「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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儀式をしよう

 

 

 

 こうして二人は代行者、というどこかの女児向けアニメのキャッチみたいな決断をした後、大急ぎで儀式の準備を整えることとなった。

 

 シュガー様の宝石に祈るだけじゃないの? と思ったが、ジニー師匠によれば「山の外から呼び出す以上、本格的な儀式を使わないと失礼に当たる」、「多分怒らないと思うけど、冠婚葬祭みたいなものなのでやっておくに越したことはない」とのことだった。

 

 ちょっとめんどくさいなと思ったが、神様や精霊様との対話という宗教行事オブ宗教行事なのだからやむを得ない。

 

 というわけで五日ほど準備に時間を費やした後の夜。

 

 お屋敷の中庭において、シュガー様御光臨の儀式を執り行うこととなった。

 

 夜なのは使用人たちも含めて人目を避けたいという理由もあったし、星空が見える晴れた夜の方が遠方の精霊様と交信しやすいという理由もあった。

 

 あと、私たちの衣装の用意や祭壇作りが時間がかかっていたこともあるけど。

 

「ふぅ……へぇ……はぁ……」

「じ、ジニー師匠、大丈夫ですか? 水飲みます?」

「あっ、ありがとうございますぅ」

 

 私が使ってるような簡易祭壇ではない。焚き火以上、キャンプファイアー一歩手前の大きなものだ。あと魔法陣とか不可思議な模様が描かれていて、なんか凄いものを召喚しそうな雰囲気がある。実際、凄い精霊を呼び出すから当然と言えば当然なのだろうけど。

 

「本祭壇を使う精霊召喚のやり方を教えながら準備した方がよかったんでしょうけど、シュガー様ほどの高位精霊を遠方から呼ぶのは私も初めてなので……余裕がなくて、すみません」

 

 ジニー師匠が汗を拭いながら水を美味しそうに飲んだ。

 

 今回の準備はジニー師匠が他人の手を借りずに行った。誰かが手助けをしてしまえば大事な秘術のノウハウが漏れたり、準備内容から儀式を推測されることを恐れてのことだった。

 

 今回の儀式の全貌を知るのはジニー師匠とカピバラのパパだけだろう。カピバラもあまり内容を聞かされていない。一部の人ばかりに働かせて何とも申し訳ないばかりだ。

 

「服を着替えたのも、儀式のため?」

 

 私とカピバラは、ソルズロア教の聖衣に着替えていた。

 

 礼拝のときに見かける修道女さんの服よりもなんだか豪華だ。白いワンピースっぽいローブになんかウェディングドレスのベールにも似た頭巾。あと金でできた首飾りとか腕輪とかも付けてる。けっこう重い。

 

 例えるなら、ローマ法王と花嫁を足して二で割った感じに近い。

 

「はい。すみません簡素な聖衣になってしまって」

「これで簡素なの!?」

 

 ちょっとびっくりする。

 ここから更に装飾品が増えたらまともに動けそうにない。

 

「別にいーじゃない。こういうのあたし好きよ」

 

 カピバラがくるっと回り、裾がふわりと踊る。

 

 固くて厳粛な場でも馴染んで楽しそうな顔ができるのはカピバラの良いところだ。

 

「似合ってる。かわいい」

「あら、珍しく素直じゃない。あんたもかわいいわよ。もっと落ち着きを見に付けたら綺麗って言ってあげてもいいわ」

 

 なんか照れくさいな。

 

「ありがと」

 

 明後日の方を見ながら、小さくお礼をつぶやく。

 

「お二人とも、栄えある代行者に相応しいです」

 

 ジニー師匠の言葉を素直に受け取りつつも、そもそもの疑問がある。

 儀式が始まる前に聞いてみることにする。

 

「……カピバラも一緒に代行者になるって可能なんですか? カピバラは試練をクリアしたってわけでもないですし」

「確かにマーガレットお嬢様は試練をクリアしていません。ですが代行者になるというより、代行者のお目付け役になります……という形ですから大丈夫かと思います」

「お目付け役?」

「あるいは魔法を実行するための鍵や、ある種の安全弁……と言った方が適切でしょうか。代行者としてのメインの役割はオコジョさんでありつつも、儀式の必須条件に『お嬢様が存在すること』を付け加える感じになりますね」

「ていうか説明したでしょ」

 

 そうだった気がする。

 でも曖昧にしか理解できてなかったんだよね。

 

「それって、シュガー様にそれが認められるんですか?」

「オコジョさんが推薦し、何か精霊の契約を破ったり不義理をしたときの責任を負うと誓えば可能でしょう。そういう前例もありますので」

「ちょっと不穏な言葉が出てきた」

「言葉は強いですが、よほどのことでない限りは大丈夫ですよ。山頂の祠を壊すとか、精霊を殺すとか、代行者としての力を戦争に利用するとか、そういうレベルの話ですから」

「あっ、なるほど」

 

 戦争に使ったらダメっていうのはむしろありがたい。

 危ういことに巻き込まれるリスクが減るわけだし。

 

「それに、雪崩の一件を考えればマーガレットお嬢様に何らかの恩寵があってしかるべきなんですよね。お嬢様はもう一度シュガー様に謁見をしておいた方がよろしいでしょう。もしかしたらカピバラ様も正式な代行者として認められる可能性も少なくないかと」

「ちょっと怖いから嫌なんだけど……」

「大丈夫大丈夫。けっこう気さくだから。凄いことやらかすだけで」

「あんたみたいね」

「少し方向性は違いますが、納得しちゃいますね……」

「あっ、師匠までひどい」

 

 くすくすと笑い合ってると、おほんと渋い咳払いが響いた。

 

「ジニー、準備の方はどうだ」

「団長。こちらは大丈夫です。あとは見届人が揃い、お二人の御心が決まればいつでも」

 

 カピバラパパとカピバラママ、そして妹ちゃんたちが固唾をのんで見守っていた。

 なんかリラックスしてるの私たちだけではないだろうか。

 

「パパ、ママ。別に取って食われるわけじゃないんだから落ち着いてください。なんなら先にお休みしてても……」

「そういうわけにはいかぬ。まさか娘が代行者が出るなど……亡くなった父上に見せたかった」

 

 カピバラパパは早くも感動して目に涙をためている。

 

「名誉なのはわかりますが心配です!」

「落ち着きなさい、我が騎士団が全身全霊を持って守る」

「本当ですか!? 命に変えても守るのですよ!」

 

 そしてカピバラママをなだめている。

 まあ、夫婦としても親子としても中が良いということで……。

 

「お嬢様、オコジョ様。お二人とも見違えましたな」

「大叔父様!?」

 

 そのとき、優しげな老人の声が聞こえた。

 

 クライドおじいさんだ。

 

 いつものレザーエプロンは脱いで、きっちりとスーツを着ている。靴や革に詳しいということは、フォーマルな着こなしも心得ているのだろう。伯爵とはまた違う、清潔感のある老紳士といった風情でかっこいい。

 

 って……そういえばカピバラパパと犬猿の仲だったはずだけど……。

 

 大丈夫なのだろうかと思ってカピバラパパの方を恐る恐る見る。

 

 それを察してか、クライドおじいさんが茶目っ気たっぷりにウインクしつつ教えてくれた。

 

「お嬢様の晴れ姿ということで、門をくぐることを許されました」

「ふん、もう禁じてはおらん。来たければ来ればいいし、帰りたければ帰るがいい」

 

 カピバラパパが舌打ちをしてそっぽを向いた。

 年配の男性はこういうところ頑固だなぁ……と思いつつも、娘の晴れ舞台に同席させてあげるくらいには気を許しているということだろう。

 

「ジニー師匠。私は大丈夫です。儀式はいつでもスタートして……」

「あ、すみませんオコジョ様。あと何名か、見届人がいらっしゃるので……」

「見届人?」

 

 他に誰がいるのだろう。

 シャーロットちゃんだろうか。

 それとも、火守城の山番さん?

 まさかウェグナー総長ということはないだろうし。

 

「こら、保護者を忘れるな」

「伯父様に伯母様!?」

 

 現れたのは、私の母の弟のダリル伯父様に、その奥さんのクラーラ伯母様だ。

 えっ、なんでここにいるの?

 

「ダリル殿にクラーラ殿。ご足労いただきありがとうございました」

「こちらこそ、お招き頂き誠にありがとうございます。姪が色々とご厄介になっているようでご挨拶もなかなかできず、申し訳ございません」

「いや、世話になっているのはこちらの方です。さ、どうぞこちらへ」

 

 カピバラパパが丁寧にご挨拶をして、伯父様たちもまたねんごろに返す。

 

(そりゃあんたの保護者みたいなもんなんだから、当然呼ぶわよ)

 

 カピバラが小声で私に囁く。

 その自慢げな顔から察するに、カピバラが提案してくれたのだろう。

 

(そっか……ありがと)

(どーいたしましてって言いたいところだけど、あんたの関係者はあんたがちゃんと呼びなさいよね)

(だってどういう儀式やるのかよくわかってないし……っていうか見届人とかいるものなの? 山の中で全部済むものを延期しただけなんだけど……)

(本来ならやるそうよ。むしろ、いきなり精霊様に加護を授かりました……って方がイレギュラーらしいわ)

 

 なんだか恥ずかしくなってきた。

 

「あ、ニッコウキスゲさん、ツキノワさん、こちらですよー」

「二人も来たの!?」

 

 ジニー師匠がニッコウキスゲとツキノワを招き入れる。

 二人が私たちのところに来て、面白そうに私たちの姿を見た。

 

「あら可愛らしい。二人とも似合ってるじゃない」

「娘を見送る気分になってくるな」

 

 二人とも面白がっている。くそう、いつか二人には素敵なウェディングドレスとタキシードを着せてやる。

 

「オコジョもたまにはスカートとか履きなよ、似合うんだから」

「ありがと。ニッコウキスゲもこういうの似合うよ」

「あら、着たことないと思ってる?」

 

 おっと、大人な返しをされてしまった。

 余裕の笑みを突き崩すには私ではまだまだ実力不足のようだ。

 

「そういえば年の瀬の礼拝のときに聖衣着てたよな」

「な、なんで知ってんの!?」

「そりゃ俺だって年の瀬の礼拝くらいするわ。忙しそうだったから声かけなかったが、似合ってたと思うぞ」

「べっ、別に……ああいうのが嫌いってわけじゃないし……。たまたま師匠のお手伝いしてただけだし……」

 

 ツキノワがすぐに余裕の態度を崩してくれた。

 天然は強い。

 二人とも憎からず思ってるようだしさっさと付き合っちゃえばいいのに。

 そのうちコルベット伯爵あたりに相談して、結婚式の衣装とか押し付けようかな。

 

「ふん、馬子にも衣裳といいたいところだが……なかなかどうして、サマになってるじゃないか」

「あっ、噂をすればコルベット伯爵」

 

 伊達男、コルベット伯爵もやってきた。

 この人はいつもいつも違うスーツ着てるな……。

 今日はかなりフォーマルめにキメてきた。

 結婚式に来た政治家、もしくはインテリヤクザみたいだ。

 

「なぜこのタイミングで儂の噂をするんじゃ?」

「まあ色々と」

「ふむ……まあなんでもええわい。高位の精霊から加護を預かるなどそう見られるものではないしの。見届けさせてもらうぞ」

 

 どうやら伯爵が最後の客だったようで、中庭の扉をメイドたちが締めて鍵をかけた。

 警備体制は万全のようで、執事たちがカピバラパパやジニー師匠に耳打ちをして頷き合っている。予定通り進んでいるということだろう。

 

「儀式の見届人は揃いましたね。おわかりかと存じますが……正式にソルズロア教、並びに巡礼者協会に代行者就任の発表があるまでは何人たりとも他言無用にお願いいたします」

 

 ジニー師匠が、中庭の中央に立ち、珍しく厳かな声で朗々と語りかけた。

 

 なんか結婚式みたいだなって思ってたし、和気藹々な同窓会ムードに浸っていたけど、ここから始まるのは神に近い存在と人とが結ぶ神聖な契約の儀式なのだ。

 

 ごくりと生唾を飲む。

 

(大丈夫)

 

 少し怖気づいた私の手の上に、カピバラの手が重なる。

 大丈夫とか言ってるくせにカピバラだって震えている。

 二人の手の震えが静まるように、ぎゅっと握った。

 

 そのときだった。

 

「宝玉が……」

 

 シュガー様から預かった宝玉がきらめき出して、白い光を放つ。

 涼やかな気配。

 雪の結晶が周囲に待っている。

 

【……決心したようじゃな】

 

 その雪の結晶が、どこからともなく吹いたつむじ風に舞い、そして集まっていく。

 純白の雪の一粒一粒が人のような姿を取る。

 おぼろげに見えるそれは絶世の美女のようでもあり、妖艶な踊り子にも見え、あるいは穢れを知らぬ淑女のようでもある。

 シュガー様が降臨したのだ。

 

「偉大なる冬と山を司る精霊シュガーよ。山より遠き地にお越しいただき、万感の感謝を伝えます」

【よい。呼び出せと命じたのは我である】

「……その御心と加護に感謝すれども、この者、道半ばにして未熟な身の上であり、共に手を携える者の助けがなくてはなりません」

 

 ジニー師匠が跪いて祈りの姿勢を取りながらシュガー様に願い奉った。

 が、シュガー様はこてんと首をひねった。

 

【んー? 要は一人では持て余すからもう一人に契約を与えるということじゃな?】

 

「あっ、ハイ」

 

【よいよい。それと我は他の精霊よりも普通の会話ができる。普通に話せ】

 

「あ、すみません」

 

 儀式はスムーズに進められそうだが、ちょっと出鼻をくじかれた感がある……そういえばシュガー様、精霊の中では相当フランクな方なんだよね。

 

 皆はどう思ってるかなと思って周囲を盗み見ると、そもそもシュガー様みたいな格の高い精霊を見るのは初めてなようで緊張した面持ちで儀式を見守っていた。よかった、ちょっとずっこけそうな展開でもガッカリしなさそうだ。

 

【そもそもの話として……おぬしにも加護を与えるつもりであったのだがのう】

 

 シュガー様は、カピバラの方を見て微笑みを浮かべた。

 

「え、あたし?」

 

【そうじゃ。我が山の結界の崩壊を防ぐためにもっとも尽力したのはおぬしであろうが。姿が見えなんかったし、パーティーから抜けたか、心に傷を追って巡礼者を辞めたのかと思うて心配しておったのだぞ】

 

 これまた至極ごもっともである。

 

 あの雪崩騒動のMVPは文句なしにカピバラだ。カピバラに何の加護もなく、私にだけ加護があるのは不公平であるとも言える。

 

【ま、たまたまいなかっただけのようであるし、同じパーティーであるならばうるさいことは言うまい】

「あ、あの、シュガー様? もしかして、私に加護をくださるって話になってます……?」

 

 カピバラがおっかなびっくりに質問した。

 まあ、予想外なところで加護が与えられそうになっているのだ、怖くもなるだろう。

 

【こやつが代行者としての力を振るうときの「鍵」になるつもりであったのであろう?】

「はい」

【だがそれでは祈りを集める主体は、この娘……カプレー・クイントゥスであるということじゃ。マーガレット=ガルデナスが祈りを集めることはできぬ】

 

 久々にフルネーム呼ばれた。最近、友人知人はもちろんお堅い職業の人からもオコジョと呼ばれてるのでちょっと新鮮に感じる。

 

【よって、お互いが代行者であると同時に、お互いがその鍵となればよかろう。さすれば互いの未熟を補えよう。加護を与える我としても公平な沙汰となる】

 

 確かに、何か祈祷や集会を開いたとして、恐らくカピバラの方が集客力があるだろう。カピバラに祈られた分が無駄になってしまうことを考えると、とてもありがたい提案のように思う。

 

 問題は、カピバラの方にその気があるかどうかだ。

 

「……って感じらしいけど、カピバラ的にはどう?」

「儀式の最中なんだからもうちょっと厳かに聞きなさいよ」

「厳かって言っても……」

 

 いや、確かに今のはムードというものがなかった。

 

 静かな夜、聖なる衣を着て、精霊様に見守られながら人生の決断をするのだ。それに相応しい言葉を選ぼう。

 

「……カピバラ、一緒に代行者になってほしい。あなたがいてくれたらどこまでも行ける」

「うん、いいわよ。なってあげる」

 

 カピバラが微笑みながら、からりとした言葉で決断してくれた。

 

「面白おかしくて、楽しくなることは保証するから」

「……そうね、そんな約束、昔もしたわね」

 

 そう言って、カピバラが跪いた。

 私もその隣に跪いてカピバラの手を取り、加護を願った。

 

「「シュガー様、神聖なるご加護を頂戴しとうございます」」

 

 私たちの声に、シュガー様が応えた。

 雪のような光が強まり、涼やかな光が私たちを照らしだす。

 誰かの吐息が零れる。

 神聖な気配に誰もが圧倒されている。

 

「……カプレー=クイントゥス、並びにマーガレット=ガルデナス。そなたらを精霊代行者と認める。精霊にかわり、人々の祈りを集め、母なる大地に平穏をもたらすがよい」

 

 シュガー様が宣言した瞬間、私たちの中に暖かい何かが流れ込んでくる。

 

 これは、祈りだ。

 

 オコジョ隊の仲間たち、カピバラの家族、私の家族、ジニー師匠や伯爵が、私たちと同じように祈り、その祈りが私たちに届けられてくるのを感じる。

 

【わかるな?】

「はい」

【本来ならばその力に溺れるな……と忠告をするところではあるが、おぬしらは一人ではない。どちらかが欠けても成り立ちはせぬ。互いに助け、箴言を厭わず、謙虚であり続けるがよい。さすれば一人ではできぬこともできようぞ。では……良い旅を】

 

 シュガー様が祝福の言葉を授けて、その姿を形作っている雪が溶けていく。

 

 気付けば、静寂だけが残っていた。

 

 

 

◆

 

 

 

「お二人とも、お疲れ様でした」

「ありがと、ジニー師匠」

「ありがとうございます」

 

 儀式を終えてほっと安堵していたところに、ジニー師匠が私たちに声をかけた。

 

 もしかしたら一番安堵しているのはこの人かもしれない。この儀式の成功はこの人のおかげなのだから。

 

「マーガレット!」

「お父様」

「大役、ご苦労だった」

 

 カピバラパパが、心配そうな声をかける。

 だがカピバラは「何いってんの?」と、ちょっときょとんとしていた。

 

「ご苦労も何もこれからでしょ」

「それはそうだが……教会でも特別な立場になるだろう。色々と苦労が多いぞ」

「それもわかってる。だから……お父様。助けて」

 

 カピバラパパが、ぽかんとした顔をする。

 あまりにもあけすけな応援要請に、がははと笑いながら愛娘の肩を叩いた。

 

 そして彼は、笑いながら私の正面に立つ。

 ガタイがいいのでちょっと怖いけど、まあ、ご機嫌だから大丈夫だろう。

 

「カプレー=クイントゥスよ。よくもまあ娘の人生を無軌道に曲げてくれたものだ」

「楽しい方向だとは思いますので、そこはご容赦を」

「まったく、お転婆娘どもめ」

 

 さっきと同じように、カピバラパパは私の肩を軽く叩く。

 がんばれとでも言うように。

 がんばりますとも。

 

「団長。折を見て御息女とカプレー様の件は教会の方に報告しておきますが、その前に……」

「わかっておる。根回しは済ませておくとも。それと焔王の件にも介入せねばな」

「はい。また神殿長会議を臨時で招集することになると思いますので……」

「お前にはまだ色々と動いてもらう。褒美は用意しておくからまだ酒は控えめにしておけよ」

「ひえっ、いや、飲んでません、飲んでませんよ?」

 

 そして大人たちも色々と悪巧みに頑張っているようだ。

 でもまあ、意外とジニー師匠も政治とか政局とか工作には強そうだ。普段はわたわたしてるんだけど、時折すごく大人っぽい表情があってビックリする。

 

「カピバラ、おつかれさま」

「あんたもね」

「メイドたちに夜食を用意してもらったから、軽くつまんだら今日はそれでおしま……」

 

 カピバラがそう言いかけたところで、この家のメイド長のおばあさんが深刻そうな顔でカピバラパパのところに来て耳打ちをした。

 同時に、どんどんどんどんと乱暴にドアノッカーを叩く。あまりにも大きすぎて、正門から中庭まで響くくらいだ。

 

 ……一体こんな夜中に誰だろう。

 

 ていうかこのタイミングに来るってことは、私たちの儀式に気付いた何者か、ということだ。その危うさに皆に緊張が走る。ニッコウキスゲは気の早いことに密かに短剣を握った。

 

「団長! 大変です!」

 

 と思ったら、来客が普通に通された。

 あっ、すごい見覚えのある顔。

 私の元婚約者にしてカピバラの現婚約者、ケヴィンだった。

 

「なんだお前か。一体どうしたというのだ。今は神聖な儀式の最中なのだぞ」

「はい、それが実は……あれ、マーガレットとカプレー?」

「そりゃあたしの家だもの。いるわよ」

「お久しぶり」

 

 驚いているケヴィンに軽く手を振る。

 ケヴィンはわなわなと震えている。なんかショックを受けてるようだ。

 

「ふ、二人とも……その格好は……もしかして結婚!?」

「そんなわけないでしょーが!」

 

 あ、見た目は確かにどっちも花嫁だ。

 敬虔なソルズロア教徒で、かつ同性婚みたいなイレギュラーな状況に見えるかもしれないし、それはケヴィンの脳を破壊する景色に移るかも知れない。どっちかというとRPGの転職とかクラスチェンジイベントなんだけど。

 

「ええい! 報告が先だ! どうしたというのだ!」

「す、すみません! 焔王が目を覚ましたとの報告が……!」

 

 えっ。

 

 ……え、いや、マジで?

 

「な、なんだと!? どういうことだ!」

「焔王の目が開いて半覚醒状態になり、眷属のワイバーンが付近の村落を襲い始めています! このままではあと数日で完全覚醒して……最悪、火竜山が噴火してしまいます!」

 

 

 

 

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