「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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資格をもらいに行こう 2

 

 

 

 私の言葉に、ウェグナー氏がにやりと笑う。

 

「オコジョくん。これは僕からの挑戦状であり助言だ」

「助言?」

「僕以外の人間も同じことを言うだろう。許可をもぎとるのであれば、俺と同じくらいの功績を上げる必要はある。その上で根回しを進め、味方を増やし、挑戦する価値を説く。特に、一番最後が重要だ」

「天魔峰に挑戦する価値……ですか」

「なぜかわかるかい?」

 

 学校の教師のような問いかけが投げかけられる。

 

「そこには何もない。確認した人はいないけれど、そういうことになっている」

「正解」

 

 ぴんぽーんと、間抜けな擬音語をウェグナー氏が口にする。

 

「普通の聖地であれば、山頂に聖地があり祈りを捧げるという使命が生まれる。火竜山なら焔王を倒すというより崇高な使命がある。天魔峰にはそれがない。だから皆、止める。意味が無いからだ」

「意味の無い、巡礼でさえない、ただの命懸けの山登りになる」

「立場ある者がそれに賛同するわけがない。だから僕は支援しない」

「でもウェグナー様は、価値を見出している」

「そこから先は秘密だ」

 

 それを見つけることができれば、山を登る資格を得られる。

 なるほど、なるほど。

 確かにその名目は大事だ。

 ただ挑戦するというだけでは、お墨付きは得られない。

 

「ウェグナー様はなんで登りたいんですか?」

「なんでって……特に深い理由はないよ?」

 

 ウェグナー氏が、あっけらかんと言った。

 

「そんなの登りたいからに決まってるじゃん。スライム山とか、神殿の屋上とか、どこでもいいんだけど、天魔峰を見るとするだろ。すると真っ白く尖った山頂が見える。ああ、そこに登ったらすごい気持ち良いだろうなぁとか、思う」

「……そうなると、止まらない。止められない。なんとしても登ってみせるぞって思う」

「そう。そうだよ! 巡礼者ってのはさぁ! そうでなくちゃ! いやー話わかるねぇ! シャーロットちゃんに頼んで連れてきてもらってよかったよ!」

 

 この人、ネジが飛んでる。

 本気だ。

 私のように登山者としての記憶を持ち越してるわけでもないだろう。

 ただ純粋に、登りたい山に登るという欲望が魂を燃やしている。

 

「だったら私にも許可ください」

「それはだめ」

「けち」

「僕だって相当苦労したんだ。それでもまだ正式には許可がもらえてない」

「ウェグナー様はそのために、神殿総長に?」

「資格持ってると便利だからさぁ」

 

 簿記を取るような感覚で神殿総長とかいうポストに居座られては困る。

 そこに、こほんと咳払いをして後ろに控えていたシャーロットちゃんが説明を始めた。

 

「えー、ウェグナー様はご冗談がお好きな御方ではありますが、五大聖山をすべて攻略済です。無殺生攻略というカテゴリにおいては皆様の方が実績を上げておりますが、冒険者を随伴する巡礼においてウェグナー様の右に出る御方はおりません。こう見えても、本当こう見えても、意外に凄いんです」

「それフォローになってなくない?」

「フォローしてほしいならもうちょっと態度を改めてください! それになんでケンカ腰なんですか! 話が違うじゃないですかぁ!」

 

 シャーロットちゃんがわたわたと怒っている。

 確かにシャーロットちゃんに請われてここに来たわけだから、顔を潰すような真似をしてるのには違いない。カピバラも圧倒されつつもちょっと怒ってる感じだし。

 

「シャーロットちゃん、大丈夫。ちゃんとこの人が本当に伝えたいことは理解できた。ケンカを売ってるのも、応援しているのも本当。だけど本当の本当は、どういう覚悟をするかを聞いている」

「えっ、これでわかるのもちょっと怖いんですが」

「言い方」

「すみません」

 

 シャーロットちゃんがテヘペロした。

 可愛いな、まったくもう。

 

「何を伝えたいかわかった? そこのところ、もう少し説明してもらおうか」

 

 ウェグナー様が私の目を見る。

 鋭い目だ。

 この世界の戦士の目に近い。

 だが、もっと近いものは……探検家だ。

 見果てぬ世界に心奪われたろくでなしの目だ。

 

「……ウェグナー様が聞いているのは行くか、諦めるかじゃない。覚悟があるか。どっちの覚悟を選ぶか」

「どっちというのは?」

「資格を得て行くか、勝手に行くか」

 

 私の言葉に、ウェグナー氏以外の皆が絶句した。

 

「もし天魔峰の山頂に何もないというのは人を寄せ付けないための嘘で、実は何かがあるとしたら……例えば遺跡とか、眠ってる精霊とか、神様の痕跡とか、大昔の巡礼者の錫杖と剣とか。なんでもいいけどそういうものがあれば資格なんていらない。その功績が過程の粗さを帳消しにするから」

「その通り。そんときゃ聖者だってお手上げだ。誰も登頂者を罰することなんてできない。だが」

「何もない可能性も当然あります。ていうかあんな厳しい環境に何かがあると思うのは現実的じゃないです」

「どうする?」

「博打に負けた後のことなんか知らない」

 

 くっくっくと、ウェグナー氏が肩をふるわせて笑う。

 どうやらご満足頂けたようだ。

 

「……いいじゃないか。クラシックな巡礼者の流儀を弁えてる。何百年も前は面倒くさい協会もなかったし、神殿だってうるさくなかった」

「あ、資格を手にしないで行くとは決めてないです。ていうかウェグナー様はそうするつもりなんですよね」

「だがそうでもしなきゃ僕の先を越せないよ?」

「一人だったらそう。でも、仲間がいる」

「……仲間を守るために、史上初の登頂者になることを諦める?」

 

 そもそも私に登り切れると決まっているわけではない。

 この人だって登れるかどうかはわからない。

 けれど、先を越されたとき、私はこの人に負けるのだろうという不思議な確信があった。

 

「仲間が何とかしてくれるので、大丈夫かなって」

「そこで無茶ぶりやめてくれるぅ!?」

「この子のパパが頑張ってくれる」

「そっち!? いやどっちにしろ無茶ぶりでしょうが!」

 

 カピバラが私の襟元を掴んでがくがく揺さぶる。

 こういう扱い久しぶりだなぁ。

 

「使えるものはなんでも使う、か。そういうスタイルも悪くない。僕は堕天のアローグスみたいなストイックな方が好きだけど」

 

 その名前にちょっと反応しかける。

 もしかして私の出自に気付いてたりするんだろうか。

 

「アローグスのファンなんですか?」

「あの人に心奪われた人はいるもんだ。口に出せないだけで。きみは?」

「書物でしか知りませんが、傍迷惑で……あなたみたいな人だったんじゃないかなって」

「嬉しいなぁそれは」

 

 そう言って、ウェグナー氏が手を差し出してきた。

 

「巡礼神子オコジョ。巡礼神子カピバラ。きみたちの幸運を祈る」

「あだ名ですけど」

 

 私はいいけどカピバラはちょっとお悩み気味だ。

 

「その名前で山に登るんだからいいだろう」

「……はい。ウェグナー様も、よい巡礼を」

 

 そう言って、私は差し出された手を握る。

 オコジョ隊の好敵手の手は分厚く、そして力強かった。

 

 

 

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