詠唱はロマンだよなぁ…?   作:クソ長詠唱大好きお兄さん

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最初なので結構くどく詠唱してます。
しつこく感じるかもしれませんが、そのうちいい具合に減らしていく予定
詠唱による魔法の変化に関しては、完全詠唱以外は「〇〇の魔法」という形式で、名前と威力が変化します。




魔物と火遊び、時々竜

 朝起きて 作る朝食(てうしょく) 美味なりや

 

 動物の毛皮からあれやこれやして頑張って作った布団からのっそりと起きた俺は、最近その存在に気づいた胸の中央にある口で朝食を優雅に食べ、日課の研究に勤しむ。

 

 この世界に生まれ落ちてそれはそれは長いこと生きている俺ではあるが、此処で暮らし始めて数年あたりからやっていることは変わらなかったりする。

 

 起きて食べて研究鍛錬、食べて研究鍛錬、食べて研究鍛錬風呂就寝。

 この繰り返しである。

 

 以前も話した通り、食べるものは人間の頃と変わらない。

 肉も野菜も何でも食べるし味だって拘る———

 

 ———うっ!…オ腹ガ…スイテ…!

 

 うぉぉ———《欲望を魔力へと変える魔法(ダルスナディラ)》ァ!!

 

 

 ………。

 

 よし収まった。

 ふぅ、油断したらすぐコレだぜ。

 全く暴れん坊なお腹め☆

 

 普段はほぼ無意識レベルで発動しているのだが、流石に寝ている時や御飯時にはオフにしている。

 悲しいかな、魔法とは万能ではあるが決して全能ではないのだ。

 いつかはその辺りも改良したいところである。

 

 あ、そういえば大分以前からコレ(急激な空腹)の原因が人間なんじゃないかという可能性が出て来たのだ。

 この世界で一度も人間に会った事がないのだが、普通の動物とか自分以外の物とか思い出しても何とも無いのに、前世の自分やら友人やらを思い浮かべるとコレが起きるので、重要なのは人間という点なのでは無いかという考察。

 だがもしそれが本当ならば俺は人喰いの化け物だということになってしまうわけだが…

 

 …うん、人間には会わないで生きようそうしよう。

 

 で、料理の話なんだが調味料の採集が中々に困難な事が長年の悩みである。

 

 栽培すれば良いだなんて思うだろうが、実はこの世界…かはわからんが、この辺りは植生やら急に変遷したり気候が急に変わったりと環境が安定しないのだ。

 なので今は詠唱魔法の改良と共にどうにか環境を安定させられないか検討中である。

 

 それに世界が違えば生命も違う。

 そのため前世のような胡椒やら何やらといった香辛料在るには在るが中々見つからない。

 

 因みに塩は見つかった。

 しかもそれを元に岩石や土を塩に変える魔法まで作った。

 名付けて《岩石や土を塩に変える魔法(アルブザート)》である。

 

 これで一生塩には困らないだろう。

 時代や場所が違えば大富豪間違いなしである。

 使った事無いけど完全詠唱くっ付けたら面白そうだ。絶対しないけど。

 

 

「ウユニ塩湖みたいになるのかなぁ…」

 

 

 そんなふざけたことを考えていると、近くで二つの魔力の揺らぎを知覚する。

 

 

「この感じは…喧嘩かな?」

 

 

 どうやら此処からそう離れていない位置で二体の魔物が喧嘩をしているらしい。

 

 今更だが魔物というのはこの世界に特有の知的…なのかよく分からない生物である。

 見た目は動物に近いものもいるのだが、よく見ると殆どはいろんな生物の部位を合わせたキメラのようなものや、生物味の無いものまで多種多様である。

 

 本ではそういう存在が在る程度にしか匂わせてくれていないため詳細は知らないが、俺が見る限りでは普通の動物よりも規則性が無いように思う。

 

 驚く事でもないが、俺のように言葉を話す魔物も一定数存在する。

 多分、俺も分類するなら魔物になるんじゃないだろうか。

 ちょっとショックである。

 

 だがそんなやつでも欲望を満たすことしか考えていないのか、お得意の魔法を使うのも獲物を殺して食べようとするときや喧嘩する時くらいで、俺のように色んな魔法を作ったりして遊んでいるやつはいない。

 

 加えて俺のような人型も見た事がない。

 

 仲間がいないというのは思いの外寂しいもので、最初の数十年は大分堪えたものである。

 

 

「うおっ、揺れる揺れる」

 

 

 段々と振動と轟音が近づいて来ている。

 

 そろそろ不味いかもしれないと思った俺は外に出ると木々や土埃の舞っている方角へと目を向けた。

 

 そうして待っていると、次第にその被害が目の前にまでやって来る。

 

 

「はいストォォォォップ!!!」

 

 

 ピピーッ!と態々用意した笛を鳴らして結界を張れば、それにぶつかった二体の魔物が戦闘を中断し意識を此方に向けた。

 

 予想通りかなりの巨体を誇る魔物のようだ。

 

 一体は額に五つの目を持つ十メートル弱の二足歩行の獅子(ライオン)…みたいなナニカ。

 もう一体は木々で全体の見えないくらい長い百足(ムカデ)に似たナニカである。

 

 獅子の方はちょっと親近感が湧く。

 損傷具合から此方の方が優勢といったところだろうか。

 

 俺はこの魔物たちにもわかりやすいよう出来るだけ噛み砕き、ジェスチャーを交えて此方の要望を伝える。

 

 

「此処、俺の家、俺、住んでる、危ない、帰れ」

 

 

 しっしっ、と手を払う。

 

 するとその行動が癪に障ったのか獅子の魔物が激昂した様子で結界を殴り始めたではないか。

 

 

「ふーん…やるんだな、今ここで」

 

 

 これ幸いとそそくさと尻尾を巻いて逃げる百足を横目に俺は獅子の魔物と向かい合う。

 

 

「良いだろう、世の中の厳しさというものを叩き込んでやるよ若造がよぉ…!」

 

 

 瞬間、俺が構えたのを攻撃の合図と捉えたのか、魔物は七つの眼を俺へと向けて鋭い爪を携えた前腕を大きく開く。

 そうして魔力が揺らぎ術式が発動すると、その爪はより強い鈍色の光沢と質量感を放ち始める。

 

 

「成程…単純故に構築と展開が早く、魔力消費が少なく、応用が効き、使用者によっては絶大な力を発揮する…正に野生らしい良い魔法だ。勿論弱点もあるけど…」

 

 

 俺は魔物の魔法をそう批評すると、同じく術式を構築し始める。

 

 

「…《血の貨幣———》」

 

 

 口ずさむと同時、正面の頭上から鋼の刃が降り注ぐ。

 

 俺は同時に身を捻り、地面に叩きつけられた魔物の手の甲を足場に跳躍する。

 

 

「《生命の燻り———》」

 

 

 埋まる爪を引き抜き、狙いを定めもう片方の爪を振るう魔物。

 

 

「———」

 

 

 瞬間、俺は魔法を重ね掛け、不自然な挙動で打ち上げられるように空中で更に跳躍する。

 

 

「《骨肉は力を貪り喰らう———》」

 

 

 俺の身体を魔力が包むその寸前、魔物は腕を薙ぐ勢いのままに身を捻り、同じく剣と化した爪を携えた後脚を回し蹴りを放った。

 

 

「《———鎧の魔法(エンハーティア)》」

 

 

 金属同士が同士が衝突したような甲高い音が響く。

 

 そこに結界は無く、況してや金属などはありはしない。

 在るのは人の形をした鎧と獅子の姿をした魔物だけである。

 

 

「やっぱり短くても詠唱はすべきだね。じゃなきゃ怪我してたかも———」

 

 

 木々を砕きながら弾かれ、着地する寸前に振り下ろされた一撃を交差させた腕で受け止める。

 

 

「フンッ!」

 

 

 そうして腕を広げるようにして鋼の爪を弾けば、魔物はその勢いを利用し反転するように脚を薙ぐ。

 

 

「《重くなる魔法(グラーウィオ)》」

 

 

 肉体強化と急激な質量増加によって衝突した瞬間に強力な反動が爪を襲い、容易く砕く。

 

 俺は魔物が動揺する間に人差し指と中指を立て前方に伸ばした腕に片腕を添え、構える。

 

 

「目の前で考えも無く動きを止めるのは良くないよ。それっ———《着火する魔法(ヴォルジオン)》」

 

 

 森の一角が緋く爆ぜる。

 一波の爆風が広がり、堪らず住民達が背を向け逃げ出した。

 強力な衝撃は木の根を地面ごと抉り、大気の殴打によってへし折りながら消し飛ばす。

 

 それを真正面から受けた魔物の皮膚は一瞬にして炭化し、強度を失った組織が風圧によって散り散りになる。

 次第に生命の輝きを失った無機物が粒子となって風ともに空へ舞った。

 

 

「…」

 

 

 その傍、吹き飛ばされた木々や健在な緑が轟々と燃え上がる光景を眺めながら冷や汗を流して放心する男が一人。

 

 

「ハッ、マズイ消火しないと!オラァッ、《火を消す魔法(エリヒペーゼ)》ェ!」

 

 

 みんなも森では火の用心!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全くえらい目にあった…」

 

 

 昼、魔物の喧嘩を仲裁()した俺は夕食の材料を調達すべく散策に出掛けていた。

 勘の良い野生の獣が逃げ出さないよう魔力は極力抑えるようにするのが重要だ。

 

 それにしても危うく家まで全焼するところだった。

 こんなこともあろうかと消火器代わりの魔法を作っておいて良かったよ。

 火傷とか損傷の治癒は普通の魔法じゃ中々難しいしね。

 その辺俺達魔物は傷の治りが早くて助かる。

 人外に生まれて良かったと思える瞬間である。

 

 結構な範囲で火事が起きてしまったが、まあ一週間もすれば元通りになっている事だろう。

 母なる自然は偉大なのだ。

 

 

「まあでもそこまで強い魔物じゃなくて良かった」

 

 

 戦闘中に問題なく詠唱を行うには時間稼ぎする為の手段———具体的には相手の攻撃を遇らう術が必要な訳で、その為に日々運動はしている。

 

 その甲斐あって今回は一撃で()れたが相手によってはそう簡単にくたばってくれる訳もない。

 それこそ牽制しながらでさえ詠唱できない場合もある。

 

 

「結構家から遠くまで来たけど…此処は来た事がないか」

 

 

 少し歩くと段々と木々が少なくなっている事に気がつく。

 どうやら森の端の方にまで来てしまったらしい。

 

 俺は森の外に出た記憶が無いこともあり、折角だし、と興味本位で外を覗いてみることにした。

 

 

「そろそろ森の外に拠点作るのもありかなぁ…———お?」

 

 

 そうして光が差した先、生い茂る木々の向こう側にあったのは———

 

 

「断崖…いや、山かな?」

 

 

 ゴツゴツとした巨大な山の斜面であった。

 外へと足を踏み入れ見渡してみれば、二方向へかなりの距離連なっている山脈のようで、登ればきっと雄大な景色を一望であろう高さを誇る。

 

 

「…で、アレは…何だ?」

 

 

 俺はそんな光景に圧倒されながら、もう一つの気になる存在に目を向けた。

 

 訝しむ俺の視線の先、そこに居たのは———

 

 

「…ドラゴン?」

 

 

 鎧のように照り輝く鱗、爬虫類に酷似した鋭い瞳、巨体が包む筋肉は流動し、上位の生物としての力を誇示する。

 四つ脚とは別に、もう一対の脚部とも言える巨大な翼には鎌の如き鉤爪を携えていた。

 遠目からでもわかる鱗の質感は重厚な金属のようでさえあり、おおよそ尋常な生物では無いことは一目で理解できるだろう。

 

 ———ドラゴン、或いは竜。

 見た者はきっとそう呼ぶであろう、完成されたフォルムが其処は在った。

 

 

「凄いな…本当に居るのか」

 

 

 地球に於いては伝説上の存在とされたソレは、魔法の世界であれば存在していても決して不思議ではなかっただろうが、いざこうして目にしてみれば感動を覚えずにはいられなかった。

 

 

「おっ、と」

 

 

 ———目が合う。

 

 既に古くに片眼を失っているのか、それは隻眼であった。

 剣を突き刺したような特有の眼光が此方を捉え、固く閉ざされた口元から人間大もの牙が現れる。

 宝石のような瞳に殺意が宿り、此方の肌を強風の如く撫でた。

 

 どうやら既に狩りの間合いらしい。

 

 

「魔物なのかどうか分かんないけど、肉が残るなら———竜の味は気になるね」

 

 

 俺は抑え込んでいた魔力の一部を解放し、竜の正面、その直線上に躍り出る。

 

 地に足を着く直前、相手は数度の爆発を経て此方にまで届く程の熱を口内に圧縮し始める。

 

 

「《(めぐみ)の幸福、代わりなき白、失うを以て無益、荒廃、死の表象と成るべし———塩に変える魔法(アルブザート)》」

 

 

 詠唱すると同時に眼下の地へ脚を叩きつけるように踏み込めば、正面の直線上———即ち竜の足下までの地面が真っ白な道となり、脆い塩の領域へと変貌する。

 

 竜は圧縮した炎を熱線として放つも、途端に崩れた地面に脚を取られ狙いが外れる。

 真横を熱線が通過し、風に靡く服の裾を焦がした。

 

 俺はソレに眼もくれず、一直線に竜へと突貫する。

 

 

「《血の貨幣、生命の燻り、骨肉は力を貪り喰らう———》」

 

 

 数十メートルにも達するであろう巨体を振るい、大翼の鉤爪が大地を裂きながら迫る。

 

 

「《———不落の城は嵐を砕き、内なる源泉は溢れ出でたり———城壁の魔法(エンハーティア)》」

 

 

 次の瞬間、衝突した竜の爪は俺を吹き飛ばすことも切り裂くこともなく停止し、代わりに生まれた衝撃が地面を放射状に砕いた。

 

 

「詠唱を繋げば威力も上がる。凄いでしょ」

 

 

 硬さには自信があった故に回避せずにその身に受けたわけだが、反動で砕けるどころか傷一つ付かない爪もまた異常な強度だと言えよう。

 

 俺は竜が硬直した瞬間飛び上がり、胴へ向け腕の上を駆け抜ける。

 

 竜は強風を伴って空へと飛び立とうとその大きな翼を左右へと広げる。

 塩と化した大地が舞い上がり、日光に反射してキラキラと煌めいた。

 

 

「それは困る」

 

 

 それと同時に俺は《塩に変える魔法(アルブザート)》を解除し、塩の大地を元の岩石へと戻す。

 

 寸前まで大量の塩に脚が沈んでいた竜は地から離れんとしていた脚が固定され、地面へと引き戻される。

 

 そうしてその隙に走り抜けた俺は竜の頭上へと飛び上がり———

 

 

「———《重くなる魔法(グラーウィオ)》」

 

 

 ———降りかかる重力の侭に落下し、接触。

 

 刹那、人の重みによって竜の頭が地に打ち付けられるという、その体格差からは考えられもしない現象が起きる。

 

 姿見た目は一見何も変わっていないように見えるも、その一瞬で秘められた魔力は術式によって見合わぬ質量へと変換される。

 今の俺は竜の頭部よりも遥かに巨大な岩のようなものだ。

 

 

「コレでも砕けないなんて随分と頑丈だ…ッ!」

 

 

 だが足下にある殆ど傷の無い光沢を見れば余裕を保とうなどとは思えない。

 

 《鎧の魔法(エンハーティア)》による肉体の強化にこれ程の加重攻撃を組み合わせても致命的な一撃には至らないとは…見た目通りの化け物具合である。

 

 まさか種族全体でもこれが平均的な肉体強度なのだろうか。

 

 

「鱗が駄目なら…此処はどう?———《力と方向を与える魔法(アベクトリューべ)》」

 

 

 地に転がった四つの岩がガラッ、と小さく傾いた。

 

 そうして身を起こそうとした竜の意識が其れ等に向いた瞬間、岩が弾丸の如く撃ち出される。

 

 その速度は生物として人を遥か上回る竜の目を以て尚反応が遅れる程。

 

 初速から威力を落とすことなく飛来する岩の弾丸は瞬く間も無く竜の眼へと吸い込まれて行き———

 

 

「…流石に無理か」

 

 

 ———粘膜に触れると同時に岩だけが砕け散った。

 

 多少のダメージはあるのか、竜は目に塵が入った時のように鬱陶しそうに顔を歪ませ瞼を閉じる。

 

 そして頭上に乗る()へ向け、鞭のようにしならせた異様な程に長い尾の先端を振るった。

 

 俺は硝子が割れるような音と共に弾き飛ばされ、地面を一度跳ねる。

 

 受け身を取り、体勢を整え竜へと視線を遣れば、竜は首を振るい土砂を落としていた。

 

 

「頭を狙ったね…器用なことするよ、その身体で」

 

 

 未だ肉体強化は持続している上、咄嗟に張った数枚の結界により大きく威力を削いだにも関わらず、刎ねられかけた頸が鈍く痺れていることに冷汗をかく。

 

 どうやら先の一撃は本気ではなかったらしい。

 

 

「けど、眼は他よりは柔らかいみたいだね」

 

 

 竜が沈んだ脚を引き抜き、俺へと獰猛で理性的な眼を向ける。

 俺は更なる殺し合いに臨むべく、その体に魔力を滲ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小さな魔物が視線を鋭くする中、攻防を経た竜もまた強い警戒を滲ませる。

 

 最初は己とは比べるべくもない矮小な存在が睡眠の邪魔をしに来た等と思ってはいた彼は、今ではソレを己の生死を分ちうる危険な存在として認識していた。

 

 鎧も無い剥き出しの肉であるのに己の攻撃が通らない程に硬く、あれだけ小さいのに巨岩の如く重く、秘めたる力は全貌が見えないほどに多彩。

 

 随分前に己に挑んだ似たような姿形の存在の群れはあれ程の脅威ではなかったはずである。

 

 竜は久しく感じていなかった「畏れ」を此処で感じていた。

 最早其処に強者としての「傲り」は無く、寧ろその畏れを最大限の警戒へと変える。

 

 殺意に光る瞳をソレへと向け、攻防を満たす低い姿勢に構えを取り、その一挙手一投足を観察する。

 

 

「《血の貨幣、生命の燻り、骨肉は力を貪り喰らう———鎧の魔法(エンハーティア)》」

 

 

 ソレが鳴いた(・・・)

 今まで見てきた、似た存在の鳴き声よりも長く、それでいて魔力の巡転が激しい。

 ソレを纏う魔力が途端に増大し、囲うように渦巻く。

 

 先ほどと同様の魔力の流動に、さらに「硬く」なったのだと認識する竜。

 しかし、それでもまだ殺せる(・・・・・)という傲りとは違う経験から生まれる確信も持っていた。

 

 ソレは魔力を注ぎ込んだ岩を周囲に散りばめ、変わらず眼球への狙撃を開始する。

 

 執拗に撃ち込まれる(ちり)に苛立ちを募らせながらもこの程度であれば相手にするべくもないと敵を追い、武器()を構え、一度は防がれた一撃を見舞う。

 

 

「ッ!?」

 

 

 ソレは刃の切先の届くべくもない位置で驚いたように跳躍した。

 その瞬間、背後に連なる木々がまるで景色を切り取った様に寸断され、宙を舞う。

 

 瞠目するソレは此方を見遣ると、身を捻り結界を足場に空中を駆け出す。

 

 竜は近づける事を警戒し翼を扇ぐ事で竜巻が起こる程の大風を引き起こし、吹き飛ばさんとした。

 

 

「《重くなる魔法(グラーウィオ)》」

 

 

 だが同時に魔法によって質量を増したソレは風をものともせずに再度結界を構築し脚を付ける。

 

 

「———ヤバ…」

 

 

 翼を扇ぎ、天へと舞い上がった竜はその瞬間その小さな的———結界を正確に狙い切り裂いた。

 

 竜は識っている、理解している。

 人の形をしたソレは空を飛べないと。

 故に飛ぶのではなく跳び、駆けるのだと。

 

 魔法()とは万能ではあれど全能ではないと。

 

 突如足場を失い脚を彷徨わせるソレに向け、竜は一際大きく翼腕を引き抜き———薙ぐ。

 

 

「本当に器用だね…ッ」

 

 

 予想通り(・・・・)上へと不自然に跳んだソレへ向け、竜は背後に携えた、魔力を纏ったもう一つの武器を振るい、その胴を穿つべく放った。

 

 相手は硬い。それは正に己の誇る鎧にも劣らない。

 だが、だからこそ理解()かる。

 

 コレ(・・)は僅かに届き得る(・・・・)

 あの鎧を貫くことが出来る。

 

 そうして山の峰を削り出したような槍は空気を裂き、音を貫き、ソレに到達した———

 

 

 

 

 

 

 ———だが、槍はソレを弾いた(・・・)

 同時に聞くはずもなかった硬質な音が木霊し、竜の鼓膜を震わせる。

 

 瞬間、大気の壁を穿つ音と共に焼け付くような痛みが竜の隻眼を襲う。

 痛みは一瞬にして己の内部を通過し、失われた傷眼を内側から抉った。

 

 思わず地へと落下するように降り立つ。

 

 

「ォ゛、グッ…内臓、逝ったかも…でも、やっぱり良い魔法だ。名前をつけるなら———《体を鋼に変える魔法(ガルフェイロン)》、とか、どうかな?」

 

 

 痛覚が訴える生存本能が、その瞳の熱とは正反対に思考を冷やす。

 生き残る為には暴れてばかりでは居られない。

 

 

「———単純で応用の効く優秀な魔法の弱点…それは相手の技巧によっては模倣されるリスクがあること…解析しておいて良かったよ」

 

 

 竜は失った視力の代わりに魔力探知へと神経を注ぎ、周囲の魔力の形を精査する。

 

 そこで、竜は己の瞳をただの石が撃ち抜いた仕組みを理解した。

 

 

『《鎧の魔法(エンハーティア)》』

 

 

 アレはソレ自身では無く散りばめられた石に紛れた内の一つに掛けたのだ。

 そして、それを此方に悟らせぬべく態と己を魔力の層で覆い、欺いた。

 

 竜はしてやられた事に対する屈辱と、そんな事をも見抜けなかった己に呆れを感じ、低く唸る。

 

 

「その程度の傷じゃ直ぐに回復しちゃいそうだからね。目指すは早期決着だ」

 

 

 新たな力を見せたソレは口元から血を吐きながらも掌と拳を撃ち合わせると、此方を挑戦的に見上げる。

 

 その姿を失った瞳で睨み、見下ろす竜は再び天へと舞い上がり、初撃と同様に口内に莫大な熱を圧縮し始める。

 

 そうして、宙を駆け上がり此方へ向かってくるソレへ目掛け、放つ。

 

 数度見た挙動で回避したソレは熱線から逃れるように視界内を動き回り、竜もまた追う様に狙い撃つ。

 

 

「その図体で飛ぶとかどういう原理?」

 

 

 しかしソレは幾度となく襲い来る熱線から逃れ、竜の下まで迫る。

 

 竜は一際大きく翼を閉じるように扇ぎ、斬撃に併せて強風を見舞った。

 

 

「ク…ッ」

 

 

 多彩な技があれど一度に使用できるものは限られる。

 大地を捲る強風か、景色を斬り裂く斬撃か、選択を迫られたソレは———

 

 

「———《力と方向を与える魔法(アベクトリューベ)》ッ!」

 

 

 ———斬撃を避ける事を選んだ。

 

 交差して放たれた斬撃を空中で回避し、代わりに逃げ場の無い荒れ狂う暴風に晒される。

 

 質量を伴った大気がソレの何とか張った結界と全身を殴りつけ、圧殺せんと大地へと押し込む。

 

 

「《(めぐみ)の、幸福…代わり、なき、白、失うを以て…無益、荒廃、死の表象と…成るべし…ッ———塩に変え(アルブ)———》」

 

 

 ———そして地へと到達した瞬間、まるで隕石が堕ちたのでは錯覚する程の爆発的な衝撃が発生した。

 

 舞い上がるのは大小入り混じる瓦礫、そして白い砂。

 

 竜の眼下、そこには存在したはずの土砂の殆どが塩と化した白の砂漠であった。

 彼には色は見えずとも其処に有る物の性質が変化していることくらいは視えている(・・・・・)

 

 それは未だソレが生きている証拠なのか、あるいは置き土産なのか、何れにせよ竜は決して油断はしない。

 

 竜は地へ降り立つと、感覚へと神経を募らせ魔力を辿る。

 

 すると塩の下、土砂へと戻された(・・・・)大地の中に見覚えのある魔力が潜んでいた。

 

 そうして彼が存在を探知したその刹那、急速な加速を得たソレが地中から竜へ向け直進する。

 

 竜は瞬時に翼腕を構え、眼前へと飛び出した魔力の影を縦に両断する。

 

 獲った———と、そう錯覚した。

 

 

 

 

 

「《———知恵の(ともり)、救いの熱、(ほむら)舞う灰を弔いたり。寂ぶ心をここに焚べん———》」

 

 

 

 

 

 ———全霊の力を込め、弾かれる様に背後に隠れた魔力の塊へと尾を振るう竜。

 

 

 

 

 

 

「《———(つら)なる息吹を塵と化し、荒るる(あか)は天を染める。劫火は虚しく世を呑まん———》」

 

 

 

 

 

 

 ———しかし、最後の一撃が獲ったのはズタボロとなりつつも両の脚で立つソレの僅か手前にあった、只の魔力の揺らぎに過ぎなかった。

 

 

 

 

 

 

「《———善悪諸共焼き払え、其は原初にして終末の象徴なり———天炙る焦熱の魔法(ヴォルジオン)》」

 

 

 

 

 

 

 ———声が区切られると同時、極大の火柱が大地を灼き、森を焦土へと変え、天へと昇る。

 

 竜は今にも己を滅さんとする熱き魔力の爆発を捉え、魔力の眼も光の無い瞳も閉じ、耄碌した己の最期を悟ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヤベェ…家燃えたかも…

 

 

 




ちな竜のモデルはモンハンのゴグマジオス

高評価、感想等ございましたら励みなりますので、お気に召した方、続きが見たいと感じた方はどうかお恵みください_(:3」z)_(承認欲求の塊)

そろそろ原作キャラと絡ませたいところ…

詠唱の時は「〇〇の魔法」って言う形崩してもOK?

  • 手の動くままに描け
  • 原作を崩す奴許すまじ
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