詠唱はロマンだよなぁ…? 作:クソ長詠唱大好きお兄さん
フリーレンの世界観を若干壊す恐れもあるので苦手な方はすまん(読むなとは言っていない)
「ふむ…してやられたな」
人間など比べるべくも無い程の巨体を誇る獣の如き面を持った魔族は、片膝を突いたまま顎に手を遣り一言そう溢す。
「狙いに気づいておった筈なのだが…見事だな、人間」
獣面の魔族———『腐敗の賢老』クヴァールは目の前に並ぶ、己を此処まで追い詰めた四人の英雄へといっそ拍手でもするように賞賛を送った。
封印によって脚は徐々に無機物へと変貌し感覚が失われている筈であるにも関わらず、まるで他人事のように納得の意を見せるその様は正に異様である。
ある者はその真意を見定めるべく剣を構え、ある者はその声さえも煩わしいと小さく顔を歪めた。
「油断とは、儂も耄碌したか…歳は取りたくないものだのう」
「…随分と人間みたいなことを言うんだね」
歳を取る、など大凡長命である魔族が口にするには些か違和感があると、馬鹿にするわけでもなく素直にそう返すのは勇者ヒンメルであった。
確かに目の前の魔族は『賢老』などと呼ばれてはいるが、人間の老人のような目に見える老いはその姿から見受けられない。
「異なことを言う。限りある存在ならば魔族とて時の流れを感じるものではないか?」
何が愉快なのか楽しげに笑う、或いは嗤う魔族。
「それに魔族は種として人に近づこうとしているのだ。人の様に在ることは当然であろう」
「何が人の様にだ。理性を被った唯の獣が」
「クックッ…手厳しいのう」
杖を付くエルフの魔法使い———フリーレンは残酷なまでに冷え切った瞳で魔族を睨む。
魔族は人を欺くべくその姿を獣から人に寄せ、鳴き声から声を手にし、本能に従う理性を得た。
今彼が発しているその肉声に聞こえるその音は、ただ人を油断させ喰らうために擬態しただけの、一つの武器である。
その点で言うならば魔族は言葉の持つ力というものを遺伝子レベルで、人間以上に理解していると言えるかもしれない。
「ヒンメルも、こんなの聞かなくていいよ」
「もう直その言葉も失うのだ。戯言を聞くのも一興だろう?」
「よく言う。お前達のソレは唯の鳴き声だろ」
鋭い視線で射抜くフリーレン。
するとクヴァールは「ふむ」と顎に遣った手を摩り、考え込むような仕草を見せる。
「…一つ、面白い話をしてやろう。確かに、魔族にとって人間は大敵にして獲物だ。故にその相反する二つの側面を併せ持つ存在に対抗すべく、儂らは姿と言葉を得、そして何より強さを遵守する」
強く在れば生き残れる。
強く在れば腹を満たせる。
それは当然の理であり、だからこそ敵であり食糧である人間溢れるこの世界において魔族は強さを求めるという、外付けの理性を上回る機械的な欲望を残した。
「だが———」
唸る様な、腹の底から響く不気味な重低音が言葉を並べる。
「———それも、元は理性も言葉も無い、混じりっ気の無い唯の獣だった者達だ」
「…何が言いたい」
煩わしそうにしながら未だ腰程までしか侵蝕していない石化に迅る気持ちを見せるフリーレンの耳が、その含みのある言い方に僅かばかりに傾く。
彼女を除く三人もまた、封印による魔力の抑制と起伏を警戒しながら意識を向けた。
その様子に、何処か面白そうにニヤリと嗤うクヴァール。
「つまりは…遠い未来、人間もエルフも、そして魔族も共存のその先…共生することはあるかもしれんということだ」
「…やっぱり、聞いて損したよ」
夢物語、絵空事。
そんな事を言う彼にフリーレンは途端に興味を失い、見下すような白けた眼を向けた。
だがその傍でヒンメルは何かを考え込むように俯く。
対し、クヴァールは相変わらず不敵に口元を歪めていた。
「フリーレン。重要なのはその種としての性質では無く、生きる環境だ。人間という環境に溶け込むべく言葉を発した魔物が居た様に、全ての生命は己の置かれた環境によって生き方を変えるのだ」
「…」
「今の魔族では到底不可能だろうが…人間と共に居ることで生き残った魔族が存在したなら、種はその道を選ぶ可能性もある」
「…下らない———」
「———つまり、君はいつか魔族が人間に寄り添う日が来るかもしれない…と?」
聴く価値も無いと切って捨てようとしたフリーレンの言葉に、図らずも勇者の声が重なる。
咎める様な彼女の視線に引け目を感じながらも、ヒンメルは言葉を介する獣へとそう尋ねた。
「さてな。人間を狩るべく欺く術を磨くのか、人間に取り入るべく牙を捨てるのか…変わるとは言ったが、いずれにしてもそれを左右するのはお前達人間の存在だろうよ」
「…心を得るとは言わないんだね」
「生きる為にそのあり方を変えると言っただけだからな、中身までは変わらぬよ」
「そこまで考えておきながら、お前は人と共にあろうとは思わないのか?」
「興味があろうも情は無い。儂は只の魔族だ」
ドワーフの戦士———アイゼンの問いにそう簡潔に答える。
魔族の中でも原初の姿に近い、謂わば古い魔族であるクヴァールはより姿形、そしてその精神が人間とは掛け離れているからこそ、他の魔族以上に二つの種族が如何に乖離しているかを理解している。
本能と理性が感情を支配する人間と、感情を蔑ろに本能が理性を支配する魔族の違いを。
だからこそこうして異様な程自己と他を達観し、分析し、己が思考へと落とし込むことができる。
だが、それでも魔族は魔族。
人とて畜生に興味を持てど愛着は持たないだろう。
「…ヒンメル、アイゼンも」
「…」
「ごめんよフリーレン。…でも———」
咎めるように視線を送るフリーレンに、沈黙するアイゼンと申し訳なさそうにするヒンメル。
そんな彼らにクヴァールは再び口を開いた。
「———何、そう頑なになるなフリーレン。今のは確かに唯の妄言だが、儂はその可能性を持つ魔族を一人…いや、一匹知っておるぞ」
一同の意識がクヴァールへと吸い寄せられる。
ある者は己の心当たりに目を細め、ある者は驚愕に瞠目する。
そうして、彼はその奇怪な魔族の名を口にした。
「———アルバ、それが奴の名だ」
「…」
それと共に意味深な視線をフリーレンへと向ける。
「お前とて奴を知っておるだろう?」
「…アイツは、例外だ」
「そう、例外だ。だが先も言った様に未来とは常に視野の外の存在が舵を切るものだろう」
獣が語る世の理。
人の歴史とは奇跡の連続だと言われることもあるが、彼が言うのは正にそのことである。
フリーレンは己の記憶にある他とは何処か違う異様な魔族を思い起こし、彼のような魔族が蔓延った世界を一瞬夢想する。
だが、やはりそんなことはあり得ないとその思考を掻き消し、己を惑わす獣を睨みつけた。
「さて、長話が過ぎたな…そろそろ潮時か」
それを受けたクヴァールは漸く自身の肉体の七割程を蝕んだ石化の侵食に眼を遣り、そうして四人へと別れを告げる———
「そうさな…このまま終わりというのもあっけないだろう———」
———事なく、その凶悪な顔面を更に歪める。
まるで本物の人間の老人ように話していた先刻とは打って変わって、不気味な雰囲気がその身を取り巻いた。
「———コレは、其奴より得た…言葉の持つ力を最大限に利用した
四人は即座に解きかけていた警戒を固め、弾かれるように臨戦の構えを取る。
ただでさえ討伐には至らず、封印することしかできなかった強敵である。
そんな存在が最後の足掻きにと如何なる魔法が飛んでくるのか、その一挙手一投足を見逃さぬべく五感を研ぎ澄ませた。
《———其は冥土への歩み。
まるで歌うような声音を響かせるクヴァール。
次の瞬間には強力な魔法が飛んでくると予想していた者は一瞬呆気に取られる。
「———っ、まずい…ッ!」
だがその中でその唄の意味を理解したフリーレンは驚愕と焦燥に目を見開いた。
《———あなや、誰も誰も死に向かひて駆くるが理。背向け逃れむとす為む方無き者とかわゆし》
「あの詠唱を完了させちゃいけない…ッ!」
「ッ、分かったッ!」
彼女がそう呼びかけると同時、その声をも呑み込むような轟音と共に黒い閃光が弾け飛んだ。
《
気づけば詠唱が進む度、抑え込まれていたはずの魔力は溢れ出し、濁流のままに魔法が吐き出され始めていた。
聖職者であるハイターは即座に三人の傷を出来る限り癒し、アイゼンは異常な程までに強靭な肉体を頑強な大斧を以て魔法を逸らす。
《———惑う
やがて黒い殺意は加速し、より疾く、より強力になり始め、更には魔法の展開速度、物量迄もが増大し始める。
「ク…ッ!」
ヒンメルは僅か一呼吸置く間に数発撃ち込まれる必死の一撃を何とか回避し、その詠唱を食い止めるべく喉へとその刃を振るわんとするも、先程とは比べ物にならない程激しい魔法の雨に攻めあぐねる。
唯一の救いは相手がその場から動くことができず、放たれる位置が固定されていることくらいか。
《———絶えき嘆き、黒の血肉、腐敗の骸、
凝縮された殺意は宙を駆け、接触する万物の悉くを容易く灼き、抉るように破壊する。
一見その破壊力は変わらないが、込められた魔力の密度は遥かに大きく、最早全く別の術式へと書き換えているのでは無いかと疑う程に威力が増していた。
「…ダメだ、ッ」
《———
一言、また一言と紡がれる魔言がその魔法に込められる殺意を高める度焦燥を募らせるフリーレンは、とうとう間に合わないと判断した。
「皆ッ!!」
そうして、大声で三人へと警告する。
「絶対に———避ける事だけを考えろッ!!」
《疾く、
———瞬間、万死の一撃が弾けた。
時代変わり所変わる、とある森にて。
「これが噂の転生ってやつか…成程ね」
一匹の異端が生まれた。
どんだけ持っても文句の出ない(多分)クヴァールさん便利。
詠唱の時は「〇〇の魔法」って言う形崩してもOK?
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手の動くままに描け
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原作を崩す奴許すまじ