「どこにでもいるつまらない女」と言われたので、誰も辿り着けない場所に行く面白い女になってみた   作:富士伸太

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竜の巣に行こう

 

 

 

 細やかな根回しや理外調整。

 装備の最終確認。

 作戦の入念な検討。

 本来やるべき丁寧な仕事を全部棚に上げなければならない。

 

 儀式が終わって、ケヴィンがとんでもない報告をよこしてからいきなり大変なことになった。真夜中だと言うのにみんなでカピバラパパが団長を務める金獅子騎士団の屯所に向かって寝ている騎士たちを叩き起こし、ついでに馬も起こして馬車につなぎ、私たちオコジョ隊、そしてカピバラのパパやジニー師匠などの騎士団の幹部クラス、その護衛の騎士などなどで作戦行動することとなった。

 

 具体的には王都で緊急の礼拝集会を行い、更にスライム山や道中の村落を回りできるだけ多くの人の祈りの力を集めながら火竜山のふもとの前線基地に辿り着くことだ。

 

「いいわね? あんたのやるべきことは集会で挨拶すること。打ち合わせに参加すること。それ以外はできるだけ寝て、体力を回復させることよ」

 

「流石に気が咎めるんだけど……」

 

「休むのも仕事! 本番はあんたに死ぬほど働いてもらうことになるんだからね!」

 

「それはお嬢様もですよ。休んでいてください」

 

「そ、そうね……」

 

 カピバラにきつく言い含められ、そしてカピバラはジニー師匠に言い含められて、二人仲良く馬車でゴロゴロしながら運ばれていった先は、ライブ会場であった。

 

 いや、ライブをしているわけではない。

 ないのだが。

 

「イェア! 突然のことなのに集まってくれてぇー! センキュー! ありがとー! あーいしてるぜぇー!」

 

 凄い熱気だった。

 

「「「「「あいしてるー!」」」」」

 

「それじゃあみんなご一緒にぃー!!! やりたいことー!?」

 

「「「「「やるっきゃないじゃん!」」」」」

 

 王都での緊急礼拝は、聖オリーブ信者の力を借りることとなった。なんでか知らないけど、聖オリーブ派と呼ばれる体育会系グループというか登山会みたいな人たちは私を強く推してくれている。そして聖オリーブ派の幹部たちにも恐らく緊急事態であることが伝わったのか、矢のような速さで数百人規模の人たちを集めていたのだ。会場に付いた瞬間これなので、流石に面食らった。

 

 というかこれ、礼拝って言っていいの……?

 

 今、壇上で音頭を取っているのは王都の神殿長の一人のはずだ。なんだけど、すっごいエネルギッシュで今にも踊りだしそうである。ラッパーとゴスペル歌手を足して半分で割ったような雰囲気だ。

 

「今日集まってもらったのは他でもない。特別ゲストを呼んでるぜ! 裏スライム山を走破した聖者オリーブ様の申し子! 巡礼巫女のぉー! オコジョ様とぉー! シュガートライデント雪崩事件でパーティ全員生還を果たした巡礼巫女のカピバラ様だぁー!」

 

「「「「「うおおおおおおー!!!!!」」」」」

 

「「「「「オコジョさまー! カピバラさまぁー!」」」」」

 

 急遽儲けられた野外特設ステージに集められた信徒たちがドンドンと足を踏み鳴らし、私たちの名前を叫んでいる。歓迎されてるってことで良いんだよね? ねぇ?

 

「カピバラ、えっと……なにこれ?」

 

「聖オリーブ派の臨時集会だそうだけど……あたしもよくわかんない」

 

 カピバラも完全に混乱している。

 

 集会を開いて祈りの力を集めたいと、ジニー師匠からごく一部の神殿長に極秘依頼を出したのだが、細かい流れについては神殿長一人一人に任せていた。

 

 で、強火の聖オリーブ派のバナー神殿長という方が「大至急で人を集めましたのでご挨拶と何かお言葉をお願いします」という簡素なお返事を超特急でよこしてきて……到着したらこれである。

 

「わ、わかんないけど、一応、進行の流れは教えてもらったし……やるしかないでしょ……」

 

「それもそうだけど……こう……思った以上に場が熱くない?」

 

 ボルテージがめちゃめちゃ高まってて下手なこと言ったらアンチになるんじゃないかと不安になる。

 

「それではぁー! お二人の登場だぁー!」

 

 司会をしているバナー神殿長が私たちを手招きする。

 ウワー! ちょっと怖いんだけど!

 

(ええい、覚悟決めて行くわよ!)

 

(わ、わかった……!)

 

(でもあたしはそれっぽい話できないから、あんた頼んだわよ!)

 

(できるだけ休憩してって言ったじゃん!)

 

(集会には出てとも言ったもん……!)

 

 ええい、こうなったら出たとこ勝負だ。

 私は拍手と足踏みが鳴り響く野外ステージの壇上に立ち、聴衆たちめがけて叫んだ。

 

「みなさーん! 山、登ってますかー!」

「「「「「うおおおおおおー!!!!!!」」」」」

「やりたいことー!?」

「「「「「やるっきゃないじゃーん!!!!!!」」」」」

 

 凄まじい反応が返ってきた。

 ボルテージが高まってきている。

 ちょっと楽しい……のだが。

 

「元気いいねぇ! それじゃあを始めようかぁ!」

「あっ、ハイ」

 

 ちょっと進行の邪魔をしてしまったようだ。

 元の流れに戻しつつ、ようやく本来の集会が始まった。

 

 

 

◆

 

 

 

 なんとかなった。

 

 多分会場の中にサクラが混ざっていて私たちの話にリアクションをしていた感じがするが、多くの聴衆はそれに乗せられて大喜びで私の話を聞いてくれた。

 

 まあ、話と言ってもバナー神殿長から裏スライム山を走ったときの話を聞かせてとか、雪崩に遭ったときどう思った? とか、聴衆が興味を引きやすい質問を振ってくれたし、最初はどうなることかと思ったけど至れり尽くせりの礼拝集会であった。いや、最後にバナー神殿長が聖歌を歌い、私たちもコーラス隊に混ざったりしたので、礼拝集会というよりライブだった気がする。

 

 その次の集会は、火守城の主人のキオ=タタラ氏がタタラ山の愛好家たちを集めてくれた。こちらはうってかわって落ち着いたもので、屋内の会場を貸し切って温かい食事を取りながらの懇親会のような感じだった。質問自体はバナー氏から投げかけられたものと同じような感じだったが聴衆の反応はまったく違っていて、しみじみと聞いてくれていた。

 

 だがどちらも共通点があった。

 

 皆、薄々何がが起きると気付いていて、私たちに何かを託してくれている。代行者となったことで、自分が祈られたときにその祈りの中身がなんとなくわかるようになった。みんな、不安と希望を抱いているのだ。

 

 たくさんの祈りが私たちの心に集まっていくのを感じる。

 

 こうして集会を行脚しながら私たちは人々の祈りや思いを集めて、目的地へ少しずつ歩みを進めていた。

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

 

 こうして様々な寄り道をしながら、馬車の一団はついに目的地にたどり着いた。

 

「うーん……夜行列車で尾瀬に行ったのを思い出す」

 

 福島県側から尾瀬横断をしようと思い、乗り鉄の友人に手伝ってもらって夜行列車とバスを乗り継いで檜枝岐村にいったときを思い出す。体バッキバキで辛かったけど、あれは楽しかった。

 

 今回は一歩間違えたら大惨事のデスマーチなのだけど、今から焦ったって仕方がない。どんなときも朝日の眩しさや空と山の美しさは変わらない。

 

 そして、朝日に照らし出された山々を私たちは畏敬の念を持って見つめていた。

 

「あれが竜の巣ね……」

 

「うん」

 

 竜の巣とは、王都から西方に広がっている山塊である。日本でいうと尾瀬や八ヶ岳の雰囲気に近いだろう。様々な自然が楽しめ、そして眺望は素晴らしい。

 

 聖地の中に木道や小屋があるために歩きやすい山もあれば、登山難易度の高い山もある。魔物は他の聖地よりも強いが、王都の冒険者であれば一度は行ってみたいと思う憧れの山である。

 

 細かいピークを含めたらたくさんの山があるのだが名前をつけられていない場所も多く、主に5つの山の連なりとして人々に認知されている。

 

 広大な山上湖、竜神湖にもっとも近い水竜山。

 

 双耳峰の男竜岳と女竜岳。

 

 蛇紋石が多く、その影響で珍しい植物や生物が棲む石竜山。

 

 そして。

 

 最強格のドラゴン、『焔王』の住処であり竜の巣の最高峰、火竜山。

 

「あれが火竜山。私たちの目的地」

 

 私がそれを指さすと、カピバラはごくりとつばを飲み込んだ。

 

 私たちの視線の先には竜神湖という大きな湖が広がっており、その向こう側に火竜山が鎮座している……だけではない。

 

 何かが飛んでいる。遠すぎてそれが何なのかはわからない。普通ならば野鳥だろうと思うところだが、ここは竜の巣。読んで字のごとく、竜が生息している場所だ。

 

「オコジョさん、これを使ってください」

 

 同行したジニーさんも降りてきて、珍しく慎重な口調をしながら私に望遠鏡を渡してきた。

 

 私は、その小さな何かの正体を確信しながら望遠鏡を覗き込む。

 

「竜だ……初めて見た……」

 

 望遠鏡を使ってもまだ遠いが、それでも鳥などではない。大きな翼はコウモリのものに近い。そして翼とは別に、鈎爪の生えた手があり、鳥よりも太い足があり、長く伸びた尻尾がある。あの図体でどうして俊敏に飛べるのか不思議だが、目の前にある生き物は現実に存在しているのだから、それを否定することはできない。

 

「あれはまだ格下のレッサードラゴンですね」

「……サイクロプスより強そうだけど」

「サイクロプスとは強さの質が違いますが……ドラゴンを倒せる冒険者でしたらサイクロプスも余裕で倒せるでしょうね」

「あっ、人間が倒せるやつなんだ」

「流石に単騎で倒せたら勇者のごとき扱いでしょうけど……。ベテランが五、六人パーティーを組んで一匹倒せたら十分な大戦果です」

「大戦果どころの話じゃないでしょそれ。現実的にできるのは師匠と、師匠と同格のバケモンだよ」

 

 ジニー師匠の言葉を、ニッコウキスゲが笑って否定した。

 

「ニッコウキスゲはドラゴン退治したことあるの?」

「三十人でも死ぬかと思ったよ……」

 

 あるっぽい。

 しかも思い出したくもないって感じの顔だ。

 

「俺は100人いても無理だな! 空飛べる時点で戦えんだろ普通」

 

 ツキノワがガハハと笑って弱音を吐いた。

 だがあまりにも正しすぎて頷くしかない。

 

「それはそう、本当そう」

「どっちにしろあたしたちにはどうにもできないんだから……襲ってくるかどうかの方が大事よ」

 

 カピバラの言葉には「襲ってこないわよね?」という質問というか願いが込められていた。それは私も聞きたいところだ。

 

「大丈夫です、ドラゴンは巣を守る習性がありますからね。この距離ではまだ攻撃対象とは見なされないでしょう」

「あー、よかった」

 

 カピバラが安堵の息を漏らす。

 

「ですが焔王の覚醒度が上がっていけば、ここも竜のテリトリーとなるでしょう。気を付けてください」

「ダメじゃない!?」

 

 そしてカピバラがショックの息を漏らす。

 忙しないと言いたいところだが、今回ばかりは私も同感だ。

 あまり長居をしたくはない。

 

「覚醒度が上がっていく……っていうことは、まだちょっと寝てる?」

「はい。偵察部隊の報告によれば、受肉は済んでいて噴火口で力を蓄えている状態ですね。熱水や硫黄を食べ、山の魔力を吸い取っているようです」

「本当に怪獣みたいだ……」

 

 これが特撮映画であれば巨大宇宙人ヒーローや巨大ロボ、たくさんの軍隊が出てきて戦うのだろうが、残念ながらジャンルが違う。剣と魔法と祈りの力で何とかしなければならない。

 

「ところで、あたしたちだけなの?」

「ここから脇道にそれて、森の中に入ったあたりに先発隊の騎士団と巡礼者のキャンプ地があります。金獅子騎士団とは別の命令系統ですので、騎士団長同士の折衝が終わってから合流となりますが」

「居心地がいいのはここまでってことね」

 

 やれやれとカピバラが肩をすくめた。

 

 今、この小高い丘にいるのは私たちの馬車の一団だけだ。私たちだけといっても結構な大所帯になってしまったのだけれど。

 

 まず当然としてオコジョ隊の面々。

 そしてカピバラパパ率いる金獅子騎士団の馬車の一団。

 ここにはジニー師匠もケヴィンもいる。

 

 意外なことに……と言っては失礼だが、今回の旅の立役者はケヴィンであった。カピバラパパからジニー師匠の補佐に任命されて、馬車の移動ルートの確立、宿の確保、そして臨時集会を行うための神官長たちとの打ち合わせや護衛の手配など、地味で細々としているが、大事な仕事を率先してこなした。

 

 昔はこうではなかった。明るく楽しいノリが大好きで、裏方的な仕事なんて他人任せ……いや、そんな仕事があることさえ無視するタイプだった。誰の目にも映らない、名誉と思われないような仕事に価値など見出してなかった。そういうところが嫌いだった。

 

 ところが今はどうだろう。私は、迫りくる大きな仕事のために休憩しろと言われて、華々しい仕事のときだけ目を覚まし、大物と交流を深め、大衆に受ける言葉を放ち、支持を集めてきた。学生時代とはまったくの逆になってしまった。なんて皮肉なのだろう。

 

「カピバラ、あいつを労ってあげよう」

「そーね。まったく、婚約者を放っておいて仕事しかしてないんだから。悪いところパパに似ちゃったわ」

 

 一方、カピバラはご不満のようだ。

 確かにカピバラ目線だと婚約者を放っておいているのも事実だ。こっちはこっちで好き放題やってるからあまり他人のことを言えた話でもないと思うが。

 

「まあまあ、頑張ってくれたんだから」

「……あんたに言われるのもちょっと複雑な気分ね」

 

 くすりとカピバラが笑いながら言った。

 そして二人で、馬車の寝台でぐーすかと寝ているケヴィンの顔を見に行く。

 起こすのも悪いと思って、「おつかれさま」と声だけ掛けておいた。

 

 さて、ここからは私たちの仕事だ。

 

 みんなが頑張ってくれた以上に、私たちが頑張らなければ。

 

「オコジョさん、カピバラさん、ここからは先発隊と合流して作戦会議となるでしょう。あの方々もすでに準備に入っているようです」

「あの方々……」

 

 焔王に対する、私たち以外の切り札。

 そして私の祖父の盟友だった人と、その人の弟子。

 

「はい、聖者カルハインと……彼の秘蔵っ子、アクセル氏が」

 

 アクセルくんは二度ほど会ったが、カルハイン氏の顔を見たことはない。

 

 彼が秘密にしてきたプライベートを覗いてしまった罪悪感と、おじいちゃんと奇妙な縁を持っていたことへの不思議な親近感がある。

 

「恐ろしいですか?」

「すごくおっかない親戚のおじさんみたいなイメージ」

「ふふっ……オコジョさんは、時折凄い器を見せてくれますね」

「何も考えてないだけよこいつ」

 

 カピバラがなんか失礼なことを言っている。

 いや確かに失礼か、失礼だな今の。

 

「では、心の準備ができましたら会いに行きましょうか」

「えっ?」

 

 なんか唐突なことを言われたんだけど。

 心の準備?

 もちろんできてないです。

 

「えっと、会わなきゃだめなやつですか?」

「そうですね……。そもそも、焔王をどうすべきか、神殿長会議で意見が割れていたことを覚えていますか?」

「……巡礼派と討伐派でしたっけ」

「はい。改めて前提を整理しましょう。焔王は賢く、今までの討伐方法や巡礼方法は通用しないと思われます。よって、誰もやったことのない討伐をするか、誰もやったことのない無殺生攻略をするか、どちらかになります」

「うん、知ってる。その上で、手段はある」 

「そうです。しかしここでの問題は、討伐か無殺生攻略かの結論が出ていなかったことです。よって、どうすべきか最後のすり合わせをする必要があります」

 

 もうすでにやるって決めてここまで来ちゃったから、「やらない」はありえないんだけど。

 

 でも自分らの意思は伝えなければならないだろうし、勝手に動いて邪魔をしてしまうのはまずい。

 

 だから代表者同士が話し合うのは道理だろう。

 

 でも、代表者ってことはつまり……。

 

「……オコジョさんと、カルハイン氏で、お話し合いをしていただくことになります」

 

 ものすごく重いボールを渡されてしまった。

 

 

 




明日にもう一回投稿します
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