクルシリーズのラストランとして驚異の復活を果たしたオグリキャップ……」
「あんた誰?!」
「やはり期待してしまうな? 同じ葦毛のウマ娘として、ゴールドシップの復活を……!!」
「……飲むか?」
ちなみにみなみとますおは初めて見る観客と談志している。
『主導権を握りますキタサンブラック、大歓声に押され第一コーナーを通過』
『続く12番パドール、内側から7番オールハイユウ、外を通りまして9番サウンズオブアース、
さらには4番ブラーボデイ、5番グレートハウス、そして2番ブレイブターゲットが続く!』
(感じる…、先輩たちの圧を!)
第二コーナーを抜けた辺りはキタサン先頭、やや萎縮気味か。
だがやはり、主役はゴールドシップだった!
『第二コーナー抜けて向こう正面へ入っていきます。隊列はすうっと縦長の状態』
『先頭は変わらず11番のキタサンブラック、12番のパノール』
「仕掛けた…!?」
マックイーンもこれにはすかさず反応を見せる。
いわゆるゴルシの勝ち確パターンに似ているのだから。
『ゴールドシップが動き出すー!!』
『ぐんぐん動く! ぐんぐん動いて外から一気に捲りを見せる』
「一見すると衰えはないように見えるが、さて」
思い切り踏み込み、ゴルシは飛び出した。真剣な眼差しが先程までとは別物。
ぐんぐんぶち抜き、"これぞゴールドシップ"と言わんばかりの勝利パターンに入っていっているように見える。
これがゴールドシップというものなのか
普段はおちゃらけ枠、レースでもやらかした場面のほうが印象深いが底知れない"シニア"の強さを今見せつつあった。
ただ英寿としてはゴルシの動きに怪しさを感じていた。
「ずおおおりゃああ!!」
「「やr「やるのかゴールドシップ!?」…」」
「あのロングスパートを!?」」
完全にこの男女がみなみとますおを喰っている。
そしてサウンズも動く。また依然キタサンがトップだが、どこか敗北の2文字が顔を見せつつあった。
『第四コーナー回ってリバーライト、続くサウンズオブアース! 内からオールハイユウが「よーし行けーアース!」
一気に緊迫感が走る。キタサンはリバーライトに並ばれた。まるでグリーンリバーライトである。
『逃げるキタサンブラック、リバーライトが並んでくる!』
「ハアッハアッ!…あっ?」
『────しかしここでゴールドシップだ!ゴールドシップが来たぁ!!』
「復活だ! ゴールドシップ!!」
「もう一度あの大まくりを見せてくれ!!」
「いけー!ゴールドシップー!!」「頼む!行ってくれぇ!!」「最後の力を振り絞れー!!」
『不沈艦ゴールドシップ!ラスト・ラン!!』
『黄金に輝く航路の行先は勝利へと繋がっているのか⁉︎』
「いや…これは」
『…伸びない! ゴールドシップ伸びないッ!』
が、ここでゴルシの絶叫に目に見えて限界が
ここまでのトレーニングもそうだが、伸びなやみ相対的にズルズル落ちていく。
観客の声も一転、往年の彼女ならやれたのだろうか?
「ハアハアッ…………ッ!!」
レースはまだ終わっていないが、ゴルシ本人が観念するように瞑目した。
それはつまりそれほど問題児が全力を以って臨んでいたということで、それだけに満足なのかもしれない。
ゴルシはちゃんと持てる力の全てを出し切ったのだろうから。
『前のほうにはキタサンブラック、そして7番オールハイユウ!』
『キタサンブラック粘る!』
(あと少し!あと少し!あと少し!)
(あと少し、あと少しッ!!)
「ハァッ…⁉︎」
『ここでオールハイユウ!オールハイユウだ!
そしてサウンズオブアースも突っ込んでくる!!』
「何っ⁉︎」
キタサンも粘るが、そんな彼女を欺いていたのか、後方から来たる名優1人。
『オールハイユウが今一着でゴールイン!!』
『オールハイユウが夢の舞台を制しましたッ!!』
「「やったあ!!」」
『2着はサウンズオブアース!』
「ああ…最高のコンチェルトだったよ!!」
「ハーハッハッハッハッ♪」
「パンクに決めやがって、やるなアースぅ!」
「2着頑張った♪」
『菊花賞ウマ娘のキタサンブラックは3着』
結局、勝利したのはキタサンでもゴルシでもなく、予想されていなかったそれ以外の誰かだった。
菊花賞でキタサンが期待されないその他大勢の代表としてそれでも新たな願いを掲げて挑み勝ちきったように、今回も同じ因果を感じる結末だった。
「…まさかの伏兵だったな、ここでひっくり返されるとは。俺もトレーナーとしちゃまだまだ道半ばか…」
「めげるなよ、キタサン…」
(強いアスリートはキタサンやゴルシ達だけでは決してない…そりゃそうだな。まだまだトレーナーとしては未熟か、俺も)
英寿も1人それを、そして己の至らなさを改めて噛み締めることとなったのだった。
『一番人気のゴールドシップ、ラストランは八着に終わりました』
そしてサウンズオブアースが二着。
キタサンは三着、奇しくも有馬でのネイチャと同順位である。
「「ン……」」
ゴルシの衰退、そして力及ばすな敗北に彼女を推していた観客の多くは瞑目する。
やはり己がヒーローの勝利を応援する誰もが願ってしまうのか、少し残酷でもある。
「…くっ……!!」
「なーんだ♪」「あっ…」
「あたしのラストランで勝っちゃうんじゃなかったのか?」
「ゴルシさん……うっ、ゴルシさぁん!」
そしてキタサンはダービー同様敗北に悔し涙を流している。
だがゴルシはそれを慰める。自らも1着は取れず、なんなら決して順位としても良いものと言い切れない結果だったろうに。
「ううっ…グスッ、ヒグッゴルシさぁん…!」
「…」
「あぁぅっ⁉︎」
「だーから、シケたツラしてんじゃねえよ」
「……?」
「……!!」
「よく頑張った!」「お疲れ様!」「最後までハラハラさせてくれてありがとうなぁ!!」「GⅠ六勝!! 素晴らしい成績だったわゴールドシップ!」
「まだ終わってねーよ!!」
(…ゴルシさん、凄いなぁ。実はあたしはまだ、足元にも及んでなかったのかも)
その生き様こそがリアリティ。
勝てなくてもダメでも、それが彼女への声援を止める理由にはならない。
今までの貴方、その走りっぷりにありがとう。
ただそれだけの気持ちで彼女を応援するファンも大勢いるということだ。
そうしてゴルシはゆっくり観客の前に移った。
サービス精神が強く、ファンの期待に応えることにこんな時でも余念がない
彼女個人の強さか、アスリートウマ娘の先達としての経験値の多さゆえか、キタサンも感服する振る舞いだった。
「待ってろよ!」
「オルフェーブル! ジェンティルドンナ!」
「トゥインクルシリーズでの借りは、ドリームトロフィーリーグで必ず返す!」
「あたしの夢に終わりはねえ!」
「それをみんなに見せてやる!!」
「あの対決がまた…!?」
「ああ、黄金の航海はまだ終わらない!!」
詩人か!!と思うようなこの男女の表現はさておき。
アスリートの引退と聞けばそれまでという印象になりがちだが、ウマ娘のレースにおいては上位リーグで健在。つまり引退と言ってもまた戦えるということ。
一般的なスポーツとウマ娘のレース、その違いを前向きに感じられるような清々しいゴルシの始まりにして終わりだった。
ファンの熱量もすごいものである。
「全く、八着なのに一番目立ってますわね?」
「ホント、ゴルシらしいよ…」
マックイーンと英寿もこう言っているように、かくて割れんばかりのゴルシコールで今年の有馬は幕を閉じた。
キタサンの夢の始まり、ゴルシの終わり
しかし終わりは終わりではない
(…いつか、キタサン達の引退も訪れるのか)
英寿もそう感じるように、他人事とは思えない結末ではあった。
「毎度ながらよく宴会しやがるな、キタサンのやつ…仮にも負けちまったってのに」
「まあまあミッチー、そう言わずにね。有馬で三着取るってことも立派なことじゃない、よくやってたと思うわキタサンは♪」
「本当に見応えあったよキタちゃん!」
「うん、良いレースだった!」
「頑張ったね、キタちゃん♪」
「最後までなかなか読めないレースだったよ」
そして、今日も今日とて英寿とキタサンはレース記念宴会を取り行っていた。こういうポジティブさも彼らの強みなのかもしれない
またこの宴会、絶好調カクテル。はそのままに主食は伊勢海老などめちゃくちゃ豪華な料理となっていた
冒頭がカップ麺大盛りばかりだったのと大違い、というのはダイヤとクラウンが奮発したから。
「ありがとう皆!」
「でも…、勝ちたかったな、有馬記念……」
「…(勝たせてやれなかったのは事実だ)」
しかし気にしていないわけではないようで、キタサンは皐月賞・ダービー同様敗北にしんみりとしていた。
「────おい」
「「「「「「⁉︎」」」」」」
────だがそこに、歴戦の勇士が1人。
「ゴルシさん…?」
ゴルシがなぜか現れたのだった。
「…お前らにやる」
「わわっ⁉︎ …これって…」
「こいつは…いつもお前が使ってるやつのスペアか」
彼女は自らが愛用しているルービックキューブ、その予備も含めてそれぞれキタサンと英寿に投げて寄越した。
果たして何を意味しているのか。
「──お前らは一つだ」
「私は六つだったが、お前らは何面揃えられるかな?」
「!…なるほどな」
「えっトレーナーさん、それってどういう……あっ!」
(6はゴルシさんの勝ったG1の数! そうか、それで…なら!)
ただの趣味の継承かと思いきや、六面=GⅠ勝利数を示していたようである。
まさかの意味を持たせていたわけだ。
そして、英寿・キタサンは今は菊花賞の黄一面だけ。
「…トレーナーさん」
「ああ」
「──あたしたちは!ゴルシさんを越えてみせます!」
「2人で六面×2を必ず揃えて、なんならそれ以上に勝ちきってみせます!!」
「G1っていう運命の瞬間を、何度でも!」
「お前なりに決意を秘めたサプライズムーヴにはそれ以上にとびっきりのサプライズムーヴで返してやるまでさ」
「…覚悟しとけよ、ゴルシ」
「「ここからが──俺たち(あたしたち)2人のハイライトだ(です)!!」」
「…せいぜい気張れよ〜」
そうして彼と彼女は黄金の不沈艦を超えてみせると、そう強く宣言してみせたのだった。
その二つの眼×2、そのどれもに沸る闘志を漲らせながら。
「(あたしの夢は始まったばかり、新しい年はきっと…、もっと……!!)」
「よぉし!合いの手お願いします、トレーナーさん!」
「よし来た」
「これからのキタと」
「トレーナーさんの未来にぃ…」
「「乾杯!!」」
「「「「「「またぁ!?」」」」」」
そうしてその景気付けにして誓いと言わんばかりに、また英寿とキタサンは自分たちの未来に幸あれと、全力の乾杯でそう祈ったのだった
もちろん、2人以外からは以前同様突っ込まれていたが。
ゴルシははたして英寿の何を知っていたのか
質問・感想お待ちしてます。
ちなみに近日のうちに祢音とシュヴァルの出会いについての話も投稿する予定です、そちらもよろしくお願いします。