「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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シュガートライデントを縦走しよう 2

 

 

 

 シュガートライデントは、氷菓峰(ひょうかほう)凍刃峰(とうじんほう)極光峰(きょっこうほう)の三つの山が集まって構成されている。

 

 前回泊まった山小屋あたりに分岐路があり、氷菓峰に行く道の他に凍刃峰へ行く道がある。ちなみに極光峰はどちらかの山を行った先にそびえ立つ最も高い山である。

 

 つまりこの三つの山頂を行くには、氷菓峰→極光峰→凍刃峰というルートを辿るか、逆に凍刃峰から回るルートを行くかだ。今回は凍刃峰から回ることにした。

 

 理由の一つは、既知のルートを進んでから知らないルートを降りるよりも、知らないルートを行ってから既知のルートを降りる方が個人的に安心感があるからだ。とりあえず無理っぽかったら撤退判断も早めにできるし。

 

 そしてもう一つの理由は、精霊様の暇つぶしである。

 

『別に話を聞くくらいならしてやってもよいが……それもなんだか芸がないのう』

 

 ジニーさんに改めて自己紹介してもらった後、登山口で精霊様を呼び出したらまたシュガー様が出てきて妙なことを言い出した。

 

「こないだ色々とやってあげたし、むしろイージーモードにしてほしい」

『それはそれ、これはこれじゃ』

「ぶーぶー、意地悪」

「あ、あの、オコジョさん、実際その通りでして……。普通の精霊召喚で邪精霊シュガー様が現れること自体がちょっと異例なので……。ご寵愛されていると言っても過言ではないかと」

 

 と、ジニーさんがなんかフォローしてくれた。

 

 そういえば今回も前回も、普通の精霊を呼び出して天気とか山の状況を確認するだけのつもりだったのになぜかシュガー様が現れたんだよね。

 

『そういうこと。そもそもわらわは大地の精霊の中でも特に高位の存在であるぞ。術式や儀式を介さずに相談に乗る時点で十分に恩に報いておるのじゃぞ』

 

 そういうの自分から言わない方がありがたみがある気がする。

 

『……何を考えておるか何となくわかるぞ』

 

 ぎくっ。

 

『それに、やむを得ぬ事情もある。皆が氷菓峰ばかり登るから凍刃峰での祈りが少ない。おぬしたちが登山の手順なり何なりを考案してくれたら巡礼者も増えて祈りも増えるだろう。さすれば与えられる恩寵も大きくなるというものよ。例えば……焔王に立ち向かう術などをな』

「……知ってたの? あ、いや、知ってるか」

 

 アクセルくんに召喚されて大魔法を使っているのだから、彼の目標は当然知っているのだろう。であれば私たちもまた焔王対策に動いていることは承知なわけか。

 

「……ついでに教えてほしいだけど、アクセルくんの寿命を代償にして叶えているんだよね?」

『それは言えぬ。契約者と交わした条件はみだりに言えるものではない』

 

 ん? 言えない?

 

 シュガー様から匂わせもせずに頑として拒否されるのは珍しい。

 ほぼ事実だと思うのだが……。

 でも不躾な質問ではあった。

 

「すみません、口が過ぎました」

『言えぬ話は言えぬというだけのことじゃ。それでは頼んだぞ』

 

 承知したわけではないが、頼まれてしまった。

 まあいいか。

 この山に捧げられる祈りが増えるのであればおじさまや家の人が助かる。

 ここは一肌脱ぐとしよう。

 

 

 

 

 

 

 ……というわけで。

 ジニーさんを加えたオコジョ隊は山小屋の分岐を左に曲がって凍刃峰に向かった。

 

 ちなみに、ジニーさんは普通に付いてきている。

 

「一応、雪中行軍も経験してるし普段から鍛えてるから大丈夫さ」

「自然も怖いけど、どっちかというと人間の方が恐くて……えへへ……」

 

 ニッコウキスゲがフォローして、その後ろでジニーさんが照れ笑いをしている。

 ひとまずは大丈夫そうだと思って歩みを進めるうちに、恐らく樹林帯っぽいところに入っていく。

 

 恐らくというのは樹木そのものが雪に覆われて見えないためだ。もこもことした不思議な雪の塊となっている。

 

「スノーモンスターだ」

 

 枝や幹が凍っている木は樹氷と呼ばれるが、こうして木全体にたくさんの雪が纏わりついて雪だるま状になっているものはスノーモンスターと呼ばれる。

 

「動いたりしてな」

「それスノーモンスターとかじゃなくてスノーゴーレムじゃないか」

 

 ツキノワが冗談を言ってニッコウキスゲがツッコミを入れる。

 ちなみにスノーゴーレムというのは存在する。

 魔物として存在もしているし、なんか錬金術師が一時的に雪に魔力を与えて動かしたりする。

 なおどっちも火魔法ですぐに倒されるので魔法使いにとってはゴブリンより弱い。

 

「地図上だと……スノモンを突っ切った先にある木の柱が正規ルートだね」

 

 目を凝らして奥の方を見ると、そこには真っ白いエビフライみたいなものがある。

 道案内のための看板が凍結して、さらに風が吹き付けたために氷柱が真横にはえているのだ。

 

「問題はそこまでどういう風に行くか……かな」

「ん? そのまま真っすぐ行けばいいんじゃねえの?」

 

 ツキノワが質問した。

 

「スノモンは可愛いけど落とし穴がある」

「落とし穴?」

「目に見えているのは樹木の上半分くらいで、さらに下の部分は雪に埋まっている。埋まってる木の幹の周りはくぼみになってて危ないし、その周りは圧雪されてないふわふわした雪だったりするから、迂闊に近付くとズボっと落ちる。軽いものなら脱出できるけど、深い落とし穴みたいになってたり、新雪がうっすら積もってて穴が見えない状態だったりするとヤバい」

 

 ツリーホールと呼ばれるものだ。

 

 なお標高の高いところのみならず、山のふもとのスキー場とかでも発生するし、なんなら山以外の、豪雪地帯の一戸建ての庭とかでも発生する。雪かき中の事故は雪庇……屋根からズレ落ちてきた雪の塊が原因となることが多いが、樹木の周囲のツリーホールが原因となることもある。落ちる途中に木の幹に頭をぶつけたり、落ちた拍子に雪がどさっと落ちて窒息したりするので、スノモン見物とかに行くときはしっかり注意してほしい。

 

「比喩表現とかじゃない落とし穴って逆に珍しいな。一瞬勘違いした」

「そうそう。思考の落とし穴とかじゃなくて落下するタイプの落とし穴。というわけで慎重に足の置き場所を確認しながら進みたいんだけど……」

「では、あの、大した魔法ではないのですが……効果があるかどうかは微妙なので、期待もしないでほしいのですが……」

 

 奥ゆかしすぎる前置きをしてジニーさんが手を上げた。

 

 

 

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