「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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事故の報告をしよう 4

 

 

 私が話し終わると、場が静まり返った。

 

 ちょっと外しちゃったかな……と思ったけど、ぱち、ぱちと、まばらな拍手が聞こえる。

 シャーロットちゃんとアスガードさんだ。

 

 そして他の冒険者や巡礼者も続いて拍手をしてくれた。ていうかどんどん大きくなる。チャチャチャ! ってリズミカルにポーズ決めたいところだが、そういう場の空気をコントロールできるほどコミュ強ではない。手を上げて皆を制止する。

 

「あ、ありがとう。他に質問はなさそうかな?」

「たくさんあるぞ!」

「裏スライム山ラン競争してくれ!」

「うちのパーティー来ないか、報酬は弾むぞ」

「結婚してください!」

「質問なしね。はい、それじゃあこれで説明会を終わります。ご清聴ありがとうございました」

「そろそろ通常業務に戻らなければならないので、退室お願いしまーす」

 

 冒険者たちのご歓談ムードや飲み会になだれ込みそうになりそうなところを、コレットちゃんがぴしゃりと言ってみんなを追い立てる。もうちょっと遊ばせてくれよと誰かが抗議をして、だめでーすと却下された。

 

「オコジョさん」

「アクセルくん、お疲れ様。聞いてくれてありがとね」

 

 私の言葉に、アクセルくんが変な表情を浮かべた。

 

「……本当に気にしてないんですね。僕はあなたの頭上に石を落としたのと同じですよ」

「だったらそれは事故だということ。迂闊に先行者の足元に入った私がみんなを危険に晒した」

「……それでも借りがあることは覚えておいてください。上役同士の話し合いや駆け引きとは別問題です。冒険者と巡礼者の、仁義の問題です」

「気にしなくていいけど……うん、わかったよ」

 

 頑固な子だ。

 でも、筋を通そうとするのは嫌いじゃない。

 

「……どうしてアクセルくんは山を登るの?」

「そうすることで人が救われるからです」

 

 迷いなく言われた。

 どうにもアプローチが私と真逆だ。

 

「じゃあ、自分の意思では登ってない?」

「……わかりません。嫌いではないですけど」

「好きなの?」

「僕を導いてくれた人は山が嫌いでした。山なんて行くものじゃない。まともな神経があればこんなことはしない。けど誰かがやらざるをえない……と言います。だから、行くのが好きだとは言わないようにしています」

「……本当に嫌いなのかな、その人」

 

 山なんて行くものじゃない、こんなのはまともじゃないと言う人には二種類いる。

 

 一つは、本当に山が嫌いな人。

 

 もう一つは、自分がまともな側ではないと心底自覚している人だ。

 

「でも、アクセルくんはその人が好きなんだね」

「はい」

 

 感情表現がこれまた素直だ。

 この子の指導者に一言言ってやりたい気持ちがむくむくと湧いてくる。

 だがこの子にそれを言っても仕方が無い。

 

「……また会おうね。火竜山か、別の山かはわからないけど」

「遠からず会うことになると思います」

 

 私はアクセル少年と握手を交わし、別れた。

 

 

 

 

 

 

 次に私は、約束通りシャーロットちゃんとお話をすることとなった。

 広間ではなく巡礼者協会の奥の、小さな会議室に私とカピバラが招かれた。

 ちなみにニッコウキスゲとツキノワはギルドの飲食スペースで一服している。羨ましい。

 

「何はともあれ、ご無事で何よりです!」

「ありがと、シャーロットちゃんも元気で何より」

 

 会えて嬉しいって感情を全力で放出してくる。

 私より背が高い金髪美女なのに、わんこオーラがある。

 コリー犬とか牧羊犬を彷彿とさせる。

 

「……以前ご一緒したときは、使命を黙っておりました。申し訳ございません」

「バレちゃったけどね」

「黙っててほしかったです」

「そこはごめん」

「というわけで私は今、太陽神ソルズロア教の神殿長会議の名代として来ております! えっへん!」

 

 と、シャーロットちゃんは大きな胸を張って答え、そして蜜蝋で封印された手紙を差し出してきた。こんな豪華なお手紙、地球でもここでも見たことない。

 

「これ、開いていいやつ?」

「当たり前でしょ」

「もちろん。というかオコジョさん以外開けちゃだめです」

 

 カピバラとシャーロットちゃんがツッコミを入れてくる。そりゃそうか。

 おっかなびっくりに手紙を開き、中身を確認して読み上げた。

 

「巡礼者カプレー=クイントゥス。その尊い志と卓越した巡礼の御業を讃え、ここに巡礼神子の位を与えることとする。神殿総長ウェグナー=クリストフ」

 

 その他、推薦者の名簿や、巡礼神子になったことで得られる報奨金や活動支度金についてなど、色々と細かいことが書いてある。でもこういうの、面倒くさい式典でもらうものかと思っていた。けっこうビジネスライクだなぁ。

 

「内容が重複しますが、神殿総長ウェグナーより言伝を預かっています。巡礼者カプレー=クイントゥス。ソルズロア教はあなたを巡礼神子と認定します。どうかその旅路に温かい光があらんことを」

「拝命します……でいいのかな?」

「本来であれば正式な叙任式を開くので受け答えや手順が厳しく定められてるのですが……焔王の対策会議や周辺の村落の避難計画などに掛かりきりで、式を開く目途が経っていないんです。ごめんなさい」

 

 シャーロットちゃんが申し訳なさそうに詫びる。

 

「で、カピバラさんについてはもうちょっと複雑なんですよね」

「え、あたし? なんで?」

 

 カピバラが素っ頓狂な声を上げた。

 

「それはもちろん、オコジョさんと共に卓越した巡礼を成し遂げたからです」

「えっと……あたし巡礼者とかじゃないけど。登録してないわよね?」

「だから問題と言いますか、話があると言いますか……」

 

 シャーロットちゃんが苦笑しながら話を続けた。

 

「巡礼者ではないのに山頂で靴や足回りのメンテをしてくれたり、巡礼者のための装備を開発したり、雪崩対処に大きな功績を上げたり……。あなたの功績はオコジョさんと比肩する、絶大なものなんです」

「ていうか私より上では?」

「評価自体は嬉しいけど、こういう場面で持ち上げられるの嫌な予感しかしないんだけど」

 

 カピバラがひどく嫌そうな顔をしている。

 私は笑ってしまいそうなのを頑張って堪えた。

 

「神殿総長は、カピバラさんにもお会いしたいと申しておりまして」

「え、やだ」

「で、カピバラさんのお父様ってグスタフ騎士団長ですよね……? 騎士団長とソルズロア教は深い関係があるので、話を通さずにカピバラさんに叙任や褒賞を出してしまうと我々としてもトラブルが怖いですし、ご家庭のトラブルも招きかねないので……一度ご家族と」

「やだって言ってるじゃん! 面倒くさいんだけどもー!」

 

 

 

 

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