「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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シュガートライデントを縦走しよう 3

 

 

 

「霊峰を守りし大いなる精霊シュガーよ。祈り5日分を供物とする。我が魂を宿りし化身をこの地に降ろしたまえ……【精霊召喚】」

 

 ジニーさんが呪文を唱えると、白と黒のツートンカラーのハスキー犬がそこに現れた。

 精霊召喚の魔法だ。

 人によってどういう姿になるのかは違うのだろう。私がこれを使うとオコジョが現れる。

 

「……撫でていいですか?」

『あっ、いや、その……そういうのはちょっと……』

 

 断られた。

 その豊かで美しい毛並みはぜひ撫でたいのだが……残念だ。

 

『これは迷宮探索や戦場の哨戒任務でもよく使われる魔法ですが、少し詠唱が異なったことに気付きました?』

「シュガー様の名を呼んだことですか?」

『そうです。基本的に精霊には名前がありませんが……霊格が高く、名を認識できるようになった精霊もいます。シュガー様のように。そして指名して祈りをささげることでより効率的に祈りを使えるようになります』

「確かに……いつもより捧げる祈りの数が少なかったような」

 

 当然、祈りのストックには限りがある。

 こういう風に節約できるのであればとても助かる。

 

『それと、精霊召喚はこうしたこともできます。霊峰を守りし大いなる精霊シュガーよ……』

 

 ハスキー犬になったジニーさんが、さっきとまったく同じ呪文を詠唱し始めた。

 二度も唱えてどうするのだろうと思ったが、その答えはすぐに目の前に現れた。

 

「えっ、二匹になった!?」

『案外知られていないのですが、多重召喚も可能です。コントロールは難しいのですが複数のルートを哨戒する必要があるときや、落とし穴を避けられる道を調べるために何度もトライしなければならないときなどは大変便利です。それではちょっと行ってきます』

 

 ハスキー犬ジニーさんは、先程コミュ障ぶりなどなかったかのように雪面を駆け始めた。

 まるで犬ぞりをするハスキー犬のような頼もしさだ。

 ……やはりもふもふしたい。

 

 あ、一匹がずぼっと穴に落ちた。

 もう一匹は無事にスノーモンスターを抜けて先の方まで辿り着いた。

 

 ハスキー犬が雪をかき分けながら走っていったのでトレースもしっかりと残っている。

 進むべき道がちゃんと示された。

 

『すみません、ちょっと落ちちゃいました』

『こっちのルートは大丈夫そうですね』

 

 と、頭の中にジニーさんの声が響く。

 しかも二方向からだ。

 

「……離れてるのに二匹と会話できる?」

『本来ならば精霊様を介してメッセージのやり取りができるのですが、熟達すれば言葉を直接仲間に伝えることができます。なんなら精霊召喚をしてる最中でなくとも祈りを消費して会話できます。念話、などと呼ばれていますね』

「すごっ……!」

『ただこれは精霊様の力が強い聖地だからできることです。精霊様のいない山だと通じにくいし、そうでなくとも百メートルも離れたら使えないので気を付けてくださいね。じゃあ戻ります』

 

 電波の届かない山もあるということか、なるほど。

 何気なく使っている魔法であっても極めると違うんだなぁ。

 

『ただいま戻りました』

「すごい! えらい!」

『わふっ、あっ、あのっ、あんまり撫でないでもらえると……!』

 

 おっと、うっかりわしゃわしゃ撫でてしまった。

 だが言葉の割に心地よさそうしている。

 精霊召喚をすると身体感覚が獣に近くなるので嬉しいかなぁと思ったが、やはり嬉しそうだ。

 

「すみません、うっかり」

『だ、駄目ですよぉ……まったくもう』

 

 そう言って、ハスキー犬の姿がさらさらと消えていく。

 そして今まで目をつぶって座っていた人間ジニーさんが目を覚ました。

 

「ふく……とりあえず精霊召喚についてはこんな感じでした」

「ありがとうございました」

 

 こんなに精霊魔法を鮮やかに使う人は初めて見た。

 恐らく、巡礼者界隈でもそうそういないのではないだろうか。

 

「私も、精霊魔法をあんな風に使いこなせますか?」

 

 私の質問に、ジニーさんは難しい

 

「……精霊召喚の修行は基本的に難しいんです。いずれはできると思いますが、すぐに身に着けて火竜山に活かすとなると難しいかもしれません。念話は簡単なのでコツを掴めばすぐにできると思いますが」

「なるほど……大変な修行があるんですね」

 

 滝行とかやらなきゃいけないのだろうか。

 あるいは難解な魔法書を暗記するとか。

 

「あ、いや、厳しい修行じゃなくて、修行すること自体のコストが高いんです。お祈りの数は限られてますから、効率的かつ合理的にやらないとすぐにお祈りのストックがなくなってしまうので」

 

 あー、なるほど……。

 一日一回の祈りをストックして、それを十とか二十とか消費するのだから確かに効率は悪い。

 月に二、三回で終わってしまうし、本番のための祈りのストックも減ってしまう。

 

「だから本番に限りなく近い状況の実践で鍛えるしかないんです……。オコジョさん、私と同じように詠唱して、同じように二体の化身を使ってやってみてください」

「あっ、はい」

 

 ジニーさんは意外にスパルタだった。

 

 

 

 

 

 

 半分成功、半分失敗した。

 

 シュガー様の名前を出して祈りの日数をケチることと、複数のオコジョを召喚することまでは成功したが、二体のオコジョを同時に操って探索するのは上手くいかなかった。どちらか一体しか上手く動かせない。

 

「うーん、オコジョさんは年齢の割に、意識が人間としてできあがっていますね……。動物になりきるのは苦手ですか?」

「動物になりきるって感覚がまずよくわかりません」

 

 頭が堅い的なことを言われたのは初めての経験かもしれない。

 もし思い当たることがあるとすると、私が伝来者だからだろうか。

 地球人の記憶+この世界に生まれた私としての認識が合体してるので、ここから更に動物に変身したり姿を変えたりという発想は難しいという気がする。

 

「ま、中々難しいよ。あたしも上手くいったことがないや」

「そういえばニッコウキスゲはどういう姿になるの?」

「あたしは山猫」

「え、見てみたいんだけど」

 

 そして撫でたい。

 

「さて、お勉強も済んだところで先に進もうよ……ていうかここからが本番だね」

「うん」

 

 スノーモンスターを抜けた先にあるのは稜線歩きだ。

 ここから山頂までの長い道のりを、一気に進んでいく。

 

 

 

 

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