「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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事故の報告をしよう 1

 

 

 

 素敵なロゴを描いたり、店構えをスケッチしたり、とても夢のある時間を過ごした。

 その後に待っているのは、現実的な面倒事の対処である。

 というわけで私たちは翌日、巡礼者協会に顔を出すことにした。

 

「恥ずかしながら帰って参りました」

 

 私たちオコジョ隊4人が巡礼者協会の扉を開けると、がやがやという喧噪がピタっと止まった。

 

 みんな私たちを凝視している。

 

 どうぞどうぞ、ご歓談を続けてくださいと言いたくなる。

 

「うわー! 戻ってきましたー! 生きてます? 生きてますよね!?」

 

 沈黙を破ったのはコレットちゃんだ。

 カウンターを飛び越えて駆け寄ってきた。

 他の冒険者や巡礼者たちも、それを見て堰を切ったかのように集まってきた。

 

「おいおい! ガチ雪山に行ったんだって?」

「服見せてくれ服。雪山に行ったってことはまたなんか変なの作ったんだろ」

「雪崩に巻き込まれたって聞いたぞ!」

「10メートル埋まって掘り出されたとか……裸で雪をかき分けたとか……すげえよ……!」

「ねーねー、登山靴頼んだんだけどまだ出来上がんない?」

「しかもそのまま縦走して三山制覇したとか……」

「山の頂上からそりで滑り降りたんだろ。やべーよ」

「待った待った待った、話がおかしい」

 

 噂がよくわからない方向に広がっている。

 あ、でも、カピバラはショベルで掘ってるときに脱いでたって聞いたような。

 

「……もしかして、裸になったの本当?」

「なってるわけないでしょうが!」

 

 怒られました。

 

 

 

 

 

 

 ちょっとした騒ぎになってしまった上に、色々と誤解やあらぬ噂が広まってそうだ。

 そこでコレットちゃんに頼んで広めの会議室を借り、説明会を開くことになった。

 内容はもちろん、私たちがどのように山へ行き、どのように失敗したかについてだ。

 

「……ということで、失敗の原因の一つは山の状況に変化がないだろうと過信していたこと。山に長時間滞在していればいるほど、状況や天候の変化に遭遇する率が高くなる。できる限り早くその兆候を察知して対応できれば大きな事故を避けられる確率も上がる、というわけです」

 

 冒険者や巡礼者たちが皆、真剣な表情で話を聞いている。

 会議室は満席で、立ち見客さえいる始末だ。

 コレットちゃんが「みんなこんなに真面目に話を聞くなんて感動です」と目をうるうるさせていた。

 

 巡礼者協会では事故防止キャンペーンとか遭難防止対策とか色々と学習機会を設けてるそうだが、真面目に参加してくれるのは一部の人間だけらしい。コレットちゃんはもうちょっと怒っていいと思う。

 

「……以上が、シュガートライデントでの巡礼記録であり事故調査報告です。何か質問ある人いますか?」

「えっ、いいのか?」

 

 冒険者の一人が驚いて尋ね返した。

 って、アスガードさんだ。

 

「久しぶりです。大鬼山ではありがとうございました」

「礼には及ばんさ……。それより、シュガートライデントは雪の量も凄いだろう。どうやって歩いて行ったんだ?」

「あ、説明抜けてました。基本的にはスノーシュー……かんじきにトゲトゲを付けた感じの道具を足に嵌めて歩きました。アイスバーン状になってる場所では深く雪に食い込む爪に付け替えて山頂を目指しました。現物、後で持ってきますね」

「楽しみだ」

 

 アスガードさんの質問の後、様々な質問が殺到した。

 だいたい想定内の質問ばかりで助かった。

 みんな私たちの道具が気になってるみたいだ。

 

「というかお前たちの登山靴欲しいんだが」

「そうそう。レインウェアも」

「ごめん。今、工房でがんばってるのでもうちょっと待ってほしい」

 

 そして道具が売られてないことへの文句が混ざってきた。

 だってこんなに早く注目されるとは思ってなかったんだもん。

 

「質問です。雪崩の後、氷菓峰の巡礼までするべきだったのでしょうか」

 

 そんなとき、一人の少年が本質を突く質問を繰り出してきた。

 

これが大学4年生だったら肝を冷やしているところだ。絶対、「素人質問で恐縮ですが」みたいな接頭語が付いている。

 

「それは一度下山して、準備を整えるべきだった……という意味?」

「予測不可能の状況に遭遇して、撤退が可能だったのならば、撤退して状況を報告し、支援を受ける手もあったかと思います」

 

 少年の言葉に、聴衆が難しい顔を浮かべて隣の人とひそひそと話し合う。

 

 それもそうだな、いや緊急事態だから撤退はできない、けど下手したら死ぬぞ、ただでさえ雪崩に巻き込まれたんだ。

 

 いや。だが。けど。しかし。さりとて。

 

 色んなイフが皆の頭の中を駆け巡っている。

 そして皆、考えただろう。

 もしこれが自分だったらどうする、と。

 

「私たちが撤退しなかった理由は3つ。1つは、山小屋という休憩ポイントがあるのがわかっていたから、荷物を減らしつつ食料を持ち込むことができた。3日分の蓄えはあったので補給の必要性は薄かった。雪も綺麗だから水を作るのも安心感があった」

「それが乏しかったら、撤退していましたか?」

「状況によりけり。精霊魔法を使って麓の人に呼びかけて物資を山小屋に運んでもらう手もあったと思う。普通なら撤退するけど、今回だけは迅速な攻略が必要だったから」

「リレー方式……なるほど」

 

 少年が、興味深そうに頷いた。

 

「2つは、聖地の力が解除されて雪がどれくらい早く解けるかが見えなかった。麓を目指して全層雪崩に巻き込まれるリスクや、下山してから改めて山頂アタックを仕掛けるときに事故が発生するリスクを考えると一刻も早く攻略して聖地の力を取り戻すのが最善かつ安全と判断した」

 

 少年が、こくりと頷く。

 お眼鏡に適う答えだったようだ。

 

「3つは……なんか自慢っぽくなるんだけど」

「自慢?」

「聖地でなくなった以上、自然の猛威によって刻々と状況が変化する。聖地が弱まるということは精霊の力も弱まってきて、状況対処能力がますます重要になる。私たち以外のパーティーが攻略することは、多分、不可能だった」

 

 これは、私の偽らざる本音だ。

 

 聖者カルハインがいかに高名な巡礼者であろうと、あるいは彼の部下たちがどんなに優秀であろうと、あのとき、あの場所で、進むことができるのは、私たちしかいなかった。

 

 私たちが誰よりもその当事者として、なすべきことをした。

 

 確かに状況に巻き込まれたのも事実だ。それでも、誰かが引き起こした事故であっても、天の気まぐれのような事故であっても、山に足を踏み入れたのは私たちだ。雪崩の遭遇は私の油断であり、状況に対処したのも、私たちだ。

 

「それでもあなた方には無関係な事情で迷惑を掛けられたはずです。鬼王砦での戦闘が上手くいっていれば、こういう事態にはならなかった」

「それを言っても仕方がない。きっと彼らは彼らで奮闘し、私たちも奮闘した。そして私、カピバラ、ニッコウキスゲ、ツキノワの四人がこの国において雪山攻略のベストメンバー。すでにベストメンバーが揃ってる状態なのだから、再トライする意味は薄い。これは、私たちの巡礼だった」

 

 私の言葉に、少年が沈黙する。

 

「だから、きみがここで謝罪とかを言う必要はないと思う」

 

 少年の顔を眺めていたら、思い出した。

 この少年は、邪精霊シュガーと契約していた子だ。

 

 

 

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